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番外編
kanon-神音-
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日本の音楽業界をすべて知り尽くしているわけじゃない。
演歌からクラシックまでジャンルはさまざまあるし、僕はたかだか十数年しか生きていないんだから知らないことの方が多いと思っている。
それでもJ-POPとか呼ばれるジャンルが厳しく儚い世界なんだということは知っている。
中学生でもバンドを組みたいと言いだす奴らが周囲にはいたし、彼らが音楽雑誌やらネットで情報を仕入れて、頼んでもいないのにいろいろ教えてくれたからだ。
いわく、ミリオンヒットを記録したバンドのメンバーが、つい最近変死体で見つかっただとか。
使いきれないほどの金額を稼いだミュージシャンが、夜逃げ同然で東京から姿を消しただとか。
どこまで本当か確かめようもない話ばかりだったけど、そんな話が飛び交う世界がまともじゃないことだけは確かだ。
耳に電子音が奏でる曲が飛び込んでくる。
僕は無意識に音の方に目を向けて、すれ違った女子高生が携帯を操作するのを見る。
そのままお互いに遠ざかっていく。
「…………」
僕も彼女も互いに見知らぬ他人だ。
クリスマスを前ににぎわう街角で、たまたますれ違っただけで、よくある日常のかけらにしかならない。
無言のまま足音をわざと立てて歩いていく。
笑い声をあげる大学生らしき男性数人が横切った。
忙しない足取りの、疲れ切った会社員たち。
小学生くらいの子供を連れた母親もいた。塾か習い事の帰り道だろうか。
見上げると、都会の明るさに色褪せた夜空が目に映る。
「…………」
どれだけ僕が口を閉ざしていても、世界は音に満ちている。
笑い声、話し声、足音、車の騒音。
そのすべてを切り裂いて飛び出す、耳障りな着信音。
また追い抜いて行った男性の携帯が、高らかに音を放つ。
僕は鼻歌で曲を奏でた。
さっきすれ違った女子高生が鳴らした着信音のメロディーだ。
続いて男性の携帯の着信音も鼻歌で歌い、なげやりな気分で足元へ視線を落とした。
『神音ちゃんはすごいわ。たった一度聞いただけなのに、ほとんど完璧に覚えているんですもの。絶対に音大へ進学させるべきだわ』
頭の中で甲高い女性教師の声が自動再生される。
女性教師の台詞にまんざらでもない表情の母親も思い出して、僕は唇を噛みしめた。
たった一度聞いただけの音を、覚えてしまうことがどういうことか、あんたにはわからないのか。
そう言って胸倉つかんで叫びたい衝動を、もうずっと長い間こらえてきた。
母親は子供の頃に習い事をさせてもらえなかったと言う。
あまり裕福でない家庭に育ち、兄弟も多かったせいで母親に習い事をさせる時間も金銭の余裕もなかったのだと言っていた。
『お母さん、ピアノがどうしても習いたくってね……』
その悔しさを晴らすために、僕と双子の兄をピアノ教室に通わせはじめたのは幼稚園に入った頃だった。
すぐに僕は女性教師と似たような賛辞をもらい、母親は真に受けた。
僕は小学校に入ってすぐにコンクールだなんだと引っ張り回されはじめ、賞を獲ってしまったものだから、母親の熱は増すばかりで。
中学校に入った僕は本格的にピアノ教師について指導を受けるようになった。
『すごいわ、神音ちゃん! 行く末はピアニストね。お母さん誇らしいわ、自慢の息子だわ!』
今夜も母親に言われるがまま、教師の指導を受けた帰りだ。
灰色の道を見下ろしてため息を深く吐き出した。
今夜は教師に呆れられてしまった。
『どうしたんだね、何かあったのかい? 神音くんらしくない……音が空回りしているよ』
優しくて鋭い指導力のある中年の男性教師だった。
つい父親の代わりのように頼っていた相手だから、本音が止める間もなく口から飛び出してしまった。
クラシックなんて、つまらない。
大昔に死んだ人間の作った曲ばっかり演奏して、気取った連中に聞かせて、何が楽しいんだ。
すると僕の本音を聞いた教師は、それまでの態度を豹変させて立ち上がって怒鳴りつけてきた。
才能があるからって図に乗るな、と言って教師は僕を放りだした。
文字通り、襟首つかんで指導に使っていた教室兼務の自宅から引きずり出したのだ。
「……僕はいままで何をしてきたんだろ」
電飾と華やかなディスプレイが立ち並ぶ道の途中で立ち止まって、夜空を見上げて動かない僕に、通行人たちが時々好奇の目を向けていく。
それでも彼らは立ち止まらない。すぐに自分たちの世界に戻って、僕のことなんて忘れていく。
当然だ。世界はこうやって動いているんだ。
生きているっていうのは、そういうものなんだろう。
いまある中で、一緒にいたい人のそばに行ったり、食べたり、飲んで笑う。
傷ついて、すがりついた人のぬくもりに泣いて。
灰色の夜空を見上げたままでいると、またどこかで着信が鳴った。
コンサートなんて聞いたこともないだろうに、最近はクラシックの着信が多くなったな、と考えていると上着のポケットに振動を感じた。
はっと我に返ってポケットを探り、携帯を取り出す。
液晶に表示された着信は双子の兄のものだ。
「何?」
つい最近双子にそれぞれ与えられた携帯は、同じ機種で色が違う。
僕は黄色で、兄は白だった。
『神音?』
僕の携帯にかけているんだから、僕が出るのが当然だと思うのに、兄は毎回必ずまっさきに名前を呼んでくる。
何度言っても癖だから、と苦笑していた穏やかな表情を思い出して、ささくれていた心が少し温かくなった。
『練習、終わった? 雪が降りそうだから迎えに行こうか。傘、持ってないだろ』
僕とほとんど変わらない声が、だけど僕より優しい色で耳に届く。
携帯を耳にあてたまま、僕は目を閉じる。
兄はずっと前にピアノを止めた。自分には向いていないと笑っていたけれど、本当は違うと知っている。
母親の目が僕にしか向いていないと、教師の指導が僕にだけ熱を帯びていると、だれよりも早く気づいたのが兄だった。
ピアノ教室の教師が、知人が審査員をするそのコンクールに僕を出場させたがり、家族そろってドイツに行ったことがある。
はじめての海外に慣れない会場。
両親はいたって普通の会社員とパートだから、通訳をつけてもらったと言っても、僕をちゃんとコンクールに出すことだけを考えて、それで手いっぱいだんだろう。
コンクールを終えて、ホテルに戻る道すがら、僕は兄を探していた。
だけど両親はホテルに帰ることしか考えられなかったらしい。
気がついた時、兄は家族とはぐれて行方不明になっていた。
ホテルの職員や地元警察まで巻き込んだ騒動のすえ、コンクール会場のすぐ近くにある公園の端で、うずくまって震えていた兄は発見された。
はぐれてから一夜が明けて保護された兄は、帰国してすぐに両親に言い切った。
もう、ピアノは止めますと。
ピアノにまつわる記憶が、決して良い事ばかりじゃないだろうに、兄はそんなことを気にしないように僕を気遣ってくれるのだ。
お人よしで、残酷な優しさだ。胸が痛い。
「……いいよ。少しくらい濡れたって平気さ」
『そう? 今夜は父さんも母さんも遅くなるみたいだから、惣菜買っておいたよ。寄り道しないで帰ってきなね』
「あのさ……僕のこと、不良だとか思ってる? 嫌だなぁ、いつも寄り道しまくってるみたいじゃん」
『練習帰りにポテト買って、食べながら帰ってくるの、どこのどなたでしたっけ?』
言葉に詰まる。
くそ、なまじ親よりもよく僕を観察している片割れに舌打ちする。
「……いいじゃんか。ただ座って弾いてるだけに見えて、結構消耗するんだからさ」
言ったそばから、胸を後悔がよぎる。
これは兄にとっては、古傷をえぐる言葉だったんじゃないか?
