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2月
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憂鬱だ。
期末試験が間近に迫っている。
わたしは数学の教科書を開きながら、宇宙人の暗号みたいな文字の羅列に溜息をつく。
数学なんて、意味が分からない。xとかyとか、数字の代わりに文字を使うみたいな、そんな汚い手まで使って、それで一体人類に平和は訪れるの? それより人を愛する能力とか、そうしたものをテストしたらどうなのよ。たとえばこんな風に。
「今年度より政府の少子化対策の一環として、『愛の学期末考査』を実施することになりました。来週までにそれぞれパートナーを決めて、試験に臨むように」と、先生が言う。
どうしよう、そんなにすぐにパートナーなんて決められないよ、と悩んでいると、一ノ瀬君から電話がかかってくる。
「麗、僕のパートナーになってくれないか」
「えっ、でも学年が違うでしょ」
「いや、愛の学期末考査に学年も学級も関係ない。学校単位で実施することになっているんだ」
一ノ瀬君がパートナーなら、絶対大丈夫だ。全校のトップになれるかもしれない。だって一ノ瀬君に対するわたしの愛は、全校一、いいえ、世界一だもん。
「でも、愛の学期末考査って、どんなテストをするのかな」
「それは僕も知らない。まだ内容が公開されていないし、今回が初めての実施だから、皆目見当がつかないんだ」
これじゃあ、試験対策を練ることもできない。でも一ノ瀬君がパートナーなら、絶対大丈夫。
試験当日、わたしたちは体育館の外で、順番を待っている。
「はい、次のひと」と言う係員の声に促されて体育館の中に入ると、そこには小さなブースがびっしりと設置されている。
「えーと、あなたたちはこのブースの中で試験を受けてください」
狭いブースに入ると、中に黒縁の眼鏡をかけ、白衣を着た女性がひとり座っていて、机の上には書類が並べられている。その前に椅子が二つ置かれていて、そこに座るように促される。
女性は少しのあいだ書類に目を通していたが、不意に顔を上げると、眼鏡の位置を直しながら、
「一ノ瀬さんと、小森さんですね。わたしは政府から派遣された愛の学期末考査審査員です。まずはお二人の普段のお付き合いの仕方を聞かせてください。週に何回くらい合うのか。会ってどんなことをしているのか、教えてください」
なんだか、この人、役人みたいで冷たそうだ。眼鏡のガラスが照明の光を反射して、目の表情がよく分からない。
「週に一回くらいふたりで映画を見たり、食事をしたりしています」と、一ノ瀬くんが答える。
「それだけですか」
「はい、それだけです」
「つまりプラトニックな愛を育んでいるということですか」
「はい、そう言うことになります」
「まだ中学生なんですから、当り前じゃないですか」と、わたしも一ノ瀬君の援護射撃をする。まるでわたしたち夫婦みたい。
「いいえ、この考査は、少子化対策の一環として行われるものです。少子化対策とは、人口の減少に歯止めをかけると言う意味ですから、プラトニックな愛では、点数が低いんですよ」
「具体的に、どうすれば高い評価を得られるんでしょうか」
一ノ瀬君は冷静だ。
「人口の増加につながるような行為ができるかどうかを、見極めることになります。具体的にはプラトニックではない方の愛し方をしてもらって、それを評価するのです」
まあ、なんていうことなの。一ノ瀬君はもうすぐ高校入試も控えているし、ここでの点数が低いと、内申書にも影響してくるかもしれない。
「大丈夫」と、わたしは一ノ瀬君に耳打ちする。「わたし、心の準備はできているから、あとは一ノ瀬君次第よ」
「なかなかいいですね」と、審査員がわたしたちの会話を聞いていて口をはさむ。「ところで妊娠の確立が高くなる体位と言うのはありませんが、回数は多いほど確率は高くなります」
まあ、何度もしろって言う意味かしら。
「一ノ瀬君、二、三回やった方がいいみたいね」
「麗、君にそんな気まで使わせてしまって、済まない」
「さらに」と、審査員が言葉を続ける。「女性が深く感じると、確率はより高くなります」
「ふざけるな! 人前で麗にそんなことをさせられるわけがないじゃないか」といきり立つ一ノ瀬君を制して、わたしは言う。
「一ノ瀬君、わたしなら構わないわ。それよりもわたしを庇って一ノ瀬君の未来が台無しになったなら、その方がわたしには耐えられない。それにこのことは一ノ瀬君の将来だけじゃなく、わたしたち二人の未来、いいえ、二人の間に生まれてくる赤ちゃんも含めた、わたしたち家族の未来がかかっているのよ」
「麗。そこまで考えていてくれたのか」
「さあ、始めましょ」
わたしの言葉に促されて、一ノ瀬君がズボンを降ろす。Oh, What a big tent!
