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二章「奴隷との初めての冒険」
大変なことになるかもしれません
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「これが私の歩んできた道です」
「そんな事情が……」
これは想像以上に払拭するのは難しいだろう。まさか身内が魔物に殺され犯されているとは……。その上、それから逃げていたら奴隷にされたってどんだけハードモードな人生を歩んできたというんだ。しかもルナは16歳だ。その年齢でこれだけの経験をしていれば捻くれるのも分かるし、むしろここまで素直であるにも奇跡だ。
「ご主人様に知っておいて欲しいとは思ったので、それを話すことで私のことを知ってもらえると思ったし、それに血が苦手なことに対しての対処を考えてくれるかもしれないというのがあって話したんです。だから、だから同情とかはしないでください」
「そんなこと言われても、ルナの境遇を聞いて、何も感じないっていうほうが無理あるだろう」
「それでもです。同情されるということは私のこれまで生きてきた道を否定されることです。それはつまり、生きることそれ自体を否定されるのと同じなんです。少なくと私は今、これから先を生きていきたいと思っています。だからいま私がここにいる理由を否定しないでください」
なんて芯を持った娘なんだ。ここまで強く生きられるなんてすごいな。でもこれはルナの精一杯の虚勢かもしれない。
「分かった。そういうことなら同情もしない。ルナは奴隷で俺はルナのご主人様で親のように、家族のようにとは言わないけど、それでも辛くなったときには泣いたって良いんだからな。俺のこと信用しているっていうのなら、俺の胸の中で辛さを吐露してもいいんだ。それだけは覚えておいてくれ」
「私はご主人様とは家族にはなれないです。それに私の家族はお父さんとお母さん、お兄ちゃんに妹だけです」
ああ、ルナはこのとんでもない気持ちをずっと抱えて生きていかなければならないのはあまりにも不憫だ。きっと後悔、いや自分の背負っている罪、業とは思っているかもしれない。俺ができることはその罪の意識を少しでも和らげることくらいだ。ルナが笑って過ごせる時間をたくさん作ることだ。そうじゃなきゃ、ご主人様なんて呼ばれる資格はないだろう。
「それでもだよ。辛くなった時くらい、俺のことを使ってもいいんだ。奴隷とかご主人様とかそんなの忘れて辛い気持ちになった時には俺のこと頼ってくれよ。旅の連れにしようとしているのに、そんなことでも出来なかったらパートナーのようにはなれないよ。俺のこと少しは信頼してくれているって言っていたじゃないか」
「……考えておきます。でも私の考えは変わらないと思います」
ルナの心はゆっくりと溶かしていこう。信頼関係以上の関係を築くために。
「さあ、今日はもう寝よう。これからのことは帰ってから沢山悩めばいい。でも今日は明日に疲れを残さないためにも早く寝よう」
「あの、ご主人様」
「なんだ?」
「もう少し近くで寝てもいいですか?」
これはデレか? ……いや、違うな。違っていて欲しい。きっとこれは俺を信頼してくれている証なのだから。
「いいぞ」
ルナはゆっくりと俺の寝具とぴったり隣合わせになるように自分の寝具を近づけ、眠りについた。その時に、ありがとうございますと小さな声が聞こえた。これに反応はしなかった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「さて、予定では今日の午後には森の奥に到着する。そこで生態調査をして帰還する」
「そういえば、また歩いて戻るんですか?」
「そうしたいならそうするけど?」
「ということは楽な手段があるってことですね!」
俺とルナは森の中を歩いていた、予定では最終日で、朝早くに出発した。今は最終的な打ち合わせをしているような段階だ。
「移動手段についてはあるけど、一人じゃなくて二人だからどのみち時間は少しかかることになると思う」
「それでも歩く時間が減るには間違いなさそうなので嬉しいですけどね。そういえば、そんな便利な移動手段があるのならどうしてそれを行きで使わなかったんですか?」
俺の移動手段は確かにあるが、きっとルナは万能だとでも思っているのだろう、だがそれは過大評価でしかない。
