3 / 7
3.
しおりを挟む
しがない子爵令嬢と言っても帝都生まれの帝都育ち。お城には何回か来ている。だけど今日ほど憂鬱な気持ちで城内を歩くのは初めてだわ。
「アリシア」
馬車の中でほとんど喋らなかったお父様が口を開いた。
「昨日母さんに連絡したんだが」
「アビゲールお婆様に?」
「お前に伝えて欲しいって。いつも通り背筋を伸ばして陛下にご挨拶しなさいと」
「はい、わかりました」
「それと」
「私は必ずお前を守るよ」
「お父様!!」
「クライブ・ボードンが皇帝陛下、皇后陛下に御挨拶申し上げます」
「久しいなボードン卿。楽にしてくれ」
「恐れ入ります陛下」
皇族への謁見。相手から振られるまで片手を胸に当て頭を垂れる。
「して、そなたがアリシアだな?頭をあげてくれ」
話を振られたら、家名を添えて名乗り挨拶。
「ボードン子爵家長女、アリシア・ボードンが皇帝陛下、皇后陛下に御挨拶申し上げます」
ドレスを摘まみ、片足を少し下げ、背筋を伸ばし、カーテシー。
「ほぅ…さすがだな」
「やはり、完璧ですね、陛下」
ん?皇后様?何が?
ってゆーか、左斜め前!公爵いる!
スラッとした長身でレオパルトの紋章が入った黒い騎士服を着こなし、サラサラの黒髪から覗くガーネットのような深紅の瞳。こ、これぞ国宝級イケメン!!
だけど、なんか、めっちゃ睨んでる!?ムッ何よ。いきなり結婚とか言われて睨みたいのはこっちだっつーの!悔しいから真っ直ぐ公爵の目を見返してやる。あ、ちょっとびっくりしてるわ。フフン。
「…ゴホン、気が合いそうで何よりだな」
どこがです陛下?
「早速本題だがな、昨日伝えた通り、アリシアよレオパルト公爵に嫁いでもらいたい。」
「…恐れながら、陛下。私の娘に公爵夫人の席はいささか荷が重すぎるかと」
「そんなことはない。度胸もあるし賢そうな令嬢ではないか」
「いや、しかしっ」
「父親として心配するのもわかるよ。ただ、こちらにも事情があってな。アリシア嬢以外に適任がいないんだ」
「じ、事情ですか?」
「あぁ…三ヶ月後の皇太子と公爵の長女シエラの婚約発表パーティーまでに、公爵家の子供達を公正させてほしい。それには、アビゲールの孫であるアリシア嬢の力が必要だ」
要は指導係ということか。
三ヶ月後、公爵の14歳になる長女のデビュタントの後、皇太子と正式に婚約発表するらしい。そこに他の3人の子供達も出席させるので、公爵家の名に恥じぬようマナー云々を全員に施してほしいとの事だ。
アビゲールお婆様は元隣国の王女様で、皇后の妃教育で教師をしていた。私も幼いころから所作を教わっていたからそれでか。でもそれじゃあ、
「妻ではなく家庭教師でいいのでは?」
あ、ポロッと言っちゃった。
「フフッ、教師では立場が弱いでしょう?それでは一日と持たず追い出されてしまうわ」
誰にですか?
