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【第三章】ヒロイン様、ご都合展開は終了です
24 「聖女」リリィの反撃――偽りの純白
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それから数日、私はある程度目立つ行動をしながらも、リリィがどう出るかを観察することにした。何しろ、彼女こそが“乙女ゲームのヒロイン”であるはず。ならば必ず何らかのイベントを仕掛けてくる……と踏んでいたからだ。
そしてその予想は当たった。ある日の昼下がり、学園の敷地内にある小さな礼拝堂でリリィが“祈りの儀式”をする、という告知が突如出されたのだ。
「平民出身の聖女リリィが、学園でも奇跡を起こしてみせるらしいわ」「誰でも見学できるみたいだけど、何をするつもりなのかしら」
そんな噂があっという間に広まり、多くの生徒が興味本位で礼拝堂へ向かう。もちろん私もノエルを連れて行くことにした。
「……ああいう目立つ行動に出るなんて、リリィも焦っているのかもしれないわね」
礼拝堂に入る前、私はノエルと小声でそう話し合う。彼は同意するように軽く首を縦に振った。
「おそらく。セレナ様がゲームを壊すと公言なさったことで、リリィ嬢も王子との“運命の絆”を強調しようとしているのでは?」
つまり、元の筋書き――「聖女であるリリィが奇跡を示し、人々の尊敬を集め、最終的に王子との絆を深める」という流れを、強引に実行しようとしていると見るのが自然だ。
ならばこちらも、それを阻止するか、あるいは無効化する策を練えなければならない。私はこっそり息を呑み、心を引き締める。
礼拝堂の中はすでに多くの生徒で埋まっていた。中央には白い聖衣をまとったリリィがひざまずいて祈りを捧げている。その後方には数名の教師もいて、どうやら正式な行事として認めているようだ。
そこへ、アレクシスが衛兵らしき人を伴って現れ、礼拝堂の後方に控える。王子としての威厳を感じさせる姿に、周囲の人々が小さくひれ伏すように敬意を表する。
そして私も、堂々と前のほうに歩み出て、わざわざリリィから見やすい位置を陣取った。――悪役らしく、彼女の目を眺め返してやろう。
リリィは軽く目を開け、私を視界に捉えると、予想通り嫌悪の色を浮かべる。が、それをすぐに消し去り、か弱い聖女の表情に戻った。そして朗々と祈りの声を上げ始める。
「セレフィアの大地を守りたまう神よ……我らに加護をお与えください。今ここで小さき奇跡を示し、皆に安らぎを……」
リリィの柔らかな声が礼拝堂の天井を震わす。まるで神聖な光が差し込んできたように錯覚するほど、言葉遣いは美しい。周囲の生徒も息を呑んで見守っている。
すると突然、リリィの周囲に淡い光がきらめいた。まるでホタルのような粒子が彼女を取り巻き、ほのかに空気が温かくなる。
「わあ……」「これが聖女の力?」「なんて神々しい……」
あちこちから感嘆の声が上がる。事実、今目の前で起きている現象は、何らかの魔法に近いものだと私も感じる。ほんの少しだけ、その光には癒されるようなやわらかい力があるように思えた。
リリィは上目遣いにアレクシスのほうを見やり、すがるように目を伏せる。
「殿下……私の力を、どうか信じてくださいませ。聖女として、人々を救いたいのです……」
その瞬間、アレクシスがどう反応するか注目が集まる。周囲の生徒も、これは王子の心を揺り動かす決定打ではないかと期待しているらしい。
でもアレクシスは冷静だった。少なくとも、リリィへ駆け寄って抱きしめるような甘い展開にはならない。彼は短く「……そうか」と呟くにとどまり、ステンドグラス越しの光を受けながら静かに佇んでいる。
リリィは納得しきれない様子だが、ここでアレクシスがラブコールを返さないなら、私としても得るものがある。私は唇をゆるめ、あえて皮肉を込めた声で言い放った。
