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番外編
白と恋の話
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※本編の第二章と三章の間くらいの話です。番外編・裕&聡史のその後になる部分もあります。
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デビューアルバムのレコーディングがようやく終わり、少しばかり肩の荷がおりた気分になっていたらヒロから連絡が入った。
『相方と呑んでんだけどさ、お前も来いよ。ちゃんと紹介したいしさ』
いつも発音がきれいなヒロにしてはもどかしい話し方で、電話向こうでは別の男性の笑い声も聞こえる。
「あの……俺まだ未成年なんですけど」
『カタイこと言うなって言いたいところだが、ノンアルコールカクテルも用意しといたから心配ご無用。とっとと来いよ、先輩のお呼び出しだぜ?』
兄貴風を吹かれると断れない。
「来いよって、場所知らないですよ」
『ん、地図付きメール送信しといた。幼稚園児でもわかる親切設計さ、ご安心あれ』
「……ヒロだいぶ酔ってませんか?」
気のせいかいつもと言葉の選び方が違う気がする。
行くまで正気でいてくださいね、と念を押してから通話を切る。
歌うしか能のない俺と違い、神音は作曲者としてレコーディング後もアルバム制作に関わっているらしく、ここのところ朝帰りが続いている。
今朝もまだ帰ってこない神音のために、簡単な料理と置き手紙を添えてテーブルに残し、軽く片づけをしてから部屋を出た。
半年間だけだったけれどイギリスで生活した後は、ヴォイトレやアルバイトにレコーディングと、のんびり散歩する暇もなかった。
(こうして歩くと、やっぱり日本っていいなって思える)
少し離れただけなのに、はじめてみる景色のように目に映る。
まだ営業していない居酒屋。おしゃれな看板の花屋には、ショーケースに色とりどりの花が明るく輝いている。
路上に駐輪された自転車の列を通り抜けて、いつも賑わっているスーパーの前を通り過ぎる。
どこにでもある、何てことない風景が懐かしく感じられた。
ヒロからのメールを見ながら電車に乗り、歩いて辿りついたマンションは想像以上に大きかった。
(うわ……アレンさんの実家を思い出す大きさだ)
約二年前にメジャーデビューしたと言う先輩が順調そうでよかった、と安心しながらエントランスに入る。
エレベーターの扉が開き、乗りこむと後から人が入ってきた。
身長は八代さんくらいだろうか。茶色のダウンコートを寒そうに着こんで、肩を丸くしている四十歳くらいの男性だ。
それ以上は意識することなく、無言でエレベーターが止まるまでを数え、開いた扉から外に出ようとした。
「……あ、すみません」
「いえ」
男性も同じ階で降りるつもりだったらしく、ふたり同時に動いてしまってぶつかりかけてしまった。
慌てて先を譲ると、わずかに頭を下げて男性が降りて行った。
もう一度ヒロのメールを見て、目的のナンバーを探しながら廊下を歩く。
男性はさっさと歩いていき、角部屋の前でカギを開けて中に入って行った。
俺は手前からナンバーを確認しつつ歩いて、角部屋の前で立ち止まった。
(……え、あの人と同じ部屋?)
ついさっき男性が入って行った部屋が、ヒロの指定してきた部屋だった。
(相方と呑んでるって言ってたけど、あの人だったっけ? もう少し若かった気がするんだけど)
頭の中が疑問符で埋まりそうだ。
ずっと扉の前で立っていると不審に思われてしまう。息をひとつ吐き出して、インターホンを押した。
すると待つ間もなくドアが開いた。
「よ~、迷わず着けたみたいだな。いいコ、いいコ」
「ちょっと、ヒロ……やめてください」
昼前から呑んでご機嫌なヒロは、俺の頭を手荒に撫でまくる。
特徴的な赤い髪をいつものようにセットしていないヒロは、無防備な笑顔のせいもあって、ずいぶん幼く見えた。
仕事が休みだから、気を抜いていられるからかもしれない。
その笑顔に俺の心も解された気がして、自然と頬が緩んだ。
ヒロの腕が首に回り、まるで引きずられるようにして部屋の中に入る。
何とか靴を脱いで、俺より背の高いヒロに抱えられたまま廊下を歩いてリビングに行くと、黒髪の青年がソファに座って俺たちを迎え入れてくれた。
「おぅ、ちみが噂のキョウちんやね? 面と向かって話すのはお初やったよね。拙者、『聖白』の楽器担当のスエなん。よろしゅぅ~な~」
長い黒髪を無造作に下ろしたままの青年は、全身黒ずくめの服装で両手にはめた皮の手袋まで黒かった。
顔立ちはヒロに負けず劣らず整っていて、ヒロより男らしい感じがした。
そんな見た目にそぐわず、話し方がすごくゆっくりで、舌足らずな発音とアニメキャラみたいに高くて特徴的な声の持ち主だった。
「は、はじめまして。『i-CeL』のキョウです。卒業記念ライブ、来てくださってありがとうございました」
「ぬ~ありは面白かったよね。拙者たちといつか共演して欲しいよね、ねぇ、ヒロ」
