100 / 139
リライトトライ3.5
如月京一郎は変態である⑨
しおりを挟む「……『どいつもこいつも同じようなこと言って、つまんねーんだよ。生徒会なんて誰がやっても同じ、誰がやっても自分には関係ない。一番真面目そうな人、もしくは一番顔が好みの人に一票入れよっと。てゆーか……なげーんだよ。早く終われよ腹減った』……てとこだろ? 今、君達が考えてるの」
ボケーっとこちらに視線を送っていた群衆がざわめき、どよめくのが分かった。
「うっわ……ははは、すごいプレッシャーを感じるよ。コレは怒りだな。『こんな時に何なのあの不謹慎な人は』って思ってる人には謝るよ。ゴメン。でも『何だあいつカッコつけやがって』とか『何となく気に入らねー』とかしか考えてないヤツには絶対謝らねー! 大体そんなヤツらが怒ってんのは今俺が言ったことが図星だからだろう!」
先程のヘラヘラとは一転、渇を入れた俺に一瞬アンチ勢が怯むのを感じる。実際に怯んだかは分からんが、勝手にそう思うことにした。畳み掛ける!
「本気でこの生徒会選挙を学校のコレからを決める厳かで崇高な行事だと思ってるのは多くて四割……いや三割。興味ないけどこの場にいないワケにもいかないから仕方なくいるヤツが六割! 後の一割は……本気で興味ないモンに参加する気のないサボり魔か体調の優れない気の毒なヤツかな」
……よし、興味を引いた。
何人かは超能力か読心術でも使うのかよ……と驚いた顔をしている。
何人かは未だ不謹慎な……と、目を細めているな。
そして何人かはさすがゲス魔王……と瞳を輝かせている……あ、アレは愛理か。祈るな祈るな。俺は神でも何でもないぞ。
まぁ視線の性質には色々あれど、俺は間違いなくこいつらの興味を引くことに成功した。
「……と言うのも、俺も去年まで、いや、つい二週間前までそんな考え方をしていたからなんだ。『そんな真面目ぶったヤツらだけ優先的に、公認的に全校生徒の前でステージを使わせてもらえるなんて不公平じゃねーか。そんな下らないことに時間を費やすのなら俺に歌わせろ、文化祭のリベンジを果たさせろ』って思ってました」
どこからか『歌って!』なんて声が聞こえる……が、さすがにここでその声に応えるワケにいかない。ありがたいとは思うが。
「そんな勝手なことを考えていた俺なんだが、自分の友達が立候補するって聞いた途端、生徒会選挙ってモンが俺の中で他人事じゃなくなったんだ。今までは会長が誰になろうが、総理大臣が誰になろうが自分には関係ないって思ってたのにな。我ながら現金だと思う」
いつの間にかざわついていた声が消える。完全にここにいる全員が俺の声を聞き逃さないように耳を傾けているのが分かる。
ソリャそうだ。こんな演説をするヤツはいないだろう。似たような演説に飽きてきているところを狙ってこんな話をしたんだ。利用できるモノは全て利用する。他の候補者の演説もな。
「でもみんなそうだろ!? 特に興味もないけど自分の住んでる国や地域のスポーツチームが優勝したらテンション上がるし、身近な人間がプロの世界に足を踏み入れたり、他のすごいヤツらと対等に渡り合おうと頑張ってるのを見たら、最初は嫉妬したりもするかもしれないけど、何だかんだで応援したくなるだろう!? 少なくとも『失敗しちまえ』とか、『自分には関係ない』なんて、そんな風には思わないだろ!? そういうことだよ!」
俺は意識して声を少し大きくした。今度は耳を傾けるだけでなく、全員が俺を見ているのが分かる。正直緊張に足が震えそうになるが、俺はみんなからは見えない角度で腿を思い切り抓り、精一杯、自信満々に不敵な笑みを浮かべて見せる。
兄貴の出番は終わりだ。ここからは、感情をぶつけて感情を揺り動かす!
俺は伊達眼鏡を外し、もう一度大きく息を吐いてから、目を開いた。
戸山四季……! 親父……来い!
て……アレ。何か、愛理がめっちゃ泣いてる。ま、まぁ今はソレはいい。
「だから、今の俺と、君達に何か違いがあるのかと言えば、ソレは『他人事』か『自分事』かの差だけだ! ……アレ? じぶんごと? ワタクシゴト? ま、まぁ、そんな感じ! ニュアンスで分かって!」
どっと笑いが起きる。こ……コレも計算の内さ!
