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第三話
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自分の事を竜王と呼んだ女の魔物は二人に向かって半笑する。
カイとダルドは唖然とするだけだった。
数秒経って、カイはようやく落ち着きを取り戻し、頭の中を整理しつつ質問をする事にした。
「……えっと、つまりだ。竜王って、あの竜王だよな? 世界を闇の中に取り込んで、滅ぼそうとしているやつ?」
竜王はいかにも、と言いたげに頷き、否定をしなかった。
カイは大きなため息を吐き、頭を抱える。もう逃げられないと諦めた。
魔物の中の魔物、頂点に立つ災厄の張本人。自分たちには無縁だと思っていた竜王が今、まさに目の前にいる。
これまで、竜王なんて見たことがなかった。こんな、普通の魔物なのかと。そこらにいそうな見た目だ。もっと、こー筋肉質で、身体も大きくて、見ただけで威圧されるような姿を想像していた。
本当に竜王なのか? と疑問してしまうほどだった。
しかし、内に秘めている魔力が収まり切らず、身体から溢れ出ている。
そこらの魔物よりも圧倒的に強い、それだけは勘でわかる。
出会うはずのない竜王に出会ったことで、カイはもう苛立ちすら覚えた。
「……はぁ」
ため息を吐いた。それに竜王が不思議そうな顔をする。
「どうした?」
その問いかけにカイの眉がはね、竜王を指さして問い詰めた。
「てか、てか、てかさ、どういうことなんだよ??? なんでお前がここにいんだよ????」
「え?」
「普通、竜王は魔物の根城とか、山の奥にある洞窟に居るって決まってるだろ??? お前、しかも敵である勇者の墓になに呑気に来てんだ?!」
「いま、私をお前って……」
竜王が気圧されつつもぼそつく。
「馬鹿か? いや、馬鹿だろお前?? まじで訳がわからないんだけど?? あぁもうぉ!!!」
カイは手に持っていた長剣を地面に叩きつけた。
「あ、ごめん、でも、そこまで怒らなくても――――」
「うっせ、馬鹿野郎!!!」
「ば、ば、馬鹿野郎とはなんだ! 私は竜王だぞ?」
「知るかボケッ!!」
「な?! 貴様!! いい加減にしろ! 消し炭にするぞ!」
竜王はすぐさま、右の手の平から紅蓮の炎を発生させ、カイに投げつけようとする。
「やれるもんならやってみろ!!」
カイが竜王近づき、顔を寄せてきた。
(―――――ちょ、なに? この人間??? 近いんですけど???)
カイは竜王の炎を見ても怯むことなく、なんと胸倉を掴み上げたのである。
「いいから説明しろッ!」
「あ、ちょ、落ち着いて……」
「早く言えよ!」
「あ、いやぁーそう言われても……」
視線をカイから反らす。
「……どこから説明すればいいのだろうか……」
後ろ頭をポリポリと掻いて、困った顔をする。顎に手を当てて、少し考え始めた。
やっと話がまとまったのか竜王は掴まれた手を振り解き、服を整えると二人を見据え、咳払いした。
「いいだろう。説明してやる。だが、最初に言っておくぞ。ここで話す事はすべて真実だ。嘘ではない。信じるか信じないかはお前たち次第だからな」
二人は頷いた。
竜王は石の棺の方を横目で見やる。二人の視線も石の棺へと向けた。
「―――――ここに眠る勇者は実に面白いやつだった。数多の物語に語られる勇者とは少し違っていて、とても興味を引く少年だったよ」
「……どういうことだ?」
「彼は力を持っていなかった。魔法はおろか、剣すらまともに使えないほど弱かった」
あり得ないと心で思いつつも黙って話の最後までを聞くことにした。
「勇者は元来、神に選ばれし者、勇気と卓越した意思、そして、神の加護と恩恵を授かり、魔物を討ち滅ぼす力を発揮する。それが勇者だ。だが、彼は戦う力を持っていなかった。神の加護も恩恵も授からなかった」