ステージ上ではストイックな人のように見えたけれど、口を開くと何とものんびりした人だった。
(ひえ~ライブを見た時はこんな人だと思わなかったよ)
ビール缶を握ったまま、スエさんがヒロに話を振る。
その隣に俺を座らせ、向かいのソファに座ったヒロが自身も新しいビール缶を開けながら、にたりと笑った。
「ふふん。んなの、俺たちの方が目立っちゃって、『i-CeL』にはスポットライトのかけらも当たらなくなっちまうぜ」
「さすがナルシスト・ヒロ~」
「違うスエ、事実だ」
ぎゃははは、とスエが腹を抱えて爆笑しだした。
ほい、と渡されたノンアルコールカクテル缶を手にした俺は、スエさんの爆笑にのけ反り冷や汗をかいた。
(すごいハイテンション……俺ついていけるかな)
飲み会だとかこう言う場に経験がないので、不安と緊張で体が固まっている。
するとスエさんが俺の肩に腕をかけて、顔を近づけた。
「なんなの、ちみノンアルコール飲むの」
「え……はい。まだ十九歳なので……」
ふ~んと気のない返事をしながら、スエさんの手が俺からカクテル缶を取り上げた。
何するんだろうと見ている目の前で缶を開けて、何とぐいっと飲みだした。
「うわ~飲んじゃだめです。俺それしか飲めないですよ」
「で~じょ~ぶ~まだ残ってるよね」
大丈夫と言いたいらしいスエさんは、カクテル缶の中身にビールを継ぎ足しはじめた。
左右に小刻みに振って、うんと頷くとカクテル缶を俺に差し出してきた。
「これでよしぃ~」
「……よくないですよ」
助けを求めてヒロを伺い見るとビールを飲みながら、面白そうに俺たちを見ているだけで止める気配はなかった。
こうなっては先輩たちに従うしかないだろう。
半分アルコール飲料になってしまったノンアルコールカクテル缶を受け取りながら、中身を一口飲んでみた。
(あ……案外おいしい)
意外にも美味しくなっていたカクテル缶の中身をつい覗いてしまった。
スエさんが俺の様子にくつくつ肩を揺らして笑っていた。
それからはつまみのポッキーをかじりながら、スエさんとヒロの雑談を聞きつつ、ちびちびとカクテル缶を飲んだ。
「いいよな~響、イギリスに留学してたんだろ? 俺たちんとき、んなもの微塵もなかったよな~スエ?」
ほんわか頬を染めたヒロがスエさんに話を振ると、焼酎に切り替わっていたスエさんがスルメを口から飛び出させながら苦笑した。
「んだね~拙者たち『聖白』結成、即激流デビューなぁんて遍歴やったよね?」
「いきなりメジャーデビューだったんですか?」
そんなことあるんだ、と驚きながら話を聞いていると、ヒロが少しだけ遠い目になった。
「スエは高校卒業後、真面目に就職して会社員やってた。俺は高校二年からバンド活動はじめて大学に進んだ後も続けてたが、仲間から追い出されてな。響と行ったバーで歌いながらも、くすぶってたんだ。で、スエんとこに愚痴りに行った。俺をこんな風にしたのはお前なんだから、責任とりやがれって」
ヒロの才能を見出したのはスエさんだったのだとか。
「一度はあきらめようとしたんだ。けど歌う快感知っちまったら、それなしじゃいられない。でも歌える場所がねぇ……お前のせいだぞ、とさんざん文句吐いてたら、こいつマジな顔してわかったよって言って。その日のうちに退職願い書きやがったんだぜ。アホだろ?」
呑気に焼酎を飲み続けるスエさんを、ヒロがびしっと指さした。
スエさんは表情変えないまま、まったりと口を挟む。
「拙者なりの誠意を見せたんよ? ヒロを染めちまったのは拙者に違いないよね。だから責任とって、嫁にもろたんよね」
「だれが嫁だ、こら」
すかさず一口チョコをスエさんに投げつけるヒロ。包装したままのチョコを口でキャッチしたスエさんは、目を細めて笑った。
「ヒロと拙者の愛の遺伝子が作品たちなんよね~」
チョコを口から外し、包装を剥きながらにこにこ笑うスエさん。その後頭部をいつの間にか背後に立っていた人がばしん、と叩いた。
音の大きさと鋭さ、何よりも気配がまるでなかった人の出現に驚いて、俺はソファから立ち上がってしまった。
振り返った先にはエレベーターで一緒になった男性が立っていた。
ダウンコートは脱いで、グレーのスウェット姿になっていた。
眉を寄せて、頭を抱えて呻るスエさんを見下ろしている姿は、少しだけ富岡さんに似ていると思った。
表情があまり出ないように見えるからだろうか。
「ぅ~痛いよね~酷いよね、サトちんっ!」
スエさんがばっ、と勢いよく振り返って睨み上げる。
「サトちん呼ぶな」
すかさず第二打がスエさんの額に直撃した。またもスエさんが呻く。
そんなふたりの間にヒロが駆けつけ、まぁまぁと男性の腕を宥めるみたいに叩いた。
「ごめん、聡史さん。仕事の邪魔しちゃった?」
「……いや」
「少し声控えるからさ、許してやって。ね?」
「……構わない」
男性を見上げて顔の前に片手を立てて謝るヒロの横顔が、何だかいつもと違って見える。甘えた子供みたいで、親しい間柄なんだなとすぐにわかった。
男性の方もヒロに触れられたとたん、穏やかな表情になった。ヒロを見る目に感情がこもっているようで、でも俺には読みとれなかった。
