転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした

ハリネズミの肉球

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【第一章】転生と断罪イベント、そして気づき

11(閑話)セレナの回想――前世での私

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――まさか、こんな世界に転生するなんて、想像すらしていなかった。

自分が「セレナ・ルクレール」として“悪役令嬢”に生まれ変わったのは、ほんの一瞬の出来事だったように思う。だけれど、その転生に至るまでには確かに“前世”での記憶と人生があったのだ。
それは、事故か何かで命を落としてしまい、気がついたらこの物語の世界で目を開いていた――なんてありがちな展開と言えばそうかもしれないが、私にとっては衝撃的な現実だった。

◆前世での名前と日常
前世の私は、日本という国で生まれ育った。小さな頃から大病もせず、そこそこ平凡な家庭環境で、特別に際立った才能もなければ大きな不自由もない――“どこにでもいる普通の女子”だったと思う。
名前はありふれた二文字の名字と、ごく一般的な名前。わざわざここで言うほど特徴的でもないから、今では正直、セレナという新しい名前にすっかり馴染んでしまっている。
毎朝大学に通い、アルバイトをし、帰宅すればスマホでSNSを見たり、友人と連絡を取ったり。ときどきコンビニでお気に入りのアイスを買って帰るのが密かな楽しみ――そんな日常を繰り返していた。

学校では文系の学部に所属し、英語や心理学、文化史などを幅広く学んでいた記憶がある。大きな夢があったわけではないけれど、本やアニメが好きで、ゲームもそこそこ楽しむ学生生活。部活は軽音サークルに入りかけたが、結局あまり馴染めずフェードアウトしたっけ。
ただ、“恋愛面”に限っては、恥ずかしながら経験値ゼロに等しかった。友人たちは彼氏ができたり失恋したりでドラマを持っていたのに、私はどうもタイミングが合わなかったり、自分から積極的に動けなかったりで、一度も本格的な交際をしたことがなかったのだ。

◆恋愛観とゲームへの傾倒
恋愛経験が乏しかったせいか、私は“妄想力”に逃げる傾向があった。少女漫画や恋愛シミュレーションゲーム――いわゆる“乙女ゲーム”をプレイしては、理想的な王子様キャラにうっとりしていた。
けれど、ゲームや漫画で描かれる恋愛は、どこか現実離れしていると感じてもいた。だからこそ「こんなの、本当にあるわけないよね」と少し冷めた眼も持ち合わせていたのだ。
ときどき友達と「こんな王子様タイプなんて実在しないわよ」なんて笑い合いながら、でも心のどこかで“いつか私にも素敵な相手が現れるのかな”という淡い期待を拭えない。
そんな矛盾した恋愛観を抱えつつ、乙女ゲームを適当に遊んでいたのが私の前世の姿だった。

◆転生のきっかけ――突然の事故
ある日、大学のサークル活動からの帰り道、いつものようにイヤホンで音楽を聴いていた。夜道が危ないからと気をつけていたつもりだったが――どうやら、そこが不注意だったのかもしれない。
ふと視界の端に猛スピードの車のライトが見えて、次の瞬間には衝撃と激痛に包まれていた。周りの人々の悲鳴が聞こえたかもしれないが、意識は一瞬で暗転してしまった。
後になって思えば、あのとき私は交通事故に巻き込まれて命を落としてしまったのだろう。まさか自分がそんな形で死ぬなんて、当の本人がいちばん信じられない気分だった。
痛みや恐怖より、やり残したレポートの締め切りとか、部屋の片付けとか、いろんな些細なことが頭をかすめては、「こんな結末ってひどいじゃない……」と理不尽を叫びたかった。

◆目覚め――“悪役令嬢”セレナとして
その後の記憶は、ほとんど闇の中だ。どれくらいの時間が経ったのかもわからない。気づけば私――“前世の私”は、豪華なドレスを着た“セレナ・ルクレール”という公爵家令嬢になっていた。
はじめはパニックだった。「ここは乙女ゲームの世界? しかも、よりによって“悪役令嬢”だなんて」と。
前世で遊んだ乙女ゲームのストーリーが、うっすらと蘇ってくる。ヒロインが王子や貴族たちと恋を育む裏で、邪魔をする高慢な公爵令嬢セレナ。……ゲームの中では破滅する役回りじゃないの。
普通なら「なんでこんな運命……」と嘆きたくなるところだが、意外にも私はそれほど絶望しなかった。なぜなら、私にとって“現実”と呼べるものは既に死の闇に消えてしまったのだから。
そして、前世の“どこか冷めた恋愛観”を引きずったまま、「乙女ゲームの世界で好き勝手に生きてやろう」と開き直れた部分があった。――それが“無関心”の態度につながっていたのだと思う。

◆悪役令嬢としての日々――“クール”と“無関心”の境界
セレナとしての私が学園に通い出したころは、ゲームの進行をメタ的に理解している自分がいた。
「ヒロインはリリィで、私は悪役。でも、どうせこれはゲームなんでしょう?」
そんな諦観に近い気持ちがあったから、王子への執着もなく、恋愛全般をどこか客観的に見ていた。前世の私が恋愛で失敗したこともない代わりに、本気で人を好きになった経験もなかったから、余計に興味が持てなかったのだ。
周囲からは「セレナ様ってクールで怖い」と思われたり、“高慢なお嬢様”と噂されたけれど、それも無関心を装う私の“盾”だった。恋愛にのめり込んで破滅するより、適当に流しておけばいい――そんな軽い思いが心の奥にあった。