「そんなことあるのか?」
「そうだな。ここの世界の神は傲慢なようだ。何千年も続く世界の安定に退屈したらしい。いつもとは違うシナリオを用意したようだ」
「じゃあ、なんだ、今回はあんたが勇者を倒すってシナリオになったのか?」
「あー私が勇者を倒すシナリオというよりは、勇者が竜王を倒さずに死んでしまうというシナリオだな、うん」
「は? 倒さずに死んだ? ちょっと待てよ、あんたが勇者を殺したんだろ?」
「いや、私は殺していないぞ。目の前で死ぬ瞬間は見たがな」
「……じゃあ、一体誰が殺したと?」
それに竜王は口端を吊り上げ、鼻で笑った。
「お前たち人間が勇者を殺したんだよ」
「は……?」
竜王の言葉に衝撃が走る。理解ができない。自分たちを混乱させるためにわざと言っているのでは? と思うほど。
しかし、嘘を言っているようにはなぜか思えなかった。
竜王は話を続けた―――――――――彼は力こそなかったものの国の為、民の為、世界の平和のために奮闘した。その一生懸命な姿は恐怖に震える民にはとても魅力的に見えたのだろうな。彼に従う民は日に日にその数を増し、最初は百人、次の月には千人、半年には数万人と彼を支持する者が集まった。力ではなく、言葉だけで大衆の心を掴んだんだ。ここが他の勇者とは違うところか。彼の演説は素晴らしかった。どの独裁者よりも優れ、それは洗脳に近いものだった。密かにきいていた私すら、心が揺れたほどだ。彼の言葉はまさに神からの啓示、いや、彼自身が神と思えるほど、清らかで、神々しかった。心を掴むのが得意だったようだ。
「バラバラだった国々の王を説得し、一つの国、一つの統一国家という強大な国を築き上げたのは彼のおかげだ。まさに偉業だよ。誉れるべきことだ。私には真似できないことだよ」
ムスタシア帝国はアスニア、バタルノ、カスティアス、グランヘルの四カ国を一つの国に併合してできた国である。
四人の王の頂点にムスタシア初代皇帝が座に就き、勇者の為に力を貸した。
国々が併合するきっかけを作ったのがこの勇者である。
バラバラな力では竜王には勝てないことを必死に説き、頭を下げ、時には命を張ってまで、四カ国に併合の話を持ちかけた。
普通なら鼻で笑って、追い返すだろう。なぜなら、併合の話を承諾してしまえば、自分の国がなくなってしまうからだ。せっかく、自分で築き上げた国を簡単に手放すほど、王たちは馬鹿ではない。
一度、権力を持った人間はそれを手放すことを躊躇う。
頑なに断る四人の王の首を縦に振らせたのは誰でもない勇者だった。
彼の交渉術は実に卓越したのだ。
「そして、彼の周りには非力な彼を支える有能な仲間がいた。その仲間に助けられつつ、軍を進めた彼は遂に私を最後の城まで追い詰めたのだ」
「私は人間の力を侮っていた。結束した人間がこんなにも強いのか、と。後悔した時には既に城まで攻められていたよハハハ……」
自分の慢心に呆れたように笑う。
ここまでは書物や伝説に残る物語と流れは同じだ。
多少の違いがあるが。
この程度なら問題ないだろう。
「それで?」
「私は敗北を悟り、玉座に座って、最後の瞬間を持っていた。神が用意したシナリオだ。私はもうわかっていた。どうせ、倒されるのだと。なら潔く果てるのがいい。王たるもの常に鷹揚としていなければならない」
臆したり、あたふたするのは王には似合わない。
どっと構えているだけで、兵は安心するのだ。それを竜王は知っていた。
「そして、遂に勇者が私の目の前に現れた時、世界を狂わす事件が起こった」
ダルドが息を飲む。
「突然の裏切りによって、勇者は殺されたのだ」
裏切りという言葉に二人の顔が曇る。
なぜか、竜王が自分で勇者を殺していないというように聞き取れた。
「裏切りだと?」