不意にその目が俺の方を向いた。
驚いて息を飲む間に、もっさりと男性が口を動かす。
「かたひらひびき、さん?」
「あ……はい、お邪魔させていただいてます。ヒロにたくさんお世話になってます」
男性はわずかに頷いた。まったく表情が変わらず、目の色も読みとれない。富岡さん二号だ。
「ヒロから話聞いている……声もいい」
「あ、ありがとうございます」
「ヒロには負ける」
「…………」
誉められた直後に奈落に突き落とされた気分だ。
ヒロが男性の隣であわあわしている。
「聡史さん~そんな言い方だめだよ」
「そうか?」
「だ~、もう……声がいい、だけでいいんだってば」
「声がいい……だが曲は嫌いだ」
言葉短く話す男性にヒロが頭を抱えてしまった。
訳が分からず目を丸くする俺とヒロとを見比べて、ソファで傍観していたスエさんがまた爆笑した。
「やっぱイイよね~最っ高、サトちん」
「サトちん呼ぶな」
律義にスエさんに突っ込みを入れる男性を指さして、ヒロが疲れた表情で紹介してくれた。
「この人は千歳聡史さん。『聖白』の楽曲を作ってくれてる。ちなみに俺の叔父さんで、いま同居しているんだ」
ヒロを挟んで、笑い続けるスエさんが聡史さんをサトちんと連呼していて、聡史さんが飽きることなく訂正し続けていた。
「うるさい、ふたりとも、止めろっ」
堪忍袋を切ったヒロが得意の声で仲裁に入る。
「…………こわイよね~」
「…………」
肩をすくめて小さくなり、膝を抱えるスエさんがヒロを上目遣いで見上げる。
聡史さんは気まずそうにそっぽを向いたけど、指がズボンの生地を握っては離し、落ち着きなく動いていた。
「ったく。いい加減飽きろよ、いつもこのパターンじゃん……悪いな響。驚かせちまって、酔いが醒めちまっただろ? 飲み直そうぜ」
ヒロが俺の隣に移動して、スエさんをソファから蹴り落とした。
酷いと嘆きながら、ヒロの座っていたソファへ移動したスエさんが、今度はワインを開けた。
その隣に無言のまま聡史さんが座った。ふたりの間に、人がひとり座れそうな距離が空いているところが笑いを誘う。
「まだ飲むんですか……?」
笑いをかみ殺しながらスエさんに問いかけると、笑顔のまま当然とばかりに頷いてグラスに注ぐ。ワイングラスじゃなくてビールグラスだ。
またもや無言で聡史さんがスエさんにグラスを差し出す。こちらも空いていたビールグラスで、スエさんは心得た様子でそちらにも注いでいた。
「何だかんだ言って仲良いんだよ、こいつら。やりとりが子供っぽすぎて、時々苛つくけど」
呆れた様子のヒロが、スエさんが飲みかけて放置した焼酎に手を伸ばす。
その顔は複雑そうだ。
テーブルを挟んで、スエさんと聡史さんが音楽談義に突入する。一方的に話すのはスエさんかと思いきや、聡史さんが饒舌に語り倒していて、スエさんは聞き役らしく頷いている。
ワインを注ぎ足しながら相槌と言葉を挟むスエさんは、さっきまでと違って真剣な顔をしていた。
「俺、音はてんで作れねぇの。聡史さんとスエの領域……ちょっと妬けちまうわ」
「ヒロは聡史さんが好きなんですね」
スエさんたちを眺めながら、自嘲するようなヒロに何気なく言葉を投げ返した。
とたんにヒロが飲みかけていた焼酎を勢いよく吹き出してしまった。
「ふぇ~何するの、酷いよねヒロ~」
顔面に焼酎を吹きかけられた形になったスエさんが、眉を下げて情けない声を上げる。
「悪ぃ、スエ」
慌ててタオルを取ってきて、ヒロはスエさんを拭きながら謝る。
聡史さんは相変わらず色の読めない目と表情でふたりを見ていた。
とりあえず落ち着いたスエさんは、また聡史さんと音楽談義に戻り、ヒロも俺の隣に腰を下ろしながらため息を吐き出した。
「響それ……どう言う意味で言ってんのか聞いていいか?」
「え? あの、さっき聡史さんと向かい合ってた時のヒロが、すごく安心した表情していたから、仲が良いんだなって……単純に思ったんですけど」
違いましたかと不安になりながらヒロを覗きこむ。
また頭を抱えたヒロは、しばらく考えている様子だった。
テーブルを境に盛り上がるふたりと、沈むふたり。
対照的な室内の雰囲気に、どうするべきか悩む俺の横で、ヒロが口を開いた。
「仲は良いよ。てかだれにも渡したくない」
「……へ?」
ひそり、とでも強く言い放ったヒロを見た。
酔いの抜けた眼差しは、まっすぐに聡史さんに向いている。
目の色は見たことがないほど激しくて、悲しいくらいに純粋だった。
「軽蔑するかもしれないが、響には隠さず言っておきたい。俺は聡史さんの恋人なの。聡史さんも俺の恋人だ」
「…………」
「子供が作れない俺たちにとって、『聖白』は大切な証しなんだ」
「……ヒ、ロあの……」
「驚いた?」
ヒロが俺を見る。仕方ないよな、と達観したようで切ないヒロの表情に、俺の方が胸に痛みを覚える。
「驚きました……けど」
「けど?」
「考えがまだまとまってないんですけど、でもいいと思います」
「……ありがと」
軽い謝礼を残し、焼酎に向き直ってしまったヒロに伝えた言葉はまだ足りない気がして、でも適切な言葉が見つけられずにもどかしい。
