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第4話 森の中で
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翌日――――ローゼンブルクの近くにある森の中、またまたレオノーラの姿があった。
今日もまたアエラの目を盗んできた。
緑の下草に覆われ、色とりどりの花が咲く綺麗な場所を横目に彼女は森の奥へと入り込む。
しきりに周囲を見渡す。
誰にもあとをつけられていないかの確認だった。
森の中は、魔物が生息しているのだが、ローゼンブルクの近くにある森の中は珍しく、魔物が出にくい場所でもあった。
その理由はまだ解明されていない。
そもそも、この場所に魔物が棲みついていないという説があるのだが、レオノーラだけは本当の理由を知っていた。
といっても、それが魔物が棲みにくくしている理由なのかどうなのかは、立証されているわけでもなく、あくまでも、なんとなく、そうなんだろう、と自分に言い聞かせているようなものだ。
なにはともあれ、護衛をつけずに森の中へ入ることができるのは、とても彼女にとっては、都合がよかった。
しばらく歩き続けると木々の間に開けた場所が見えてきた。
その真ん中に大きな大木がそびえ立っている。
根はしっかりと地面に絡みつき、幹も太く、樹齢何千年という雰囲気だった。
幹下あたりに大きな穴がぽっかりと空いている。
人が一人、かがんで、入れそうな大きさだ。
レオノーラは周囲をまた見渡したあと、誰もいないことを確認した後、小声で言う。
「リュー」
風が吹き、木の葉が擦れる音がした。
しばらくしてからその声に反応してか、穴の奥から赤い二つの光が揺れ動いた。
パチパチと瞬きしているのがわかる。
だが、穴の奥にとどまっていて、出てこようとはしなかった。
「大丈夫だよー、怖くないから。ほら、リューの好きなミルクがあるよ」
そう言いながらレオノーラは持ってきていたバスケットからミルクを木皿に注ぐ。
それを穴に向かって差し出すと、そして恐る恐るという感じで顔を出す。
トカゲのような頭、ゴツゴツとした肌、口には小さいが鋭い牙が見える。
長い舌ですくうようにミルクを飲む姿はまさに爬虫類だ。
レオノーラはその姿を見て微笑む。
この生物は、何を隠そう、火竜の子供。
まだ生まれて間もないらしく、人間で言えば一歳くらいの大きさしかない。
薬草探しに出かけていた時、瀕死の状態で、見つけた以来、毎日のようにここに通っていた。
さすがに、竜の子供を街に連れ帰るわけにもいかず、そもそも、竜の子供が人に懐くはずもなく……。
しかし、餌付けが功を奏したのか、最近ではこうして警戒心を解くようになったのだ。
竜といってもまだまだ子供。
今は、喉を鳴らして、おいしそうにミルクを飲んでいる。
「キュー」
そういって、鳴いてはレオノーラのことを母親だと勘違いしているのか、甘えた声を出しては、頭を擦りつけてくる。
それが可愛くて、レオノーラは優しく撫でた。
「ほら、焼きたてのパンを持って来たよ」
バスケットの中からパンを取り出し、千切っては手に乗せてあげる。
すると、嬉しそうな鳴き声をあげて、パクパクと夢中になりながら食べていた。
そんな時だった。
突然、顔を上げて、威嚇の声を上げる。
「グルルルル……」
その視線を追うと、そこには黒いフードを被った人物が立っていた。
その人物の顔を隠すかのように深く被っているため表情は見えない。
ただ、じっとこちらの様子を窺うように見ていた。
竜の子供は、今まで見たこともないような怖い顔をして相手を睨みつけ、穴の奥へとたじろいでしまう。
レオノーラは慌てて、隠そうと身を挺して、間に入ったが、すでに遅かった。
相手はすでにこちらに気づいていたのだ。
目の前に立つ人物は、驚いた様子だったが、すぐに冷静になって、尋ねてきた。
「それは竜の子か?」
その問いにレオノーラの全身から冷や汗が出た。
目の前にいる人物はフードを深々とかぶっているため、誰なのかわからないが、声からして、女だとはわかった。
どこか、威厳のある、低い声だ。
彼女の腰に視線を向けるとそこには立派な長剣、それに弓。
服装は、足元は革靴、手袋といった狩人のようには見えるが、それでも、ここの人間ではないような気がしたレオノーラは盗賊か、傭兵崩れか、はたまた……いろいろなことを考えてしまい、言葉が出てこなかった。
酷く動揺しているのが自分でもわかる。
手は異常なほどに震え、心臓が激しく脈打つ音が聞こえてきそうだ。
しかし、ここで黙っていてはいけないと思ったレオノーラは勇気を振り絞って答える。
自分が今できる精一杯な言葉をひねり出した。
「ち、違います。この子はね、猫です」
「猫、だと?」
フードを深々とかぶった女は目を見開いて、驚いたような顔をした。
明らかな、いや、明らかすぎるほどの嘘に驚いたようだ。
自分でも、何を言ってんだと、慌ててしまう。
その慌てようにその女は笑いをこらえようとした様子だったが。
「ブッ」
こらえきれずに吹き出し、盛大に笑い声をあげた。
「ハハハハッ!! 猫ときたかッ!! これは面白い!! もっとまともなうそはつけないのか!!!? アハハハハッ」
腹を抱えては、笑い声をあげる。
あまりにも笑われすぎて恥ずかしくなったレオノーラは、思わず、頬を赤く染めてしまい、視線を落としては、もじもじとスカートの裾を握っていた。