携帯を持つ手に力がこもった。
周囲に天才よ、神の手よと誉められる僕を遠巻きに見ていた、いまよりもっと幼かった兄の姿を思い出す。
兄はすぐに言葉を返してきた。
『神音は燃費が悪すぎるんだよ。そんなに細いくせに、どこに入っていくのってくらい食べるくせに、だれよりも早くお腹空いたって騒ぐんだから』
仕方ないなぁと言いたげな笑い含みな声音に、手から力が抜ける。
「悪かったなッ……もうすぐ帰るよ。あとちょっとで駅だから」
『うん。気をつけて』
通話を切って、携帯をしまいながらため息をつく。
優しくて、控えめな兄に苦手意識が芽生えていた。
双子として生まれたせいか、そばにいてまったく苦にならない存在だったのに、いつからだろう。
兄の笑顔の裏に、まだ血を流している傷が隠れているんじゃないかと疑うようになったのは。
不在がちな両親に代わって、家事をこなし食事の心配をしてくれる兄に、後ろめたさを感じるようになって、どれくらい経っただろう。
頭の中で、さっき聞いた着信音がまた自動的に再生しはじめた。
鬱陶しいと頭を振っても音は消えない。
当たり前だ。実際に耳にしたのはもうずっと前の出来事で、今現在の音じゃないんだから止まらない。
すると次々と頭の中で音が勝手に再生されはじめる。
教師の目前で、何度も演奏した曲目。
女子高生の携帯着信音、その前に通りがかった店のBGM。
信号待ちしていた車の中から漏れてきたメロディー、遠くで鳴っていた救急車のサイレン。
次から次へと明快な音階と共に溢れかえって、まるでおもちゃ箱をひっくり返した子供部屋のようになる。
頭が、痛い――。
顔をしかめて、道端にしゃがみこむ。
僕の周囲を避けて通っていく人々が、遠慮がちに、気遣わしげに見下ろしていく。
今夜はいろいろありすぎたんだ。
いつもならおもちゃ箱からの氾濫はすぐに収まるのに、今夜はなかなか静かになってくれない。
最大音量で同時に全部の音が鳴り響くもんだから、脳細胞のひとつひとつが悲鳴を上げているようだった。
狂って叫び出してしまいそうだ。
いっそそうした方が楽になるだろうか。
本当はピアノなんてどうでもいいんだって、母親の喜ぶ顔を悲しみに塗り替えたくないから続けているだけだなんて、口に出せたらどれだけ楽になれるだろう。
たぶん優しく鋭い兄は僕の気持ちに気づいている。
だけど言わない。僕はそんな兄を恨んでいる。
八つ当たりだ。自分で言えないから、言ってくれない兄を勝手に悪者にしているだけなんだ。
だから罪悪感でまともに兄の目を見られない。
兄は自分にない才能を持つ僕を、ただの弟として接してくれている貴重な人なのに。
こんな頭を持って生まれてこなければよかったんだ。
音を聞いて、覚えて、再現できたって、だから何だって言うんだ。
大好きな人を傷つけているかもしれないって、怯えるだけじゃないか。
ピアノをやめれば母親は悲しみ、ピアノを続ける限り兄は弟と違う自分に苦しむ。
好きでもない音楽なのに、弾かなければ教師が憤る。
どうしたらいい。だれも傷つかない方法がどこかにないか、だれか、教えてくれ。
だれでもいい、そばを通り過ぎていく人の中の、たったひとりでいいから。
助けを求めて視線がさまよう。
その時、どこからか音楽が耳に届いた。
中学の同級生たちが貸してくれたCDで聞いたことがある音色だ。
クラシックばかりに慣れ親しんできた耳には、異色すぎて新鮮な音色に聞こえる。
僕は何かに導かれるような心地で立ち上がった。
雑貨屋とカフェの間に小道があって、音楽はその奥から聞こえてくる。
街灯の少ない小道はそれなりに幅広い。
歩いていく人は少ないものの、怯えるほど薄暗い雰囲気でもない。
しばらく歩いて、音楽の発生源に辿り着く。
ギターケースを開いて足元に置き、ギターを弾く二人組がいた。
茶色の髪を肩につくくらいまで伸ばした、黒い服装の細身の男が歌っている。
となりでギターを鳴らす男は、まるでスポーツ選手のように逞しい体つきに、鋭い目をしている。ときどき口を開いては、茶髪の男と声を合わせる。
彼らの前に数人が立ち止まり、路上に座り込んで歌を聞いている者もいた。
僕はぼんやりと立ち尽くしたまま、ただ彼らの歌を耳で追った。
『午前二時 青い闇の中で 肩を寄せ抱きあう
足元にくすぶる白い煙に 僕たちの未来が揺れていた
この胸を切り裂いたなら 君に想いが伝わるだろうか
名前を呼べたなら 夜明けを怯えずにいられたのに』
きれいな声が切なく響いて、路上に流れていく。
彩る音はギターだけなのに、まるで山の中を静かに流れる清流のそばにいるような心地がした。
茶髪の男の声が、とても澄んできれいだった。
僕が目を閉じて聞いていると、やがて曲が余韻を残して終わった。
彼らが一礼をすると、観客から拍手が送られる。
座りこんでいた観客が立ち上がり、彼らに何か話しかけた後で歩き去った。
カップルも片づけをはじめた彼らに近寄って、開いていたギターケースに小銭を入れながら何かを言った。
気がつけば僕はずっと路地の端に立ったまま、彼らを見続けていた。
不快な音の氾濫に苦しんでいた頭の中が静まり返っていた。
表面は穏やかだけど、その地下にはマグマのように激しい興奮がある。僕の頭の中はいま、そんな感じだった。
(惜しいな……高音域が歌いこなせていなかった。編曲を直した方がいい箇所もいくつか。それに……)
次々に彼らの曲にアイディアが浮かんできて、止められないし止めようとも思わない。
考えることが楽しくてたまらず、すぐにでも試してみたくて興奮していた。
僕の口元に自然と笑みが浮かんでくる。
どれだけ母親が喜んでくれても。コンクールでいい成績を残しても、何時間とピアノに向かい合っていても感じなかった気持ちが、泉の底から水が湧き出てくるかのように溢れてくる。
大昔に死んだ人間が感じたことじゃない。
いま生きて、あがいている人間が作り出す音と物語。
これこそ僕が求めていたものだと思った。
「決めた」
楽器を片づけていたふたりが、ぴたりと動きを止める。
小さくても鋭い僕の声に気づいて、僕を見上げてくる。
ふたりとも若いけれど、僕よりは年上だ。
茶髪の男と僕は、そんなに変わらないかもしれない。
スポーツ選手のような黒髪の男は、もっと年上だと思えた。