「……いきなり誘って、こんな話し聞かせちまって悪かった」
前を向いたまま、ヒロの横顔が弱気な言葉を吐く。
「富岡が大切に扱ってる響に嫉妬したのかもしれねぇ……俺さ、いまちょっとハマってんの。落ち目って言うか、かっこつけて言えばスランプに」
「ヒロ……」
焼酎を飲み下し、言葉を探すヒロはひと回り小さくなったように見えた。
「曲は出来あがってんのに、詞が書けなくてな。もう詞を待ってる曲が三曲ある。焦れば焦るほど頭の中が真っ白でさ……富岡は何も言わねぇし、スエも急かさない。聡史さんは黙って見守ってくれてる。だからなおさら情けない」
手を握りあわせ、視線を落としたヒロが歯を食いしばったみたいな声を漏らす。
「結成間もなくデビューしたのは、富岡が一目置く存在の聡史さんが、俺たちを全面的にバックアップすると知っていたからだ。後で世に出るのも、先に出るのも同じ苦労だろうと言って、富岡が社長たちを口説いて俺たちをデビューさせてくれた。俺はチャンスだと思った。俺とスエなら出来る、聡史さんの作りだした世界観を最大限表現できるってな」
けどさ、とヒロが苦く呟く。
「俺は本当に聡史さんの思い描いた曲の世界観を活かしきれているのか、詞が力不足なんじゃないかってこの頃になって考える。響がイギリスに留学したって聞いて、その思いが強くなったよ」
「そんな……ヒロの書く詞は全然力不足じゃない。すごく心の奥に迫る感じがします」
「はは、世辞でもありがとよ」
違いますと言おうとしたけど、ヒロの横顔が口を封じる。
「俺もイギリスに行きたいと言いたいわけじゃない。どこかに行けば詞が書けるようになるとも思っちゃいない。たださ、頭の中の辞書が真っ白になっちまったみたいなんだ。白紙のページが独りでに物凄い勢いでめくれて、ずっと閉じたり開いたりする感じがしてるんだ。空回りしているってこのことかな」
俺はまだ作詞した経験が一曲しかない。
これから少しずつ作詞する機会を増やして、文月さんが作曲する時間を増やすつもりなのだと富岡さんに聞いた。
だけどいまはまだ歌に専念しろと言われていて、そんな俺にヒロの悩みが解決できるはずもない。
「……あきらめてた想いだったんだ」
「え?」
焼酎の入ったグラスを持ち上げて、ヒロが口元で笑う。
「叔父を好きになったと気づいた時から、絶望は熱情と背中合わせだった。デビューする前のクリスマス、都会が機能停止するくらいに雪が降り積もった。その日に奇跡が起きたんだよ。あきらめて、でも捨てられなかった想いを救いあげて抱きしめられたんだ」
ヒロがその日から生まれ直したような気分だったよ、と言いながら聡史さんを見た。
まるで呼ばれたみたいに自然に聡史さんがヒロを振り向いた。
音にならない言葉が、ふたりの間に行き交うようだった。
「だから俺たちの名前が『聖白』になった。単純だろ、こんなネーミングセンスしかない俺が作詞してんだぜ、ネタ切れにもなるってな~」
突然明るさを取り戻したヒロが、俺に片腕を回して寄りかかってきた。
聡史さんがテーブルの向こうでほんの少し表情を崩した。ほっとしているような、あたたかい顔つきでスエさんの呼びかけに応じるまでヒロを見つめていた。
「奇跡だ。聡史さんに会えて触れ合えることも、スエと歌えることも。けどなぁ長い時間絶望とセットだった熱情はさ、あっけなく絶望に擦りかわる。響にも身に覚えがあるんじゃねぇ?」
ヒロにどこまで俺の昔話をしただろう、と思い返しながら頷く。
あきらめることが当たり前だった心は、気を抜くとすぐにそこへ舞い戻ってしまう。
華やかで自信に満ちている姿しか知らなかった俺は、ヒロのその姿に心が動かされた。
(年下のこんな俺に、そんな話をしてくれるなんて。少しは俺のこと頼ってもいいって認めてくれている?)
だとしたら歯痒いほど俺は無力だ。ただ話を聞くことしかできない。
「俺が言えた立場じゃねぇけどさ。あきらめるなよ、響」
「……はい」
「『想いは命と同じさ』」
「それは『恋人』の詞ですね」
軽く歌いながら語られた言葉に目を輝かせれば、ヒロが大きく頷いた。
「響の想いがアレンに届く日が来ないとも言い切れないんだからな」
「……はい?」
驚きのあまり、俺はヒロの顔を穴が開きそうなほど見つめてしまった。
焼酎を飲みながらヒロが不思議そうな顔をする。
「何、変な顔してんの」
「だって……俺の想いって?」
「はぁ? シラを切るつもりか、響さんよ~」
半眼になったヒロの手が俺の頬をぴたぴた叩いてくる。その手が急に不快に思えて、俺は片手で振り払った。
「白状しちまえ、アレンが好きなんだろ?」
「ええ、もちろん。すごく頼りなる人ですし、助けてもらって、いつか恩返ししたいと……」
両肩をヒロの手が力強く握った。その力たるや、涙が出そうなくらい強くて痛い。
「おまえ……マジで言ってんの、それ?」
なぜかヒロが薄ら涙目になって俺を見上げてくる。
そんな顔をされる理由がわからず、力なくはいと答えた。
がくっ、とヒロの頭が下に落ちた。
「……自覚なさすぎて、むしろ恐ろしいわ……」
低く小さく呟くヒロの声が、まるで理解できなかった。
(何が恐ろしいって?)
