勇者仏滾る(ぶったぎる)~坊さん勇者は骨伝導お経を叩き込んで魔王を倒す~

十一屋 翠

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第3話 旅のお供

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南無阿弥打撲つなむあみだぶつ!!」
  鍛砕坊が殴る、殴る、殴る。
  スライムが、コボルトが鍛砕坊の拳によって吹き飛ぶ。
  彼の前に立ちふさがったモンスター達はことごとくが地に崩れ落ちた。

 「い、いやー……大したモンですな」

  モンスターを倒した鍛砕坊に語りかける男の声。

 「これが異世界から召喚された勇者の力ってヤツですか」

  鍛砕坊に話しかけたのは皮鎧を纏った剣士であった。
  男の年齢は三〇代中盤といったところで、若干くたびれた雰囲気をかもし出している。
  鎧は戦いによって傷だらけとなり、破損部分は金属板で補強されて部分的な強化が施されていた。
  だが反面剣は新品同様に傷が少なく、武器だけは新たに良いものを買い直していると鍛砕坊は判断した。

 「否、以前言ったとおり、拙僧は坊主故勇者では無い」

 「その鍛え上げられた体で坊主とはご謙遜ですな」

  男の言うとおり、鍛砕坊の肉体は古代の彫刻もかくやの肉体美を誇っていた。

 「そうですよ、貴方のような格闘家が僧侶なら、魔法使いの私はどうなるんですか」

  男に同意するように会話に参加してきたのは、妙齢の女性であった。
  その体は豊満であり、妖艶な雰囲気は男の魂を蕩かさんばかりの色気を放っている。

 「ケンジン殿にヨウエン殿、拙僧はまこと只の坊主である」

  鍛砕坊の言葉に謙遜の感情はない。
  彼は真実そう思っているのだ。

 「只のねぇ……」

  ケンジンと呼ばれた男は脂汗をたらしながら苦笑する。
  彼は王国に雇われた傭兵であった。
  動揺にヨウエンと呼ばれた女性もまた、国によって雇われた魔法使いである。
  彼らは魔王に挑む鍛砕坊の護衛として雇われた従者であった。

  何故勇者の従者が傭兵と雇われ魔法使いなのか。
  その理由は単純であった。
  そう、シンプルに人手がないのだ。
  これまでの魔王との戦いで、騎士団はほぼ壊滅状態、国中の有能な戦士や魔法使いはほとんどが戦いで戦死しており、国はわずかに生き残った戦力である彼らを雇い入れたのだ。

  世界を救うたった3人の英雄達。
  彼らが人類の希望であった。

 (って言っても、この勇者様はメチャクチャ強えーし、このままなら魔王との戦いもこの勇者様にお任せできるってモンだな)

 (ふふふ、このとんでもない強さの勇者様についていけば、魔王退治の英雄の妻の座は頂きよ。私は労せず最高の結婚相手を手に入れる事が出来るわ)

  だが二人は人類の未来の事など全く考えてはいなかった。

 (いやー、前金だけ頂いてトンズラしようかと思ったらまさかの本物の勇者様とは)

 (ふふふ、上の命令で仕方なく付いていく事になったけど予想外にいい男だし、とんでもない強さ。私の男運も捨てたものじゃないわね)

  ケンジンの正体は歴戦の戦士の振りをした前金詐欺師であった。
  彼の本性は臆病者であり、彼の鎧は戦いから逃げる為にボロボロになっていたのだ。
  鍛砕坊が買い替えていると勘違いした剣は、実は逃げる際の防御くらいにしか使われていないからこそ新品同様なのである。

  そしてヨウエンはといえば、彼女は魔法使いギルドの命令で勇者の護衛任務を強要された普通の魔法使いであった。
  戦いに出たくないから傭兵にならなかった彼女であったが、王家に貸しを作りたいギルド上層部の意向で強制的に動向を命じられたのだ。
  たまたま残っていた中でそれなりにマシな魔法使いである彼女がである。

  つまるところこの二人はとても勇者の従者にふさわしい者ではなかった。
  最初は逃げる気満々であった二人であるが、鍛砕坊の力を知ってその考えは一変した。
  そう、鍛砕坊は強かったからである。
  それこそ拳でモンスターを粉砕出来るほどに。
  剣や魔法を使わず拳のみでモンスターを打倒する暴虐の化身。
  二人は鍛砕坊の規格外の強さを知って考えを一変させた。
  この男についていけば甘い汁が吸えると。
  人として最低の決意であった。

  かくして一人の自称坊主である勇者と、そのおこぼれに預かろうとする浅ましい仲間による魔王討伐の旅が始まった。

  ◆

「ヴォハハハハハハ! 我こそは魔王四天王、地のデススケルトン!」

  天にも届かんばかりの巨躯を震わせた骨の巨人が鍛砕坊達の前に立ちはだかった。
  彼こそは魔王直属の部下。
  アンデッドの王、地のデススケルトン。
  世界の西側を支配する命をあざ笑う者である。

