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【第四章】学園祭は、あなたと
夜の囁き――アレクシスからの手紙
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翌日、いつものように学園で授業をこなしていると、昼休み前にこっそりノエルが近づいてきた。
「セレナ様、殿下からお手紙が届いております。……授業中に届けるのは憚られましたが、どうしても今すぐ見てほしいとのこと」
私がノエルから封筒を受け取ると、そこにはアレクシスのサインと小さな紋章が押されていた。“王子の書状”というわりには私信めいた軽い装いだが、急ぎということは何かあったのだろう。
“昼休みになったら中庭の東屋へ来てほしい”とだけ書かれている。理由は書いていないが、どうしても人目を避けて会いたいことがあるのだろう。私はすぐにノエルに目配せし、昼休みのチャイムが鳴ると同時に校舎を出た。
中庭の東屋は薔薇のアーチに囲まれ、美しい花々が咲き誇る場所だ。誰かが園芸部で丹精込めて手入れしているらしく、甘い香りが漂っている。
そこに一人で待っていたアレクシスは、私の姿を認めると軽く息を吐いた。
「……すまない、忙しいところを呼び出して。実は、気になる情報を入手してな」
「気になる情報?」
私が首を傾げると、彼は声を潜めて説明する。
「王宮内で、リリィが何らかの‘禁忌の魔法’に手を出している可能性があると耳にした。……具体的な証拠はないが、一部の魔術師が不審な魔力波動を感じ取ったと言うんだ」
“禁忌の魔法”――それは乙女ゲームではラスボス的存在が使うような裏技、あるいは邪悪な術だとイメージしていたが、まさかリリィが?
けれどリリィが“強引にゲームの筋書きを進めようとしている転生者”だとすれば、人知れず怪しい力に手を出す可能性は十分ある。私自身も彼女の“聖女らしき魔法”に不審な点を感じていた。
「その魔法、もし本当に使っているなら、どうなるの? 王家が公認する‘聖女’が禁忌を操っていたと知れたら、大問題じゃない」
「その通りだ。だから、すぐに大きく動くわけにもいかない。王家としてはリリィを擁護したい思惑もあるから、禁忌魔法の疑惑など下手に広められない。……だが、もし本当なら学園祭で何かを仕掛けてくる可能性が高いだろう?」
私の背筋がぞくりとする。リリィが“聖女の力”を正統に得たのではなく、禁忌の魔法で“奇跡”を演出しているとしたら? 学園祭のメインステージで大々的にそれをやるとすれば、取り返しのつかない事態に陥るかもしれない。
アレクシスは切迫した面持ちで続ける。
「だから、祭当日までにどうにかしてリリィの魔法の正体を掴みたい。……もしかしたら、お前の言う‘ゲームの破壊’にも繋がるかもしれない」
彼がそこまで私の“ゲーム理論”を信じているとは思わなかったが、事情を飲み込んでくれているのは助かる。
私は拳をぎゅっと握りしめ、意志を固める。
「わかった。私も彼女に近づいてみる。いずれ、あちらも何かアクションを起こしてくるでしょうし……その隙を逃さないわ。もし怪しい本や道具を使っているなら、証拠を掴むチャンスはあるはず」
「頼む。だが、くれぐれも気をつけろ。……危険な魔法に触れた者がどうなるか、俺も詳しくは知らないが、ろくな結末にはならないはずだ」
アレクシスのまっすぐな瞳に映る不安。私の心臓がその気遣いに反応して苦しくなる。以前の冷たい印象しか知らなかったら、こんなに優しくされるなんて信じられないだろう。
でも、だからこそ私は彼を欺いたり裏切ったりしたくない。リリィの嘘を暴き、彼が望む形で“王家の未来”を作れるよう手助けをしたいのだ。
「……任せて。禁忌の魔法なんかで、私たちの学園祭を台無しにさせない。あなたとの舞踏会も、バザー企画も、絶対に成功させるから」
決然とした声でそう告げると、アレクシスは穏やかな笑みを浮かべて私の手を軽く握った。
「ありがとう、セレナ。――いつの間に、こんなに頼もしくなったんだ?」
恥ずかしいやら嬉しいやらで、私はちらりと周囲を見回す。誰もいないと思っていたが、遠くの木陰から誰かがこちらを見ているような気配……いや、気のせいだろうか。
瞬間的に身構えたが、アレクシスは気づいていないようだ。あまり長居すると人目につきそうなので、私たちは手短に会話を終え、それぞれ別の場所へ戻ることにした。
――このほんのひとときの親密さが、何よりも愛おしいと思ってしまう自分がいる。どれだけゲームを壊そうが、私の心を揺さぶる彼の優しさは、本物なのだろうか?