ヒロが勢いよく顔を上げた。
「イギリス行ってた間、満足に夜眠れなかったんだろ? それがアレンと再会してからは眠れるようになった。間違いないな?」
「は、はい……」
異国の夜景の片すみで、突然重なった唇の感触と、それを目撃して去っていく背中を追いすがった。
無我夢中ですがりついた腕に抱きしめられて、翌日の昼まで眠ってしまったことは、いまだに思い出すだけで顔が茹だる。
「デビューアルバムのレコーディング中に、どうしてもアレンの前で歌えなかった曲があったんだろ?」
「……文月さんに聞いたんですか」
「たまたま俺たちも近くのスタジオ使ってて、様子見に行ったら富岡がいて苦笑してたんだよ。どうして歌えなかった?」
返事に詰まって俯く。
ヒロの手が逃げることは許さないとばかりに、俺の体を前後に揺すった。
「どんな歌詞だったんだよ、言ってみろ」
「うぅ……ヒロに言うのも気が引ける……」
「いいから」
「……『濡れる肌重ね、舌を絡め、爪で刻もう。愛してる』……」
面と向かって言えないので、俯いたまま白状すればヒロが口笛を吹いた。
「すっげぇ~の歌わせたな、カノンたち」
スエさんと同じくらいの爆笑に身を捩るヒロを、俺は悔しくて睨みつけた。
「どんな顔して歌ったのか、ぜひ見たかったぜ~」
「絶対にお断りです」
「んなこと言ったって、PV撮るんだろ? テレビやライブでも歌うだろうが」
もう撮ったんです、とは言えずにそっぽを向いた。
PVは曲の世界観を表現するものらしく、あれやこれやと注文されながら長い時間をかけて撮影した。初体験で楽しかったのだけれど、件の曲の時だけは違った。
富岡さんを泣き落とし、アレンさんは立ち入り禁止にしたスタジオで、二時間集中して撮り終えた。それ以上は撮り直しを拒否したけれど、制作側から撮り直しは要求されなかったので、何とか使えるものが撮れたようだった。
「テレビ出演決まったら即教えろ。録画予約しとく」
「嫌です」
「セットリストに入れてくれよ?」
「断固拒否します」
また爆笑するヒロを、聡史さんたちも何だと言う顔で見ていた。
「いや~笑わせてもらったわ。スランプ吹き飛んだかもしれん」
「……おめでとうございます」
トゲトゲしく言い返したら、頭をぐりぐり撫でられた。
「何でアレンだけ嫌だったんだよ?」
「またその話ですか……別に理由なんてありませんよ、本当はだれにも見られたくなかったです」
「ふ~ん?」
レコーディングはそれぞれ別々に行われ、俺は一日に一曲だけと制限されていたけれど、他のメンバーたちは調子が良ければ二、三曲レコーディングすることもあったらしい。
先に録り終えて余裕ができたらしく、ほぼいつもだれかが俺の歌う様子を見ていた。
(新入りだから心配してくれたんだよね、きっと)
気になって歌えないどころか、落ち着いて歌うことができたので、ひそかに感謝していた。
ただ件の曲の時だけは、他のメンバーたちには来て欲しくなかった。
スタジオで練習する時ですら、前を向いて歌えずに何度も神音に怒られたくらいだ。
「それなのにアレンだけ絶対立ち入り禁止にしたわけね」
「……何が言いたいんです、ヒロ。いい加減はっきり言ってくださいよ」
「言ってんじゃん。響はアレンを特別に意識してんだろって。『愛してる』て聞かれたくない相手ってのは、これ以上なく嫌いか好きか。どちらかしかないだろ?」
「…………」
「俺みたいに、そう言う意味で意識してない相手なら、多少恥ずかしかろうが言えただろ。レコーディングだって出来たんだ」
「……し、仕事ですから」
「アレンだって仕事仲間だろうが」
どうしてだろう、言葉がかけらも出てこない。
これが追いつめられたネズミの気分と言うやつか、と現実逃避したくなった。
「絶望ばっか見てんじゃねぇよ」
急に優しい声音になったヒロが、俺の額に額を合わせた。
「どうせ俺なんか見てもらえない。価値がないって思ってんじゃないの?」
「…………」
ぐっ、と胸が締め付けられた。
「響はすごい奴だよ。聡史さんが声を誉めるなんて、滅多にないんだぜ? 俺はおまえに嫉妬してる、俺の聡史さんを惑わせるなってさ」
「……そんなつもりないですよ……」
「いいコだよ、響は」
「…………」
「だれかを好きになったっていい。だれかに好きになってもらってもいい。おまえはちゃんとそれを受け入れていいんだ」
言葉の前に思考が途切れて、何も考えられなくなった。
優しい、包み込むようなヒロの声音に誘われて、熱い何かが喉元にせりあがってくる。
「全国まわって、歌ってくるんだろ?」
「……はい」
デビューアルバム発売前に、全国のライブハウスで演奏することになっている。
その出発が明後日で、年内に戻れるかどうか。『i-CeL』史上最も長い演奏旅行になるらしい。
「その間に考えてみな。苦しいばかりじゃないぜ、その想い」
「…………」
ヒロに問いかけられた意味もわからいままの胸の中に、わずかな光が灯った気がする。
その先はまだわからない。
だけどヒロの声は、ずっと忘れられないだろう。
俺と神音が最後だった。
「もう来てるよ、待っててくれてる。早く、神音っ!」
「ん~と、忘れ物なかったよな?」
片割れはのんびりと制作部屋を歩きまわって、置き忘れた物がないかを確認している。
俺は身ひとつなので荷物も少なく、足りなければ途中で補充できるだろう。
神音は楽譜やら何やらでずいぶん荷物が膨らんでいる。途中でどうにかできるものばかりではないらしい。