「リリィ、あなたの力は確かにきれいね。でも、その光で本当に何ができるの? たとえば、ここにいる誰かの傷を癒したり、病を治したり……そういう具体的な奇跡を見せてもらえないかしら?」
その問いかけに、礼拝堂が一瞬しんとなった。リリィはこめかみをピクリと震わせつつ、微笑を保つ。
「もちろん、少しの傷なら癒せますわ……でも、今この場で傷ついた人などいるかしら?」
「なら、今度はあなたが実際に治療しているところを見せてくれると助かるわ。私、どうも‘光が舞う演出’だけじゃ信じられなくて」
遠回しに“見せかけだけでは?”と指摘したわけだ。周囲にいる教師たちの視線が私に集まり、「いくらなんでも失礼では?」という空気が濃厚になる。
それでも私は引き下がる気はない。だって、ここは“ゲームのヒロインのお披露目イベント”だ。私は“悪役令嬢”を演じきってこそ、この場を荒らせるのだ。
リリィは困ったふりをして、小さく首を振る。
「……セレナ様、あなたはいつもそうやって私を疑ってばかり。皆の前で見世物のように医療行為をするのは、神に対して不遜ではなくて?」
「神に不遜、ね。じゃあ、普段からあなたはどうやって聖女の力を証明しているの? 結局は噂だけでしょ?」
私がさらに詰め寄ると、リリィの眉がわずかに寄る。だが、彼女は微笑を崩さず、あくまで“清楚なヒロイン”の仮面を貫こうとする。
「私、今はまだ力が不完全ですから……大きな奇跡はいつか必ずお見せしますわ。殿下にもきっと、認めてもらえるように」
そう言って、意味深にアレクシスを見やる。周囲の生徒は、やはり「聖女リリィは本物だ」と信じたがっている者も少なくないらしく、私の言葉を苦々しく思っている空気が伝わってくる。
しかし、アレクシスは私のほうへ微かに視線をやり、かすかに首を振った。――まるで「やりすぎるなよ」と言わんばかりに。確かに、これ以上の挑発は場を荒らすだけかもしれない。
(まあ、いいわ。リリィが本当に奇跡を起こすかどうか、確かめられたのは一歩前進よね)
私は心の中でそう呟き、礼拝堂を後にする。結局、リリィの“お披露目儀式”は無難に終了したが、これが後々に波乱を引き起こすのは目に見えていた。――彼女はきっと近いうちに本格的な“奇跡”をやってみせるに違いない。
そしてその予想は当たった。ある日の昼下がり、学園の敷地内にある小さな礼拝堂でリリィが“祈りの儀式”をする、という告知が突如出されたのだ。
「平民出身の聖女リリィが、学園でも奇跡を起こしてみせるらしいわ」「誰でも見学できるみたいだけど、何をするつもりなのかしら」
そんな噂があっという間に広まり、多くの生徒が興味本位で礼拝堂へ向かう。もちろん私もノエルを連れて行くことにした。
「……ああいう目立つ行動に出るなんて、リリィも焦っているのかもしれないわね」
礼拝堂に入る前、私はノエルと小声でそう話し合う。彼は同意するように軽く首を縦に振った。
「おそらく。セレナ様がゲームを壊すと公言なさったことで、リリィ嬢も王子との“運命の絆”を強調しようとしているのでは?」
つまり、元の筋書き――「聖女であるリリィが奇跡を示し、人々の尊敬を集め、最終的に王子との絆を深める」という流れを、強引に実行しようとしていると見るのが自然だ。
ならばこちらも、それを阻止するか、あるいは無効化する策を練えなければならない。私はこっそり息を呑み、心を引き締める。
礼拝堂の中はすでに多くの生徒で埋まっていた。中央には白い聖衣をまとったリリィがひざまずいて祈りを捧げている。その後方には数名の教師もいて、どうやら正式な行事として認めているようだ。
そこへ、アレクシスが衛兵らしき人を伴って現れ、礼拝堂の後方に控える。王子としての威厳を感じさせる姿に、周囲の人々が小さくひれ伏すように敬意を表する。
そして私も、堂々と前のほうに歩み出て、わざわざリリィから見やすい位置を陣取った。――悪役らしく、彼女の目を眺め返してやろう。