複雑な思いを抱えつつ、私は昼休み残りの時間を使って教室へ戻る。禁忌の魔法……リリィはいったい何を企んでいるのか。祭は日に日に近づき、私たちの運命が加速していく。
「セレナ様、殿下からお手紙が届いております。……授業中に届けるのは憚られましたが、どうしても今すぐ見てほしいとのこと」
私がノエルから封筒を受け取ると、そこにはアレクシスのサインと小さな紋章が押されていた。“王子の書状”というわりには私信めいた軽い装いだが、急ぎということは何かあったのだろう。
“昼休みになったら中庭の東屋へ来てほしい”とだけ書かれている。理由は書いていないが、どうしても人目を避けて会いたいことがあるのだろう。私はすぐにノエルに目配せし、昼休みのチャイムが鳴ると同時に校舎を出た。
中庭の東屋は薔薇のアーチに囲まれ、美しい花々が咲き誇る場所だ。誰かが園芸部で丹精込めて手入れしているらしく、甘い香りが漂っている。
そこに一人で待っていたアレクシスは、私の姿を認めると軽く息を吐いた。
「……すまない、忙しいところを呼び出して。実は、気になる情報を入手してな」
「気になる情報?」
私が首を傾げると、彼は声を潜めて説明する。
「王宮内で、リリィが何らかの‘禁忌の魔法’に手を出している可能性があると耳にした。……具体的な証拠はないが、一部の魔術師が不審な魔力波動を感じ取ったと言うんだ」
“禁忌の魔法”――それは乙女ゲームではラスボス的存在が使うような裏技、あるいは邪悪な術だとイメージしていたが、まさかリリィが?
けれどリリィが“強引にゲームの筋書きを進めようとしている転生者”だとすれば、人知れず怪しい力に手を出す可能性は十分ある。私自身も彼女の“聖女らしき魔法”に不審な点を感じていた。
「その魔法、もし本当に使っているなら、どうなるの? 王家が公認する‘聖女’が禁忌を操っていたと知れたら、大問題じゃない」
「その通りだ。だから、すぐに大きく動くわけにもいかない。王家としてはリリィを擁護したい思惑もあるから、禁忌魔法の疑惑など下手に広められない。……だが、もし本当なら学園祭で何かを仕掛けてくる可能性が高いだろう?」
私の背筋がぞくりとする。リリィが“聖女の力”を正統に得たのではなく、禁忌の魔法で“奇跡”を演出しているとしたら? 学園祭のメインステージで大々的にそれをやるとすれば、取り返しのつかない事態に陥るかもしれない。
アレクシスは切迫した面持ちで続ける。
「だから、祭当日までにどうにかしてリリィの魔法の正体を掴みたい。……もしかしたら、お前の言う‘ゲームの破壊’にも繋がるかもしれない」
彼がそこまで私の“ゲーム理論”を信じているとは思わなかったが、事情を飲み込んでくれているのは助かる。
私は拳をぎゅっと握りしめ、意志を固める。
「わかった。私も彼女に近づいてみる。いずれ、あちらも何かアクションを起こしてくるでしょうし……その隙を逃さないわ。もし怪しい本や道具を使っているなら、証拠を掴むチャンスはあるはず」
「頼む。だが、くれぐれも気をつけろ。……危険な魔法に触れた者がどうなるか、俺も詳しくは知らないが、ろくな結末にはならないはずだ」
アレクシスのまっすぐな瞳に映る不安。私の心臓がその気遣いに反応して苦しくなる。以前の冷たい印象しか知らなかったら、こんなに優しくされるなんて信じられないだろう。
でも、だからこそ私は彼を欺いたり裏切ったりしたくない。リリィの嘘を暴き、彼が望む形で“王家の未来”を作れるよう手助けをしたいのだ。
「……任せて。禁忌の魔法なんかで、私たちの学園祭を台無しにさせない。あなたとの舞踏会も、バザー企画も、絶対に成功させるから」
決然とした声でそう告げると、アレクシスは穏やかな笑みを浮かべて私の手を軽く握った。
「ありがとう、セレナ。――いつの間に、こんなに頼もしくなったんだ?」
恥ずかしいやら嬉しいやらで、私はちらりと周囲を見回す。誰もいないと思っていたが、遠くの木陰から誰かがこちらを見ているような気配……いや、気のせいだろうか。
瞬間的に身構えたが、アレクシスは気づいていないようだ。あまり長居すると人目につきそうなので、私たちは手短に会話を終え、それぞれ別の場所へ戻ることにした。
――このほんのひとときの親密さが、何よりも愛おしいと思ってしまう自分がいる。どれだけゲームを壊そうが、私の心を揺さぶる彼の優しさは、本物なのだろうか?
複雑な思いを抱えつつ、私は昼休み残りの時間を使って教室へ戻る。禁忌の魔法……リリィはいったい何を企んでいるのか。祭は日に日に近づき、私たちの運命が加速していく。
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