「なんだ、おまえ……中学生やないか?」
年上の男が僕を脅すように睨んでくる。演奏中にほとんど目を上げず、俯いていたのはその目つきの鋭さで、観客を怯えさせないようにしていたんだろう。
だけど僕は彼の視線を怖いと思わなかった。興奮しすぎてそんな余裕もなくなっていたんだと思う。
「あんま中坊がうろつく時間とちゃうで? どないしたん」
茶髪の男も早くお帰りと小さく呟く。
僕はふたりに向かって、不敵に笑った。
「ギターを貸してくれない?」
「はぁ?」
見ず知らずの少年が、いきなり大切な楽器に触らせろと言うんだ。彼らが驚くのも当然だとは思う。
だけどいますぐ、聞いたばかりの彼らの曲にアレンジを試したくて、我慢できなかった。
呆気にとられたままの茶髪の手から、問答無用にギターをひったくる。
もちろん、すぐに茶髪が怒りだしたけれど、少し距離を取って彼の手から逃れる。
ギターなんて弾いたことがない。
演奏中に彼らの手つきを見ていただけだ。
だからあれこれ試しながら弾いて、音を覚えると僕はよしっ、と小さく呟いてから指を動かしはじめた。
「……!」
茶髪が僕からギターを奪い返そうとしていた手を止めて、細めの目を丸く開いた。
その背後で黒髪の男も怪訝そうな顔になった。
「おまえさん、いままでもオレらの演奏聞いてきたんか?」
黒髪の男が疑わしそうに聞いてくるのへ、首を横に振って応え、茶髪が歌っていたパートを鼻歌で追いかける。
彼らの演奏よりも早めで、キーを変えた部分も混ぜた。
突然演奏しはじめた僕の前で、彼らは動きを止めて聞き入っていた。
「……どう? さっきより、よくない?」
演奏を終えてギターを返しながら問いかける。
胸の奥は緊張で強張っていたけど、表情は涼しげに取り繕って。
するとギターを受け取りながら、茶髪が言う。
「ギター……上手いな。どこで習ったんだ」
「ううん、だれにも習ってない。あんたたちの演奏を真似しただけ」
またもや彼らが凍りついたのがわかって、僕は内心で笑った。
「明日もここで演奏する?」
「あ、ああ……五時から一時間だけど……?」
「わかった。じゃぁ、その時僕の作った曲を持ってくるから、見てよ。それでもし気に入ったら、歌ってくれない?」
僕は必死だった。
ようやく見つけた、僕の音楽への糸口は、彼らの先にしかなかったんだ。
他に頼れる人の見当もつかない今、ここで彼らとの繋がりを切られてしまったら、また音の氾濫の中でひとり蹲るしかなくなると思った。
「……ええで。明日またおいでや、坊主」
黒髪の男が僕の前に立って、頭を撫でながら笑っていた。
彼なりに僕の何かを感じたのかもしれないし、違うかもしれない。
でも僕はうれしかった。笑って彼らに頷いて礼を言ってから、駅への道を走りだした。
「おかえりー……って、何かあったの? すごくうれしそうだね」
双子の兄の響が僕を見上げて目を丸くした。
両親はまだ帰っていないようで、買い揃えた惣菜とご飯の器を並べて、テレビを見ながら待っていたらしい響に、僕はつかみかかるような勢いで近寄って、その肩をつかんだ。
「鹿沼先生に褒められたとか?」
僕を追いだしたピアノ教師の名前に首を振る。
あんな奴に褒められたって、こんなに興奮したりしない。
「響ッ、ようやく見つけたんだよ。やっとわかったんだ、僕の音楽!!」
ピアノの前に座って、ずいぶんと昔に死んだ作曲家の遺作を弾くのも面白かったけど、その先はいつも不透明だった。
僕の音楽はピアノの前にはない気がして、でもだれにも言えなかった。
ようやく言えた相手には追い出されて、怒られた。
でも響なら?
「クラシックはもういいんだ。僕のやりたい音楽と違うって、わかった。やりたい音楽がわかったから!」
僕と同じ顔が穏やかに僕を見上げて、ほわりと微笑んだ。
こんな表情、僕にはとうてい真似できない。
外見はほとんど同じなのに、中身が違うと表情も違ってくるんだな。
「よかったね、神音。ずっと悩んでたみたいだし……いますごくいい顔してる」
「……怒らないんだ」
「何で? まさか鹿沼先生にも同じこと言ったの」
そりゃあ怒るだろうね、と響は苦笑しながら頷いている。
僕が唇を尖らせて、だってと言いかけたところへ両親が帰って来た。
ただいま~と言う声に、響はテレビを消して立ち上がった。
「父さんたちも帰ってきたし、先に食べよう」
久しぶりに家族がそろった夕食になった。
父親はいつも帰りが遅く、パートのはずの母親も勤続年数の長さから頼られることが多いらしく、予定外の残業が多かった。
僕もピアノの練習でほぼ毎日教師の自宅に通っていたから響が一番早く帰宅できる毎日だった。
「いつもごめんね、響? お母さん助かってるけど……響も友達と遊びたいんじゃないかって気になっているのよ?」
「ん~……別にそうでもないよ。みんなとは学校で会えるし、部活も自由参加だから。惣菜買って帰るくらい」
ごはんを飲みこんで、母親は困ったように笑う。
「洗濯とか掃除までしてくれるじゃない。本当に……わたしより母親らしい子だわ」
「ははは。まだ中学生なのに、苦労してるなぁ、響は」
「他人事みたいに言わないで下さいよ」
響がコロッケを箸で切りわけつつ、声を上げて笑った父親に拗ねてみせる。
そのとなりで煮魚をほぐしながら、僕は冷や冷やしていた。
言葉の通りに響が何も感じていないわけがない。
ずっとそばにいた僕だからわかる。僕が響に後ろめたさを感じているように、響は僕に劣等感を持っている。
「でも響が手伝ってくれるから、神音も練習に行けるわけだ。重要なことだぞ」
「…………」
ああ、と僕はため息をついた。
両親は嫌いじゃない。収入面も悪くないおかげで、恵まれた生活をさせてもらっているとわかっている。
だけどピアノを本格的に続けるには、両親の収入では厳しいことは事実だ。
両親の帰宅が遅いのはその為で、自然と響がシワ寄せを受けているのだ。
僕に劣等感を持つ響が、そう言われてもうれしいはずがない。
響の皿から、切り分けたコロッケの欠片がコロリ、と転がり落ちた。
何だって両親はこんなにも無神経なんだろう。
「父さんっ」
「ん?」
思わず声を上げた僕を、父親はビール片手に呑気に見てくる。
「そのことなんだけど、僕、ピアノを辞めたい」
「……神音?」
「何を言ってるんだ」
