ホムンクルス戦記~俺の女騎士たちは凛々しくてカッコイイんだぜッ!!

飯塚ヒロアキ

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始まりの伝説

第十話

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 その頃――――ガルガラ城塞の近くにある小高い丘に陣を置いたガリアン諸王国連合の本隊ではガルガラ城塞の陥落が目前ということもあって、既に戦勝気分となっていた。

 兵士たちは今日の戦いを互いに話し合い、またどうでもいい談笑をして、明日の戦いに備え、鋭気を養う。

 突然の事だった。

 帝国に援軍あり、という報が入ったのだ。

 これには流石に部隊全体が動揺してしまう。

 浮足立ったのだが、報告の詳細を聞くと誰もが笑い声をあげてしまった。

 なぜなら、帝国の援軍は自軍の半数以下で、五千と少しだという。

 それにはさすがに耳を疑った。

 そんな小規模な部隊で五個軍団がどうにかできるなど思えないからだ。

 もし、帝国がそれだけで本気で打開できると思っているのなら帝国の未来はもう終わりだろう。

 この日、ついにガルガラ城塞の外郭を制圧することができたガリアン諸王国連合軍は安堵と初の勝利とあって、歓声が沸き起こった。

 彼ら兵士らは長期戦を強いられ、焦る将軍らに睡眠すらも削られた中、ようやく勝利が目に見え始めた。

 城塞の最後の守りである城門の前まで攻め込むことができていた。

 その城門もわざわざ持ってきた破城槌の攻撃によって、大きく変形し今にも崩壊しそうだった。

 工兵の部隊長からはあと数回で破壊できるだろうと判断され、再度の攻撃にかかろうとした頃だった。

 ふと見上げると空が赤い夕陽に染まっていた。

 もう夕暮れ時だと気が付いた将軍らは兵士らの顔から疲労を感じ取り、これ以上の攻撃は不可能だ、と判断した。

 将軍は攻撃の中断を命じたのだった。

 夜通し攻撃するほどではない、と判断したのだ。

 勝利目前でおわずけ状態となったことに一部の若い武官らからは不満の声があがったが、部隊全体が疲弊していることもあっての中断命令だった。

 若い武官らもそれは知っていたので、了承する。

 すべての部隊がガルガラ城塞の城門から離れた後、ラッパが鳴らされ、激戦の一日を終える。

 明日を最後の総攻撃としたガリアン諸王国連合軍は余裕の構えだ。

 それに比べガルガラ城塞帝国守備隊は必死に城門の修復にかかっているのが見える。

 今更応急処置をしたところで、どうなるわけでもないが、しないよりはマシだろう。

 ガリアン諸王国連合軍の攻撃中断の判断は誰も間違いだったとは思わなかった。

 だが、これから起きたことを誰もが後悔しただろう。

 夜を惜しんで、攻撃を続けていたら……と。

 もしも、夜通しで攻撃を続けていたら戦いの行く末は代わっていたかもしれない。

 だが、それを見極めることができる者はこの場にはいなかった。

 ガリアン諸王国連合軍の幕営地のちょうど中央付近に他の幕舎とは比べようのないほどに大きな幕舎が建てられていた。

 その周りを厳重に重装歩兵らが巡回する。

 この大きな幕舎こそ、ガルガラ攻略のために置かれたガリアン側の司令部である。

 指揮官の名はボルダース・アルベル・ドライアス。

 国王から直々にガルガラ攻略を任された男で口髭と顎鬚を蓄え、白髪交じりの短髪、ずんぐりとした身体つきをしている。

 いかにも豪傑の将軍といったところか。

 ずんぐりとした身体と白髭、白髪から「山の白熊」と呼ばれている。

 そのあだ名の通り、年齢を思わせないほど俊敏で、重たい鉄斧を振り回し、相手を翻弄する。

 まさに獣のような戦い方をする。

