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【第三章】ヒロイン様、ご都合展開は終了です
28 突きつけられた“罠”――臨時査問会
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宝飾品盗難の噂が広まってから数日後、学園の教師陣によって“臨時の査問会”が設けられることになった。
本来、生徒同士のトラブルは教師や寮監が仲裁する程度で終わるはずだが、今回の件には「公爵令嬢セレナ」と「聖女候補リリィ」という特別な名前が絡んでいる。さらに第三者の貴族生徒が被害者ということで、全員の体面を守るためにも公的な場を設けて解決を図ろう、という名目らしい。
その知らせを聞いたとき、私の胸に走ったのは不安よりも怒りに近い感情だった。――リリィが教師たちを巻き込み、私に“罪”を認めさせようと策略を巡らせているに違いない。
思い出すのは、ゲームの一幕にあった“悪役令嬢の犯罪発覚イベント”。おそらくリリィはこれを再現しようとしているのだ。
ただし、今の私には王子やノエルが味方についてくれているし、リリィの嘘を暴く見込みもある。焦るより、ここで逆襲のきっかけをつかむべきだろう。
査問会は放課後、学園の講堂で開かれることになった。教師たちの他、被害者本人である貴族生徒、その取り巻きたち数名、リリィ、そして私。さらにオブザーバーとしてアレクシスも出席するという形式だ。
講堂に足を踏み入れると、そこは思いのほか厳粛な雰囲気を醸し出していた。まるで裁判でも始まるかのような空気で、ざわつきが漂っている。
リリィは教師たちのそばに立ち、しおらしい表情で祈るような仕草を見せていた。早速、“私は悪くない”ムードをつくり出そうとしているのが透けて見える。
私は軽く鼻で笑い、反対側の席に腰を下ろす。アレクシスは私の隣に座り、深く息をついた。
「セレナ、冷静に頼む。もしこの場で取り乱せば、思うつぼだ」
「わかってる。そっちこそ、あまり私に肩入れしすぎないで。王子の立場を失うわよ?」
私がそう返すと、彼はふっと笑って「それはそれで構わない」と小さく呟いた。
その何気ない一言に、私の胸がかすかに疼く。――本当に、彼は私を大切に想っているのだろうか? だとしても、私は“悪役”の身。素直に受け止めることはできない。
(でも、そんな彼の姿を見ると、心が暖かくなるのは事実……。まったく、困ったものね)
やがて、主導役の教師が話し始める。
「本日の査問会は、学園内で発生した宝飾品の紛失事件について、関係者の意見を伺うために開かれます。被害者であるサイラス卿、そして聖女候補のリリィ嬢、疑いをかけられているセレナ・ルクレール嬢――それぞれの立場から事実を確認し、解決を図りたい」
形式ばった挨拶が続くが、要は「セレナが盗んだという噂に根拠があるのかどうか」を確かめる場だ。
まずはサイラス卿が証言台のようなところに進み出る。彼は気の強そうな若い貴族で、私の記憶ではこれまで面識がほとんどない。
「私の宝飾品は、祖父の代から伝わるもので……それが学園の自室から忽然と消えてしまったのです。リリィ嬢は、その日セレナ嬢が寮の廊下をうろついているのを見かけたと……」
彼が話を続けると、リリィが恥じらうように一歩前へ出る。
「はい。私は見間違いかとも思ったのですが、セレナ様がこそこそとサイラス卿のお部屋付近を歩いているのを見た気がして……。それで、後になって宝飾品が盗まれたと知り、もしやと思い教師に報告したのです」
ああ、なるほどね、と私は心の中で冷笑する。“見かけた気がする”などという曖昧な証言でしかないのに、リリィが“聖女”として言えば「彼女が嘘をつくはずがない」と周囲が納得しやすくなるわけだ。
教師たちもまるでリリィを信じ込むかのように頷き、「なるほど、セレナ嬢は何か弁解が?」とこちらに振ってくる。
「いいえ。そもそも私は寮に立ち入った覚えがありませんし、あったとしても宝飾品を盗む理由がないわ。勝手な憶測で誹謗されるのは迷惑です」
落ち着いた口調で反論する。もちろん、それだけで疑惑が晴れるわけではないが、私が落ち着いている様子を見せることは大事だ。
