転生したアラフォーママはハリボテ公爵家に振り回される

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 しがない子爵令嬢と言っても帝都生まれの帝都育ち。お城には何回か来ている。だけど今日ほど憂鬱な気持ちで城内を歩くのは初めてだわ。
「アリシア」
 馬車の中でほとんど喋らなかったお父様が口を開いた。
「昨日母さんに連絡したんだが」
「アビゲールお婆様に?」
「お前に伝えて欲しいって。いつも通り背筋を伸ばして陛下にご挨拶しなさいと」
「はい、わかりました」
「それと」
「私は必ずお前を守るよ」
「お父様!!」


「クライブ・ボードンが皇帝陛下、皇后陛下に御挨拶申し上げます」
「久しいなボードン卿。楽にしてくれ」
「恐れ入ります陛下」
 皇族への謁見。相手から振られるまで片手を胸に当て頭を垂れる。
「して、そなたがアリシアだな?頭をあげてくれ」
 話を振られたら、家名を添えて名乗り挨拶。
「ボードン子爵家長女、アリシア・ボードンが皇帝陛下、皇后陛下に御挨拶申し上げます」
 ドレスを摘まみ、片足を少し下げ、背筋を伸ばし、カーテシー。
「ほぅ…さすがだな」
「やはり、完璧ですね、陛下」
 ん?皇后様?何が?
 ってゆーか、左斜め前!公爵いる!
 スラッとした長身でレオパルトの紋章が入った黒い騎士服を着こなし、サラサラの黒髪から覗くガーネットのような深紅の瞳。こ、これぞ国宝級イケメン!!
 だけど、なんか、めっちゃ睨んでる!?ムッ何よ。いきなり結婚とか言われて睨みたいのはこっちだっつーの!悔しいから真っ直ぐ公爵の目を見返してやる。あ、ちょっとびっくりしてるわ。フフン。
「…ゴホン、気が合いそうで何よりだな」
 どこがです陛下?
「早速本題だがな、昨日伝えた通り、アリシアよレオパルト公爵に嫁いでもらいたい。」
「…恐れながら、陛下。私の娘に公爵夫人の席はいささか荷が重すぎるかと」
「そんなことはない。度胸もあるし賢そうな令嬢ではないか」
「いや、しかしっ」
「父親として心配するのもわかるよ。ただ、こちらにも事情があってな。アリシア嬢以外に適任がいないんだ」
「じ、事情ですか?」
「あぁ…三ヶ月後の皇太子と公爵の長女シエラの婚約発表パーティーまでに、公爵家の子供達を公正させてほしい。それには、アビゲールの孫であるアリシア嬢の力が必要だ」

 要は指導係ということか。
 三ヶ月後、公爵の14歳になる長女のデビュタントの後、皇太子と正式に婚約発表するらしい。そこに他の3人の子供達も出席させるので、公爵家の名に恥じぬようマナー云々を全員に施してほしいとの事だ。
 アビゲールお婆様は元隣国の王女様で、皇后の妃教育で教師をしていた。私も幼いころから所作を教わっていたからそれでか。でもそれじゃあ、
「妻ではなく家庭教師でいいのでは?」
 あ、ポロッと言っちゃった。
「フフッ、教師では立場が弱いでしょう?それでは一日と持たず追い出されてしまうわ」
 誰にですか?
「勿論、子爵には相応の礼をしよう。何か希望はあるか?」
「…では陛下。三ヶ月後、娘が望むならば、この結婚を無かったことにして頂きたい!」
「何?」
「この19年間、妻と大切に育ててきた娘でしす。やはり娘の望む相手と結婚させてやりたいのです。離婚ですと貴族令嬢には辛い傷が付きます。ですので、この結婚は公にせず、全て白紙に戻して頂きたいのです。
 これは、母のアビゲールの意見でもあります!」
「グスッ…お父様!!」
「う、うむ。アビゲールは怒ると恐いからな…キリアン、異論は無いか?」
「…はい、ありません」
 かくして、ハリボテ公爵との契約結婚がスタートしたのである。
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