 「オタスケェェェェェ!!」

 「イヤァァァァァァ!!!」

  デススケルトンの発する圧倒的な瘴気に恐怖したケンジンとヨウエンが逃げ出す。
  所詮凡人である二人には、デススケルトンが放つ強者のオーラには耐え切れなかったのだ。
  二人はこれまでの甘い考えが絵空事であったと思い知り、半狂乱で逃げて行った。
  今ここに、世界を救うべく結成された勇者パーティは瓦解した。

 「ふむ」

  だが、鍛砕坊だけは違った。
  彼だけはデススケルトンの放つ瘴気を前にしても一切の怯えも戸惑いもなかったのだ。
  デススケルトンの背後に控える彼の部下ですら、その恐るべき瘴気に恐れをなしているというのにだ。
  なんたる豪胆。
  この中で、鍛砕坊だけがデススケルトンの威容を恐れていなかった。

 「ふん、さすがは勇者といったところか。我が瘴気を浴びて発狂しないとはな」

 「否!」

  鍛砕坊が強く叫ぶ。

 「ぬっ!?」

 「拙僧は坊主! 勇者では無い!」

  どこまでも坊主である。

 「何だと? 勇者では無い? 只の坊主?」

  予想外の答えに面食らうデススケルトン。
  だがその驚きはすぐさま嘲笑に変わる。 

 「く、くくく……ヴォハハハハハハ!! 坊主だと!? ならば我に対して退魔の神術でも使うか? それとも傷ついた体に回復魔法でも唱えるのか?」

  只の僧侶が相手と知ってデススケルトンが嗤う。

 「拙僧坊主故、回復魔法なぞ使えぬ!」

 「ヴォハ! 坊主の癖に回復魔法すら使えぬのか!? 人間の国はそこまで人材不足であったか!」

  デススケルトンの笑いが最高潮となる。

 「然り、坊主に出来るのは経を読む事のみよ」

 「ならば死して己の死体に祈りを捧げるのだな!!」

  デススケルトンの拳が鍛砕坊へと振り下ろされる。

 「殴無なむ!」

  だが、鍛砕坊の拳が振り下ろされたデススケルトンの拳に触れると、まるで水の流れのようにするりと鍛砕坊の腕から流される。

 「何!?」

  デススケルトンは驚愕した。
  己の体は只の骨ではない。
  戦場で死んだ戦士達の怨念の骨が凝縮され固まった白骨死体の集合体なのである。
  見た目は只の大きな骨であるが、その密度は同サイズの鉄の塊に等しい。
  それなのに、鍛砕坊は軽々と流したのだ。

  これこそが打つ道ぶつどうの奥義が1つ殴無なむ
  読んで字の如く、殴るという行為を無に帰す消力の念打つねんぶつである。

 「阿弥打あみだ!」

  鍛砕坊の前腕から先が消える!

 「っ!?」

  同時にデススケルトンの左足の脛の骨が吹き飛んだ。
  否、粉となった。

 「オォォォォォォォ!????」

  突然の出来事に困惑するデススケルトン。

  これこそが打つ道ぶつどうの奥義が1つ阿弥打あみだ
  無量の打撃を瞬間的に放つ事で対象を文字通り粉微塵にする体話(たいわ)である。

 「そして、打つぶつ!」

  心の臓がある位置に、鍛砕坊の放った打つ道ぶつどう御終会おしえが叩き込まれた。

 「っっっっっっ!????」

  心の臓を打ち抜かれたデススケルトンが力なく崩れ落ちる。
  心臓のないデススケルトンに心の臓を打ち抜く事など無意味。
  否、鍛砕坊が打ち抜いたのは、まさしくデススケルトンの心の臓。
  会話が出来るのだから何かしら生きているんだろうというソレっぽい感覚で放たれたハートブレイクショット。

 「は、馬鹿な……我はアンデッドの王……たかが人間の拳などに屈する訳が……」

 「そうではない」

 「な……に……?」

  鍛砕坊はデススケルトンに語りかける。

 「打つ道ぶつどうとは相手の肉体に語りかける殺法せっぽう。世の中にはどれ程心を尽くして語りかけても人の話を聞かぬ者達が居る。それはその者達が心無い者だからではない。全ての言葉は空気の振動で鼓膜に届き音を言葉として認識させるからだ。故に我が教派の始祖は考えられた。人は己の言葉を骨伝導と呼ばれる振動で理解すると。そしてどれほど悪逆な者であろうとも、己の言葉ならば耳を傾ける」

  鍛砕坊は身をかがめ、デススケルトンの額の骨に拳骨をあてる。

 「ならば、相手の体に直接言葉を叩き込めば己の言葉の如く耳を傾けてくれるであろうと! ソレこそが我が教派阿弥打流あみだりゅうの真髄である!」

 「なるほど全く理解できん!!!」

  断末魔の声を上げてデススケルトンは昇天した。
  たぶん成仏とかしていない。

 「うむ、見事御仏の教えに目覚めたと見える」

  うんうんと満足げに頷く鍛砕坊であった。
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