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第十四話
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闇夜に包まれた森で、どこからともなく火の粉が舞い、辺りは熱気に包まれた。
次の瞬間、爆音と共に夜空が真っ赤に光ると一人の男の叫び声が上がり、炎に包まれていた。
彼を覆う炎は業火の如く、全てを焼き尽す怒りの炎のようだ。
男は死の恐怖にあらがおうと暴れまわっている。
人間、生きている間に身体を燃やされることなんて滅多にないだろう。
あるとしたらそれは一度きりのこと、確実な死を意味する。
火を消すのにどうしたらいいのかわからず、彼は慌てふためいていた。思い付きで自ら地面へと飛び込み身体を擦りつける。
それで消えると思った。だが、火は消えず、弱まるどころかさらに激しさを増していた。
思わず、悲鳴をあげる。男として情けないほどの悲鳴だった。
「ひゃあああああ―――――!!! 死ぬぅうううう!!!! アニィぃいいいいいしぬぅううううう」
「ま、待ってろ!! 今消してやるから!!」
助けを求める声に応じようと近くにいた黒髪少年が慌てて、上着を脱ぎ、それで叩いて消そうと試みた。
だが、炎は風に煽られ、揺らぐだけ。彼の行動をあざ笑うかのように彼にまとわりついていた。
地面を転がりまくっているのはダルドだった。そして、カイはそれをなんとかしようとしていた。
提げていた鞄から水の入った袋を取り出し栓を抜いて、彼にかける。
しかし、まったく効果がなかった。
こんなことをして、意味がないことなんてわかりきっていた。
ダルドがカイに近づくと激しい炎がカイの顔に伸びた。反射的に後ろに下がり、距離を置いてしまう。
もう水はない。他の手も考えつかなかった。まさに絶体絶命というやつだ。
慌てふためく二人を離れた場所から様子を窺う者がいた。
暗闇に溶け込み、闇の中にいるその者は赤く光る瞳を瞬きしていた。
女は平たい石に腰を下ろし、欠伸を噛み締めながら頬杖をついて、彼らがどうなるのかを見届けていた。
その女の頭には立派な二本の角あり、肌は雪のように白く、赤い髪は水で濡らしたようにつやだっている。
そして、どこか妖艶さを持つ彼女はかつて、竜王と呼ばれていた。
今でも彼女のことを竜王と呼ぶ者もいるが彼女はもう王ではない。
治めるべき国を失い、導くべき民はすべて灰と塵となって、土に帰ってしまった。
今いる場所は魔物の国の成れの果て。誰も管理していない荒地と化した土地に彼女は彷徨っていた。
「……たまにはこういう余興もいいものだな」
下衆じみた笑みを浮かべた。
なぜなら、ダルドを火だるまにしたのは彼女だったからだ。
必死に助けを求めるダルド。もがく姿を見て、思わず、吹き出しそうになる。
はたから見れば、最低な女、だと思うかもしれない。
だが彼女が笑うその理由を知れば誰もがなるほど、と納得するだろう。
竜王は二人に勇者が死んだ経緯について彼らに話したのだが、そのついでに力の源である竜の宝玉を奪われた、とも話した。
竜の宝玉がラニアスに奪われたことで魔力を失っていることにダルドはあることを気が付いた。
倒せると。すると血迷ったのか、彼女を殺そうと考えたのだ。
魔物を討伐すれば、帝国から賞金が出る。
その賞金をもとに生業としている「魔物ハンター」と呼ばれる者たちがいるほどだ。
彼らは魔物を狩りとして楽しんでいる。
