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【第四章】学園祭は、あなたと
39 スパイ行動――リリィの噂を探る
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私は学園内の友人やノエルの協力を得て、リリィ周辺の様子をこまめに探ることにした。彼女がどこで何をしているか、誰と接触しているか……そうした日々の情報を集積していく。
すると、夜中にこっそり魔法関係の書庫へ出入りしているとの目撃情報が浮上した。学園には封印された書物もあり、通常の生徒は立ち入り禁止の書庫も存在するという。
「夜に封印書庫ですって……禁忌の魔法って、もしかしてそこにあるのかしら」
私はノエルと顔を見合わせ、唸る。リリィが夜な夜な潜り込んでいるなら、誰かの手引きがあるはず。一人で封印された書庫には入れないのだから。
私たちは教師に相談してもいいのか迷ったが、教師の中にもリリィを支持する者がいるかもしれない。下手をすれば情報が漏れる可能性がある。
結局、私がノエルを連れて夜に書庫を見張り、リリィの動向を確かめるという方針になった。下手な小細工は抜きに、現場を押さえれば疑いようがなくなる。
その夜。学園の周囲を囲む街灯が落ち、人気のない校舎裏へ忍び込む私たち。正直に言えば、こんなスパイじみた行動は生まれて初めてで、心臓が爆音のように鼓動している。
ノエルが先頭を歩き、警戒しながら薄暗い廊下を進む。外部の者がいないか、巡回している守衛に見つからないか……気は抜けない。
しばらくして、魔道研究室が並ぶ一角へたどり着く。この先には“高度な魔術書”を保管する書庫があり、その奥には“封印書庫”がある。普通の生徒が立ち入るには重い鍵が必要なはずだ。
廊下の先から人影が動いた気がして、私はノエルの背中を掴んで身を低くした。ひそやかに覗き込むと、そこにはローブを纏った小柄な人物が立っている。
(あれは……リリィ?)
ローブが邪魔で顔はよく見えないが、体つきや雰囲気からしてリリィに似ている。
暗闇の中、彼女は意を決したように扉に触れ、何か呪文らしきものを口ずさんでいる。すると、扉の鍵がカチリと音を立てて外れるのが見えた。
(そんな簡単に封印が解ける? やっぱり、禁忌の魔法か何かを使ってるんじゃ……)
私とノエルは息を殺して様子を窺う。リリィらしき人物は扉の隙間から中に入り、暗闇に消えていった。
どうする? ここで追いかければ、鉢合わせになるかもしれない。危険だ。でも、リリィが本当に禁忌の魔術書を探しているなら、証拠を掴むには今しかない。
ノエルが小声で「セレナ様、どうなさいます?」と尋ねる。私は喉がカラカラになるのを感じながらも、決意を固める。
「……行くわ。こっそり後を追いましょう。もし見つかっても、なんとか証拠だけは押さえる」
「わかりました。私が護りますから、ご安心を」
心強い。ノエルが前に立ち、短剣を握りしめてそっと扉に近づく。私も後ろにつき、息を詰めたまま中を覗き込む。
書庫の中は薄暗く、棚が並んで迷路のようになっている。遠くからかすかな光が揺れ、ローブ姿のリリィが何冊かの本を手に取っては確認しているように見えた。――やはり本を探しているのか。
そのとき、突然背後からパタパタと足音がした。咄嗟に身を伏せるが、今度は別の生徒の気配……いや、ひょっとして守衛かもしれない。
「くっ……まずい、引き返すか?」
ノエルが小声で提案する。確かに、ここで捕まってはリリィの実態を暴くどころか私たちが不法侵入で咎められかねない。
だが、こんなチャンスは二度とないかもしれない。せめてリリィの持っている本が何なのか――タイトルだけでもいいから確認できれば……。
迷っている間にも足音が近づいてくる。ヤバい。このままでは鉢合わせ必至だ。ノエルは私を隠すように身をかがめ、非常口へ誘導しようとする。
一方、リリィは奥の棚で何かを見つけたのか、小さく歓声を上げる気配がした。心がはやる。
(どうする、どうするセレナ……!?)
