呪う一族の娘は呪われ壊れた家の元住人と共に

那雪と美雪

数日後

　目の前にいるのは人々を襲う悪い魔法使い。ビニール傘を構えた男がその魔法使いに飛びかかる。
　魔法使いは鋭い笑みと視線で一真を迎え入れようとする。
「素早く、奇跡よ！」
　メガネをかけた少女のひと言で一真の速度は異常なまでに上がった。
　傘で魔法使いを叩くように斬るも、魔法使いはそれを右肩で受け止め、飛び退いて逃げようとする。
「転けろ」
　暗いオーラに掴まれて、魔法使いの視界は地面でいっぱいになっていた。
「ナイス美雪ちゃん、私の活躍作ってくれてありがとさん」
　軽口を叩きながら空から降って来る少女、刹菜はいつものニヤけ面を見せながら万年筆の先を魔法使いに向けて降っていた。そしてその筆は魔法使いを叩く。魔法使いは悲鳴をあげながら意識を失ったのであった。
「さあ、今夜はコイツの悲鳴を肴にパーティだ」
「蛮族かよ！」
　一真のツッコミに対してニヤけながら答えた。
「人間なんてみんな蛮族なんだ」
　いつものやり取りに笑いながら那雪は空を見上げた。
　高い建物の上に立つ褐色肌の少女は那雪よりも高い位置で、より近い距離で月を眺めているのだろう。
　建物の縁に腰掛ける大人な女性ふたりはほのぼのとした会話を繰り広げているのだろう。
「今日もみんな楽しそうだね」
　そう言って微笑みを浮かべる美少女、洋子は那雪の手を握って歩き出す。
「待て、俺となゆきちのデート潰すなよ」
　洋子は那雪の腰に腕を回して言った。
「多分私の方が先に約束してたから」
「そもそも一真とまだデートの約束なんかしてなかった」
　那雪は正直だった。

　そんな毎日を過ごして那雪は想っていた。


　みんなと笑い合うこと、そんな普通でありきたりなことがこんなにも幸せなのだということ、そんな毎日をずっと大切にして過ごして行きたいのだと。