「もちろん何の見返りもなく『君達もどうか他人事と思わず、自分の過ごしている学校を変えるのは、君達の持っている清き一票なんだと気づいてくれ! 頼む』なんて言う気はサラッサラない!」
俺は両手をエアお姫様抱っこをしているかのように尊大に広げて見せる。いわゆる支配者のポーズだ。
「今回俺の推薦した如月京一郎は変態だ! およそ全校生徒の模範となって清く正しい道にみんなを引っ張る! なんてキャラとは対極にいる存在と言えよう!!」
爆笑が起こる。さすがに教師達の視線がちょっと厳しくなってきたな。
「今回ヤツを立候補へと衝き動かしたのは健全たる精神などでは断じてない! 自分の願望を叶えようという何より利己的で、そして何より純粋な野望! ソレこそがあいつの原動力だ!」
ちょっと不安そうな顔をしているヤツが何人かいるな。大丈夫だ。コレは俺の作る波にすでにこいつらの心がたゆたっている何よりの証拠! 行け!
「考えてもみて欲しい。『この学校をよりよいモノにしたいんだ』なんて抜かす輩より『俺は叶えたい夢の為に副会長になる』ってヤツの方が、共感できるし、興味湧くだろう? そんでもって、如月京一郎は自分の願いを叶える為ならば、手段を選ばない、絶対に諦めないヤツだ! 俺と同じでな……!」
みんなが驚きに目を見開き、ついでに口を半開きにしているのが見える。だが、その瞳は如実にこう語っていた。『……確かに!』と!
「引っ張ってしまってすまないが、『何で会長じゃなくて副会長なの?』という疑問や、あいつの願いが何なのかは、後ほど本人の口から語ってもらうとして、ここで俺から素敵な提案がある」
えぇ……じらすなよぉ……って顔だな。ふふふ、全てが俺の掌だ! しかも後のことはケーツーにぶん投げるという高等テクだ。みんなも真似していいぞ!
「俺が今まで言ったことをまとめてみよう。俺は君達に今回のコレを他人事ではなく我がことと捉えて欲しい。そして京一郎は何としても、何をしてでも副会長になりたい」
「…………」
……静かだ。ここにいる全員が俺の言葉を待っているのが分かる。
「つまりだ、京一郎は副会長にしてもらえたら、君達の要望を叶えざるを得ない……!」
え……、という声が聞こえた。袖のケーツーか。
「君達は副会長となった京一郎に、どんな無理難題でも、どんな利己的な要望でも、吹っ掛けることができるんだ! しかも君達は一切責任を取らなくていい!!」
ざわめく声。だが俺は畳みかける。
「責任は全部この後ここに立つ男が取ってくれる!! 如月京一郎という傀儡を介して君達は学校を自分達の過ごしやすいように作り替えることができるんだ! コレから自分達が利用される十倍は利用してやれ! もしヤツがこの約束を反故にしようというのならこのゲス魔王戸山秋色が全力で叩き潰す! あることないこと吹聴して、捏造して! 社会的に抹殺し、二度と学校に来られないようにしてやることをここに誓おう!」
コレが最後だ。俺は大きく息を吸い込む。
「コレが! 俺に約束できる、君達に自分の過ごす学校を能動的に動かしてもらい、自分の居場所を好きになってもらい、そして! 友人の願いを叶えることができる、最善の提案だ!!」
「…………」
「…………」
「以上だ……!」
ソレだけ言って俺は袖へと歩き出す。一泊置いてから、誰かの『……あ』なんて声が聞こえて、ソレから間もなく、大喝采が巻き起こった。
歓声に応えようかとも思ったが、やめておいた。振り返りすらせずに、一瞥すらせずに引っ込んだ方がカリスマっぽくてカッコいいかな……なんて思ったし、何より、もう気力を使い果たしてフラフラだったから。
「……おかえり」
「お疲れ」
「やったな」
「……おう。ただいま」
ケーツーに、宗二に賢、三人の出迎えに俺は応える。
「……何かwwwすんげー出難いんですけどwww」
「コレで『彼がさっき言ったのは無しで』なんて言ったらどっちらけだな」
「やってくれたねアッキーwww最高の援護射撃だったよwww」
「ああ、お前は追い込まないと頑張らないって分かったからな」
本当はアドリブが過ぎた、予定外にこんな流れになってしまった、と謝ろうかと思っていた。が、俺は逆のことを言ってやった。男子言動裏腹ってヤツだな。
「如月京一郎さん、お願いします」
「オラ、出番だぞ」
「勇者になりたい……なんて言ったけど、僕は本当は君になりたかった」
「……はい?」
何を言い出すんだ、こいつは。
「不真面目で、お茶らけているようで、肝心なところで真面目。自信がなくて、臆病なようで、肝心なところで勇敢」
「…………」
「兄のように冷静に効率性だけを優先させようとするのに、感情に任せてしまう。父のように情熱を優先させようとしてもブレーキがかかってしまう。アッキーは自分をそう思ってるでしょ」
「……何が言いたいんだよ」
