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始まり

呪いの解き方

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 家の中、古びた床を歩き襖を開ける。その部屋にてようやく会議が進もうとしていた。
「呪われたのね……恐らく最近恨みのある一族たちを根絶やしにしようと多方面に喧嘩を売っている飯塚家のおぼっちゃまだと思うのだけれどそれなら危ういわ。何せあそこの呪いはかけるのは面倒しかし解けるのはほんのひと握り、私ですらお手上げなのだから」
 その話を聞いた一真はあの戦いの中での事と奈々美の話での食い違いについて訊ねる。
「待ってくれよ、あの時のアイツは軽々と呪いを発動してたぞ」
 そう、まさに手先で遊ぶが如き手軽さで呪いを放つあの姿は明らかに奈々美の説明とは合致しない。しかし、それを分からない奈々美ではなかった。
「そう、最近の事件ではどれもこれもがほほいのほいでばんばんばん! みたいな感覚で使われているの。でも那雪ちゃんにかけられた呪いの気配、魔女くらいにしか見えないものだけれどもその気配は明らかに飯塚家のもの。私に解呪出来なくてこんな派手な気配のものなんて飯塚家か〈南の呪術師〉サウスステラ一族のものくらいなのだから二択の内の日本製、分かるわね」
「間違いないな。でもさ、〈東の魔女〉って四大元素の使い手なんだろ? なのに何で解呪に精通してる」
 奈々美は遠い目でかつての己の姿を見つめた。
「そうね、アナタからすれば不思議よね。呪いなんて火・水・風・土のいずれにも該当しないにも関わらずどうして私にそんな事が出来るのか」
 奈々美はローブを脱ぎ、服を捲って見せた。とても綺麗な顔と同じ美しく白い素肌が見える事は無く、代わりに焼け爛れた皮膚が広く大きく侵食していた。
「これは那雪ちゃん向けの説明になるけれども私、火属性が扱えないの。使おうとしたら背中から炎の翼が飛び出したり肋骨のような炎に抱かれて焼かれて苦しかったわ。四大元素を操る〈東の魔女〉なのに個人的に火属性が苦手だから刹菜からは一つ欠けた〈三原色の魔女〉なんて呼ばれていてね」
「おい魔女、お前のトラウマレベルの身体はいいから俺すら知らない奈々美の過去、なんで解呪が出来るのか教えてくれよ」
 会話に入る隙もない那雪は奈々美の身体を見て会話に加わる気も失せてしまっていた。
「ただでさえ本来授かった力も満足に扱えない落ちこぼれなのに何も強みを持たないのは悲しい事だと思ったから。私は苦手を見捨ててその分を他の魔法の勉強にあてていたの」
「……奈々美さんってとても頑張り屋さんなんですね」
 ようやく口を開いて言葉をどうにか絞り出した那雪に対して奈々美は優しく微笑んだ。
「ありがとう、私は頑張り屋さんなんかじゃなくてただ苦手な事から逃げただけの臆病者よ」
 そこから話は本題へと戻る。
「今言える事は飯塚家の呪いを解くには術者を倒すしかないって事と飯塚家の本来の呪いの発動の面倒な陣や触媒が省略されているから出来ればそこのはてなも潰しておきたいって事だけね」
 奈々美は立ち上がり、箒を手に部屋を立ち去る。2人も奈々美の後ろをついて行く。外に出た奈々美は箒にまたがり宙に浮く。
「私は刹菜に今日は戻るよう伝えるから明日、4人で話し合うわ。那雪ちゃんのタイムリミットは明後日の0時みたいだから下手したら策もなく突撃する事になるかも知れないわね」
 それだけ残して飛んで明るい黒で塗り潰され、星々が散りばめられた夜空の中へと消えて行った。
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