ちなみに魔物には第一級から十級まで数字で格付けされている。
等級が高ければ高いほど賞金金額が上がるのである。
賞金を手にするには魔物を討伐した証が必要になる。
首か、腕か、角か、どれでもいいから持って帰ればいい。
相手は竜王だ。魔物の中の王を仕留めたとなると、どれだけの賞金がもらえることか。想像がつかない。
そもそも最上級魔物に指定されている竜王を討伐するとなると正規軍でなれば、無理だろうといわれている。
それほど大規模な編成をしなければならない。
だが、ダルドはここで力を失っているのなら倒せる。そう思ったうようだ。
竜王を倒せば、墓荒らしという後ろ指を刺されるような、外道の仕事をもうしなくて済む。
倒した暁には人生の半分を優雅に暮らせるだけの金貨、さらには酒も娯楽も使ってもお釣りがあるほど余力が生まれる。
二人はとにかく、金が必要だった。
このご時世、楽な仕事はなく、魔物ハンターのような凄腕でもなく、というより、帝国人でなければ、ハンターとしての登録すらできない。
外国人にとても冷たい国だ。まったく。
だから貧困な生活を数年に渡って続けて、日によっては旧合戦跡地へ赴き、死体から防具やら武器を回収して、売り飛ばしていた。
もらえる金なんて微々たるもの。
いつしか死体に集まるハイエナなんていう名前がつけられたほどだ。
いい気分じゃない。
身体に染み付いた血の匂い、死臭、埃はどうやっても消えなかった。
だから、力を失っている竜王が目の前にいるとなるとチャンスだと思った。
千載一遇のなんたらだ。
ダルドの攻撃は予想外だったようだ。一瞬だけ、隙を作ってしまう。
カイも勢いに身体が動き、ダルドに続いて、刀を抜き襲い掛かろうとした。
が、すぐさま、竜王は詠唱し、ダルドに炎魔法の攻撃を放った。
至近距離で放たれた火球はダルドを直撃しカイは寸でのところで避けることができた。
数分が経とうとしたが、まだ燃え続けている。
そして、ダルドもまだ生きていた。
不思議な光景だろう。
これだけの業火に包まれて、ただの人間が生きているのだから。
実はこの炎には一つ秘密があった。
魔法の大半を使えなくなったのは確かだ。力も相当失っている。
だが、魔法を使えなくなったわけではなかった。
竜王はそろそろ、飽きたと感じ、指を鳴らす。
すると、先ほどまで激しく燃えていた業火が一瞬で、飛散し消えてなくなった。
ダルドはまだ消えたことに気が付いておらず、必死になって暴れる。
やがて、炎がなくなっていることに気が付き、飛び上がると異常がないかをあちこちを確認するもどこも、焼けていないし痛みもなかった。
「あれ……? 生きてる……?」
不思議な状態だった。 呆然として立つダルドにカイが駆け寄る。
「おい、大丈夫か?」
「え、えぇ。この通り、なんともないっす」
唖然とするダルドにカイは眉を寄せた。
「でも、かなり盛大に燃えていたんだぞ」
不思議がる二人の様子についに耐え切れなくなった竜王は、笑い声をあげた。
「アハハハハッ。いやーいい演技だったーアハハ」
「な、なにがおかしいんだよ!!?」
目尻に笑涙が出たので、人差し指でぬぐい取り、彼らに種明かしをする。
「すまんすまん。あまりにもおかしくてな。……で、ダルド、あの炎は熱かったか?」
「そりゃあ……火は熱いのに決まっているだろ?」
「それは感じたんことか? それはただの思い込みに過ぎないのでは?」
そういわれてみれば、見た目は業火の如く燃えていたには実際に熱くなかったのかもしれない?