最悪のパターンは、私たちが見つかり、リリィだけが逃げる。そんな展開を避けるにはどう動けばいいか。考えがまとまらないまま、通路の影から人の形が姿を現しかける――。
「誰だ、そこにいるのは……?」
厳しい声。どうやら守衛か、あるいは教師かもしれない。心臓がバクバクと鳴り、私は息を殺す。
このまま逃げるべきか、それとも覚悟を決めてリリィを追及するべきか――一瞬の迷いが、私の身体を硬直させる。
ノエルが小さく頭を振る。彼としては退却を勧めているのだろう。
そして、そのわずかな逡巡のあいだに、ローブ姿の人影――リリィが気づいたのか、何らかの術を使ってスッと棚の陰に消えた。
次の瞬間、書庫の奥で微かな風が巻き起こり、光がパッと消える。あまりにも呆気ない退場に、私たちは成す術なく、闖入者が消え失せた事実を悟った。
(ちっ……逃がした。やっぱり、追う余裕がなかった……)
後味の悪い思いを抱え、私とノエルはやむを得ず非常口からこっそり書庫を離れる。守衛がウロウロしている足音が聞こえたが、上手く隠れてやり過ごせたのは不幸中の幸いだった。
外の夜風が肌を刺し、私の胸を苛立ちで満たす。結局、リリィが“禁忌の魔法”を探し出しているかどうかの証拠は掴めなかった。このまま祭本番を迎えることになるのか……。
「……一瞬の迷いが命取りだったわね」
自嘲気味に言うと、ノエルは静かに頭を下げる。
「申し訳ありません。私が焦って、セレナ様を守ることしか考えられず……」
「いいのよ。あなたは正しいわ。あそこで突撃したら、私が下手すれば退学処分だったかも。……今はまだ、タイミングじゃなかっただけ」
一歩間違えれば泥沼化していた。焦らず次のチャンスを待とう。それが賢明だと分かっていても、リリィに先を越されている気がして歯がゆい。
学園祭はもうすぐだ。きっと彼女はステージで何か“禁忌の奇跡”をやらかすだろう。それを止められるかどうか、勝負はそこにかかっている。
「……くそっ、絶対にこのまま負けない。リリィのご都合ルートなんて、全部打ち砕いてやる」
夜闇の中、私は小さく拳を握りしめる。王子と舞踏会で踊るだけじゃ済まされない。学園祭を無事に終えるためにも、リリィの手口を暴くためにも――私の役割はますます重要になるのだ。
すると、夜中にこっそり魔法関係の書庫へ出入りしているとの目撃情報が浮上した。学園には封印された書物もあり、通常の生徒は立ち入り禁止の書庫も存在するという。
「夜に封印書庫ですって……禁忌の魔法って、もしかしてそこにあるのかしら」
私はノエルと顔を見合わせ、唸る。リリィが夜な夜な潜り込んでいるなら、誰かの手引きがあるはず。一人で封印された書庫には入れないのだから。
私たちは教師に相談してもいいのか迷ったが、教師の中にもリリィを支持する者がいるかもしれない。下手をすれば情報が漏れる可能性がある。
結局、私がノエルを連れて夜に書庫を見張り、リリィの動向を確かめるという方針になった。下手な小細工は抜きに、現場を押さえれば疑いようがなくなる。
その夜。学園の周囲を囲む街灯が落ち、人気のない校舎裏へ忍び込む私たち。正直に言えば、こんなスパイじみた行動は生まれて初めてで、心臓が爆音のように鼓動している。
ノエルが先頭を歩き、警戒しながら薄暗い廊下を進む。外部の者がいないか、巡回している守衛に見つからないか……気は抜けない。
しばらくして、魔道研究室が並ぶ一角へたどり着く。この先には“高度な魔術書”を保管する書庫があり、その奥には“封印書庫”がある。普通の生徒が立ち入るには重い鍵が必要なはずだ。
廊下の先から人影が動いた気がして、私はノエルの背中を掴んで身を低くした。ひそやかに覗き込むと、そこにはローブを纏った小柄な人物が立っている。
(あれは……リリィ?)