母親と父親が声を重ねて問い返した。
となりで響が息を止めているのがわかる。
「費用は心配しなくていいんだ。神音は練習に集中して……」
父親の台詞を、僕はテーブルに両手をついて立ち上がり遮った。
「違うんだっ! 僕は……僕の音楽は」
「神音」
せっかく言いかけた僕の手を、となりから響がつかんだ。
視線を向けると、厳しい顔で響が僕を見上げて、少しだけ首を横に振ってみせた。
「何だね、神音?」
「そうよ心配しなくていいのよ。鹿沼先生も心配いらないっておっしゃていたわ」
両親は僕が高校に怯えていると勘違いしたらしい。
僕が来春から通う高校は音楽の特進クラスがあり、在学中に海外の音楽院に留学する生徒もいるほどに力を入れている。
もちろん学費も普通科より高いが、国内コンクールで受賞歴があれば学校推薦で受験でき、僕もそれで入学するのだ。
いままでの一般学校ではない環境に、緊張しているのだと思ったんだ。
違うと言いたかったけれど、響の手が離れない。
何か言いたそうに響の手に力がこめられて、気になって両親に何も言えなくなってしまった。
そうして夕食は終わり、僕たちは部屋に戻った。
双子に与えられた部屋は二階にあって、家の中で一番広い南向きの洋室だ。
「響。なんでさっき邪魔したんだよ」
「神音は特進クラスに入るんだろ。練習は続けるべきなんじゃないか? せめて高校に通いはじめるまではさ。俺には音楽のことはわからないけど……だから詳しい人のところに行くのは悪くないんじゃないかって……」
片割れはさっきの断固とした表情が嘘みたいに、だんだんと小さな声になりながら話した。
幼い頃に少しピアノを習っただけの自分が、何を言ってるんだと思っているんだろう。
少し丸まった響の背中を見て、僕は苛立った。
「勝手に決めつけないでくれない?」
それだけ言い捨てた。
苛々するのは片割れの自信のなさだけじゃない。
(僕は間違ってない。僕の音楽は特進にはないんだよ)
それを証明するためにも、僕はキーボードの前に座った。
鹿沼と練習してきた楽譜を外して、白紙の五線譜を代わりに立てる。
目を閉じてしばらくすると、茶髪と黒髪の二人が演奏した曲がよみがえってくる。
作曲はしたことがない。いたずらに口ずさむ程度で、楽譜を起こしたことはない。
だけど出来ないとは思わなかった。
友達に借りた歌謡界の雑誌に、付録でついていた楽譜を読んだことならある。
ノートパソコンを起動させて、楽譜の書き方を調べながら二人の演奏曲をアレンジしながら楽譜に起こした。
すると最後まで書きあげたとたんに、ひとつの旋律が思い浮かんだ。
キーボードで試しに奏でてみる。
とたんにおもちゃ箱が頭の中でひっくり返って、次々と音が弾けていく。
(これだっ!)
旋律が次の音を誘い、次の音がまた次の旋律を連れてくる。そんな感じで僕の頭の中で曲があざやかに浮かび上がって形になっていく。
書きとめる手の速度がもどかしかった。
もっと早く、次の音をと気が焦ってしまう。
どうにか楽譜に起こし終わった。ふぅ、と息を吐き出すと周囲がずいぶんと静かになっていた。
響はもう眠ったんだ。僕は慌てて部屋の天井についたままだった室内灯を消した。
(さっきはちょっと言い過ぎたかも……響なりに僕を気遣ってくれたのに)
舌打ちしたいような、寝ている響をすぐにでも起こして謝りたいような気分を持て余して、僕は深く呼吸をくり返した。
(とにかくいまはあの二人に証明したい。そして僕自身にも)
ヘッドフォンを装着したキーボードを弾きながら、楽譜を何度も検討していくうちに時間がさらさらと流れて行った。
気がつけば窓の外がほんのり青白くなっていた。
慌てて着替えもしないでベッドに飛び込み、少しだけ仮眠をとった。
さすがに目が疲れて、頭も重くなっていたけれど、心の中は充足感でいっぱいだった。
明日二人に会うのが待ち遠しいと思いながら、意識をゆっくりと手放した。
昨日のことなど忘れたかのような鹿沼教師との練習を終えて、雑貨屋とカフェの間の小道を入って行くと、あの場所に二人はいた。
「もう来てたんだ。早いね」
ふたりの前に立って声をかけると、ようやく気づいて見上げてくる。
口を開きかけた黒髪の男に、僕は手に持ったままだった楽譜の束を押しつけた。
「なんや、本当に持ってきたんかい……」
目を白黒させて僕と楽譜を交互に見ていた黒髪の男は、しばらくして楽譜に目を落ちつけた。
しばらく表通りを行き交う人の足音だけが聞こえる。
「八代……どうした?」
茶髪が立ち上がり、黒髪の男に声をかけた。
八代と呼ばれた男は、かくかくした動きで顔を動かして、視線を僕へと向ける。
「これ……作ったんか、おまえさんが」
「ああ」
僕は胸を張って頷いた。
予想以上の反応に舞い上がっていた。
八代の横から楽譜をのぞいた茶髪も、しだいに目を丸く開いていく。
「君、いま、いくつ?」
呆然と呟くきれいな声に、僕はにっこりと笑って答えた。
「今日でちょうど15だ。中学三年生」
ふたりは絶句して、僕を見つめた。
そのままたぶん、十分間は固まっていたと思う。
これが僕と八代と文月(茶髪の名前だ)に出会ったいきさつで、僕が自分の道を踏みだした瞬間だった。
ほんのひと時人気を集めたって、数年後には跡形もなく消え去る世界。
僕が踏みこんだ世界はそういう場所だと、同級生から何度も聞かされた。
だけど僕は意思を曲げなかった。
代わりに高校の特進クラスにはこのまま入学するし、練習も続けると約束して、両親にはどうにか許された。
これから先、本当に成功できるのかはわからない。
知識のないまま飛びこんだ世界で、すぐに名をあげられるわけもない。
だけど僕の頭の中に、はじめて作曲した夜に浮かんだのは、曲だけじゃなかった。
僕の曲を奏でる、最高で最適な音。
それがはっきりと聞こえたんだ。
僕はその音を探さなくてはならない。
きっと、すべての音を揃えた時、僕の本当の音楽は世に飛び出せる。
かならず僕の音楽はだれかの心を動かせる。
最高で最適な音と一緒に、僕の音楽が動き出せるんだ。
『部屋のすみで膝を抱え なにに怯えているの
見つめる床に 望むものが落ちているの?
制服を脱ぎ捨て 教科書を焼き払え
耳を澄ませ 聞いてみろ おまえの中で叫んでいる
Stand up!
さぁ 立ち上がれ!