ここで冷静さを失うと、まさに悪役令嬢のイメージが固定されてしまう。
すると、リリィが悲しげな声でかぶせてきた。
「でもセレナ様は、かねてから私や他の平民出身の生徒を目の敵にしておられましたわ。高貴な生まれを振りかざして、他者のものを奪うことに罪悪感を覚えないのでは、と……申し訳ないけれど、そう思ってしまうのです」
――言いたい放題である。だが、私が最初に嫌がらせをしたわけでもないのに、彼女はさも“日頃からセレナが平民を見下していた”というイメージを強調している。
教師陣もまんざらではない様子で、困惑顔を浮かべつつ私に問い詰める。
「セレナ嬢、あなたには全く心当たりがない、と?」
「全くありません。証拠を出していただけます?」
私は毅然とした態度で突っぱねる。教師たちはちらりとリリィのほうを見る。どうやらここで“追加証拠”を出す予定だったのかもしれない。
案の定、リリィは「実は、私……こんなものを見つけてしまったんです」と言って、手のひらに小さな布の切れ端をのせてみせた。
「サイラス卿のお部屋の扉に挟まっていたのを見つけました。これはセレナ様のドレスの裾と同じ生地ではないかと……」
おおかた、前もってリリィが仕込んでおいた細工だろう。しかもドレスの端切れなら、いくらでも偽造できる。転生してから私が着た服ではないかもしれないが、それでも教師たちには区別がつかないだろう。
「まったく、幼稚な罠ね……」
私は小さく舌打ちし、何か反論しようと口を開きかけ――その瞬間、アレクシスがやや強い口調で割り込んだ。
「その布は、いつどのタイミングで見つけたものだ? それがセレナのドレスの一部だという証明はあるのか?」
王子が介入すると、教師たちもたじろぐ。リリィは困った顔を装うが、王子の鋭い眼光に気圧されたのか、言葉を詰まらせた。
その隙を突いて私が声を上げる。
「私にも確認させていただけます? それ、本当に私のものなの?」
教師の一人が慌てたようにリリィから布を受け取り、私のもとへ持ってくる。私はじっくりと見つめ、指先で撫でてみる。――すると、微妙だが見覚えがあるような刺繍の手触りを感じる。
(本当にセレナのドレスの切れ端……? でも前世から引き継いだ記憶が曖昧だから、確信が持てない)
戸惑っていると、ノエルがすっと進み出た。
「失礼します。実は、セレナ様の衣装を管理している侍女たちから話を聞きましたが、最近は破れたドレスなどは出ていないとのことです。したがって、仮に同じ柄の生地であっても、セレナ様の所有物とは限らないのではないでしょうか」
この援護射撃により、教師たちがざわめく。誰がいつ切れ端を仕込んだのか、確証が全くないのだ。
リリィは苦い顔をしながら唇を噛みしめるが、すぐに涙ぐみ、悲しげな声でこう言い放つ。
「私、何かの間違いなら良かったのに……。セレナ様がそんなことをするはずがない、と信じたかった。でも、あの日見た光景がずっと頭から離れなくて……」
すかさず涙を使った同情作戦。でも、もう私は動揺しない。
周囲がリリィを気の毒がる雰囲気に染まろうとする前に、私は毅然と声を張り上げる。
「リリィ、私を疑うのもいいけど、もう少し証拠を用意してからにしてくれないかしら? ‘見た気がする’とか‘布が似てる気がする’とか、全部曖昧すぎるわ。今ここで断定できることは何もない」
教師たちも困った顔をして頷く。確かに“気がする”だけでは追及は無理だ。サイラス卿も戸惑っているようで、「それじゃあ、盗難は誰が……」と途方に暮れている。
(どうやらリリィの今回の作戦は不発か。詰めが甘いのか、時間がなかったのか……とにかく私を無理に落とし入れようとしたんでしょうけど、これくらいじゃどうにもならない)
私は内心で安堵しつつも、ここぞとばかりに畳みかけた。
「私が犯人だと言うなら、もっとはっきりした証拠を出して。私に罪を着せたいだけなら、むしろあなたが疑われることになるわよ、リリィ?」
その言葉にリリィは悔しそうに瞳を揺らす。教師たちも「今回は証拠不十分」と結論せざるを得なくなり、結局この査問会は有耶無耶(うやむや)のまま終わってしまった。