 今回の攻略戦にも前に出て戦い、帝国兵を多く討ち取った。

 彼が前線にいる限り、味方の士気は下がることはない。

 そんなボルダースは夜遅くに武官らを集め、明日に向けての軍議を開いていた。

 明日の軍議と言っても、ガルガラ城塞を陥落させてから次はどうするか、と言った先の話をしていた。

 ボルダースの右手には大きな木製のジョッキが握られていた。 
 
 赤い液体を一気に飲み干し、長机へと叩き付ける。

「―――――旨いッ!」

 満足げな顔をして声を漏らした。 

 ボルダースを中心にして、長机に並ぶように座っている武官らの手元も同じく蜂蜜酒、エール、麦酒といった酒、それとちょっとした食べ物が置かれていた。

 長机の真ん中には帝国の地図を拡げているが赤い染みが至る所で見受けられる。 

 ボルダースが手元の酒瓶をおもむろに手に取り、中身を覗き込む。

 残り少ない液体を見つめながらいった。

「……ふむ。この帝国産の酒、かなりの一品ものだ」
「それはアルベンの葡萄酒ですか? 御目が高いですね」
「敵の輸送隊が持っておった物を頂いたのだが、これは当たりだな」
「流石は帝国、と言ったところですかね?」

 ボルダースの副官が笑いながら言った。

「帝国人は好かん。が、帝国人が作る酒は旨い、悔しいことだ」
「ですな?」
「だな。ガハハハハッ!!」

 大笑いしたボルダースに釣られて、武官らも声を上げて笑った。

 幕舎の外まで笑い声が漏れ、警護に当たる兵士らがまた呑んでる、と呆れていた。

 そんな中、近くに座っていた若い武官は酒に手をつけていないことに気が付いたボルダースは新しい酒瓶を手に取り、コクルを口で引き抜き、若い武官の空いた木製コップに注ぎこんだ。

「ほら、お前もしっかり飲め。男は酒を飲んでなんぼだぞ?」
「いや、しかし……」

 若い武官が何かを言いかけた。

「ん? しかしなんだ?」
「良いのでしょうか……? その……勝つ前に……祝杯をあげても……?」

 若い武官の問いかけに笑い声が止まる。

 視線が彼に集中した。

 周りの目を気にしながらも続けて話す。

「それに明日も戦闘があると考えると……万全にしておいた方が」

 ボルダースが真剣な顔をした。

 焦った白髭の武官が急いで若い武官に告げる。

「馬鹿者! 貴様、臆病風にでも吹かれたのか?!」
「いえ、決して、そういうわけではありませんが……」
「心配性はいいことだ。だが、それが命取りになることもある。今は勢いが大切だ。もたもたしていると劣勢になるやもしれん」

 戦いは最後までわからない、ということをボルダースは知っていた。

 だが、今は勢いがいい。その勢いを止めたくなかった。

 酒も勢いに拍車をかけさせるために飲ませていた。

「飲め」

 ボルダースが真顔で若い武官の目の前に木製のコップを差し出す。

 困惑しながらも若い武官は差し出された木製のコップを手に取り、中に入っている酒を確認し視線をボルダースへと戻した。

 彼が大きく頷くと若い武官は手に持っていた木のコップに注いだ酒を一気に飲む。

 強い酒に一瞬で目を回してしまった彼は椅子から倒れ込んだ。

 そんな姿を見ても上官にあたる者や同僚らは腹を抱えて笑った。

「良い飲みっぷりだ。気に入ったぞ! ガハハハハッ」

 長机の隅で老年の武官がその様子を見ながら、呆れるように両肩を上げると隣の同年代の武官に視線を向けた。

 小声で話しかける。

「将軍は上機嫌のようだ」
「まったく、明日の指揮に影響が出なければいいが」

 首元のボタンを外し、大きく安堵の息を吐いた。

 背もたれに身体をぐったりと預ける。

「……だが、まぁようやく勝てたな」 
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