「勿論、子爵には相応の礼をしよう。何か希望はあるか?」
「…では陛下。三ヶ月後、娘が望むならば、この結婚を無かったことにして頂きたい!」
「何?」
「この19年間、妻と大切に育ててきた娘でしす。やはり娘の望む相手と結婚させてやりたいのです。離婚ですと貴族令嬢には辛い傷が付きます。ですので、この結婚は公にせず、全て白紙に戻して頂きたいのです。
これは、母のアビゲールの意見でもあります!」
「グスッ…お父様!!」
「う、うむ。アビゲールは怒ると恐いからな…キリアン、異論は無いか?」
「…はい、ありません」
かくして、ハリボテ公爵との契約結婚がスタートしたのである。
「アリシア」
馬車の中でほとんど喋らなかったお父様が口を開いた。
「昨日母さんに連絡したんだが」
「アビゲールお婆様に?」
「お前に伝えて欲しいって。いつも通り背筋を伸ばして陛下にご挨拶しなさいと」
「はい、わかりました」
「それと」
「私は必ずお前を守るよ」
「お父様!!」
「クライブ・ボードンが皇帝陛下、皇后陛下に御挨拶申し上げます」
「久しいなボードン卿。楽にしてくれ」
「恐れ入ります陛下」
皇族への謁見。相手から振られるまで片手を胸に当て頭を垂れる。
「して、そなたがアリシアだな?頭をあげてくれ」
話を振られたら、家名を添えて名乗り挨拶。
「ボードン子爵家長女、アリシア・ボードンが皇帝陛下、皇后陛下に御挨拶申し上げます」
ドレスを摘まみ、片足を少し下げ、背筋を伸ばし、カーテシー。
「ほぅ…さすがだな」
「やはり、完璧ですね、陛下」
ん?皇后様?何が?
ってゆーか、左斜め前!公爵いる!
スラッとした長身でレオパルトの紋章が入った黒い騎士服を着こなし、サラサラの黒髪から覗くガーネットのような深紅の瞳。こ、これぞ国宝級イケメン!!
だけど、なんか、めっちゃ睨んでる!?ムッ何よ。いきなり結婚とか言われて睨みたいのはこっちだっつーの!悔しいから真っ直ぐ公爵の目を見返してやる。あ、ちょっとびっくりしてるわ。フフン。
「…ゴホン、気が合いそうで何よりだな」
どこがです陛下?
「早速本題だがな、昨日伝えた通り、アリシアよレオパルト公爵に嫁いでもらいたい。」
「…恐れながら、陛下。私の娘に公爵夫人の席はいささか荷が重すぎるかと」
「そんなことはない。度胸もあるし賢そうな令嬢ではないか」
「いや、しかしっ」
「父親として心配するのもわかるよ。ただ、こちらにも事情があってな。アリシア嬢以外に適任がいないんだ」
「じ、事情ですか?」
「あぁ…三ヶ月後の皇太子と公爵の長女シエラの婚約発表パーティーまでに、公爵家の子供達を公正させてほしい。それには、アビゲールの孫であるアリシア嬢の力が必要だ」
要は指導係ということか。
三ヶ月後、公爵の14歳になる長女のデビュタントの後、皇太子と正式に婚約発表するらしい。そこに他の3人の子供達も出席させるので、公爵家の名に恥じぬようマナー云々を全員に施してほしいとの事だ。
アビゲールお婆様は元隣国の王女様で、皇后の妃教育で教師をしていた。私も幼いころから所作を教わっていたからそれでか。でもそれじゃあ、
「妻ではなく家庭教師でいいのでは?」
あ、ポロッと言っちゃった。
「フフッ、教師では立場が弱いでしょう?それでは一日と持たず追い出されてしまうわ」
誰にですか?
「勿論、子爵には相応の礼をしよう。何か希望はあるか?」
「…では陛下。三ヶ月後、娘が望むならば、この結婚を無かったことにして頂きたい!」
「何?」
「この19年間、妻と大切に育ててきた娘でしす。やはり娘の望む相手と結婚させてやりたいのです。離婚ですと貴族令嬢には辛い傷が付きます。ですので、この結婚は公にせず、全て白紙に戻して頂きたいのです。
これは、母のアビゲールの意見でもあります!」
「グスッ…お父様!!」
「う、うむ。アビゲールは怒ると恐いからな…キリアン、異論は無いか?」
「…はい、ありません」
かくして、ハリボテ公爵との契約結婚がスタートしたのである。
11
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。
ご都合主義のハッピーエンドのSSです。
でも周りは全くハッピーじゃないです。
小説家になろう様でも投稿しています。
強面夫の裏の顔は妻以外には見せられません!
ましろ
恋愛
「誰がこんなことをしろと言った?」
それは夫のいる騎士団へ差し入れを届けに行った私への彼からの冷たい言葉。
挙げ句の果てに、
「用が済んだなら早く帰れっ!」
と追い返されてしまいました。
そして夜、屋敷に戻って来た夫は───
✻ゆるふわ設定です。
気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる