呪う一族の娘は呪われ壊れた家の元住人と共に

焼魚圭

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〈お菓子の魔女〉と呪いの少女

目覚め

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 暗闇に落ちた意識。それを引き戻したのは冷い何かが張り付く感触だった。
 那雪は目を開くと自分の身体が濡れていた事に気が付いていた。
ーあのまま寝てたんだー
 抱きかかえている美少女の服が鮮やかな紅に染まっている事、喉から何かが這い上がって来る感覚が那雪を襲う。這い上がる感覚は喉から口へと上って行き、そして口から紅い液体が勢い良く吹き出る。それは紛れもなく那雪の身体を巡り流れていた血液。口から吹き出た血は自分だけでなく洋子の身体まで汚していた。那雪は身体に熱と気怠さを感じて重いその身を無理やり立たせ、なけなしの力で洋子をどうにか背負う。空はそんな2人に対して泣いていた。天から降り注ぐ涙を浴びながら那雪は苦しくて重い身体を引き摺るように家の中へと入って行く。大切な人と共に。



 それは昨日の夜の事。晴れた闇空を飛び回る〈東の魔女〉東院 奈々美の元に疾風が勢い良く襲いかかる。視えない風、何かを切るような音、箒に乗って闇の中で浮いている奈々美には何が視えているのだろうか、奈々美は下に向けて指を鳴らす。途端に音は止み、静寂が訪れた。
 奈々美は即座に手を掲げる。するとどうであろう。手のひらの上わずか数センチ、そこで先程の何かを切るように走る音が泳いでいた。その音は時が経つにつれて強く大きく変わって行く。奈々美は微笑みながらそれを暗闇の大地へと放り投げた。不可視の風の大玉は行き先へと空間を斬るように走って行く。順調に地面を喰らおうとした風だったが、突然風の玉が何かに遮られた。それは地より勢い良く昇る竜巻、風と風はぶつかり合って闇の中に消失した。
 奈々美は高度を下げて地にかろうじて浮く程の高さで風使いの正体を魔女の瞳の中に捉えた。
「よお、この前はよくもコケにしてくれたじゃねえか。刹菜とてめぇだ!」
 売った覚えのない怨みを買われた奈々美は鋭い目付きの男を見つめる。
「私は何もしていないのだけれども。まあいいわ。あなたの気が済むまで遊んでア・ゲ・ル」
「ざけんじゃねえ!」
 男は風を放つ。しかし奈々美にとっては、四大元素を操る魔女一族である〈東の魔女〉にとってはそんな玩具は取り上げ放題な安物でしかなかった。勢い良く向かって来る風だったが奈々美は人差し指一つで受け止めてそれを我が物とする。そして色っぽい笑みを浮かべてこう言うのであった。
「〈東の魔女〉。人の心を、女の心を弄ぶ百合サキュバスと無理やり交わりその血を継いだ東院一族は人の内の世界ではなく外の世界を弄ぶ力を得たの」
 人差し指を回しながら風を集め、それを投げて遊ぶ玩具のような心持ちで男の元へと放り投げるのであった。
 咄嗟に風を撃って対抗する男であったがそれは弾かれて風は男を飲み込み大いに痛め付けていた。その風の音はまるで男を嘲笑っているように高い音を立てていた。
「ああ! クソが! この風使いの日之影 怜がこんな落ちこぼれの〈三原色の魔女〉なんかに負けるなんて……認められるか!」
 奈々美は闇の中で魅惑的な妖しい笑みを浮かべて言った。
「そう……その落ちこぼれに負けるアナタって一体何なのかしら」
 怜は風を生成して放とうとするも、目の前には奈々美の白く細い指があり、怜の額を突いて押す。
「男の額って女の子と違ってへこんでいるのよね……可愛くない」
 怜の生成した風はその生みの親に噛み付いて後ろへと飛ばし、そして地面に叩き付けた。
 この戦いを遊びだと言った奈々美は怜と同じ風属性、それも怜が風を使ったその時にしか魔法を使っていなかったのであった。
 その遊びで完全なる勝利を収めた奈々美は跨っている箒を揺らし、空へと飛んで行った。星屑の中へと紛れて消えて行った。
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