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三章「奴隷と大規模戦闘」

世間話をしました

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 翌朝の早くに街の門の前に冒険者や軍が集まっていた。

「こんなにいるんですね。びっくりです」
「確かに、数字の上では分かっていても、実際に見てみると多いな」

 軍や冒険者が一堂に会しているのは中々みられる光景でもないし、このようなこと自体が稀だ。まさかそれに俺が比較的中心で関与することになるとは考えてもいなかった。いい経験になるといいのだが。

「翔太、来たか」
「ギルマスもいらっしゃったんですか」

 いつものようにスーツではなく、鎧を着たギルマスも来ていた。

「ああ、私はギルドの責任者だからな。後方で軍の司令官たちといることになっている。今の私では戦いの場に出たところで足手まといにしかならないしな」

 ギルマスは自虐的に笑う。だが、まだ戦おうと思えば戦えそうではある。

「それにしても静かだな。嫌になるくらい静かだ。そうは思わんかね」
「まったくです。でもこれが一つの兆候なんでしょうね」
「最前線で戦う者たちもこれには気が付いているだろうな」
「だと思います」

 この静けさに気が付かなければ、冒険者としてやっていけない。それは数多の戦場を駆け抜けてきた兵でも同じだろう。いずれにしても気を引き締めなくてはならないだろう。

「お前の活躍期待しているぞ。最前線で戦う者たちも翔太のことを待っているだろうから早く行ってあげるといい」
「はい、ご期待に沿えるように精一杯頑張ります」

 その足で最前線で戦う者が集まる場所に向かう。

「ギルドマスターさんは気さくな方なんですね」
「俺ら冒険者にイタズラしたがっている性悪爺さんだよ。とは言えやることやってくれているし、信頼も厚いけどな。だけどときどき出てくるドS体質は何とかしてほしいよ」
「そんなにご主事様たち冒険者の方々を弄んでいるようには見えませんでしたが……」
「俺と一緒にいるのならそのうちにわかるよ」

 確かにあのきちっとしたダンディな姿しか見ていないルナからすればあのギルマスが俺たちにしてきた所業も分かるまい。それがあってなお、尊敬に値する人というには揺るがないが。

「おーい、お前らも早いな」
「当たり前だろう。こんな大事なこと、遅れるわけにはいかないよ。みんな若大将のことまっていたんだ。軍の奴らとも話したけど、連中も若大将と会いたがっていたな。そこら辺にいるから声かけて来いよ」
「確かに軍の兵に挨拶位はしておくべきだな」

 当たり前ではあるが、大半が冒険者は冒険者、軍の兵士は軍の兵士と話をしている。これは不仲とかそういうことではなくて、単純にいつも話しをしている相手と話をしているにすぎない。もちろん、戦闘前だからもう少し互いのことを知るために交流を持ってほしいものだが、それが中々難しいのは俺も同じだ。

「おや、あなたが噂となっている若大将の翔太さんですか?」

 俺が兵士たちに近づくと、それに気がついたものが俺に声をかけてきた。俺のことが誰だか分かっているらしい。それに噂にってそんなになのか。

「ああ、俺が翔太だ。今回の作戦、一緒に頑張ろう」
「それはこちらこそよろしくお願いします。冒険者の方々には頭が下がる思いです。街を防衛するのにに協力を下さり本当に感謝しています」

 兵士は深々と頭を下げる。

「やめてくれ。一緒に協力して魔物の大群を退けるんだ。そんな対応されたら恥ずかしいよ」
「そうですか。翔太さんは噂通りの人ですね」

 出た、また噂かよ。俺についてどんな噂が出回っているんだろう。少し興味が出てきたぞ。

「俺の噂ってどんな感じのなんだ?」
「そうですね……。別に話が苦手なわけでもないのに一人でいることが大半なとてもシャイな人だと聞いています。それから一流の冒険者であるのに人当たりも悪くない珍しい人だと」

 そんな噂が広まっているのか。うん、まあ仕方ないかな。シャイなのは間違っていないし、一人なのはボッチというかなんというか、あれ、なんだか悲しくなってきたな。でも今の俺は一人じゃないもん。いいもん。いや待てよ、でもその一人じゃなくなった理由もお金で何とかしたに等しいぞ。あ、俺ボッチかもしれない。

「ご主人様、大丈夫です。私がいるんですから絶対にボッチなんかじゃありません。兵士さんも、今のご主人様は一人でいることの方が少ないのでそこのところ、よろしくお願いします」
「はい、確かに承知しました。どうやら翔太さんにはいいパートナーが出来ていたのですね。噂とはあてにならないものです」
「やめてくれ、恥ずかしいじゃないか……」

 そんなことにこやかに言われるとこちらもむず痒い。

「それよりも、今回の作戦だがそちらではどのように聞いているんだ?」

 世間話も大切だが、このすり合わせも重要だ。

「そうですね……この最前線に配置予定の兵士はみな腕に覚えがあるものです。私たちは各々の邪魔にならないように魔物を倒していけというように聞いています。そして適時、周囲を見ながら連携もしていくこと、冒険者の皆さんも我々と同じように周囲を見渡すことが可能で知らない人とも連携が流れるようにできる方が大半ということも聞いています」

 これは俺が聞いている作戦と変わらない。やはり正確に伝わっているようだ。この兵士が言う連携とはヤバそうな奴がいたら協力して倒せという意味だ。それが出来ない冒険者はこの場にはいないだろう。

「俺も同じように聞いている。なら、冒険者と軍の間で作戦が異なっているなんてことはなさそうだな。安心したよありがとう」
「いえ、こちらこそ、冒険者側のリーダーである翔太さんときちんと確認ができてよかったです。お互いに運があることを祈りましょう。では失礼します」

 兵士は敬礼してその場を去っていく。

「兵士の方はみんなあんなにきちんとしているのですか? 私のイメージではもっと粗暴だったので驚きました」
「ああ、ルナのいた地域ではそういう感じだったのか。この世界というか、国は領主間でも軍の練度がかなり違うらしいからな。この街を治める領主の軍の練度は国でも随一らしいぞ」
「そんなになんですか。それならあのような丁寧な対応も納得です」

 軍が粗暴だったりしたら何か嫌だからな。そうではなくて本当によかった。


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