「あぁ裏切りだ。それも決して裏切るはずのない者が裏切った――――――」
その言葉に衝撃が走り、竜王の話はすぐには信じられなかった。
カイとダルドは唖然とするだけだった。
数秒経って、カイはようやく落ち着きを取り戻し、頭の中を整理しつつ質問をする事にした。
「……えっと、つまりだ。竜王って、あの竜王だよな? 世界を闇の中に取り込んで、滅ぼそうとしているやつ?」
竜王はいかにも、と言いたげに頷き、否定をしなかった。
カイは大きなため息を吐き、頭を抱える。もう逃げられないと諦めた。
魔物の中の魔物、頂点に立つ災厄の張本人。自分たちには無縁だと思っていた竜王が今、まさに目の前にいる。
これまで、竜王なんて見たことがなかった。こんな、普通の魔物なのかと。そこらにいそうな見た目だ。もっと、こー筋肉質で、身体も大きくて、見ただけで威圧されるような姿を想像していた。
本当に竜王なのか? と疑問してしまうほどだった。
しかし、内に秘めている魔力が収まり切らず、身体から溢れ出ている。
そこらの魔物よりも圧倒的に強い、それだけは勘でわかる。
出会うはずのない竜王に出会ったことで、カイはもう苛立ちすら覚えた。
「……はぁ」
ため息を吐いた。それに竜王が不思議そうな顔をする。
「どうした?」
その問いかけにカイの眉がはね、竜王を指さして問い詰めた。
「てか、てか、てかさ、どういうことなんだよ??? なんでお前がここにいんだよ????」
「え?」
「普通、竜王は魔物の根城とか、山の奥にある洞窟に居るって決まってるだろ??? お前、しかも敵である勇者の墓になに呑気に来てんだ?!」
「いま、私をお前って……」
竜王が気圧されつつもぼそつく。
「馬鹿か? いや、馬鹿だろお前?? まじで訳がわからないんだけど?? あぁもうぉ!!!」
カイは手に持っていた長剣を地面に叩きつけた。
「あ、ごめん、でも、そこまで怒らなくても――――」
「うっせ、馬鹿野郎!!!」
「ば、ば、馬鹿野郎とはなんだ! 私は竜王だぞ?」
「知るかボケッ!!」
「な?! 貴様!! いい加減にしろ! 消し炭にするぞ!」
竜王はすぐさま、右の手の平から紅蓮の炎を発生させ、カイに投げつけようとする。
「やれるもんならやってみろ!!」
カイが竜王近づき、顔を寄せてきた。
(―――――ちょ、なに? この人間??? 近いんですけど???)
カイは竜王の炎を見ても怯むことなく、なんと胸倉を掴み上げたのである。
「いいから説明しろッ!」
「あ、ちょ、落ち着いて……」
「早く言えよ!」
「あ、いやぁーそう言われても……」
視線をカイから反らす。
「……どこから説明すればいいのだろうか……」
後ろ頭をポリポリと掻いて、困った顔をする。顎に手を当てて、少し考え始めた。
やっと話がまとまったのか竜王は掴まれた手を振り解き、服を整えると二人を見据え、咳払いした。
「いいだろう。説明してやる。だが、最初に言っておくぞ。ここで話す事はすべて真実だ。嘘ではない。信じるか信じないかはお前たち次第だからな」
二人は頷いた。
竜王は石の棺の方を横目で見やる。二人の視線も石の棺へと向けた。
「―――――ここに眠る勇者は実に面白いやつだった。数多の物語に語られる勇者とは少し違っていて、とても興味を引く少年だったよ」
「……どういうことだ?」
「彼は力を持っていなかった。魔法はおろか、剣すらまともに使えないほど弱かった」
あり得ないと心で思いつつも黙って話の最後までを聞くことにした。
「勇者は元来、神に選ばれし者、勇気と卓越した意思、そして、神の加護と恩恵を授かり、魔物を討ち滅ぼす力を発揮する。それが勇者だ。だが、彼は戦う力を持っていなかった。神の加護も恩恵も授からなかった」
「そんなことあるのか?」
「そうだな。ここの世界の神は傲慢なようだ。何千年も続く世界の安定に退屈したらしい。いつもとは違うシナリオを用意したようだ」
