ホムンクルス戦記~俺の女騎士たちは凛々しくてカッコイイんだぜッ!!

飯塚ヒロアキ

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始まりの伝説

第十一話

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 白髭の武官がうなだれるようにボヤいた。

「この戦いには勝てたが……勝利を得るためにどれだけの兵を失った?」

 手を拳にして握り締める。

 そこに悔しさが滲み出ていた。

「……我が部隊だけでも数千は下らん。お前の弟も死んだんだっけ?」
「あぁ……」

 目頭に涙を浮かべる。

 攻城戦ではかなりの兵力と食料、その他の費用が莫大に浪費される。

 ガルガラ城塞を攻略しようとして、既に何度目だったか。

 数度、攻めたがどれも失敗に終わっている。

 今回でようやく、帝国防衛線の一角を崩すことができた。

 ガルガラ城塞を落とせば、あとは帝都への道が開けたも同然。

 帝都へ向かう道中にも帝国側の砦がいくつか点在はしてはいるが、それほど堅牢でもないし、苦戦をするほどの規模はない。 

 帝都へいけば行くほど、帝国の戦力は薄くなる。

 前線に戦力を七割は導入している、という噂も入ってきている。

 このまま帝都まで一気に攻め上がり、戦争に終止符を打つことができると思うと長く辛い戦いの終わりが見え、老年の武官の口元が緩んだ。 

 そんな時、一人の中年武官が手を止めた。

「ん?」

 隣の武官が気が付く。

「どうした?」
「……何か、聞こえないか?」

 耳を澄ませて聞いてみても何も聞こえなかった。

「別に何も? 気のせいだろ」

 ボルダースがやり取りに気が付き、声をかけた。

「どうした?」
「何か、何か聞こえます」

 そう言われてその場にいた誰もが会話をやめ、再び、耳を澄ませた。

 すると確かに何かが聞こえる。

 誰かの悲鳴? そう思った。

 幕営地の兵士らも気が付き始め、何かが聞こえる方へと集まり始めた。

「なんだ?! どこからか!」

 小隊の隊長が寝間着のままで幕舎から飛び出し、近くにいた兵士に問うも兵士は首を横に振る。

「わかりません」

 ボルダースも幕舎から出て、兵士らが見つめる視線先へと同じく視線を向ける。

 小高い丘と山々が暗闇の中で薄ら見える。

 そこにはボルダースも見覚えがあった。

 作戦を緻密にするため、ガルガラ城塞の周辺地域を入念に下調べをしていた。

 丘の位置と山の位置からして、帝国からきた援軍を迎撃するために送った迎撃部隊の幕営地があるはずだった。

 ボルダースは確認の為に尋ねた。

「確か、あそこは迎撃部隊が向かった方向だったな?」
「はい。そうであります」

 眉を顰める。

「……まさか戦闘が行われているということはないだろうな?」
「まさか。この真夜中に戦闘なんて、自殺行為です」

 暗闇では、敵味方の識別ができず、同士討ちをしてしまう可能性がある。

 それだけは避けたいため、夜の戦闘はなるべく避けるべき、というのがこの時代の考え方だった。

 ボルダースも同じく、それもそうだな、とボルダースは思った。

 踵を返し、再び幕舎へと戻ろうとした。

 ふと空に目が行き、見ると日が昇り始めていて、周りも薄明るくなり始めていた。

「夜明けか。しまったな。一睡もしてないぞ」

 そんな中、兵士らが見つめていた方向から騎兵が向かってきているのが見えた。

「将軍、何か来ます!!!」
「何?」

 ボルダースが振り返り、再び視線を送ると確かに騎兵のような影がこちらへ向かってきているのが見えた。

 遠くから声がした。

「伝令―――――!!!! 伝令―――――!ッ!!」

 騎馬に乗った兵士が叫びながら向かって来る。

 踏み潰されないように集まった兵士らがその伝令兵へ道をあげた。

 伝令兵がボルダースを見つけると馬を止め、急いで降りる。

 彼に駆け寄り、崩れるように両手を地面に付き、息を切らす。

「どうした?! 何があった?!」
「も、申し上げます―――帝国軍、帝国軍の奇襲でございます!!!」

 ボルダースが驚き声を上げる。

「なんだとッ?!!!」

 その場が騒然とし、騒ぎを聞きつけた兵士らが伝令兵を取り囲んだ。

 人垣の中から白髪まじりの武官の一人が信じられないという顔をして尋ねる。

「敵から仕掛けてきたというのかッ?!」
「はい……」
「戦況は???」
「我が方、完全に不意を突かれた形となり、部隊は散り尻に……」
「部隊指揮官は?」

 伝令兵は視線を落とす。

「……全員、戦死されました……」
「なんと……」

 動揺で言葉が出なかった。後ずさりしてしまった武官の視線が自然とボルダースへと向けられていた。

「このまま、包囲戦を継続する」
「恐れながら閣下、それでは敵に背中を見せることになります」
「そんなことは知ってる」
「では、攻撃されるのをただ待っていると?」
「包囲戦を解くことは絶対にならん」

 ボルダースは包囲戦を解くことで帝国軍の士気が上がることを恐れた。

 帝国軍は精強で不屈だ。

 それに部隊の士気が戦いの流れを左右することも知っていた。

 この帝国軍の援軍が包囲戦を破ったとガルガラ城塞の帝国兵らの耳に入ったら、一気に士気が上がるだろう。

 それだけは阻止したかった。

「いいか? たかが二千と少しの敵だ。恐れることはない。例え背後から攻撃をしてきたとはいえ、被害など知れている。むしろ返り討ちだ。迎撃にはイベリア騎士団を回せばいい」 

 それに周りから感嘆とする声があがった。

「イベリア騎士団ならなんとかできますな」

 千人斬りのイベリア――――騎士団の名前でもあるイベリア騎士団長はガリアン諸王国連合軍の期待の女騎士だ。

 彼女は女でありながら戦場に赴き、重たい甲冑を着込んで戦う。

 疲れを見せない彼女の体力は底なし。

 そして、両手に持つ細剣で敵を細切れにしていく。

 それも軍馬に乗ったままで、当然、手綱は持っていない。

 足の力でバランスを取っている。

 早速、ボルダースが彼女を呼んだ。

 人垣の中から、兵士らを押しのけて細身な女騎士が現れた。
 
 後ろ髪を一本に編み込んで、瞳の色は空のように澄んだ綺麗な青、背丈は男と同じくらいはある。

 両腰に提げている緻密な彫刻が入った細剣は彼女の高貴さを醸し出す。

 そして、彼女が纏うは黄金色の鎧。

 それがとても目立った。

 数々の戦いに参加した彼女の鎧には傷一つない。

 無感情の彼女はボルダースの前に立つと背筋を伸ばし、敬礼してから口を開いた。

「お呼びでしょうか? 閣下」
「お前も聞いていたと思うが迎撃部隊が破られた。お前に任せていいか?」

 迎撃部隊がいた方向を一瞥し、ボルダースに視線を戻すと短く答える。

「お任せを」

 そういうと華麗に踵を返し、待機していたイベリア騎士団の下へ向かっていった。
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