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第五十話 トゥーダム神殿 その3
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食事とは生きていく上で必要なこと。食事の質は生きる質、ひいては生活の質に直結するのである。この時代、穀物が主な主食となっているが、干ばつや戦争によって、その生産量に大きく影響を受けている。大陸全体が疲弊し、民は常に飢えていた。ほとんどの農民はパンすら食べることができず、オートミールのような粥をすすり、肉類を口にするのは週に一度ほどだという。
それに対して、ロランの治める領地は安定しており、戦争とはまったく無縁だったため、食料は豊富にある。そのため、魔物たちは十分な量の食事を提供できていたのだ。振り返ってみれば、骸骨兵たちが楽しそうに歌を口ずさみ、ヨナもその中にいた。みんな楽しそうだ。まるで、これまでの苦痛や悲しみ、そして、寂しさを洗い流すかのように。
♦♦♦♦♦
トゥーダム神殿の全貌が見渡せる丘の上に馬影があった。馬に乗る男が睨みつける先にロラン達の野営地がある。オレンジ色に光る無数のかがり火に男は驚きとどまっていた。その数を確認しようと身体を乗り出す。
周辺には警戒に出している魔物の姿があり、その魔物が月明かりに照らされた瞬間、自分の方へと視線を向けてきたような気がした。すぐに馬首を翻し、駆け出していく。丘を下り、森の中を進む。馬腹を蹴り、鞭を打ちながら待機していた仲間の元へと向かった。森の中、少し拓けた場所に数人の男女が野営して、誰もが素顔を隠すかのようにフード付きのマントを羽織っていた。
仲間が帰ってきたことに気がつき、視線を上げた。立ち上がった瞬間、ガチャリと鉄の音を立てる。男女のマントを羽織る者たちの腰には立派な剣がぶら下がっている。馬から飛び降りた男は仲間の元に駆けつけると息を整えながら、報告した。男は息を整えるように深呼吸すると、口を開いた。
「魔物がトゥーダム神殿を占拠しています!!」
男の報告を聞き、驚き声が上がる。予想もしていなかった事態だ。誰もが動揺する。
「魔物だと??!」
「野党の間違いでは?」
「その数??」
「どんな魔物だった??」
報告に帰ってきた男に仲間たちが取り囲み、次々に質問を浴びせかける。だが、そのどれも要領を得なかった。
「か、数ははっきりとは見えませんが、その数はおおよそ数百かと」
「数百の魔物が群れをなしているというのか? それも神殿の前で? 妙だな」
魔物たちが嫌うのは光だ。そして、女神を祀る神殿にとどまるだけでも嫌がるはずが、そこで野営しているというのだ。信じがたい話だったが、報告に戻ってきた男の怖気ようからは嘘だとは思えなかった。
黒髪で短髪、若い少年が真面目をしながら顎に手を当てて考え込む仕草をしたあと、視線を後方へと向ける。
「隊長、どうしますか?」
隊長と呼ばれた緑色の髪をした女が剣を研ぐのをやめて、鞘に納めた後、腕を組んで考え込んだ。
彼女らはある物を回収するために動いていた。魔物との戦闘は予測していなかった。本来であれば、そんな数の魔物を相手にしたくはないのだが。
「シルビア様直々の命令だからね。何としても回収しなくては……」
緑色の髪を後ろにまとめて、おさげにしていた。頬の傷が歴戦の戦士を思わせる。体つきも無駄な肉はなく、引き締まっていた。整った顔立ちだが、目付きが鋭く、冷たい印象を与える。
彼女の名はアストライン。帝国軍の将軍シルビアの直属の部下であり、親衛隊に所属する。今回、白の勇者が遺した『神を殺すことができる武器』を回収するために派遣された精鋭部隊で、シルビアに絶対的な忠誠を誓う。彼女がそうしろと言うのであれば、どんな困難な任務でも遂行する。それが彼らにとって当たり前だった。シルビアのためなら命を投げ捨てても構わないと思っている。
考えたあと、答えを出す。
「こっちの数は50人。向こうが500体程度だと考えてもなんとかなる。ただ、魔物の種類が何なのかにもよるな……リア、見てくれるか?」
隣に座っていたリアと呼ばれた彼女は茶色の長い髪を風に揺らしながら、神妙な面立ちで、木の杖を両手に抱える。白い肌に、黄色の瞳をして、他の者たちとは少し違う装備をしていた。マントの下には聖職者をイメージさせる服を着用しそこからすらりと長い足が覗かせていた。聖魔法を得意とする教会の修道女である。今回の回収部隊に同行していた。それには理由がある。トゥダム神殿の入り口は勇者の血を引くものでしか、扉は開かないとされてたからだ。ほんな攻撃も、どんな魔法もその強力な力で打ち消してしまうという。だから、勇者の子孫でもあるリアを連れてきた。
リアは杖の石尽きを地面にコンと叩いて、目を閉じた。
『――サーチ――』
すると杖の先端に埋め込まている水晶が淡い光を放つ。彼女の中の勇者の血がざわめく。危険すぎると伝えているかのように。両肩に降りかかる圧力、全身を走る鳥肌。何か強大な力を感じ取った。
「強い……とても強力な力を感じる……」
「そんなにか?」
「えぇ。そのうちの一体は間違いなく、ばけものクラス。そして、もう一体は……何この魔物は……」
「どうした?」
「未知数……」
それを聞いて、アストラインは眉尾を寄せる。リアがここまで神経質な顔になったのは、初めてだった。
「……未知数? わからないのか?」
「えぇ……」
「勝てるか?」
「わからない」