混乱していてそれどころではなかったのだが。
「はぁ? なにを言ってんだ? あ、でも確かに……熱くなかったかもしれない……?」
「ほんとうかそれ?」
「思い込みというのは非常に恐ろしいものだ。実際にそうでないことが、頭の中でそうだと思えばほんとうにそう思ってしまう。これは錯覚だな」
「………?」
理解できない二人に竜王は苦笑いした。
「あれは幻覚だ」
それならダルドが死ななかったことに説明が付く。
「でも竜の宝玉を奪われたって……」
小さな声で言った。それに両肩を上げる。
「まったく、魔法が使えなくなったとは言ってないだろ。迂闊だったな」
「……」
「まぁ、感謝しろ。殺されなかったんだからな」
「……なんで殺さなかったんだ?」
それに竜王は瞼をゆっくりと閉じた。
「……無益な殺生は好まない」
カイはそれを聞いて拍子抜けした。竜王から聞く言葉ではない。
「……お前、本当に竜王なのか?」
彼女は語気を強め、胸に手を当てて答えた。
「私は正真正銘の竜王だッ!!」
勇ましく言った彼女だったが、お腹からグゥーという音が鳴り、思わず、赤面するのであった。
次の瞬間、爆音と共に夜空が真っ赤に光ると一人の男の叫び声が上がり、炎に包まれていた。
彼を覆う炎は業火の如く、全てを焼き尽す怒りの炎のようだ。
男は死の恐怖にあらがおうと暴れまわっている。
人間、生きている間に身体を燃やされることなんて滅多にないだろう。
あるとしたらそれは一度きりのこと、確実な死を意味する。
火を消すのにどうしたらいいのかわからず、彼は慌てふためいていた。思い付きで自ら地面へと飛び込み身体を擦りつける。
それで消えると思った。だが、火は消えず、弱まるどころかさらに激しさを増していた。
思わず、悲鳴をあげる。男として情けないほどの悲鳴だった。
「ひゃあああああ―――――!!! 死ぬぅうううう!!!! アニィぃいいいいいしぬぅううううう」
「ま、待ってろ!! 今消してやるから!!」
助けを求める声に応じようと近くにいた黒髪少年が慌てて、上着を脱ぎ、それで叩いて消そうと試みた。
だが、炎は風に煽られ、揺らぐだけ。彼の行動をあざ笑うかのように彼にまとわりついていた。
地面を転がりまくっているのはダルドだった。そして、カイはそれをなんとかしようとしていた。
提げていた鞄から水の入った袋を取り出し栓を抜いて、彼にかける。
しかし、まったく効果がなかった。
こんなことをして、意味がないことなんてわかりきっていた。
ダルドがカイに近づくと激しい炎がカイの顔に伸びた。反射的に後ろに下がり、距離を置いてしまう。
もう水はない。他の手も考えつかなかった。まさに絶体絶命というやつだ。
慌てふためく二人を離れた場所から様子を窺う者がいた。
暗闇に溶け込み、闇の中にいるその者は赤く光る瞳を瞬きしていた。
女は平たい石に腰を下ろし、欠伸を噛み締めながら頬杖をついて、彼らがどうなるのかを見届けていた。
その女の頭には立派な二本の角あり、肌は雪のように白く、赤い髪は水で濡らしたようにつやだっている。
そして、どこか妖艶さを持つ彼女はかつて、竜王と呼ばれていた。
今でも彼女のことを竜王と呼ぶ者もいるが彼女はもう王ではない。
治めるべき国を失い、導くべき民はすべて灰と塵となって、土に帰ってしまった。
今いる場所は魔物の国の成れの果て。誰も管理していない荒地と化した土地に彼女は彷徨っていた。
「……たまにはこういう余興もいいものだな」
下衆じみた笑みを浮かべた。
なぜなら、ダルドを火だるまにしたのは彼女だったからだ。
必死に助けを求めるダルド。もがく姿を見て、思わず、吹き出しそうになる。
はたから見れば、最低な女、だと思うかもしれない。
だが彼女が笑うその理由を知れば誰もがなるほど、と納得するだろう。
竜王は二人に勇者が死んだ経緯について彼らに話したのだが、そのついでに力の源である竜の宝玉を奪われた、とも話した。
竜の宝玉がラニアスに奪われたことで魔力を失っていることにダルドはあることを気が付いた。
倒せると。すると血迷ったのか、彼女を殺そうと考えたのだ。
魔物を討伐すれば、帝国から賞金が出る。
その賞金をもとに生業としている「魔物ハンター」と呼ばれる者たちがいるほどだ。
彼らは魔物を狩りとして楽しんでいる。
ちなみに魔物には第一級から十級まで数字で格付けされている。
等級が高ければ高いほど賞金金額が上がるのである。
賞金を手にするには魔物を討伐した証が必要になる。
