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【第一章】転生と断罪イベント、そして気づき
10 無関心の中に潜む想い
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王子に半ば引きずられるようにして通路を進んだ私は、やがて人気のない奥の部屋へ連れて行かれた。高い天井と分厚い扉がある私室のようだ。扉が閉まると、外の喧騒が嘘のように遮断され、静寂が訪れる。
アレクシスは息を乱していた。焦燥と困惑、そして私には何だかわからない感情が混じった顔をしている。あんなに取り乱した王子は、ゲーム中でも見たことがない。
私が言葉を見つけられずにいると、彼は小さく息をつき、低い声で言った。
「……断罪など、したくはなかった」
その告白めいた言葉に、私は思わず目を見開く。なんだそれ? ゲームとは大きくズレている。私たちは“断罪”される側とする側のはずなのに。
「でも、お前がリリィを傷つけている以上、俺は王子として見過ごせない。……それがわかっているのに、どうしてこんなにも心が痛むんだ……?」
アレクシスの声は微かに震えている。私が黙っていると、彼は苦しげに視線を落とした。
「お前は……俺の婚約者だ。政略といえど、幼い頃から隣にいた。だからこそ……お前が罪を犯したとき、俺は本来なら毅然とした態度で罰するべきなのに……」
どうやら、彼は“本当に憎くて断罪する”わけではないらしい。それどころか、王子としての義務と、個人的な情がせめぎ合っているのだろう。
私は呆気に取られながら彼の話を聞いていたが、胸の内には新たな疑問が湧いてくる。もし本当に政略結婚だけで恋愛感情がなかったとしたら、ここまで苦しむ必要はないのでは?
だが、私の知るゲームの情報だけでは答えが出ない。アレクシスはもっと冷静で、物事を淡々と処理するイメージだったのに、この現実は違う。
「私には、あなたのことなんて――」と口をつきかけて、そこで言葉を呑む。もともと興味を持っていなかった、と言いそうになったが、今この状況でそんな言葉をぶつけていいのかわからない。
それに、ほんの少しだけ胸がぎゅっとなる感覚があった。単なる無関心だと自分でも思っていたが、目の前の王子がこれほど苦しんでいると知ると、なぜか胸が痛む。
「……私、あなたがどういう気持ちで断罪しようとしているのかなんて知らなかったわ」
それが精一杯の言葉。王子ははっとしたように私を見る。そして、悔しげに唇を引き結んだ。
「お前は、何も思わないのか……? 先ほど、どうでもいいと言ったな。そんな言葉で済ませられるほど、俺との婚約は軽いものだったのか?」
鋭い問いかけ。私自身、そう感じてきたのは事実だが、改めて指摘されると答えに窮する。確かに興味がなかったのは本当だし、断罪だって“ゲームの流れ”と思ってしまえば受け入れられると思っていた。
だけど、こうやって王子の悲痛な表情を見せられると、“本当に何も思わないわけじゃないのかもしれない”と感じ始める自分がいる。でも、よくわからない。私は彼を愛していたわけでも、執着していたわけでもないのだから。
「……ごめんなさい。でも、私、よくわからないの」
本心からの言葉だった。私が困惑していると、アレクシスは「やはり、お前は……」と目を伏せ、それでも何かを言いかけるように唇を動かすが、結局何も言わず息を吐いた。
深い沈黙が降りてくる。お互いの間に横たわる、ゲームとは違う新たな溝――もしかしたら、ここから始まるのは、本来の“断罪”とは異なる物語なのかもしれない。
アレクシスは息を乱していた。焦燥と困惑、そして私には何だかわからない感情が混じった顔をしている。あんなに取り乱した王子は、ゲーム中でも見たことがない。
私が言葉を見つけられずにいると、彼は小さく息をつき、低い声で言った。
「……断罪など、したくはなかった」
その告白めいた言葉に、私は思わず目を見開く。なんだそれ? ゲームとは大きくズレている。私たちは“断罪”される側とする側のはずなのに。
「でも、お前がリリィを傷つけている以上、俺は王子として見過ごせない。……それがわかっているのに、どうしてこんなにも心が痛むんだ……?」
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どうやら、彼は“本当に憎くて断罪する”わけではないらしい。それどころか、王子としての義務と、個人的な情がせめぎ合っているのだろう。
私は呆気に取られながら彼の話を聞いていたが、胸の内には新たな疑問が湧いてくる。もし本当に政略結婚だけで恋愛感情がなかったとしたら、ここまで苦しむ必要はないのでは?
だが、私の知るゲームの情報だけでは答えが出ない。アレクシスはもっと冷静で、物事を淡々と処理するイメージだったのに、この現実は違う。
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それに、ほんの少しだけ胸がぎゅっとなる感覚があった。単なる無関心だと自分でも思っていたが、目の前の王子がこれほど苦しんでいると知ると、なぜか胸が痛む。
「……私、あなたがどういう気持ちで断罪しようとしているのかなんて知らなかったわ」
それが精一杯の言葉。王子ははっとしたように私を見る。そして、悔しげに唇を引き結んだ。
「お前は、何も思わないのか……? 先ほど、どうでもいいと言ったな。そんな言葉で済ませられるほど、俺との婚約は軽いものだったのか?」
鋭い問いかけ。私自身、そう感じてきたのは事実だが、改めて指摘されると答えに窮する。確かに興味がなかったのは本当だし、断罪だって“ゲームの流れ”と思ってしまえば受け入れられると思っていた。
だけど、こうやって王子の悲痛な表情を見せられると、“本当に何も思わないわけじゃないのかもしれない”と感じ始める自分がいる。でも、よくわからない。私は彼を愛していたわけでも、執着していたわけでもないのだから。
「……ごめんなさい。でも、私、よくわからないの」
本心からの言葉だった。私が困惑していると、アレクシスは「やはり、お前は……」と目を伏せ、それでも何かを言いかけるように唇を動かすが、結局何も言わず息を吐いた。
深い沈黙が降りてくる。お互いの間に横たわる、ゲームとは違う新たな溝――もしかしたら、ここから始まるのは、本来の“断罪”とは異なる物語なのかもしれない。
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