盗掘屋の俺に竜王がパーティーに加わりました。

飯塚ヒロアキ

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第九話

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 消えそうな声で小さな囁く。

 集中して聞かないと聞きとれないほどに声音が小さかった。

「今更じゃないか……今更そんなことわかったところでどうすることもできないんだよ……」
「まだ間に合うぞ」
「え……?」

 竜王は彼から少し離れ、距離と取ると前々から考えていたことを勇者に告げる。

「お前が民を説くのだ。お前は力はないがカリスマ性を持っている。それを活かし、この馬鹿げた戦争を終わらせるように説得するんだ。お前ならそれができる――――」
「僕が……みんなを……?」
「そうだ」

 両手を広げ、手の平を見せつけることで敵意がないことを主張したのだ。

「―――――どうだろうか勇者よ? 私と手を組まないか?」

 その瞬間、勇者には世界が止まったように思えた。思考が止まる。

 竜王が何を言っているのかを理解するのに時間がかかった。

 勇者からの応えがなかなか返ってこなかったので竜王は再確認として、投げかける。

「どうだ?」

 勇者は眉間にしわをよせ、視線を泳がせた。訝しむ声を漏らした。

「これは契約なのか?」
「そうだな」
「一体、お前は何が目的なんだ……?」
「……私には夢がある。それも壮大な夢だ。私は魔物と人の共存できる争いなき世界を作ろうとしている。共存共栄することで、互いを理解し合うことができる。必然的に争はなくなるのだ」

 理想に過ぎない。バカげていると、誰もが鼻で笑うだろう。

 だが、竜王は本気でそれを考え、実現できると思っている。

「……未来永劫、魔物と人との争いは終わり告げる。数世紀に渡った争いが終わるのだ。もう無駄な血は流れない。いや、流させさせない」

 竜王の強い意志を感じた勇者は言葉に詰まった。どう返したらいいのかわからないでいたのだ。

「人と魔物の共存……」

 そう口ずさむ。勇者は考えた。本当にそんな世界が作れるのかどうかを。

「可能なのか……? その世界は?」

 あまりにも非現実的で、想像もつかない。考えもしなかったことだ。

 だが、竜王は確信があるようだ。

「現に私の国では人と魔物が共存していた。お前も見てきただろう? 街に住む人の姿を?」

 勇者は記憶を遡る。

 ―――――ムスタシア帝国軍が魔物の街を攻撃した時、人の姿があった。

 てっきり、捕まっていたのだと思い、助けに行った。だが、彼らはみな、魔物に対して怯えているようには見えず、むしろ、帝国軍に怯えていた。

 なぜ、我々を恐れる、と尋ねたところ、助け出した人々は魔物の街に住んでいたんだ、と言ったのだ。

 おかしなことだ。有り得ない。弱みを握られて、無理やり言わされているのだ、と最初は思った。

 しかし、二つ目の街、三つ目の街を攻めていくとやはり同じく人が魔物の街に居て、しかも持ち家に住んでいたのである。

 さらには自分たちの畑もあれば、農場もあった。本当に魔物の街に住んでいたのだ。

 ムスタシア帝国軍に動揺が走った。

 同じく、その光景を目の当たりにした皇帝二ブラスは人が魔物と共に住んでいるなどと認めず、操られているのだと断言したのだ。

 勇者はそこに違和感を感じていた。

 なにか二ブラスが必死なっているようにも見えたのだ。

 今思うと、魔物と人が共存して住んでいたことを彼女は知っていたのでは? と思ってしまう。

 それを明るみにしたくなく、街を全て破壊し、住んいた人も残らず捕らえた。

 争いのない世界、幸せに溢れる平和な国を勇者は作ろうとしていた。

 竜王が言う通り、それが平和な世界になるのならどんな形であれ、もう血が流れることはないし幸せなのかもしれない。

 ムシタシア帝国と竜王の国を比べた時、明らかに竜王の国の方が幸せに満ちていた。

 ニブラスよりも竜王を選んだ方がずっと平和になるのでは、とそう考え始めた。

 なにより、二ブラスという女が怖い。畏怖するほどに。

 彼女に会って、目を合わす事すらできないほど恐ろしい存在だった。

 だが、竜王はどうだ。今もこうして話をしている。

 恐怖を抱くこともなければ、どこか親しくなれるような気がしてしまう。

 勇者の頭の中で錯綜する。

「―――――約束しよう。私は必ず、幸せな世界を作って見せよう! だからお前の協力が必要なのだ」

 竜王は手を差し出す。握手を求めたのだ。

 勇者は思考する。

 そして、差し伸べられた手を取ろうとしたその時、どこからか凄まじい覇気を感じた。

 勇者からは微塵も感じられない。つまり別の何者かの覇気だ。

 肌に感じられるほど凄まじく、本能が身の危険を察知しているようだ。

 思わず、竜王は動じて身構えてしまう。迫ってきている気がする方へ身体を向けた。

 刹那、竜王の部屋の二つの扉がゆっくりと押し開けられていくのだ。

 先ほどまで暖かった部屋が徐々に寒くなり、扉から冷気が入って来ているのが感じられた。

 白い息が出るほどだ。

「まさか……」

 ぞろぞろと白銀色の鎧を纏った騎士らが扉をくぐり、部屋の左右の隅へと分かれていくと整列する。

 横に綺麗に並んだ騎士らは誰かを待つようにそこから動かない。

 整然と立つ騎士らの中に軍旗を持った騎士が目に入った。

 その騎士らは帝国の象徴である白い雪が降っている背景の真ん中に凛々しい女の横顔が刺繍された❝白き皇帝❞の旗を掲げていた。

 それを見て、誰がやってきたのか、察しがつく。

 竜王が目を細め、小さくその者の名を憎む声で漏らした。 
 
 残っていたゾンビらが無謀にも帝国騎士らに襲い掛かったが返り討ちに遭い、次々と駆逐されていった。

 彼らは躊躇うこともなく、また驚くこともなく、仲間だったであろうゾンビらの首を撥ね飛ばし、身体を二つに叩き斬る。

 流石、皇帝の親衛騎士団だ。

 静まり返った部屋の扉の奥から歩く音が聞こえてくる。

 白い軍服を着た白色長髪の女性が長剣を片手に現れた。

 中に入り、竜王の部屋を見渡すとあざ笑う。

 それに竜王の眉がはねる。

 整然としていた騎士らが彼女に対して、敬礼した。

 白い軍服を着た女が竜王に歩み寄っていき、二人の視線が合う。

「……ずいぶんと優雅に歩くんだな。歩くのが遅すぎて、亀かと思ったぞ」
「フッ。相手を馬鹿にするだけしかできないようだな。臆病な竜王には」

 お互いに挑発し合ったが何も起こらなかった。

 少し間が空いたあたりで、勇者が咳き込む。

 そこでようやく、皇帝二ブラスは勇者の存在に気が付いたのである。

「ほぉ。生きていたのか」

感嘆する声をつぶやく。
 
「皇帝陛下……なぜ、ここに……?」
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