「そ、そんなに笑わなくても……」
今日もまたアエラの目を盗んできた。
緑の下草に覆われ、色とりどりの花が咲く綺麗な場所を横目に彼女は森の奥へと入り込む。
しきりに周囲を見渡す。
誰にもあとをつけられていないかの確認だった。
森の中は、魔物が生息しているのだが、ローゼンブルクの近くにある森の中は珍しく、魔物が出にくい場所でもあった。
その理由はまだ解明されていない。
そもそも、この場所に魔物が棲みついていないという説があるのだが、レオノーラだけは本当の理由を知っていた。
といっても、それが魔物が棲みにくくしている理由なのかどうなのかは、立証されているわけでもなく、あくまでも、なんとなく、そうなんだろう、と自分に言い聞かせているようなものだ。
なにはともあれ、護衛をつけずに森の中へ入ることができるのは、とても彼女にとっては、都合がよかった。
しばらく歩き続けると木々の間に開けた場所が見えてきた。
その真ん中に大きな大木がそびえ立っている。
根はしっかりと地面に絡みつき、幹も太く、樹齢何千年という雰囲気だった。
幹下あたりに大きな穴がぽっかりと空いている。
人が一人、かがんで、入れそうな大きさだ。
レオノーラは周囲をまた見渡したあと、誰もいないことを確認した後、小声で言う。
「リュー」
風が吹き、木の葉が擦れる音がした。
しばらくしてからその声に反応してか、穴の奥から赤い二つの光が揺れ動いた。
パチパチと瞬きしているのがわかる。
だが、穴の奥にとどまっていて、出てこようとはしなかった。
「大丈夫だよー、怖くないから。ほら、リューの好きなミルクがあるよ」
そう言いながらレオノーラは持ってきていたバスケットからミルクを木皿に注ぐ。
それを穴に向かって差し出すと、そして恐る恐るという感じで顔を出す。
トカゲのような頭、ゴツゴツとした肌、口には小さいが鋭い牙が見える。
長い舌ですくうようにミルクを飲む姿はまさに爬虫類だ。
レオノーラはその姿を見て微笑む。
この生物は、何を隠そう、火竜の子供。
まだ生まれて間もないらしく、人間で言えば一歳くらいの大きさしかない。
薬草探しに出かけていた時、瀕死の状態で、見つけた以来、毎日のようにここに通っていた。
さすがに、竜の子供を街に連れ帰るわけにもいかず、そもそも、竜の子供が人に懐くはずもなく……。
しかし、餌付けが功を奏したのか、最近ではこうして警戒心を解くようになったのだ。
竜といってもまだまだ子供。
今は、喉を鳴らして、おいしそうにミルクを飲んでいる。
「キュー」
そういって、鳴いてはレオノーラのことを母親だと勘違いしているのか、甘えた声を出しては、頭を擦りつけてくる。
それが可愛くて、レオノーラは優しく撫でた。
「ほら、焼きたてのパンを持って来たよ」
バスケットの中からパンを取り出し、千切っては手に乗せてあげる。
すると、嬉しそうな鳴き声をあげて、パクパクと夢中になりながら食べていた。
そんな時だった。
突然、顔を上げて、威嚇の声を上げる。
「グルルルル……」
その視線を追うと、そこには黒いフードを被った人物が立っていた。
その人物の顔を隠すかのように深く被っているため表情は見えない。
ただ、じっとこちらの様子を窺うように見ていた。
竜の子供は、今まで見たこともないような怖い顔をして相手を睨みつけ、穴の奥へとたじろいでしまう。
レオノーラは慌てて、隠そうと身を挺して、間に入ったが、すでに遅かった。
相手はすでにこちらに気づいていたのだ。
目の前に立つ人物は、驚いた様子だったが、すぐに冷静になって、尋ねてきた。
「それは竜の子か?」
その問いにレオノーラの全身から冷や汗が出た。
目の前にいる人物はフードを深々とかぶっているため、誰なのかわからないが、声からして、女だとはわかった。
どこか、威厳のある、低い声だ。
彼女の腰に視線を向けるとそこには立派な長剣、それに弓。
服装は、足元は革靴、手袋といった狩人のようには見えるが、それでも、ここの人間ではないような気がしたレオノーラは盗賊か、傭兵崩れか、はたまた……いろいろなことを考えてしまい、言葉が出てこなかった。
酷く動揺しているのが自分でもわかる。
手は異常なほどに震え、心臓が激しく脈打つ音が聞こえてきそうだ。
しかし、ここで黙っていてはいけないと思ったレオノーラは勇気を振り絞って答える。
自分が今できる精一杯な言葉をひねり出した。
「ち、違います。この子はね、猫です」
「猫、だと?」
フードを深々とかぶった女は目を見開いて、驚いたような顔をした。
明らかな、いや、明らかすぎるほどの嘘に驚いたようだ。
自分でも、何を言ってんだと、慌ててしまう。
その慌てようにその女は笑いをこらえようとした様子だったが。
「ブッ」
こらえきれずに吹き出し、盛大に笑い声をあげた。
「ハハハハッ!! 猫ときたかッ!! これは面白い!! もっとまともなうそはつけないのか!!!? アハハハハッ」
腹を抱えては、笑い声をあげる。
あまりにも笑われすぎて恥ずかしくなったレオノーラは、思わず、頬を赤く染めてしまい、視線を落としては、もじもじとスカートの裾を握っていた。
「そ、そんなに笑わなくても……」
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