「昨日のうちに確認しておかなかったの?」
「したよ……けど、何か忘れてる気がしてさ。ん~」
部屋の真ん中で立ち止まり、腕組みして神音は天井を見上げた。
その時マンションの前でクラクションが鳴った。
全国を巡って演奏する旅が、今朝から始まるのだ。
道が混むからとまだ星が輝いている時分に、一台の車に乗り合わせて出立することになっていた。
アレンさんが八代さん、文月さんの順でメンバーを拾い集め、ここに来て待ってくれているのだけれど、いつまで経っても降りて来ない俺たちに心配して鳴らしたようだ。
「思い出せないなら重要じゃないんだよ。なくてもどうにかできるさ、ほら行こう? 早めに出発する意味がなくなるだろ」
「……ん~そうだけど」
煮え切らない返事をする片割れを引っ張って、玄関へ向かう。
部屋の戸締りや電気の切り忘れなどないか、もう一度確認しようかなと迷ったところで、神音があっと叫んだ。
「携帯充電したままだった」
「……早く取って来いッ!!」
旅立ちからつまづいてしまったこの旅で、何かが変わるだろうか。
ヒロの声を思い出して、神音を待つ間に俺も天井を見上げた。
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デビューアルバムのレコーディングがようやく終わり、少しばかり肩の荷がおりた気分になっていたらヒロから連絡が入った。
『相方と呑んでんだけどさ、お前も来いよ。ちゃんと紹介したいしさ』
いつも発音がきれいなヒロにしてはもどかしい話し方で、電話向こうでは別の男性の笑い声も聞こえる。
「あの……俺まだ未成年なんですけど」
『カタイこと言うなって言いたいところだが、ノンアルコールカクテルも用意しといたから心配ご無用。とっとと来いよ、先輩のお呼び出しだぜ?』
兄貴風を吹かれると断れない。
「来いよって、場所知らないですよ」
『ん、地図付きメール送信しといた。幼稚園児でもわかる親切設計さ、ご安心あれ』
「……ヒロだいぶ酔ってませんか?」
気のせいかいつもと言葉の選び方が違う気がする。
行くまで正気でいてくださいね、と念を押してから通話を切る。
歌うしか能のない俺と違い、神音は作曲者としてレコーディング後もアルバム制作に関わっているらしく、ここのところ朝帰りが続いている。
今朝もまだ帰ってこない神音のために、簡単な料理と置き手紙を添えてテーブルに残し、軽く片づけをしてから部屋を出た。
半年間だけだったけれどイギリスで生活した後は、ヴォイトレやアルバイトにレコーディングと、のんびり散歩する暇もなかった。
(こうして歩くと、やっぱり日本っていいなって思える)
少し離れただけなのに、はじめてみる景色のように目に映る。
まだ営業していない居酒屋。おしゃれな看板の花屋には、ショーケースに色とりどりの花が明るく輝いている。
路上に駐輪された自転車の列を通り抜けて、いつも賑わっているスーパーの前を通り過ぎる。
どこにでもある、何てことない風景が懐かしく感じられた。
ヒロからのメールを見ながら電車に乗り、歩いて辿りついたマンションは想像以上に大きかった。
(うわ……アレンさんの実家を思い出す大きさだ)
約二年前にメジャーデビューしたと言う先輩が順調そうでよかった、と安心しながらエントランスに入る。
エレベーターの扉が開き、乗りこむと後から人が入ってきた。
身長は八代さんくらいだろうか。茶色のダウンコートを寒そうに着こんで、肩を丸くしている四十歳くらいの男性だ。
それ以上は意識することなく、無言でエレベーターが止まるまでを数え、開いた扉から外に出ようとした。
「……あ、すみません」
「いえ」
男性も同じ階で降りるつもりだったらしく、ふたり同時に動いてしまってぶつかりかけてしまった。
慌てて先を譲ると、わずかに頭を下げて男性が降りて行った。
もう一度ヒロのメールを見て、目的のナンバーを探しながら廊下を歩く。
男性はさっさと歩いていき、角部屋の前でカギを開けて中に入って行った。
俺は手前からナンバーを確認しつつ歩いて、角部屋の前で立ち止まった。
(……え、あの人と同じ部屋?)
ついさっき男性が入って行った部屋が、ヒロの指定してきた部屋だった。
(相方と呑んでるって言ってたけど、あの人だったっけ? もう少し若かった気がするんだけど)
頭の中が疑問符で埋まりそうだ。
ずっと扉の前で立っていると不審に思われてしまう。息をひとつ吐き出して、インターホンを押した。
すると待つ間もなくドアが開いた。
「よ~、迷わず着けたみたいだな。いいコ、いいコ」
「ちょっと、ヒロ……やめてください」
昼前から呑んでご機嫌なヒロは、俺の頭を手荒に撫でまくる。
特徴的な赤い髪をいつものようにセットしていないヒロは、無防備な笑顔のせいもあって、ずいぶん幼く見えた。
仕事が休みだから、気を抜いていられるからかもしれない。
その笑顔に俺の心も解された気がして、自然と頬が緩んだ。
ヒロの腕が首に回り、まるで引きずられるようにして部屋の中に入る。
何とか靴を脱いで、俺より背の高いヒロに抱えられたまま廊下を歩いてリビングに行くと、黒髪の青年がソファに座って俺たちを迎え入れてくれた。
「おぅ、ちみが噂のキョウちんやね? 面と向かって話すのはお初やったよね。拙者、『聖白』の楽器担当のスエなん。よろしゅぅ~な~」
長い黒髪を無造作に下ろしたままの青年は、全身黒ずくめの服装で両手にはめた皮の手袋まで黒かった。