「じゃあ、なんだ、今回はあんたが勇者を倒すってシナリオになったのか?」
「あー私が勇者を倒すシナリオというよりは、勇者が竜王を倒さずに死んでしまうというシナリオだな、うん」
「は? 倒さずに死んだ? ちょっと待てよ、あんたが勇者を殺したんだろ?」
「いや、私は殺していないぞ。目の前で死ぬ瞬間は見たがな」
「……じゃあ、一体誰が殺したと?」
それに竜王は口端を吊り上げ、鼻で笑った。
「お前たち人間が勇者を殺したんだよ」
「は……?」
竜王の言葉に衝撃が走る。理解ができない。自分たちを混乱させるためにわざと言っているのでは? と思うほど。
しかし、嘘を言っているようにはなぜか思えなかった。
竜王は話を続けた―――――――――彼は力こそなかったものの国の為、民の為、世界の平和のために奮闘した。その一生懸命な姿は恐怖に震える民にはとても魅力的に見えたのだろうな。彼に従う民は日に日にその数を増し、最初は百人、次の月には千人、半年には数万人と彼を支持する者が集まった。力ではなく、言葉だけで大衆の心を掴んだんだ。ここが他の勇者とは違うところか。彼の演説は素晴らしかった。どの独裁者よりも優れ、それは洗脳に近いものだった。密かにきいていた私すら、心が揺れたほどだ。彼の言葉はまさに神からの啓示、いや、彼自身が神と思えるほど、清らかで、神々しかった。心を掴むのが得意だったようだ。
「バラバラだった国々の王を説得し、一つの国、一つの統一国家という強大な国を築き上げたのは彼のおかげだ。まさに偉業だよ。誉れるべきことだ。私には真似できないことだよ」
ムスタシア帝国はアスニア、バタルノ、カスティアス、グランヘルの四カ国を一つの国に併合してできた国である。
四人の王の頂点にムスタシア初代皇帝が座に就き、勇者の為に力を貸した。
国々が併合するきっかけを作ったのがこの勇者である。
バラバラな力では竜王には勝てないことを必死に説き、頭を下げ、時には命を張ってまで、四カ国に併合の話を持ちかけた。
普通なら鼻で笑って、追い返すだろう。なぜなら、併合の話を承諾してしまえば、自分の国がなくなってしまうからだ。せっかく、自分で築き上げた国を簡単に手放すほど、王たちは馬鹿ではない。
一度、権力を持った人間はそれを手放すことを躊躇う。
頑なに断る四人の王の首を縦に振らせたのは誰でもない勇者だった。
彼の交渉術は実に卓越したのだ。
「そして、彼の周りには非力な彼を支える有能な仲間がいた。その仲間に助けられつつ、軍を進めた彼は遂に私を最後の城まで追い詰めたのだ」
「私は人間の力を侮っていた。結束した人間がこんなにも強いのか、と。後悔した時には既に城まで攻められていたよハハハ……」
自分の慢心に呆れたように笑う。
ここまでは書物や伝説に残る物語と流れは同じだ。
多少の違いがあるが。
この程度なら問題ないだろう。
「それで?」
「私は敗北を悟り、玉座に座って、最後の瞬間を持っていた。神が用意したシナリオだ。私はもうわかっていた。どうせ、倒されるのだと。なら潔く果てるのがいい。王たるもの常に鷹揚としていなければならない」
臆したり、あたふたするのは王には似合わない。
どっと構えているだけで、兵は安心するのだ。それを竜王は知っていた。
「そして、遂に勇者が私の目の前に現れた時、世界を狂わす事件が起こった」
ダルドが息を飲む。
「突然の裏切りによって、勇者は殺されたのだ」
裏切りという言葉に二人の顔が曇る。
なぜか、竜王が自分で勇者を殺していないというように聞き取れた。
「裏切りだと?」
「あぁ裏切りだ。それも決して裏切るはずのない者が裏切った――――――」
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