――とはいえ、リリィが私を落とし入れようと本格的に動き出したのは明白だ。次はもっと巧妙な手段を使ってくるかもしれない。
それでも私は確信した。彼女はもはや“優等生”の仮面を剝がし始めている。
“ヒロイン”のご都合展開は、ここで終わり。これからは私がルートをかき乱し、王子との関係を好きにデザインしていく――。
本来、生徒同士のトラブルは教師や寮監が仲裁する程度で終わるはずだが、今回の件には「公爵令嬢セレナ」と「聖女候補リリィ」という特別な名前が絡んでいる。さらに第三者の貴族生徒が被害者ということで、全員の体面を守るためにも公的な場を設けて解決を図ろう、という名目らしい。
その知らせを聞いたとき、私の胸に走ったのは不安よりも怒りに近い感情だった。――リリィが教師たちを巻き込み、私に“罪”を認めさせようと策略を巡らせているに違いない。
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ただし、今の私には王子やノエルが味方についてくれているし、リリィの嘘を暴く見込みもある。焦るより、ここで逆襲のきっかけをつかむべきだろう。
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講堂に足を踏み入れると、そこは思いのほか厳粛な雰囲気を醸し出していた。まるで裁判でも始まるかのような空気で、ざわつきが漂っている。
リリィは教師たちのそばに立ち、しおらしい表情で祈るような仕草を見せていた。早速、“私は悪くない”ムードをつくり出そうとしているのが透けて見える。
私は軽く鼻で笑い、反対側の席に腰を下ろす。アレクシスは私の隣に座り、深く息をついた。
「セレナ、冷静に頼む。もしこの場で取り乱せば、思うつぼだ」
「わかってる。そっちこそ、あまり私に肩入れしすぎないで。王子の立場を失うわよ?」
私がそう返すと、彼はふっと笑って「それはそれで構わない」と小さく呟いた。
その何気ない一言に、私の胸がかすかに疼く。――本当に、彼は私を大切に想っているのだろうか? だとしても、私は“悪役”の身。素直に受け止めることはできない。
(でも、そんな彼の姿を見ると、心が暖かくなるのは事実……。まったく、困ったものね)
やがて、主導役の教師が話し始める。
「本日の査問会は、学園内で発生した宝飾品の紛失事件について、関係者の意見を伺うために開かれます。被害者であるサイラス卿、そして聖女候補のリリィ嬢、疑いをかけられているセレナ・ルクレール嬢――それぞれの立場から事実を確認し、解決を図りたい」
形式ばった挨拶が続くが、要は「セレナが盗んだという噂に根拠があるのかどうか」を確かめる場だ。
まずはサイラス卿が証言台のようなところに進み出る。彼は気の強そうな若い貴族で、私の記憶ではこれまで面識がほとんどない。
「私の宝飾品は、祖父の代から伝わるもので……それが学園の自室から忽然と消えてしまったのです。リリィ嬢は、その日セレナ嬢が寮の廊下をうろついているのを見かけたと……」
彼が話を続けると、リリィが恥じらうように一歩前へ出る。
「はい。私は見間違いかとも思ったのですが、セレナ様がこそこそとサイラス卿のお部屋付近を歩いているのを見た気がして……。それで、後になって宝飾品が盗まれたと知り、もしやと思い教師に報告したのです」
ああ、なるほどね、と私は心の中で冷笑する。“見かけた気がする”などという曖昧な証言でしかないのに、リリィが“聖女”として言えば「彼女が嘘をつくはずがない」と周囲が納得しやすくなるわけだ。
教師たちもまるでリリィを信じ込むかのように頷き、「なるほど、セレナ嬢は何か弁解が?」とこちらに振ってくる。
「いいえ。そもそも私は寮に立ち入った覚えがありませんし、あったとしても宝飾品を盗む理由がないわ。勝手な憶測で誹謗されるのは迷惑です」
落ち着いた口調で反論する。もちろん、それだけで疑惑が晴れるわけではないが、私が落ち着いている様子を見せることは大事だ。
ここで冷静さを失うと、まさに悪役令嬢のイメージが固定されてしまう。
すると、リリィが悲しげな声でかぶせてきた。