ローブが邪魔で顔はよく見えないが、体つきや雰囲気からしてリリィに似ている。
暗闇の中、彼女は意を決したように扉に触れ、何か呪文らしきものを口ずさんでいる。すると、扉の鍵がカチリと音を立てて外れるのが見えた。
(そんな簡単に封印が解ける? やっぱり、禁忌の魔法か何かを使ってるんじゃ……)
私とノエルは息を殺して様子を窺う。リリィらしき人物は扉の隙間から中に入り、暗闇に消えていった。
どうする? ここで追いかければ、鉢合わせになるかもしれない。危険だ。でも、リリィが本当に禁忌の魔術書を探しているなら、証拠を掴むには今しかない。
ノエルが小声で「セレナ様、どうなさいます?」と尋ねる。私は喉がカラカラになるのを感じながらも、決意を固める。
「……行くわ。こっそり後を追いましょう。もし見つかっても、なんとか証拠だけは押さえる」
「わかりました。私が護りますから、ご安心を」
心強い。ノエルが前に立ち、短剣を握りしめてそっと扉に近づく。私も後ろにつき、息を詰めたまま中を覗き込む。
書庫の中は薄暗く、棚が並んで迷路のようになっている。遠くからかすかな光が揺れ、ローブ姿のリリィが何冊かの本を手に取っては確認しているように見えた。――やはり本を探しているのか。
そのとき、突然背後からパタパタと足音がした。咄嗟に身を伏せるが、今度は別の生徒の気配……いや、ひょっとして守衛かもしれない。
「くっ……まずい、引き返すか?」
ノエルが小声で提案する。確かに、ここで捕まってはリリィの実態を暴くどころか私たちが不法侵入で咎められかねない。
だが、こんなチャンスは二度とないかもしれない。せめてリリィの持っている本が何なのか――タイトルだけでもいいから確認できれば……。
迷っている間にも足音が近づいてくる。ヤバい。このままでは鉢合わせ必至だ。ノエルは私を隠すように身をかがめ、非常口へ誘導しようとする。
一方、リリィは奥の棚で何かを見つけたのか、小さく歓声を上げる気配がした。心がはやる。
(どうする、どうするセレナ……!?)
最悪のパターンは、私たちが見つかり、リリィだけが逃げる。そんな展開を避けるにはどう動けばいいか。考えがまとまらないまま、通路の影から人の形が姿を現しかける――。
「誰だ、そこにいるのは……?」
厳しい声。どうやら守衛か、あるいは教師かもしれない。心臓がバクバクと鳴り、私は息を殺す。
このまま逃げるべきか、それとも覚悟を決めてリリィを追及するべきか――一瞬の迷いが、私の身体を硬直させる。
ノエルが小さく頭を振る。彼としては退却を勧めているのだろう。
そして、そのわずかな逡巡のあいだに、ローブ姿の人影――リリィが気づいたのか、何らかの術を使ってスッと棚の陰に消えた。
次の瞬間、書庫の奥で微かな風が巻き起こり、光がパッと消える。あまりにも呆気ない退場に、私たちは成す術なく、闖入者が消え失せた事実を悟った。
(ちっ……逃がした。やっぱり、追う余裕がなかった……)
後味の悪い思いを抱え、私とノエルはやむを得ず非常口からこっそり書庫を離れる。守衛がウロウロしている足音が聞こえたが、上手く隠れてやり過ごせたのは不幸中の幸いだった。
外の夜風が肌を刺し、私の胸を苛立ちで満たす。結局、リリィが“禁忌の魔法”を探し出しているかどうかの証拠は掴めなかった。このまま祭本番を迎えることになるのか……。
「……一瞬の迷いが命取りだったわね」
自嘲気味に言うと、ノエルは静かに頭を下げる。
「申し訳ありません。私が焦って、セレナ様を守ることしか考えられず……」
「いいのよ。あなたは正しいわ。あそこで突撃したら、私が下手すれば退学処分だったかも。……今はまだ、タイミングじゃなかっただけ」
一歩間違えれば泥沼化していた。焦らず次のチャンスを待とう。それが賢明だと分かっていても、リリィに先を越されている気がして歯がゆい。
学園祭はもうすぐだ。きっと彼女はステージで何か“禁忌の奇跡”をやらかすだろう。それを止められるかどうか、勝負はそこにかかっている。
「……くそっ、絶対にこのまま負けない。リリィのご都合ルートなんて、全部打ち砕いてやる」
夜闇の中、私は小さく拳を握りしめる。王子と舞踏会で踊るだけじゃ済まされない。学園祭を無事に終えるためにも、リリィの手口を暴くためにも――私の役割はますます重要になるのだ。
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