「まず一度行ったところにしか行けない点だな。今回の場所は初めてだから使えないということだ。二つ目は魔力の消費が馬鹿みたいに大きいんだよ」
「ということは移動手段は魔法か……なんだろう。でも楽しみにしておきますね」
ルナに尊敬のまなざしが痛い。
「それにしても魔物がめっきりにいないな」
「本当ですよね。昨日とか一昨日が嘘みたいです。こんなことあるんですねえ」
「珍しいとは思うけど、そりゃ生き物だし出てきやすいタイミングとか色々あるんだろうな」
戦闘が少ないという意味合いでは楽ではある。警戒自体はむしろ強めなくてはいけないが。
「そうだ。昨日の蜘蛛、苦戦してしまったみたいですけど、あれが森の奥に行けば行くほどに魔物が強くなっていくということですか?」
そういえば、ルナの過去を聞いていたらそれが衝撃的すぎて蜘蛛の一件を忘れかけていた。
「そういうことだ。確かに気付きにくくなるし、それがすごく危ないことだったろう?」
「はい……。油断とは違う気がします。いえ、もちろん広義的に見れば油断ということなんでしょうけど」
「油断とか慢心という部分だけでは語れないところがあるよな。でも一度それを経験したら徐々に分かるようになっていくだろうな」
第6感のようなもので感じ取れるがきっとルナはそこまでには至っていない。それが感じ取れるようになれば一流冒険者の証のようなものになる。ゆえに、習得だってそんな簡単であるはずがない。
「んん?」
「どうかされましたか?」
「しっ、何か聞こえる。行くぞ」
かすかに何か変な音が聞こえる。なんだか嫌な予感がしてその音が聞こえるほうに静かに向かう。なぜか嫌な予感がする。それに冷汗も出ている。なんだこれは、こんなこと初めてだ。
「何かあるんですか?」
「分からんけど、なんか嫌な予感がするんだ。ルナも聞こえているはずなんだが」
「何をもって異音なのか、森の音なのか区別がついていないんです」
以外な告白だ。でも貧しい村の出身だったり、魔物を倒したことはなかったりするという経歴を聞くに、そういうことには疎いのだろう。そんなことを考えながらも、音のする方はどんどん近づいていく。
「おいおいおい、勘弁してくれよ」
俺が見たのは想像の遥か上を行く光景だった。
「そんな事情が……」
これは想像以上に払拭するのは難しいだろう。まさか身内が魔物に殺され犯されているとは……。その上、それから逃げていたら奴隷にされたってどんだけハードモードな人生を歩んできたというんだ。しかもルナは16歳だ。その年齢でこれだけの経験をしていれば捻くれるのも分かるし、むしろここまで素直であるにも奇跡だ。
「ご主人様に知っておいて欲しいとは思ったので、それを話すことで私のことを知ってもらえると思ったし、それに血が苦手なことに対しての対処を考えてくれるかもしれないというのがあって話したんです。だから、だから同情とかはしないでください」
「そんなこと言われても、ルナの境遇を聞いて、何も感じないっていうほうが無理あるだろう」
「それでもです。同情されるということは私のこれまで生きてきた道を否定されることです。それはつまり、生きることそれ自体を否定されるのと同じなんです。少なくと私は今、これから先を生きていきたいと思っています。だからいま私がここにいる理由を否定しないでください」
なんて芯を持った娘なんだ。ここまで強く生きられるなんてすごいな。でもこれはルナの精一杯の虚勢かもしれない。
「分かった。そういうことなら同情もしない。ルナは奴隷で俺はルナのご主人様で親のように、家族のようにとは言わないけど、それでも辛くなったときには泣いたって良いんだからな。俺のこと信用しているっていうのなら、俺の胸の中で辛さを吐露してもいいんだ。それだけは覚えておいてくれ」
「私はご主人様とは家族にはなれないです。それに私の家族はお父さんとお母さん、お兄ちゃんに妹だけです」
ああ、ルナはこのとんでもない気持ちをずっと抱えて生きていかなければならないのはあまりにも不憫だ。きっと後悔、いや自分の背負っている罪、業とは思っているかもしれない。俺ができることはその罪の意識を少しでも和らげることくらいだ。ルナが笑って過ごせる時間をたくさん作ることだ。そうじゃなきゃ、ご主人様なんて呼ばれる資格はないだろう。
