勇者仏滾る(ぶったぎる)~坊さん勇者は骨伝導お経を叩き込んで魔王を倒す~

十一屋 翠

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第2話 殺法(せっぽう)

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「まさか召喚されたのが勇者様ではなかったなんて……」

  藍色の衣装を着たメイド達に解放されながら少女が弱々しい声で嘆く。

 「期待に沿えず申し訳ない」

 「いえ、むしろ謝らなければならないのは我々の方です。何の関係もない貴方様を私達の都合で呼んでしまったのですから」

  唯一の希望が潰えたというにもかかわらず、少女は気丈にも坊主に謝意を示す。

 「良くは分からぬが、諦めなさるな。諦めこそが人を殺すのだ」

 (とはいえ、慰めにもならぬか)

  言葉では少女を救えない事に、坊主は己が未熟を嘆く。

 「ええ、私は諦めません。この国を救う為に、この世界を魔王の脅威から守る為に!」

 (強い娘御だ)

  坊主は少女の気丈さに感嘆した。
  坊主は、その小さな体に人の上に立つ者としての誇りを漲らせる少女に敬意を表した。

 (これこそはまさしく貴族、正しく人の上に立つ者の姿よ)

 「はははははっ、なかなかご立派ではないかメルフィア王女よ」

  突如響く高笑い。
  同時に凄まじい轟音と共に部屋の壁が吹き飛んだ。
  もうもうと立ち込める土煙の奥から、現れたのは全身が岩石でできた大男であった。
  明らかに普通の人間ではありえない姿。 

 「ま、魔族⁉」

  メイドの一人が悲鳴を上げる。

  魔族、それはこの国を襲う邪悪な種族の名前である。
  人間以上の身体能力を持ち、人間以上の魔力を持つ天然の魔法使い。
  それが魔族である。

 「であえ! であえ!」

  少女を守るべく魔族との間に入った騎士が大声をあげて仲間を呼ぶ。

 「ふん、人間ごときが何人集まろうとも同じ事よ!」

  続々と室内へと入って来る騎士達をあざ笑う魔族。

 「たった一人で来るとは愚かな! パズレイ騎士団の力、見せてくれるわ!」

  指揮官と思しき騎士が叫ぶと、騎士達は等間隔で魔族を囲み、槍を構えて魔族へと突撃する。

 「覚悟ぉぉぉぉ‼」

  何十本もの槍が魔族に突き刺さる。

 「っ⁉」

  否、突き刺さってはいなかった。
  騎士達の槍は魔族の体に突き刺さることなく全て折れていたのだ。

 「ば、馬鹿な⁉」

  驚愕する騎士達を魔族が嘲笑う。

 「はははははっ! 我が名は岩石のログロッグ! 貴様等の軟弱な槍など物の数ではないわ!」

  そう言うや否や、ログロッグは折れた槍を数本まとめて掴み、力づくで自分の方へと引っ張る。
  自然槍を持っていた騎士達がログロッグの方向に引っ張られる。

 「ふん!」

  ログロッグは引っ張られてきた騎士達を無造作に殴りつける。

 「ぐぁ⁉」

  その巨躯に殴られた騎士達が壁に叩きつけられて動かなくなる。

 「んー? 殺しちまったかな? 人間は脆いからなぁ」

  ログロッグが少女に向けて歩き出す。
  騎士達が少女を守ろうと動きかけるが、自分達の槍が折られてしまった事を思い出し動きが鈍る。

 「さて、あとはお姫様を始末すればこの国はおしまいだ。最後の王族が死んだ後は下級モンスターの群れにこの国の人間を残らず始末させてやるよ。そうすりゃ寂しくないだろ?」

  なんと傲慢な事か。
  しかしこの邪悪な存在を倒す事の出来る者はもう誰もいない。
  哀れ少女の命は暴虐の拳の前に露と消えてしまうのか。

  誰もがそう思ったその時だった。

 「あいや待たれい」

  勇敢にも立ちはだかる者が居た。

 「殺生はお止めなされ」

  坊主であった。
  坊主は少女とログロッグの間に立ちはだかる。

 「なんだ貴様は?」

  見慣れぬ恰好の坊主をいぶかしがるログロッグ。

 「拙僧は鍛砕坊と申す旅の坊主でござる」

 「坊主だぁ? 坊主になんぞ用は無いんだよ」

  ログロッグは無造作に腕を振って鍛砕坊を殴り飛ばす。
  特に力を入れた訳ではない。
  だがこの程度でも人間はたやすく死ぬ。
  ゆえにログロッグは人間を殺す事を楽しんだ。
  圧倒的な力を持っている己の優越を実感できるからだ。
  だが、ここにその優越が通用しない者が居た。

 「ふむ、どうやら話の通じぬ御仁の様だ」

  なんと鍛砕坊はピンピンしていた。
  圧倒的な対格差を誇るログロッグの攻撃を受けたにも関わらず、鍛砕坊は傷一つ負っていなかったのだ。

 「ならば語り合うしかあるまいて」

  言うやいなや、鍛砕坊は法衣を脱いで上半身を露出させる。

 「きゃっ!」

  法衣の下から現れた肉体は、見事に鍛え上げられた筋肉を披露する。
  男の素肌に不慣れな少女達が黄色い悲鳴を上げる。

 「拙僧の殺法せっぽうで説得してくれようぞ!」

  鍛砕坊が腰溜めに構える。

 「ふん、この俺の岩石の肉体に人間の拳なぞ通用するものかよ」

 「往くぞ!」

  鍛砕坊が裂ぱくの気合と共に拳を放った。

 「南無阿弥打撲つなむあみだぶつ!!」

  七発の拳がログロッグの体へと吸い込まれ、まるで大砲の様な爆音が狭い室内に轟いた。

 「これぞ阿弥打流殺法あみだりゅうせっぽう、我が読経を受けて撲つ道ぶつどうへと帰依するが良い」

  鍛砕坊がログロッグに背を向ける。
  敵に背を向ける行為。
  なんという傲慢な油断か。

  しかしその心配は杞憂であった。
  ログロッグの肉体には七発の大きな穴が開き、その肉体が重力に従って地に沈む。

 「娘御よ、拙僧は決めたぞ」

 「き、決めたとは?」

  鍛砕坊は声を大に宣言する。

 「拙僧は勇者ではないが、我が撲つ道ぶつどうで魔王を仏の道に帰依させて見せようぞ!」

  意訳すると魔王を宗教に勧誘するという意味であった。
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