顔立ちはヒロに負けず劣らず整っていて、ヒロより男らしい感じがした。
そんな見た目にそぐわず、話し方がすごくゆっくりで、舌足らずな発音とアニメキャラみたいに高くて特徴的な声の持ち主だった。
「は、はじめまして。『i-CeL』のキョウです。卒業記念ライブ、来てくださってありがとうございました」
「ぬ~ありは面白かったよね。拙者たちといつか共演して欲しいよね、ねぇ、ヒロ」
ステージ上ではストイックな人のように見えたけれど、口を開くと何とものんびりした人だった。
(ひえ~ライブを見た時はこんな人だと思わなかったよ)
ビール缶を握ったまま、スエさんがヒロに話を振る。
その隣に俺を座らせ、向かいのソファに座ったヒロが自身も新しいビール缶を開けながら、にたりと笑った。
「ふふん。んなの、俺たちの方が目立っちゃって、『i-CeL』にはスポットライトのかけらも当たらなくなっちまうぜ」
「さすがナルシスト・ヒロ~」
「違うスエ、事実だ」
ぎゃははは、とスエが腹を抱えて爆笑しだした。
ほい、と渡されたノンアルコールカクテル缶を手にした俺は、スエさんの爆笑にのけ反り冷や汗をかいた。
(すごいハイテンション……俺ついていけるかな)
飲み会だとかこう言う場に経験がないので、不安と緊張で体が固まっている。
するとスエさんが俺の肩に腕をかけて、顔を近づけた。
「なんなの、ちみノンアルコール飲むの」
「え……はい。まだ十九歳なので……」
ふ~んと気のない返事をしながら、スエさんの手が俺からカクテル缶を取り上げた。
何するんだろうと見ている目の前で缶を開けて、何とぐいっと飲みだした。
「うわ~飲んじゃだめです。俺それしか飲めないですよ」
「で~じょ~ぶ~まだ残ってるよね」
大丈夫と言いたいらしいスエさんは、カクテル缶の中身にビールを継ぎ足しはじめた。
左右に小刻みに振って、うんと頷くとカクテル缶を俺に差し出してきた。
「これでよしぃ~」
「……よくないですよ」
助けを求めてヒロを伺い見るとビールを飲みながら、面白そうに俺たちを見ているだけで止める気配はなかった。
こうなっては先輩たちに従うしかないだろう。
半分アルコール飲料になってしまったノンアルコールカクテル缶を受け取りながら、中身を一口飲んでみた。
(あ……案外おいしい)
意外にも美味しくなっていたカクテル缶の中身をつい覗いてしまった。
スエさんが俺の様子にくつくつ肩を揺らして笑っていた。
それからはつまみのポッキーをかじりながら、スエさんとヒロの雑談を聞きつつ、ちびちびとカクテル缶を飲んだ。
「いいよな~響、イギリスに留学してたんだろ? 俺たちんとき、んなもの微塵もなかったよな~スエ?」
ほんわか頬を染めたヒロがスエさんに話を振ると、焼酎に切り替わっていたスエさんがスルメを口から飛び出させながら苦笑した。
「んだね~拙者たち『聖白』結成、即激流デビューなぁんて遍歴やったよね?」
「いきなりメジャーデビューだったんですか?」
そんなことあるんだ、と驚きながら話を聞いていると、ヒロが少しだけ遠い目になった。
「スエは高校卒業後、真面目に就職して会社員やってた。俺は高校二年からバンド活動はじめて大学に進んだ後も続けてたが、仲間から追い出されてな。響と行ったバーで歌いながらも、くすぶってたんだ。で、スエんとこに愚痴りに行った。俺をこんな風にしたのはお前なんだから、責任とりやがれって」
ヒロの才能を見出したのはスエさんだったのだとか。
「一度はあきらめようとしたんだ。けど歌う快感知っちまったら、それなしじゃいられない。でも歌える場所がねぇ……お前のせいだぞ、とさんざん文句吐いてたら、こいつマジな顔してわかったよって言って。その日のうちに退職願い書きやがったんだぜ。アホだろ?」
呑気に焼酎を飲み続けるスエさんを、ヒロがびしっと指さした。
スエさんは表情変えないまま、まったりと口を挟む。
「拙者なりの誠意を見せたんよ? ヒロを染めちまったのは拙者に違いないよね。だから責任とって、嫁にもろたんよね」
「だれが嫁だ、こら」
すかさず一口チョコをスエさんに投げつけるヒロ。包装したままのチョコを口でキャッチしたスエさんは、目を細めて笑った。
「ヒロと拙者の愛の遺伝子が作品たちなんよね~」
チョコを口から外し、包装を剥きながらにこにこ笑うスエさん。その後頭部をいつの間にか背後に立っていた人がばしん、と叩いた。
音の大きさと鋭さ、何よりも気配がまるでなかった人の出現に驚いて、俺はソファから立ち上がってしまった。
振り返った先にはエレベーターで一緒になった男性が立っていた。
ダウンコートは脱いで、グレーのスウェット姿になっていた。
眉を寄せて、頭を抱えて呻るスエさんを見下ろしている姿は、少しだけ富岡さんに似ていると思った。
表情があまり出ないように見えるからだろうか。
「ぅ~痛いよね~酷いよね、サトちんっ!」
スエさんがばっ、と勢いよく振り返って睨み上げる。
「サトちん呼ぶな」
すかさず第二打がスエさんの額に直撃した。またもスエさんが呻く。
そんなふたりの間にヒロが駆けつけ、まぁまぁと男性の腕を宥めるみたいに叩いた。
「ごめん、聡史さん。仕事の邪魔しちゃった?」
「……いや」
「少し声控えるからさ、許してやって。ね?」
「……構わない」
男性を見上げて顔の前に片手を立てて謝るヒロの横顔が、何だかいつもと違って見える。甘えた子供みたいで、親しい間柄なんだなとすぐにわかった。