「麗、ごめん。今まで黙っていたけど、君といるといつもこうなってしまうんだ」
「一ノ瀬君、わたしだって同じよ。あなたといると、いつも十年に一度の大洪水が襲ってくるの」
「時間がありません。早く始めてください」
審査員の冷たい言葉が響く。
でもこんな狭いブースの中で、どうやったらいいの。
「麗、僕に背を向けて、その椅子に両手をついてごらん」
「分かったわ」
私は腰から上を九十度屈ませるようにして、椅子に両手をつく。一ノ瀬君がわたしのショーツを優しく引き下ろす。わたしは一ノ瀬君がやりやすいように、少し足を開いて、お尻を高く持ち上げる。
一ノ瀬君の指先がわたしの濡れた部分を優しく撫でる。
・・・そんなことを考えていたら、わたし、またまた、濡れちゃいそうだよ。
期末試験が間近に迫っている。
わたしは数学の教科書を開きながら、宇宙人の暗号みたいな文字の羅列に溜息をつく。
数学なんて、意味が分からない。xとかyとか、数字の代わりに文字を使うみたいな、そんな汚い手まで使って、それで一体人類に平和は訪れるの? それより人を愛する能力とか、そうしたものをテストしたらどうなのよ。たとえばこんな風に。
「今年度より政府の少子化対策の一環として、『愛の学期末考査』を実施することになりました。来週までにそれぞれパートナーを決めて、試験に臨むように」と、先生が言う。
どうしよう、そんなにすぐにパートナーなんて決められないよ、と悩んでいると、一ノ瀬君から電話がかかってくる。
「麗、僕のパートナーになってくれないか」
「えっ、でも学年が違うでしょ」
「いや、愛の学期末考査に学年も学級も関係ない。学校単位で実施することになっているんだ」
一ノ瀬君がパートナーなら、絶対大丈夫だ。全校のトップになれるかもしれない。だって一ノ瀬君に対するわたしの愛は、全校一、いいえ、世界一だもん。
「でも、愛の学期末考査って、どんなテストをするのかな」
「それは僕も知らない。まだ内容が公開されていないし、今回が初めての実施だから、皆目見当がつかないんだ」
これじゃあ、試験対策を練ることもできない。でも一ノ瀬君がパートナーなら、絶対大丈夫。
試験当日、わたしたちは体育館の外で、順番を待っている。
「はい、次のひと」と言う係員の声に促されて体育館の中に入ると、そこには小さなブースがびっしりと設置されている。
「えーと、あなたたちはこのブースの中で試験を受けてください」
狭いブースに入ると、中に黒縁の眼鏡をかけ、白衣を着た女性がひとり座っていて、机の上には書類が並べられている。その前に椅子が二つ置かれていて、そこに座るように促される。
女性は少しのあいだ書類に目を通していたが、不意に顔を上げると、眼鏡の位置を直しながら、
「一ノ瀬さんと、小森さんですね。わたしは政府から派遣された愛の学期末考査審査員です。まずはお二人の普段のお付き合いの仕方を聞かせてください。週に何回くらい合うのか。会ってどんなことをしているのか、教えてください」
なんだか、この人、役人みたいで冷たそうだ。眼鏡のガラスが照明の光を反射して、目の表情がよく分からない。
「週に一回くらいふたりで映画を見たり、食事をしたりしています」と、一ノ瀬くんが答える。
「それだけですか」
「はい、それだけです」
「つまりプラトニックな愛を育んでいるということですか」
「はい、そう言うことになります」
「まだ中学生なんですから、当り前じゃないですか」と、わたしも一ノ瀬君の援護射撃をする。まるでわたしたち夫婦みたい。
「いいえ、この考査は、少子化対策の一環として行われるものです。少子化対策とは、人口の減少に歯止めをかけると言う意味ですから、プラトニックな愛では、点数が低いんですよ」
「具体的に、どうすれば高い評価を得られるんでしょうか」
一ノ瀬君は冷静だ。
「人口の増加につながるような行為ができるかどうかを、見極めることになります。具体的にはプラトニックではない方の愛し方をしてもらって、それを評価するのです」
まあ、なんていうことなの。一ノ瀬君はもうすぐ高校入試も控えているし、ここでの点数が低いと、内申書にも影響してくるかもしれない。
「大丈夫」と、わたしは一ノ瀬君に耳打ちする。「わたし、心の準備はできているから、あとは一ノ瀬君次第よ」
「なかなかいいですね」と、審査員がわたしたちの会話を聞いていて口をはさむ。「ところで妊娠の確立が高くなる体位と言うのはありませんが、回数は多いほど確率は高くなります」
まあ、何度もしろって言う意味かしら。
「一ノ瀬君、二、三回やった方がいいみたいね」
「麗、君にそんな気まで使わせてしまって、済まない」
「さらに」と、審査員が言葉を続ける。「女性が深く感じると、確率はより高くなります」
「ふざけるな! 人前で麗にそんなことをさせられるわけがないじゃないか」といきり立つ一ノ瀬君を制して、わたしは言う。
「一ノ瀬君、わたしなら構わないわ。それよりもわたしを庇って一ノ瀬君の未来が台無しになったなら、その方がわたしには耐えられない。それにこのことは一ノ瀬君の将来だけじゃなく、わたしたち二人の未来、いいえ、二人の間に生まれてくる赤ちゃんも含めた、わたしたち家族の未来がかかっているのよ」
「麗。そこまで考えていてくれたのか」
「さあ、始めましょ」
わたしの言葉に促されて、一ノ瀬君がズボンを降ろす。Oh, What a big tent!
「麗、ごめん。今まで黙っていたけど、君といるといつもこうなってしまうんだ」
「一ノ瀬君、わたしだって同じよ。あなたといると、いつも十年に一度の大洪水が襲ってくるの」
「時間がありません。早く始めてください」
審査員の冷たい言葉が響く。
でもこんな狭いブースの中で、どうやったらいいの。
「麗、僕に背を向けて、その椅子に両手をついてごらん」
「分かったわ」
私は腰から上を九十度屈ませるようにして、椅子に両手をつく。一ノ瀬君がわたしのショーツを優しく引き下ろす。わたしは一ノ瀬君がやりやすいように、少し足を開いて、お尻を高く持ち上げる。
一ノ瀬君の指先がわたしの濡れた部分を優しく撫でる。
・・・そんなことを考えていたら、わたし、またまた、濡れちゃいそうだよ。
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