◆その内面に潜む“前世の孤独”
しかし、本当の意味でクールだったわけではない。むしろ、前世で“まともな恋愛経験ゼロ”だった自分が、この世界の華やかな貴族社会に入り込んでしまった戸惑いを、どう処理すればいいかわからなかったのだ。
友達と呼べる相手も最初はいなかった。リリィをはじめ、“ヒロイン候補”がたくさん注目を浴びる一方で、私は“悪役令嬢”として人々から煙たがられる。
それでも、それを孤独と感じる前に「まぁ、別にいいか」と切り捨てる癖がついていた。前世の私がリアルをあきらめて乙女ゲームに夢を求めたように、今度は“ゲームの外野”からまた冷めた視線を送っている。――そんな悪循環に身を置いていた。

◆“ゲーム”を動かす運命――リリィや王子との邂逅
やがてリリィに“聖女”としての立場が付与され、王子との婚約を巡る陰謀が動き出すとき、私は初めて「もう一度、人生をかけて戦わなくちゃいけないのかも」と感じた。
リリィに断罪されるかもしれない――でも、どこか他人事。前世で何もかも終わってしまった私には、ゲームの運命なんてどうでもいい。そう思っていたはずなのに、徐々に胸の奥で奇妙な熱が芽生え始めた。
それは“王子への興味”というより、“自分が本気になってもいいのかもしれない”という可能性だったのだと思う。前世では自分を偽って恋愛を遠ざけていた私が、ここでなら本物の恋を見つけられるかもしれない――そんな淡い期待。

◆事故のトラウマと“本気で愛すること”
前世での死――あのとき感じた絶望と、切ない後悔。「どうしてもっと人を好きにならなかったんだろう」「ちゃんと恋をしてから死にたかった」……そんな願望を、私はずっと隠し持っていた。
無自覚に“愛される”ことを恐れ、逃げ腰で生きてきたのが前世の私。その延長が“無関心”を装う悪役令嬢セレナだったのだろう。
だからこそ、王子アレクシスが“冷たい態度”を取りつつも、実は私を想ってくれていると知ったとき、私の心が一気にざわめき始めた。
前世の自分が望んでいた“誰かに本気で愛される”ことを、ひょっとしてこの世界で体験できるかもしれない。そんな期待が、“ゲームなんてどうでもいい”と適当に生きていた私を変えていった。

◆転生への感謝と“本当の私”
そうしていま、悪役令嬢セレナとしての記憶と、“平凡な大学生だった頃”の記憶が私の中で不思議に融け合っている。
もし転生なんてしなければ、私は味気ないまま死んでいた。リリィや王子とも出会わず、ゲームの世界の出来事をただの妄想として消費するだけで、恋愛経験ゼロのまま人生を終えてしまったのだろう。
だけれど、実際には私はこうしてこの世界に生きて、アレクシスと“愛し合う”という奇跡を掴んだ。前世では想像もできなかった本気の想いを胸に、“悪役令嬢”なんて肩書きすら超えて、私は生きている。
転生したからこそ、“本当の私”になれたと思う。前世ではうまく言葉にできなかった本音や感情を、この世界では王子や友人の力を借りてさらけ出せるようになった。それは自分の殻を破る大きな一歩。

◆前世の後悔を埋める“いまの私”
時々、眠りに就く前、事故の瞬間を思い出して息が詰まりそうになる。前世で残してきたもの、親や友人への別れの挨拶もできなかった。――喉の奥が震えて、「ごめんね」と何度も小さくつぶやく夜がある。
でも、その後悔を埋めるように、いまの世界で私は“誰かを全力で想う”ことを選んだ。アレクシスとの関係が好転したのも、リリィとの決着を乗り越えられたのも、実は前世での私が“本気で人を好きになってみたかった”という望みを捨てきれずにいたからかもしれない。
だから、前世の自分にも感謝している。諦めずにゲームや妄想を楽しんでいたから、転生先で巡り合った王子を“真剣に好きになろう”と思えた。――ああ、これこそ私が求めていた“現実の愛”なのだ、と。

◆最後に――“悪役令嬢”である私へ贈るエール
前世といまの記憶が混ざり合って不思議な気分になることもあるけれど、もう私は迷わない。悪役令嬢だろうと、転生者だろうと、構わないじゃない。自分が“本物の恋”を見つけられれば、それが最高のハッピーエンドなんだ。
リリィが何を言おうと、転生者修正だのなんだの脅されようと、この私の人生は私が選ぶ。――前世で見つけられなかった輝きを、今こそ私は掴む。
そして、同じ思いを抱える人がいたら伝えたい。“悪役”でも、ゲームの脇役でも、諦めることはない。こんな私が変わったのだから、きっとあなたにもできるはずだと。

そう、転生して、ようやく“本当の私”になれた。
前世の私に言えるならば、胸を張ってこう言いたい。「あなたが抱いていた小さな夢は、今の世界で叶っているよ」と。何よりも温かな“本当の愛”にめぐり逢えたから、私はもう、後悔も孤独も乗り越えられる。

――そんな内なる想いを秘めながら、私は今日も“セレナ・ルクレール”として、学園の廊下を歩く。かつての私にはあり得なかった“人を愛し、人に愛される”という日常を楽しむために。
それが、悪役令嬢として転生した私の、何よりの救いなのだ。今さらだけど、私はこの運命をそう悪くないと感じている。
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