目を閉じて 耳を塞いでも
あざむけない おまえの中の獣は
欲望のままに走ってみろ
吠えろ 声が涸れるまで
やがて立ち止まり 休めるとき
おまえの両手に 光が輝くから』
僕がはじめて作り、無理やりふたりに押しつけた曲は、文月が詞をつけた。
雑貨屋とカフェの間の道でこの曲が披露されたのは、ふたりに出会った一月後。
歌ったのは僕だ。
だけど数年後にこの曲は生まれ直すことになる。
新たな歌い手の声によって――。
演歌からクラシックまでジャンルはさまざまあるし、僕はたかだか十数年しか生きていないんだから知らないことの方が多いと思っている。
それでもJ-POPとか呼ばれるジャンルが厳しく儚い世界なんだということは知っている。
中学生でもバンドを組みたいと言いだす奴らが周囲にはいたし、彼らが音楽雑誌やらネットで情報を仕入れて、頼んでもいないのにいろいろ教えてくれたからだ。
いわく、ミリオンヒットを記録したバンドのメンバーが、つい最近変死体で見つかっただとか。
使いきれないほどの金額を稼いだミュージシャンが、夜逃げ同然で東京から姿を消しただとか。
どこまで本当か確かめようもない話ばかりだったけど、そんな話が飛び交う世界がまともじゃないことだけは確かだ。
耳に電子音が奏でる曲が飛び込んでくる。
僕は無意識に音の方に目を向けて、すれ違った女子高生が携帯を操作するのを見る。
そのままお互いに遠ざかっていく。
「…………」
僕も彼女も互いに見知らぬ他人だ。
クリスマスを前ににぎわう街角で、たまたますれ違っただけで、よくある日常のかけらにしかならない。
無言のまま足音をわざと立てて歩いていく。
笑い声をあげる大学生らしき男性数人が横切った。
忙しない足取りの、疲れ切った会社員たち。
小学生くらいの子供を連れた母親もいた。塾か習い事の帰り道だろうか。
見上げると、都会の明るさに色褪せた夜空が目に映る。
「…………」
どれだけ僕が口を閉ざしていても、世界は音に満ちている。
笑い声、話し声、足音、車の騒音。
そのすべてを切り裂いて飛び出す、耳障りな着信音。
また追い抜いて行った男性の携帯が、高らかに音を放つ。
僕は鼻歌で曲を奏でた。
さっきすれ違った女子高生が鳴らした着信音のメロディーだ。
続いて男性の携帯の着信音も鼻歌で歌い、なげやりな気分で足元へ視線を落とした。
『神音ちゃんはすごいわ。たった一度聞いただけなのに、ほとんど完璧に覚えているんですもの。絶対に音大へ進学させるべきだわ』
頭の中で甲高い女性教師の声が自動再生される。
女性教師の台詞にまんざらでもない表情の母親も思い出して、僕は唇を噛みしめた。
たった一度聞いただけの音を、覚えてしまうことがどういうことか、あんたにはわからないのか。
そう言って胸倉つかんで叫びたい衝動を、もうずっと長い間こらえてきた。
母親は子供の頃に習い事をさせてもらえなかったと言う。
あまり裕福でない家庭に育ち、兄弟も多かったせいで母親に習い事をさせる時間も金銭の余裕もなかったのだと言っていた。
『お母さん、ピアノがどうしても習いたくってね……』
その悔しさを晴らすために、僕と双子の兄をピアノ教室に通わせはじめたのは幼稚園に入った頃だった。
すぐに僕は女性教師と似たような賛辞をもらい、母親は真に受けた。
僕は小学校に入ってすぐにコンクールだなんだと引っ張り回されはじめ、賞を獲ってしまったものだから、母親の熱は増すばかりで。
中学校に入った僕は本格的にピアノ教師について指導を受けるようになった。
『すごいわ、神音ちゃん! 行く末はピアニストね。お母さん誇らしいわ、自慢の息子だわ!』
今夜も母親に言われるがまま、教師の指導を受けた帰りだ。
灰色の道を見下ろしてため息を深く吐き出した。
今夜は教師に呆れられてしまった。
『どうしたんだね、何かあったのかい? 神音くんらしくない……音が空回りしているよ』
優しくて鋭い指導力のある中年の男性教師だった。
つい父親の代わりのように頼っていた相手だから、本音が止める間もなく口から飛び出してしまった。
クラシックなんて、つまらない。
大昔に死んだ人間の作った曲ばっかり演奏して、気取った連中に聞かせて、何が楽しいんだ。
すると僕の本音を聞いた教師は、それまでの態度を豹変させて立ち上がって怒鳴りつけてきた。
才能があるからって図に乗るな、と言って教師は僕を放りだした。
文字通り、襟首つかんで指導に使っていた教室兼務の自宅から引きずり出したのだ。
「……僕はいままで何をしてきたんだろ」
電飾と華やかなディスプレイが立ち並ぶ道の途中で立ち止まって、夜空を見上げて動かない僕に、通行人たちが時々好奇の目を向けていく。
それでも彼らは立ち止まらない。すぐに自分たちの世界に戻って、僕のことなんて忘れていく。
当然だ。世界はこうやって動いているんだ。
生きているっていうのは、そういうものなんだろう。
いまある中で、一緒にいたい人のそばに行ったり、食べたり、飲んで笑う。
傷ついて、すがりついた人のぬくもりに泣いて。
灰色の夜空を見上げたままでいると、またどこかで着信が鳴った。
コンサートなんて聞いたこともないだろうに、最近はクラシックの着信が多くなったな、と考えていると上着のポケットに振動を感じた。
はっと我に返ってポケットを探り、携帯を取り出す。
液晶に表示された着信は双子の兄のものだ。
「何?」
つい最近双子にそれぞれ与えられた携帯は、同じ機種で色が違う。
僕は黄色で、兄は白だった。
『神音?』
僕の携帯にかけているんだから、僕が出るのが当然だと思うのに、兄は毎回必ずまっさきに名前を呼んでくる。
何度言っても癖だから、と苦笑していた穏やかな表情を思い出して、ささくれていた心が少し温かくなった。
『練習、終わった? 雪が降りそうだから迎えに行こうか。傘、持ってないだろ』
僕とほとんど変わらない声が、だけど僕より優しい色で耳に届く。
携帯を耳にあてたまま、僕は目を閉じる。
兄はずっと前にピアノを止めた。自分には向いていないと笑っていたけれど、本当は違うと知っている。
母親の目が僕にしか向いていないと、教師の指導が僕にだけ熱を帯びていると、だれよりも早く気づいたのが兄だった。
ピアノ教室の教師が、知人が審査員をするそのコンクールに僕を出場させたがり、家族そろってドイツに行ったことがある。
はじめての海外に慣れない会場。
両親はいたって普通の会社員とパートだから、通訳をつけてもらったと言っても、僕をちゃんとコンクールに出すことだけを考えて、それで手いっぱいだんだろう。
コンクールを終えて、ホテルに戻る道すがら、僕は兄を探していた。
だけど両親はホテルに帰ることしか考えられなかったらしい。
気がついた時、兄は家族とはぐれて行方不明になっていた。
ホテルの職員や地元警察まで巻き込んだ騒動のすえ、コンクール会場のすぐ近くにある公園の端で、うずくまって震えていた兄は発見された。
はぐれてから一夜が明けて保護された兄は、帰国してすぐに両親に言い切った。
もう、ピアノは止めますと。
ピアノにまつわる記憶が、決して良い事ばかりじゃないだろうに、兄はそんなことを気にしないように僕を気遣ってくれるのだ。
お人よしで、残酷な優しさだ。胸が痛い。
「……いいよ。少しくらい濡れたって平気さ」
『そう? 今夜は父さんも母さんも遅くなるみたいだから、惣菜買っておいたよ。寄り道しないで帰ってきなね』
「あのさ……僕のこと、不良だとか思ってる? 嫌だなぁ、いつも寄り道しまくってるみたいじゃん」
『練習帰りにポテト買って、食べながら帰ってくるの、どこのどなたでしたっけ?』
言葉に詰まる。
くそ、なまじ親よりもよく僕を観察している片割れに舌打ちする。
「……いいじゃんか。ただ座って弾いてるだけに見えて、結構消耗するんだからさ」
言ったそばから、胸を後悔がよぎる。
これは兄にとっては、古傷をえぐる言葉だったんじゃないか?