「でもセレナ様は、かねてから私や他の平民出身の生徒を目の敵にしておられましたわ。高貴な生まれを振りかざして、他者のものを奪うことに罪悪感を覚えないのでは、と……申し訳ないけれど、そう思ってしまうのです」
――言いたい放題である。だが、私が最初に嫌がらせをしたわけでもないのに、彼女はさも“日頃からセレナが平民を見下していた”というイメージを強調している。
教師陣もまんざらではない様子で、困惑顔を浮かべつつ私に問い詰める。
「セレナ嬢、あなたには全く心当たりがない、と?」
「全くありません。証拠を出していただけます?」
私は毅然とした態度で突っぱねる。教師たちはちらりとリリィのほうを見る。どうやらここで“追加証拠”を出す予定だったのかもしれない。
案の定、リリィは「実は、私……こんなものを見つけてしまったんです」と言って、手のひらに小さな布の切れ端をのせてみせた。
「サイラス卿のお部屋の扉に挟まっていたのを見つけました。これはセレナ様のドレスの裾と同じ生地ではないかと……」
おおかた、前もってリリィが仕込んでおいた細工だろう。しかもドレスの端切れなら、いくらでも偽造できる。転生してから私が着た服ではないかもしれないが、それでも教師たちには区別がつかないだろう。
「まったく、幼稚な罠ね……」
私は小さく舌打ちし、何か反論しようと口を開きかけ――その瞬間、アレクシスがやや強い口調で割り込んだ。
「その布は、いつどのタイミングで見つけたものだ? それがセレナのドレスの一部だという証明はあるのか?」
王子が介入すると、教師たちもたじろぐ。リリィは困った顔を装うが、王子の鋭い眼光に気圧されたのか、言葉を詰まらせた。
その隙を突いて私が声を上げる。
「私にも確認させていただけます? それ、本当に私のものなの?」
教師の一人が慌てたようにリリィから布を受け取り、私のもとへ持ってくる。私はじっくりと見つめ、指先で撫でてみる。――すると、微妙だが見覚えがあるような刺繍の手触りを感じる。
(本当にセレナのドレスの切れ端……? でも前世から引き継いだ記憶が曖昧だから、確信が持てない)
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この援護射撃により、教師たちがざわめく。誰がいつ切れ端を仕込んだのか、確証が全くないのだ。
リリィは苦い顔をしながら唇を噛みしめるが、すぐに涙ぐみ、悲しげな声でこう言い放つ。
「私、何かの間違いなら良かったのに……。セレナ様がそんなことをするはずがない、と信じたかった。でも、あの日見た光景がずっと頭から離れなくて……」
すかさず涙を使った同情作戦。でも、もう私は動揺しない。
周囲がリリィを気の毒がる雰囲気に染まろうとする前に、私は毅然と声を張り上げる。
「リリィ、私を疑うのもいいけど、もう少し証拠を用意してからにしてくれないかしら? ‘見た気がする’とか‘布が似てる気がする’とか、全部曖昧すぎるわ。今ここで断定できることは何もない」
教師たちも困った顔をして頷く。確かに“気がする”だけでは追及は無理だ。サイラス卿も戸惑っているようで、「それじゃあ、盗難は誰が……」と途方に暮れている。
(どうやらリリィの今回の作戦は不発か。詰めが甘いのか、時間がなかったのか……とにかく私を無理に落とし入れようとしたんでしょうけど、これくらいじゃどうにもならない)
私は内心で安堵しつつも、ここぞとばかりに畳みかけた。
「私が犯人だと言うなら、もっとはっきりした証拠を出して。私に罪を着せたいだけなら、むしろあなたが疑われることになるわよ、リリィ?」
その言葉にリリィは悔しそうに瞳を揺らす。教師たちも「今回は証拠不十分」と結論せざるを得なくなり、結局この査問会は有耶無耶(うやむや)のまま終わってしまった。
――とはいえ、リリィが私を落とし入れようと本格的に動き出したのは明白だ。次はもっと巧妙な手段を使ってくるかもしれない。
それでも私は確信した。彼女はもはや“優等生”の仮面を剝がし始めている。
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