ここで戦力を整えて出直す、という考えもあったが、それでは、シルビアの逆鱗に触れる可能性があった。なら、やるしかない。そう考えたアストラインは部下たちに命ずる。
「明日、早朝、奇襲を仕掛ける」
それに対して、ロランの治める領地は安定しており、戦争とはまったく無縁だったため、食料は豊富にある。そのため、魔物たちは十分な量の食事を提供できていたのだ。振り返ってみれば、骸骨兵たちが楽しそうに歌を口ずさみ、ヨナもその中にいた。みんな楽しそうだ。まるで、これまでの苦痛や悲しみ、そして、寂しさを洗い流すかのように。
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トゥーダム神殿の全貌が見渡せる丘の上に馬影があった。馬に乗る男が睨みつける先にロラン達の野営地がある。オレンジ色に光る無数のかがり火に男は驚きとどまっていた。その数を確認しようと身体を乗り出す。
周辺には警戒に出している魔物の姿があり、その魔物が月明かりに照らされた瞬間、自分の方へと視線を向けてきたような気がした。すぐに馬首を翻し、駆け出していく。丘を下り、森の中を進む。馬腹を蹴り、鞭を打ちながら待機していた仲間の元へと向かった。森の中、少し拓けた場所に数人の男女が野営して、誰もが素顔を隠すかのようにフード付きのマントを羽織っていた。
仲間が帰ってきたことに気がつき、視線を上げた。立ち上がった瞬間、ガチャリと鉄の音を立てる。男女のマントを羽織る者たちの腰には立派な剣がぶら下がっている。馬から飛び降りた男は仲間の元に駆けつけると息を整えながら、報告した。男は息を整えるように深呼吸すると、口を開いた。
「魔物がトゥーダム神殿を占拠しています!!」
男の報告を聞き、驚き声が上がる。予想もしていなかった事態だ。誰もが動揺する。
「魔物だと??!」
「野党の間違いでは?」
「その数??」
「どんな魔物だった??」
報告に帰ってきた男に仲間たちが取り囲み、次々に質問を浴びせかける。だが、そのどれも要領を得なかった。
「か、数ははっきりとは見えませんが、その数はおおよそ数百かと」
「数百の魔物が群れをなしているというのか? それも神殿の前で? 妙だな」
魔物たちが嫌うのは光だ。そして、女神を祀る神殿にとどまるだけでも嫌がるはずが、そこで野営しているというのだ。信じがたい話だったが、報告に戻ってきた男の怖気ようからは嘘だとは思えなかった。
黒髪で短髪、若い少年が真面目をしながら顎に手を当てて考え込む仕草をしたあと、視線を後方へと向ける。
「隊長、どうしますか?」
隊長と呼ばれた緑色の髪をした女が剣を研ぐのをやめて、鞘に納めた後、腕を組んで考え込んだ。
彼女らはある物を回収するために動いていた。魔物との戦闘は予測していなかった。本来であれば、そんな数の魔物を相手にしたくはないのだが。
「シルビア様直々の命令だからね。何としても回収しなくては……」
緑色の髪を後ろにまとめて、おさげにしていた。頬の傷が歴戦の戦士を思わせる。体つきも無駄な肉はなく、引き締まっていた。整った顔立ちだが、目付きが鋭く、冷たい印象を与える。
彼女の名はアストライン。帝国軍の将軍シルビアの直属の部下であり、親衛隊に所属する。今回、白の勇者が遺した『神を殺すことができる武器』を回収するために派遣された精鋭部隊で、シルビアに絶対的な忠誠を誓う。彼女がそうしろと言うのであれば、どんな困難な任務でも遂行する。それが彼らにとって当たり前だった。シルビアのためなら命を投げ捨てても構わないと思っている。
考えたあと、答えを出す。
「こっちの数は50人。向こうが500体程度だと考えてもなんとかなる。ただ、魔物の種類が何なのかにもよるな……リア、見てくれるか?」
隣に座っていたリアと呼ばれた彼女は茶色の長い髪を風に揺らしながら、神妙な面立ちで、木の杖を両手に抱える。白い肌に、黄色の瞳をして、他の者たちとは少し違う装備をしていた。マントの下には聖職者をイメージさせる服を着用しそこからすらりと長い足が覗かせていた。聖魔法を得意とする教会の修道女である。今回の回収部隊に同行していた。それには理由がある。トゥダム神殿の入り口は勇者の血を引くものでしか、扉は開かないとされてたからだ。ほんな攻撃も、どんな魔法もその強力な力で打ち消してしまうという。だから、勇者の子孫でもあるリアを連れてきた。
リアは杖の石尽きを地面にコンと叩いて、目を閉じた。
『――サーチ――』
すると杖の先端に埋め込まている水晶が淡い光を放つ。彼女の中の勇者の血がざわめく。危険すぎると伝えているかのように。両肩に降りかかる圧力、全身を走る鳥肌。何か強大な力を感じ取った。
「強い……とても強力な力を感じる……」
「そんなにか?」
「えぇ。そのうちの一体は間違いなく、ばけものクラス。そして、もう一体は……何この魔物は……」
「どうした?」
「未知数……」
それを聞いて、アストラインは眉尾を寄せる。リアがここまで神経質な顔になったのは、初めてだった。
「……未知数? わからないのか?」
「えぇ……」
「勝てるか?」
「わからない」
ここで戦力を整えて出直す、という考えもあったが、それでは、シルビアの逆鱗に触れる可能性があった。なら、やるしかない。そう考えたアストラインは部下たちに命ずる。
「明日、早朝、奇襲を仕掛ける」
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