携帯を持つ手に力がこもった。
周囲に天才よ、神の手よと誉められる僕を遠巻きに見ていた、いまよりもっと幼かった兄の姿を思い出す。
兄はすぐに言葉を返してきた。
『神音は燃費が悪すぎるんだよ。そんなに細いくせに、どこに入っていくのってくらい食べるくせに、だれよりも早くお腹空いたって騒ぐんだから』
仕方ないなぁと言いたげな笑い含みな声音に、手から力が抜ける。
「悪かったなッ……もうすぐ帰るよ。あとちょっとで駅だから」
『うん。気をつけて』
通話を切って、携帯をしまいながらため息をつく。
優しくて、控えめな兄に苦手意識が芽生えていた。
双子として生まれたせいか、そばにいてまったく苦にならない存在だったのに、いつからだろう。
兄の笑顔の裏に、まだ血を流している傷が隠れているんじゃないかと疑うようになったのは。
不在がちな両親に代わって、家事をこなし食事の心配をしてくれる兄に、後ろめたさを感じるようになって、どれくらい経っただろう。
頭の中で、さっき聞いた着信音がまた自動的に再生しはじめた。
鬱陶しいと頭を振っても音は消えない。
当たり前だ。実際に耳にしたのはもうずっと前の出来事で、今現在の音じゃないんだから止まらない。
すると次々と頭の中で音が勝手に再生されはじめる。
教師の目前で、何度も演奏した曲目。
女子高生の携帯着信音、その前に通りがかった店のBGM。
信号待ちしていた車の中から漏れてきたメロディー、遠くで鳴っていた救急車のサイレン。
次から次へと明快な音階と共に溢れかえって、まるでおもちゃ箱をひっくり返した子供部屋のようになる。
頭が、痛い――。
顔をしかめて、道端にしゃがみこむ。
僕の周囲を避けて通っていく人々が、遠慮がちに、気遣わしげに見下ろしていく。
今夜はいろいろありすぎたんだ。
いつもならおもちゃ箱からの氾濫はすぐに収まるのに、今夜はなかなか静かになってくれない。
最大音量で同時に全部の音が鳴り響くもんだから、脳細胞のひとつひとつが悲鳴を上げているようだった。
狂って叫び出してしまいそうだ。
いっそそうした方が楽になるだろうか。
本当はピアノなんてどうでもいいんだって、母親の喜ぶ顔を悲しみに塗り替えたくないから続けているだけだなんて、口に出せたらどれだけ楽になれるだろう。
たぶん優しく鋭い兄は僕の気持ちに気づいている。
だけど言わない。僕はそんな兄を恨んでいる。
八つ当たりだ。自分で言えないから、言ってくれない兄を勝手に悪者にしているだけなんだ。
だから罪悪感でまともに兄の目を見られない。
兄は自分にない才能を持つ僕を、ただの弟として接してくれている貴重な人なのに。
こんな頭を持って生まれてこなければよかったんだ。
音を聞いて、覚えて、再現できたって、だから何だって言うんだ。
大好きな人を傷つけているかもしれないって、怯えるだけじゃないか。
ピアノをやめれば母親は悲しみ、ピアノを続ける限り兄は弟と違う自分に苦しむ。
好きでもない音楽なのに、弾かなければ教師が憤る。
どうしたらいい。だれも傷つかない方法がどこかにないか、だれか、教えてくれ。
だれでもいい、そばを通り過ぎていく人の中の、たったひとりでいいから。
助けを求めて視線がさまよう。
その時、どこからか音楽が耳に届いた。
中学の同級生たちが貸してくれたCDで聞いたことがある音色だ。
クラシックばかりに慣れ親しんできた耳には、異色すぎて新鮮な音色に聞こえる。
僕は何かに導かれるような心地で立ち上がった。
雑貨屋とカフェの間に小道があって、音楽はその奥から聞こえてくる。
街灯の少ない小道はそれなりに幅広い。
歩いていく人は少ないものの、怯えるほど薄暗い雰囲気でもない。
しばらく歩いて、音楽の発生源に辿り着く。
ギターケースを開いて足元に置き、ギターを弾く二人組がいた。
茶色の髪を肩につくくらいまで伸ばした、黒い服装の細身の男が歌っている。
となりでギターを鳴らす男は、まるでスポーツ選手のように逞しい体つきに、鋭い目をしている。ときどき口を開いては、茶髪の男と声を合わせる。
彼らの前に数人が立ち止まり、路上に座り込んで歌を聞いている者もいた。
僕はぼんやりと立ち尽くしたまま、ただ彼らの歌を耳で追った。
『午前二時 青い闇の中で 肩を寄せ抱きあう
足元にくすぶる白い煙に 僕たちの未来が揺れていた
この胸を切り裂いたなら 君に想いが伝わるだろうか
名前を呼べたなら 夜明けを怯えずにいられたのに』
きれいな声が切なく響いて、路上に流れていく。
彩る音はギターだけなのに、まるで山の中を静かに流れる清流のそばにいるような心地がした。
茶髪の男の声が、とても澄んできれいだった。
僕が目を閉じて聞いていると、やがて曲が余韻を残して終わった。
彼らが一礼をすると、観客から拍手が送られる。
座りこんでいた観客が立ち上がり、彼らに何か話しかけた後で歩き去った。
カップルも片づけをはじめた彼らに近寄って、開いていたギターケースに小銭を入れながら何かを言った。
気がつけば僕はずっと路地の端に立ったまま、彼らを見続けていた。
不快な音の氾濫に苦しんでいた頭の中が静まり返っていた。
表面は穏やかだけど、その地下にはマグマのように激しい興奮がある。僕の頭の中はいま、そんな感じだった。
(惜しいな……高音域が歌いこなせていなかった。編曲を直した方がいい箇所もいくつか。それに……)
次々に彼らの曲にアイディアが浮かんできて、止められないし止めようとも思わない。
考えることが楽しくてたまらず、すぐにでも試してみたくて興奮していた。
僕の口元に自然と笑みが浮かんでくる。
どれだけ母親が喜んでくれても。コンクールでいい成績を残しても、何時間とピアノに向かい合っていても感じなかった気持ちが、泉の底から水が湧き出てくるかのように溢れてくる。
大昔に死んだ人間が感じたことじゃない。
いま生きて、あがいている人間が作り出す音と物語。
これこそ僕が求めていたものだと思った。
「決めた」
楽器を片づけていたふたりが、ぴたりと動きを止める。
小さくても鋭い僕の声に気づいて、僕を見上げてくる。
ふたりとも若いけれど、僕よりは年上だ。
茶髪の男と僕は、そんなに変わらないかもしれない。
スポーツ選手のような黒髪の男は、もっと年上だと思えた。
「なんだ、おまえ……中学生やないか?」
年上の男が僕を脅すように睨んでくる。演奏中にほとんど目を上げず、俯いていたのはその目つきの鋭さで、観客を怯えさせないようにしていたんだろう。