……こいつはドレだけ洞察力があるんだよ。
「僕から見れば、効率的でありながらも情を忘れない優しい人。感情的に行動しながらも二の手三の手を考え続けられる聡明な人間だよ」
「……お前、俺とBLルートに突入したいのか?」
「いやぁ、残念ながらアッキーは攻略対象外だよwwwダウンロードコンテンツに期待だねwww」
「そうだよ。攻略するのは兎川さんだろ」
「……僕は君になりたかった。カリスマがあって、そのようで自分と同じだ、と親近感も感じさせる君に」
「おいおい――」
――いつまで続ける気だ、と言おうとした時だった。
「でも僕はどこまでいっても僕でしかないから。僕のままでいってくるよ」
「あぁ、いってらっしゃい。今のお前なら、俺も好きになれそうだ」
「告白……トゥンクwwwジュンジュワァ……」
「うっせ、早く行け」
……俺はそう言ってケーツーに向かって親指を立てた。両隣に立った宗二と賢も同様に親指を立てた腕をかざしてみせた。
ケーツーは先程と同じように、にっと歯を見せて笑い、親指を立ててみせた。
「盛大な前フリを頂きまして大変恐縮です。ご紹介に預かりました、如月京一郎です」
ケーツーが出てきて喋るなり、拍手と喝采が巻き起こる。俺が温めに温めた舞台だからな。
「親友の彼が言ってくれた通り、僕は変態であり、時として秀才でもあり、そして……自己中心の権化のような男です」
「…………」
「正直……今も、自分のことしか考えてません。みなさんが僕を副会長にしてくれたら、ついでにみなさんの要望を叶えてやってもいいくらいに思ってます」
一瞬傍聴しているヤツらの空気が張り詰めるのを感じた。大丈夫なのかケーツー。
「この如月京一郎には夢がある……! 当然、生徒会副会長になることだ。その夢を叶える為ならば、この場で土下座をしようとどんな恥をかこうと構わない」
覚悟の程が伝わったのだろう。聴衆が気圧されているのが分かる。ケーツーの声にはソレを感じさせる凄味があった。
「では、何故副会長になりたいのかというと……」
ついに来たか……と皆が固唾を呑む。
「必ず今回生徒会長になるであろう人のそばにいたいからです。そばでずっと見ていたいからです……!」
皆が今度は息を呑む。こういった話が大好きな女子が押し殺しつつも黄色い声を出す。
おぉお……!? まさか、あいつ、壇上で告白するつもりか?
俺がそういう方向へと誘導したのは確かだが、やるじゃないかケーツー! ここまでドストレートにぶち込むなんて、とんでもない度胸だ! 見事に俺のパスに応えやがった!
自分本意である、と宣言し多少の反感を得つつ、自分は何に変えても勝ちたいという決意を表明しつつ……!
ソレが何故(なにゆえ)なのか、誰もが体験したことのある、誰もが共感できる、自分本意にならなければ成就させることのできないモノ……即ち『恋』の為なのだとここで打ち明ければ、大半のヤツらはあいつを支持する。
そして、共感すると同時にこんな大それたことをやってのける勇者に憧れ、尊敬の念を抱くだろう! この恋がどうなるのか、続きを、結末を見届けたいと思うだろう! あいつを応援したくなるだろう!
見事だケーツー! コレはいける!
「何故そばにいたいのかというと! ああいう成績優秀、清廉潔白で万能、物静かで綺麗な女性が実はエロいことに興味津々なドスケベなんじゃないかと想像するとたまんねぇからです!」
「…………」
「…………」
『…………』
「……え?」
高まっていた熱が、昂っていた空気が、こんなにも一気にサーっと、波のように引いていくのを、俺は初めて感じたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
黒に染まった華を摘む
馬場 蓮実
青春
夏の終わりに転校してきたのは、忘れられない初恋の相手だった——。
高須明希は、人生で“二番目”に好きになった相手——河西栞に密かに想いを寄せている。
「夏休み明けの初日。この席替えで、彼女との距離を縮めたい。話すきっかけがほしい——」
そんな願いを胸に登校したその朝、クラスに一人の転校生がやってくる。
彼女の名は、立石麻美。
昔の面影を残しながらも、まるで別人のような気配をまとう彼女は——明希にとって、忘れられない“初恋の人”だった。
この再会が、静かだった日常に波紋を広げていく。
その日の放課後。
明希は、"性の衝動"に溺れる自身の姿を、麻美に見られてしまう——。
塞がっていた何かが、ゆっくりと崩れはじめる。
そして鬱屈した青春は、想像もしていなかった熱と痛みを帯びて動き出す。
すべてに触れたとき、
明希は何を守り、何を選ぶのか。
光と影が交錯する、“遅れてきた”ひと夏の物語。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる