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二章「奴隷との初めての冒険」

偉い人にも報告します

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「ご主人様、時間です。起きてください」

 ルナの声が聞こえてる。

「ご主人様、早く起きないと……、噛み殺しますよ」
「ひぇ!」

 何だか、物騒な言葉すぎて目が冴えた。

「やっと起きましたね」
「すまない。でも俺を噛み殺すとか言っていなかったか? さすがに怖いから勘弁してほしいんだが」
「おきないご主人様が悪いんです」

 ルナの言い分も最もだ。でも、魔力をごっそり持っていかれたから、結構疲れてしまっていたのだ。こうなるのはやむを得ない。

「でも寝たおかげで大分回復した。もう大丈夫だからギルドに行こうか」
「心配ですけど、仕方ないでしょう」

 剣を持って、ギルドへと向かう。宿屋のオヤジにはすぐ戻ると伝えた。
 ギルド前には立派な馬車が止まっており、中は人だかりができていた。耳を立ててみると、冒険者たちは話していることは、やはり俺が報告した魔物の大量発生についてのようだ。その人だかりを避けて、奥に入る。

「翔太さん、お待ちしていました。こちらへどうぞ」

 奥では俺を待っていたギルド職員が俺を部屋へと誘導する。二階より上には上がったことがなかったが、今回は最上階の4回の部屋を使うようだ。職員は部屋の扉をノックした。

「翔太さんをお連れしました」
「入りなさい」
「では、翔太さん、どうぞ」

 扉を開けられ部屋に入るとそこは執務室のような部屋で、ソファにはいかにも大物感あふれる人たちが座っていた。しかもそのうち一人は知っている。

「来たか。まあそこに座るといい」
「はい。それにしてもギルマス、こちらの方々は?」

 そう、この部屋の主はおそらくギルドマスター、この街のギルドで一番偉い人だ。大柄で白髪にひげを蓄えたダンディなおじさまといった感じの人である。この世界に来てから舐められるとマズいという事情があって、敬語をあまり使わなくなったが、このギルマスには自然と敬語が出てしまう。

「そうだな。こちらの方々は、こちらからこの街の執政官、貴族の代理人だな、そしてこの街に駐在する軍の司令官、国軍の将官殿、そしてギルドを代表して私だ」

 本当に街のお偉いさんだ。貴族がいないだけまだマシなのかもしれない。この国は、国の軍と貴族の軍があってそれぞれ独立しているのから双方の偉い人を呼んだのだろう。でも、この時間でこれだけの人を集めるとは重大な事案と認識してくれているのだろう。

「さて、翔太よ。お前の見たことを私たちにも話してくれ」
「分かりました。俺たちが見たのは魔物の大群です。数は分かりません。数えることは不可能なほどいました。そしてその大群ですが、この街に向かって進んでいます。数日以内にこの街を強襲する可能性が高いと考えます」

 これがすべてだ。これ以上のことを説明しろと言われても困る。見渡すと、皆が頭を抱えている様子だ。

「そ、それは本当に魔物で見間違いということはないのだな」

 神経質そうでやせたこの少しおびえている男はこの街の執政官だ。このような荒事にはあまりなれていないのだろうか。汗が止まらない様子だ。

「俺とここにいるルナも見ています。間違いありません。方角についても複数の方法で確認をしましたが、この街に向かっているという結論以外にはたどり着けませんでした。また、魔物たちは相当な大群であり、ここにいるルナの確認によって、ほぼ一直線上になっており、見た目上では非常に統率が取れていると言っても差し支えのない状態でした」

 ふむと腕を組んでいるのは軍の司令官のようだ。

「ギルドマスター殿、確認だが魔物というのは統率のとれた動きというのはしないはずではないのか?」
「はい、私の知る範囲でもそのような事例はなかったかと思います。こちらへ魔物が向かっているということだけであれば何かしたの脅威、例えばドラゴンやそれ以上の存在はいて、それらから逃げるために連鎖的に魔物がこちらに向かってくるという可能性が考えられますが、翔太の報告からはそういったものではないでしょう。やはり相当な異常事態が起きていると考えるべきでしょう」