リリィは軽く目を開け、私を視界に捉えると、予想通り嫌悪の色を浮かべる。が、それをすぐに消し去り、か弱い聖女の表情に戻った。そして朗々と祈りの声を上げ始める。
「セレフィアの大地を守りたまう神よ……我らに加護をお与えください。今ここで小さき奇跡を示し、皆に安らぎを……」
リリィの柔らかな声が礼拝堂の天井を震わす。まるで神聖な光が差し込んできたように錯覚するほど、言葉遣いは美しい。周囲の生徒も息を呑んで見守っている。
すると突然、リリィの周囲に淡い光がきらめいた。まるでホタルのような粒子が彼女を取り巻き、ほのかに空気が温かくなる。
「わあ……」「これが聖女の力?」「なんて神々しい……」
あちこちから感嘆の声が上がる。事実、今目の前で起きている現象は、何らかの魔法に近いものだと私も感じる。ほんの少しだけ、その光には癒されるようなやわらかい力があるように思えた。
リリィは上目遣いにアレクシスのほうを見やり、すがるように目を伏せる。
「殿下……私の力を、どうか信じてくださいませ。聖女として、人々を救いたいのです……」
その瞬間、アレクシスがどう反応するか注目が集まる。周囲の生徒も、これは王子の心を揺り動かす決定打ではないかと期待しているらしい。
でもアレクシスは冷静だった。少なくとも、リリィへ駆け寄って抱きしめるような甘い展開にはならない。彼は短く「……そうか」と呟くにとどまり、ステンドグラス越しの光を受けながら静かに佇んでいる。
リリィは納得しきれない様子だが、ここでアレクシスがラブコールを返さないなら、私としても得るものがある。私は唇をゆるめ、あえて皮肉を込めた声で言い放った。
「リリィ、あなたの力は確かにきれいね。でも、その光で本当に何ができるの? たとえば、ここにいる誰かの傷を癒したり、病を治したり……そういう具体的な奇跡を見せてもらえないかしら?」
その問いかけに、礼拝堂が一瞬しんとなった。リリィはこめかみをピクリと震わせつつ、微笑を保つ。
「もちろん、少しの傷なら癒せますわ……でも、今この場で傷ついた人などいるかしら?」
「なら、今度はあなたが実際に治療しているところを見せてくれると助かるわ。私、どうも‘光が舞う演出’だけじゃ信じられなくて」
遠回しに“見せかけだけでは?”と指摘したわけだ。周囲にいる教師たちの視線が私に集まり、「いくらなんでも失礼では?」という空気が濃厚になる。
それでも私は引き下がる気はない。だって、ここは“ゲームのヒロインのお披露目イベント”だ。私は“悪役令嬢”を演じきってこそ、この場を荒らせるのだ。
リリィは困ったふりをして、小さく首を振る。
「……セレナ様、あなたはいつもそうやって私を疑ってばかり。皆の前で見世物のように医療行為をするのは、神に対して不遜ではなくて?」
「神に不遜、ね。じゃあ、普段からあなたはどうやって聖女の力を証明しているの? 結局は噂だけでしょ?」
私がさらに詰め寄ると、リリィの眉がわずかに寄る。だが、彼女は微笑を崩さず、あくまで“清楚なヒロイン”の仮面を貫こうとする。
「私、今はまだ力が不完全ですから……大きな奇跡はいつか必ずお見せしますわ。殿下にもきっと、認めてもらえるように」
そう言って、意味深にアレクシスを見やる。周囲の生徒は、やはり「聖女リリィは本物だ」と信じたがっている者も少なくないらしく、私の言葉を苦々しく思っている空気が伝わってくる。
しかし、アレクシスは私のほうへ微かに視線をやり、かすかに首を振った。――まるで「やりすぎるなよ」と言わんばかりに。確かに、これ以上の挑発は場を荒らすだけかもしれない。
(まあ、いいわ。リリィが本当に奇跡を起こすかどうか、確かめられたのは一歩前進よね)
私は心の中でそう呟き、礼拝堂を後にする。結局、リリィの“お披露目儀式”は無難に終了したが、これが後々に波乱を引き起こすのは目に見えていた。――彼女はきっと近いうちに本格的な“奇跡”をやってみせるに違いない。
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