だけど僕は彼の視線を怖いと思わなかった。興奮しすぎてそんな余裕もなくなっていたんだと思う。
「あんま中坊がうろつく時間とちゃうで? どないしたん」
茶髪の男も早くお帰りと小さく呟く。
僕はふたりに向かって、不敵に笑った。
「ギターを貸してくれない?」
「はぁ?」
見ず知らずの少年が、いきなり大切な楽器に触らせろと言うんだ。彼らが驚くのも当然だとは思う。
だけどいますぐ、聞いたばかりの彼らの曲にアレンジを試したくて、我慢できなかった。
呆気にとられたままの茶髪の手から、問答無用にギターをひったくる。
もちろん、すぐに茶髪が怒りだしたけれど、少し距離を取って彼の手から逃れる。
ギターなんて弾いたことがない。
演奏中に彼らの手つきを見ていただけだ。
だからあれこれ試しながら弾いて、音を覚えると僕はよしっ、と小さく呟いてから指を動かしはじめた。
「……!」
茶髪が僕からギターを奪い返そうとしていた手を止めて、細めの目を丸く開いた。
その背後で黒髪の男も怪訝そうな顔になった。
「おまえさん、いままでもオレらの演奏聞いてきたんか?」
黒髪の男が疑わしそうに聞いてくるのへ、首を横に振って応え、茶髪が歌っていたパートを鼻歌で追いかける。
彼らの演奏よりも早めで、キーを変えた部分も混ぜた。
突然演奏しはじめた僕の前で、彼らは動きを止めて聞き入っていた。
「……どう? さっきより、よくない?」
演奏を終えてギターを返しながら問いかける。
胸の奥は緊張で強張っていたけど、表情は涼しげに取り繕って。
するとギターを受け取りながら、茶髪が言う。
「ギター……上手いな。どこで習ったんだ」
「ううん、だれにも習ってない。あんたたちの演奏を真似しただけ」
またもや彼らが凍りついたのがわかって、僕は内心で笑った。
「明日もここで演奏する?」
「あ、ああ……五時から一時間だけど……?」
「わかった。じゃぁ、その時僕の作った曲を持ってくるから、見てよ。それでもし気に入ったら、歌ってくれない?」
僕は必死だった。
ようやく見つけた、僕の音楽への糸口は、彼らの先にしかなかったんだ。
他に頼れる人の見当もつかない今、ここで彼らとの繋がりを切られてしまったら、また音の氾濫の中でひとり蹲るしかなくなると思った。
「……ええで。明日またおいでや、坊主」
黒髪の男が僕の前に立って、頭を撫でながら笑っていた。
彼なりに僕の何かを感じたのかもしれないし、違うかもしれない。
でも僕はうれしかった。笑って彼らに頷いて礼を言ってから、駅への道を走りだした。
「おかえりー……って、何かあったの? すごくうれしそうだね」
双子の兄の響が僕を見上げて目を丸くした。
両親はまだ帰っていないようで、買い揃えた惣菜とご飯の器を並べて、テレビを見ながら待っていたらしい響に、僕はつかみかかるような勢いで近寄って、その肩をつかんだ。
「鹿沼先生に褒められたとか?」
僕を追いだしたピアノ教師の名前に首を振る。
あんな奴に褒められたって、こんなに興奮したりしない。
「響ッ、ようやく見つけたんだよ。やっとわかったんだ、僕の音楽!!」
ピアノの前に座って、ずいぶんと昔に死んだ作曲家の遺作を弾くのも面白かったけど、その先はいつも不透明だった。
僕の音楽はピアノの前にはない気がして、でもだれにも言えなかった。
ようやく言えた相手には追い出されて、怒られた。
でも響なら?
「クラシックはもういいんだ。僕のやりたい音楽と違うって、わかった。やりたい音楽がわかったから!」
僕と同じ顔が穏やかに僕を見上げて、ほわりと微笑んだ。
こんな表情、僕にはとうてい真似できない。
外見はほとんど同じなのに、中身が違うと表情も違ってくるんだな。
「よかったね、神音。ずっと悩んでたみたいだし……いますごくいい顔してる」
「……怒らないんだ」
「何で? まさか鹿沼先生にも同じこと言ったの」
そりゃあ怒るだろうね、と響は苦笑しながら頷いている。
僕が唇を尖らせて、だってと言いかけたところへ両親が帰って来た。
ただいま~と言う声に、響はテレビを消して立ち上がった。
「父さんたちも帰ってきたし、先に食べよう」
久しぶりに家族がそろった夕食になった。
父親はいつも帰りが遅く、パートのはずの母親も勤続年数の長さから頼られることが多いらしく、予定外の残業が多かった。
僕もピアノの練習でほぼ毎日教師の自宅に通っていたから響が一番早く帰宅できる毎日だった。
「いつもごめんね、響? お母さん助かってるけど……響も友達と遊びたいんじゃないかって気になっているのよ?」
「ん~……別にそうでもないよ。みんなとは学校で会えるし、部活も自由参加だから。惣菜買って帰るくらい」
ごはんを飲みこんで、母親は困ったように笑う。
「洗濯とか掃除までしてくれるじゃない。本当に……わたしより母親らしい子だわ」
「ははは。まだ中学生なのに、苦労してるなぁ、響は」
「他人事みたいに言わないで下さいよ」
響がコロッケを箸で切りわけつつ、声を上げて笑った父親に拗ねてみせる。
そのとなりで煮魚をほぐしながら、僕は冷や冷やしていた。
言葉の通りに響が何も感じていないわけがない。
ずっとそばにいた僕だからわかる。僕が響に後ろめたさを感じているように、響は僕に劣等感を持っている。
「でも響が手伝ってくれるから、神音も練習に行けるわけだ。重要なことだぞ」
「…………」
ああ、と僕はため息をついた。
両親は嫌いじゃない。収入面も悪くないおかげで、恵まれた生活をさせてもらっているとわかっている。
だけどピアノを本格的に続けるには、両親の収入では厳しいことは事実だ。
両親の帰宅が遅いのはその為で、自然と響がシワ寄せを受けているのだ。
僕に劣等感を持つ響が、そう言われてもうれしいはずがない。
響の皿から、切り分けたコロッケの欠片がコロリ、と転がり落ちた。
何だって両親はこんなにも無神経なんだろう。
「父さんっ」
「ん?」
思わず声を上げた僕を、父親はビール片手に呑気に見てくる。
「そのことなんだけど、僕、ピアノを辞めたい」
「……神音?」
「何を言ってるんだ」
母親と父親が声を重ねて問い返した。
となりで響が息を止めているのがわかる。
「費用は心配しなくていいんだ。神音は練習に集中して……」
父親の台詞を、僕はテーブルに両手をついて立ち上がり遮った。
「違うんだっ! 僕は……僕の音楽は」
「神音」
せっかく言いかけた僕の手を、となりから響がつかんだ。
視線を向けると、厳しい顔で響が僕を見上げて、少しだけ首を横に振ってみせた。