 ギルドマスターの知見にもない異常事態か。本当にどうなっているんだ。

「ならば、やはりこの街は相当な脅威にさらされているとみるのが自然か」
「ではこの街はどうなるのですか! 私の運命もここまでなのですか」
「落ち着かれよ執政官殿、その運命が尽きることのないように我々が今集まっているのです」

 取り乱す執政官をなだめているのは国軍の将官だ。やはり、軍関係者は落ち着いている。修羅場を潜り抜けた数が半端じゃないということだろうか。ギルマスも冷静だ。執政官も三人の落ち着きようを見ていると、何も言えなくなってしまい、椅子に再び座った。

「それで翔太、といったな、貴殿はその魔物の大群はこの街にいる冒険者だけでも倒せる数であると思うか?」

 軍の司令官は踏み込んだ質問をしてきた。

「正直に申し上げると不可能であると言わざるを得ません。個々人の強さの問題ではなく、圧倒的にマンパワーが足りないでしょう。この街に今いる冒険者で一人で師団クラスの戦力を持つような者はいなかったはずです。もし、そのような人材がいればもしかしたら冒険者だけでもなんとかなった可能性がありますが、そうでは残念ながらないのではっきりと不可能だと断言します」
「ギルドマスター殿も同じ考えか」
「残念ながら……」

 軍の司令官はそうかと言い腕を組んで、背もたれにもたれかかった。

「では軍を出すことは不可避ということでしょうかな」
「街を守るためにはそれ以外にあるまい。できるだけ兵をかき集めよう。ギルドの方でも冒険者は出来る限り集めてもらいたいが可能か?」
「限度はありますが、執政官殿のお名前で報酬をしっかりと出されることをお約束してくださるのなら集まってくる可能性が高いでしょう」
「街の財政のことを考えると、そこまで高額な報酬は出せんぞ」

 街の財政、忘れがちだが、そのことも視野に入れなければ街の運営などしていくことは出来ない。市民の生活を守るという点において、執政官が高額な報酬にあまりいい顔をしないのは理解できる。

「執政官殿、魔物の素材は売れます。その売上の一部は税金として街に上がっていますので、そこまでの数の大量発生となると税金としても莫大な金額になることが予想されますので冒険者たちに対する報酬も問題ないでしょう。それでも大変に足が出る場合は、ギルドとしても出来る範囲でカバーいたしましょう」
「それは確実なのだな」

 執政官もきちんと確認を取ろうとしている。荒事には向いていないのかもしれないが、大きな街一つを任されるだけあって、事務処理能力は一級品なのだろう。

「もし、払いきれないときというのは、この街は魔物の襲撃に堕ちたということです。市民たちに大きな影響は出ますが、周知の方はしたほうが良いかもしれません」
「発表はしよう。だが、非難はさせられん。この街の人数を数日で他の場所に移動させることなど不可能だ。であれば、そなたたちに任せるしかない。この街をどう頼む」

 執政官が思い切り頭を下げている。

「執政官殿、頭を上げられよ。さて、司令官殿、執政官殿はここまでされました。我々もその心に応えなければなりませんな」
「もとよりそのつもりだ。問題は作戦のほうだ。我々、軍は性質上命令は簡単だが、冒険者たちに統率の取れた行動をとれと言うほうが無茶だろう。その点を考慮した作戦を組み立てなければ途端に瓦解してしまう烏合の集になってしまう。それについてギルドマスター殿はどう思われるか?」

 この司令官、冒険者の特性をきちんと把握している。そしてその欠点を知ったうえでそれを強みにしようとする策をギルマスに求めている。

「動員される軍の具体的な兵力がわからなければ何とも言えませんな。ですが、平均的には個々人の戦力は冒険者の方が強い傾向がありますのでそれを活かさない手はないでしょうな」
「あの、ここからの会議に俺がいる必要はあるのでしょうか」

 思わず街の重鎮たちが話を進めている中に俺がいるのは場違いな気がして聞いてしまった。

「今回の作戦、実際に伝え、そして高ランクの冒険者でもある翔太は作戦の立案にかかわってもらうからな

 えぇ……そんなこと言われても分からないんだけど。
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