首か、腕か、角か、どれでもいいから持って帰ればいい。
相手は竜王だ。魔物の中の王を仕留めたとなると、どれだけの賞金がもらえることか。想像がつかない。
そもそも最上級魔物に指定されている竜王を討伐するとなると正規軍でなれば、無理だろうといわれている。
それほど大規模な編成をしなければならない。
だが、ダルドはここで力を失っているのなら倒せる。そう思ったうようだ。
竜王を倒せば、墓荒らしという後ろ指を刺されるような、外道の仕事をもうしなくて済む。
倒した暁には人生の半分を優雅に暮らせるだけの金貨、さらには酒も娯楽も使ってもお釣りがあるほど余力が生まれる。
二人はとにかく、金が必要だった。
このご時世、楽な仕事はなく、魔物ハンターのような凄腕でもなく、というより、帝国人でなければ、ハンターとしての登録すらできない。
外国人にとても冷たい国だ。まったく。
だから貧困な生活を数年に渡って続けて、日によっては旧合戦跡地へ赴き、死体から防具やら武器を回収して、売り飛ばしていた。
もらえる金なんて微々たるもの。
いつしか死体に集まるハイエナなんていう名前がつけられたほどだ。
いい気分じゃない。
身体に染み付いた血の匂い、死臭、埃はどうやっても消えなかった。
だから、力を失っている竜王が目の前にいるとなるとチャンスだと思った。
千載一遇のなんたらだ。
ダルドの攻撃は予想外だったようだ。一瞬だけ、隙を作ってしまう。
カイも勢いに身体が動き、ダルドに続いて、刀を抜き襲い掛かろうとした。
が、すぐさま、竜王は詠唱し、ダルドに炎魔法の攻撃を放った。
至近距離で放たれた火球はダルドを直撃しカイは寸でのところで避けることができた。
数分が経とうとしたが、まだ燃え続けている。
そして、ダルドもまだ生きていた。
不思議な光景だろう。
これだけの業火に包まれて、ただの人間が生きているのだから。
実はこの炎には一つ秘密があった。
魔法の大半を使えなくなったのは確かだ。力も相当失っている。
だが、魔法を使えなくなったわけではなかった。
竜王はそろそろ、飽きたと感じ、指を鳴らす。
すると、先ほどまで激しく燃えていた業火が一瞬で、飛散し消えてなくなった。
ダルドはまだ消えたことに気が付いておらず、必死になって暴れる。
やがて、炎がなくなっていることに気が付き、飛び上がると異常がないかをあちこちを確認するもどこも、焼けていないし痛みもなかった。
「あれ……? 生きてる……?」
不思議な状態だった。 呆然として立つダルドにカイが駆け寄る。
「おい、大丈夫か?」
「え、えぇ。この通り、なんともないっす」
唖然とするダルドにカイは眉を寄せた。
「でも、かなり盛大に燃えていたんだぞ」
不思議がる二人の様子についに耐え切れなくなった竜王は、笑い声をあげた。
「アハハハハッ。いやーいい演技だったーアハハ」
「な、なにがおかしいんだよ!!?」
目尻に笑涙が出たので、人差し指でぬぐい取り、彼らに種明かしをする。
「すまんすまん。あまりにもおかしくてな。……で、ダルド、あの炎は熱かったか?」
「そりゃあ……火は熱いのに決まっているだろ?」
「それは感じたんことか? それはただの思い込みに過ぎないのでは?」
そういわれてみれば、見た目は業火の如く燃えていたには実際に熱くなかったのかもしれない?
混乱していてそれどころではなかったのだが。
「はぁ? なにを言ってんだ? あ、でも確かに……熱くなかったかもしれない……?」
「ほんとうかそれ?」
「思い込みというのは非常に恐ろしいものだ。実際にそうでないことが、頭の中でそうだと思えばほんとうにそう思ってしまう。これは錯覚だな」
「………?」
理解できない二人に竜王は苦笑いした。
「あれは幻覚だ」
それならダルドが死ななかったことに説明が付く。
「でも竜の宝玉を奪われたって……」
小さな声で言った。それに両肩を上げる。
「まったく、魔法が使えなくなったとは言ってないだろ。迂闊だったな」
「……」
「まぁ、感謝しろ。殺されなかったんだからな」
「……なんで殺さなかったんだ?」
それに竜王は瞼をゆっくりと閉じた。
「……無益な殺生は好まない」
カイはそれを聞いて拍子抜けした。竜王から聞く言葉ではない。
「……お前、本当に竜王なのか?」
彼女は語気を強め、胸に手を当てて答えた。
「私は正真正銘の竜王だッ!!」
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