「それでもだよ。辛くなった時くらい、俺のことを使ってもいいんだ。奴隷とかご主人様とかそんなの忘れて辛い気持ちになった時には俺のこと頼ってくれよ。旅の連れにしようとしているのに、そんなことでも出来なかったらパートナーのようにはなれないよ。俺のこと少しは信頼してくれているって言っていたじゃないか」
「……考えておきます。でも私の考えは変わらないと思います」
ルナの心はゆっくりと溶かしていこう。信頼関係以上の関係を築くために。
「さあ、今日はもう寝よう。これからのことは帰ってから沢山悩めばいい。でも今日は明日に疲れを残さないためにも早く寝よう」
「あの、ご主人様」
「なんだ?」
「もう少し近くで寝てもいいですか?」
これはデレか? ……いや、違うな。違っていて欲しい。きっとこれは俺を信頼してくれている証なのだから。
「いいぞ」
ルナはゆっくりと俺の寝具とぴったり隣合わせになるように自分の寝具を近づけ、眠りについた。その時に、ありがとうございますと小さな声が聞こえた。これに反応はしなかった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「さて、予定では今日の午後には森の奥に到着する。そこで生態調査をして帰還する」
「そういえば、また歩いて戻るんですか?」
「そうしたいならそうするけど?」
「ということは楽な手段があるってことですね!」
俺とルナは森の中を歩いていた、予定では最終日で、朝早くに出発した。今は最終的な打ち合わせをしているような段階だ。
「移動手段についてはあるけど、一人じゃなくて二人だからどのみち時間は少しかかることになると思う」
「それでも歩く時間が減るには間違いなさそうなので嬉しいですけどね。そういえば、そんな便利な移動手段があるのならどうしてそれを行きで使わなかったんですか?」
俺の移動手段は確かにあるが、きっとルナは万能だとでも思っているのだろう、だがそれは過大評価でしかない。
「まず一度行ったところにしか行けない点だな。今回の場所は初めてだから使えないということだ。二つ目は魔力の消費が馬鹿みたいに大きいんだよ」
「ということは移動手段は魔法か……なんだろう。でも楽しみにしておきますね」
ルナに尊敬のまなざしが痛い。
「それにしても魔物がめっきりにいないな」
「本当ですよね。昨日とか一昨日が嘘みたいです。こんなことあるんですねえ」
「珍しいとは思うけど、そりゃ生き物だし出てきやすいタイミングとか色々あるんだろうな」
戦闘が少ないという意味合いでは楽ではある。警戒自体はむしろ強めなくてはいけないが。
「そうだ。昨日の蜘蛛、苦戦してしまったみたいですけど、あれが森の奥に行けば行くほどに魔物が強くなっていくということですか?」
そういえば、ルナの過去を聞いていたらそれが衝撃的すぎて蜘蛛の一件を忘れかけていた。
「そういうことだ。確かに気付きにくくなるし、それがすごく危ないことだったろう?」
「はい……。油断とは違う気がします。いえ、もちろん広義的に見れば油断ということなんでしょうけど」
「油断とか慢心という部分だけでは語れないところがあるよな。でも一度それを経験したら徐々に分かるようになっていくだろうな」
第6感のようなもので感じ取れるがきっとルナはそこまでには至っていない。それが感じ取れるようになれば一流冒険者の証のようなものになる。ゆえに、習得だってそんな簡単であるはずがない。
「んん?」
「どうかされましたか?」
「しっ、何か聞こえる。行くぞ」
かすかに何か変な音が聞こえる。なんだか嫌な予感がしてその音が聞こえるほうに静かに向かう。なぜか嫌な予感がする。それに冷汗も出ている。なんだこれは、こんなこと初めてだ。
「何かあるんですか?」
「分からんけど、なんか嫌な予感がするんだ。ルナも聞こえているはずなんだが」
「何をもって異音なのか、森の音なのか区別がついていないんです」
以外な告白だ。でも貧しい村の出身だったり、魔物を倒したことはなかったりするという経歴を聞くに、そういうことには疎いのだろう。そんなことを考えながらも、音のする方はどんどん近づいていく。
「おいおいおい、勘弁してくれよ」
俺が見たのは想像の遥か上を行く光景だった。
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