「何だね、神音?」
「そうよ心配しなくていいのよ。鹿沼先生も心配いらないっておっしゃていたわ」
両親は僕が高校に怯えていると勘違いしたらしい。
僕が来春から通う高校は音楽の特進クラスがあり、在学中に海外の音楽院に留学する生徒もいるほどに力を入れている。
もちろん学費も普通科より高いが、国内コンクールで受賞歴があれば学校推薦で受験でき、僕もそれで入学するのだ。
いままでの一般学校ではない環境に、緊張しているのだと思ったんだ。
違うと言いたかったけれど、響の手が離れない。
何か言いたそうに響の手に力がこめられて、気になって両親に何も言えなくなってしまった。
そうして夕食は終わり、僕たちは部屋に戻った。
双子に与えられた部屋は二階にあって、家の中で一番広い南向きの洋室だ。
「響。なんでさっき邪魔したんだよ」
「神音は特進クラスに入るんだろ。練習は続けるべきなんじゃないか? せめて高校に通いはじめるまではさ。俺には音楽のことはわからないけど……だから詳しい人のところに行くのは悪くないんじゃないかって……」
片割れはさっきの断固とした表情が嘘みたいに、だんだんと小さな声になりながら話した。
幼い頃に少しピアノを習っただけの自分が、何を言ってるんだと思っているんだろう。
少し丸まった響の背中を見て、僕は苛立った。
「勝手に決めつけないでくれない?」
それだけ言い捨てた。
苛々するのは片割れの自信のなさだけじゃない。
(僕は間違ってない。僕の音楽は特進にはないんだよ)
それを証明するためにも、僕はキーボードの前に座った。
鹿沼と練習してきた楽譜を外して、白紙の五線譜を代わりに立てる。
目を閉じてしばらくすると、茶髪と黒髪の二人が演奏した曲がよみがえってくる。
作曲はしたことがない。いたずらに口ずさむ程度で、楽譜を起こしたことはない。
だけど出来ないとは思わなかった。
友達に借りた歌謡界の雑誌に、付録でついていた楽譜を読んだことならある。
ノートパソコンを起動させて、楽譜の書き方を調べながら二人の演奏曲をアレンジしながら楽譜に起こした。
すると最後まで書きあげたとたんに、ひとつの旋律が思い浮かんだ。
キーボードで試しに奏でてみる。
とたんにおもちゃ箱が頭の中でひっくり返って、次々と音が弾けていく。
(これだっ!)
旋律が次の音を誘い、次の音がまた次の旋律を連れてくる。そんな感じで僕の頭の中で曲があざやかに浮かび上がって形になっていく。
書きとめる手の速度がもどかしかった。
もっと早く、次の音をと気が焦ってしまう。
どうにか楽譜に起こし終わった。ふぅ、と息を吐き出すと周囲がずいぶんと静かになっていた。
響はもう眠ったんだ。僕は慌てて部屋の天井についたままだった室内灯を消した。
(さっきはちょっと言い過ぎたかも……響なりに僕を気遣ってくれたのに)
舌打ちしたいような、寝ている響をすぐにでも起こして謝りたいような気分を持て余して、僕は深く呼吸をくり返した。
(とにかくいまはあの二人に証明したい。そして僕自身にも)
ヘッドフォンを装着したキーボードを弾きながら、楽譜を何度も検討していくうちに時間がさらさらと流れて行った。
気がつけば窓の外がほんのり青白くなっていた。
慌てて着替えもしないでベッドに飛び込み、少しだけ仮眠をとった。
さすがに目が疲れて、頭も重くなっていたけれど、心の中は充足感でいっぱいだった。
明日二人に会うのが待ち遠しいと思いながら、意識をゆっくりと手放した。
昨日のことなど忘れたかのような鹿沼教師との練習を終えて、雑貨屋とカフェの間の小道を入って行くと、あの場所に二人はいた。
「もう来てたんだ。早いね」
ふたりの前に立って声をかけると、ようやく気づいて見上げてくる。
口を開きかけた黒髪の男に、僕は手に持ったままだった楽譜の束を押しつけた。
「なんや、本当に持ってきたんかい……」
目を白黒させて僕と楽譜を交互に見ていた黒髪の男は、しばらくして楽譜に目を落ちつけた。
しばらく表通りを行き交う人の足音だけが聞こえる。
「八代……どうした?」
茶髪が立ち上がり、黒髪の男に声をかけた。
八代と呼ばれた男は、かくかくした動きで顔を動かして、視線を僕へと向ける。
「これ……作ったんか、おまえさんが」
「ああ」
僕は胸を張って頷いた。
予想以上の反応に舞い上がっていた。
八代の横から楽譜をのぞいた茶髪も、しだいに目を丸く開いていく。
「君、いま、いくつ?」
呆然と呟くきれいな声に、僕はにっこりと笑って答えた。
「今日でちょうど15だ。中学三年生」
ふたりは絶句して、僕を見つめた。
そのままたぶん、十分間は固まっていたと思う。
これが僕と八代と文月(茶髪の名前だ)に出会ったいきさつで、僕が自分の道を踏みだした瞬間だった。
ほんのひと時人気を集めたって、数年後には跡形もなく消え去る世界。
僕が踏みこんだ世界はそういう場所だと、同級生から何度も聞かされた。
だけど僕は意思を曲げなかった。
代わりに高校の特進クラスにはこのまま入学するし、練習も続けると約束して、両親にはどうにか許された。
これから先、本当に成功できるのかはわからない。
知識のないまま飛びこんだ世界で、すぐに名をあげられるわけもない。
だけど僕の頭の中に、はじめて作曲した夜に浮かんだのは、曲だけじゃなかった。
僕の曲を奏でる、最高で最適な音。
それがはっきりと聞こえたんだ。
僕はその音を探さなくてはならない。
きっと、すべての音を揃えた時、僕の本当の音楽は世に飛び出せる。
かならず僕の音楽はだれかの心を動かせる。
最高で最適な音と一緒に、僕の音楽が動き出せるんだ。
『部屋のすみで膝を抱え なにに怯えているの
見つめる床に 望むものが落ちているの?
制服を脱ぎ捨て 教科書を焼き払え
耳を澄ませ 聞いてみろ おまえの中で叫んでいる
Stand up!
さぁ 立ち上がれ!
目を閉じて 耳を塞いでも
あざむけない おまえの中の獣は
欲望のままに走ってみろ
吠えろ 声が涸れるまで
やがて立ち止まり 休めるとき
おまえの両手に 光が輝くから』
僕がはじめて作り、無理やりふたりに押しつけた曲は、文月が詞をつけた。
雑貨屋とカフェの間の道でこの曲が披露されたのは、ふたりに出会った一月後。
歌ったのは僕だ。
だけど数年後にこの曲は生まれ直すことになる。
新たな歌い手の声によって――。
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