アッサムCTCが切れるころ

チャッピ

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アッサムCTC

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店に来る客をよく見るようになった。
いやらしい意味ではない。
どんな人生を送って来た人なのか、これからどんな人生が待っているのか、どんな苦労があったのか、そんなことを勝手に考える。

人の人生を考える度に、僕の人生を付随して考える。


「人とくらべてはいけません」

小学生の頃、よく担任が僕達児童に向けて話していた。人は人、自分は自分。そう思うことが正しいと思っていた。

今はそうは思わない。他人と自分を比べることで、自分にはない考えが降り注いでくるように思える。
まるで別の人生のレールが見えてくる、そんなふうに思える瞬間もある。

今までぼくは、自分のことしか考えて来なかったのだろう。自分しか見えていない時間は、良くも悪くも、変化がない時間だった。

変化がないことは悪いことなのか。
そんなことはないかもしれない。
しかし、変化を望む方が、僕は未来を今までよりも強く願う。



「この箱の中の茶葉、仕分けしといてくれない?」

店長に声をかけられ、我に帰った。

「アッサムCTC」と書かれた大きな箱の中に、一つの袋に入った茶黒い茶葉が、敷き詰められてある。

「アッサムCTCって、なんですか?」

「チャイの茶葉だよ」

チャイ。僕は心を奪われるかのように、その箱を見入った。

「賞味期限 2023年 4月」

今までの人生で、これまで視覚を吸い取られる文字があっただろうか。僕の目の前のは、「賞味期限 2023年 4月」という文字だけになった。

僕は、この時生きているのだろうか。


「治療をするか、しないか。来週までに考えてきてください。」

医師の言葉が、録音されていたかのように脳内に響いた。

ぼくは、今死を目の前に感じている。

そして、ぼくは初めて死を恐れている。

このアッサムCTCが切れる頃には、、
僕はその場に立ち尽くしていた。
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