男性の方もヒロに触れられたとたん、穏やかな表情になった。ヒロを見る目に感情がこもっているようで、でも俺には読みとれなかった。
不意にその目が俺の方を向いた。
驚いて息を飲む間に、もっさりと男性が口を動かす。
「かたひらひびき、さん?」
「あ……はい、お邪魔させていただいてます。ヒロにたくさんお世話になってます」
男性はわずかに頷いた。まったく表情が変わらず、目の色も読みとれない。富岡さん二号だ。
「ヒロから話聞いている……声もいい」
「あ、ありがとうございます」
「ヒロには負ける」
「…………」
誉められた直後に奈落に突き落とされた気分だ。
ヒロが男性の隣であわあわしている。
「聡史さん~そんな言い方だめだよ」
「そうか?」
「だ~、もう……声がいい、だけでいいんだってば」
「声がいい……だが曲は嫌いだ」
言葉短く話す男性にヒロが頭を抱えてしまった。
訳が分からず目を丸くする俺とヒロとを見比べて、ソファで傍観していたスエさんがまた爆笑した。
「やっぱイイよね~最っ高、サトちん」
「サトちん呼ぶな」
律義にスエさんに突っ込みを入れる男性を指さして、ヒロが疲れた表情で紹介してくれた。
「この人は千歳聡史さん。『聖白』の楽曲を作ってくれてる。ちなみに俺の叔父さんで、いま同居しているんだ」
ヒロを挟んで、笑い続けるスエさんが聡史さんをサトちんと連呼していて、聡史さんが飽きることなく訂正し続けていた。
「うるさい、ふたりとも、止めろっ」
堪忍袋を切ったヒロが得意の声で仲裁に入る。
「…………こわイよね~」
「…………」
肩をすくめて小さくなり、膝を抱えるスエさんがヒロを上目遣いで見上げる。
聡史さんは気まずそうにそっぽを向いたけど、指がズボンの生地を握っては離し、落ち着きなく動いていた。
「ったく。いい加減飽きろよ、いつもこのパターンじゃん……悪いな響。驚かせちまって、酔いが醒めちまっただろ? 飲み直そうぜ」
ヒロが俺の隣に移動して、スエさんをソファから蹴り落とした。
酷いと嘆きながら、ヒロの座っていたソファへ移動したスエさんが、今度はワインを開けた。
その隣に無言のまま聡史さんが座った。ふたりの間に、人がひとり座れそうな距離が空いているところが笑いを誘う。
「まだ飲むんですか……?」
笑いをかみ殺しながらスエさんに問いかけると、笑顔のまま当然とばかりに頷いてグラスに注ぐ。ワイングラスじゃなくてビールグラスだ。
またもや無言で聡史さんがスエさんにグラスを差し出す。こちらも空いていたビールグラスで、スエさんは心得た様子でそちらにも注いでいた。
「何だかんだ言って仲良いんだよ、こいつら。やりとりが子供っぽすぎて、時々苛つくけど」
呆れた様子のヒロが、スエさんが飲みかけて放置した焼酎に手を伸ばす。
その顔は複雑そうだ。
テーブルを挟んで、スエさんと聡史さんが音楽談義に突入する。一方的に話すのはスエさんかと思いきや、聡史さんが饒舌に語り倒していて、スエさんは聞き役らしく頷いている。
ワインを注ぎ足しながら相槌と言葉を挟むスエさんは、さっきまでと違って真剣な顔をしていた。
「俺、音はてんで作れねぇの。聡史さんとスエの領域……ちょっと妬けちまうわ」
「ヒロは聡史さんが好きなんですね」
スエさんたちを眺めながら、自嘲するようなヒロに何気なく言葉を投げ返した。
とたんにヒロが飲みかけていた焼酎を勢いよく吹き出してしまった。
「ふぇ~何するの、酷いよねヒロ~」
顔面に焼酎を吹きかけられた形になったスエさんが、眉を下げて情けない声を上げる。
「悪ぃ、スエ」
慌ててタオルを取ってきて、ヒロはスエさんを拭きながら謝る。
聡史さんは相変わらず色の読めない目と表情でふたりを見ていた。
とりあえず落ち着いたスエさんは、また聡史さんと音楽談義に戻り、ヒロも俺の隣に腰を下ろしながらため息を吐き出した。
「響それ……どう言う意味で言ってんのか聞いていいか?」
「え? あの、さっき聡史さんと向かい合ってた時のヒロが、すごく安心した表情していたから、仲が良いんだなって……単純に思ったんですけど」
違いましたかと不安になりながらヒロを覗きこむ。
また頭を抱えたヒロは、しばらく考えている様子だった。
テーブルを境に盛り上がるふたりと、沈むふたり。
対照的な室内の雰囲気に、どうするべきか悩む俺の横で、ヒロが口を開いた。
「仲は良いよ。てかだれにも渡したくない」
「……へ?」
ひそり、とでも強く言い放ったヒロを見た。
酔いの抜けた眼差しは、まっすぐに聡史さんに向いている。
目の色は見たことがないほど激しくて、悲しいくらいに純粋だった。
「軽蔑するかもしれないが、響には隠さず言っておきたい。俺は聡史さんの恋人なの。聡史さんも俺の恋人だ」
「…………」
「子供が作れない俺たちにとって、『聖白』は大切な証しなんだ」
「……ヒ、ロあの……」
「驚いた?」
ヒロが俺を見る。仕方ないよな、と達観したようで切ないヒロの表情に、俺の方が胸に痛みを覚える。
「驚きました……けど」
「けど?」
「考えがまだまとまってないんですけど、でもいいと思います」
「……ありがと」
軽い謝礼を残し、焼酎に向き直ってしまったヒロに伝えた言葉はまだ足りない気がして、でも適切な言葉が見つけられずにもどかしい。
「……いきなり誘って、こんな話し聞かせちまって悪かった」
前を向いたまま、ヒロの横顔が弱気な言葉を吐く。
「富岡が大切に扱ってる響に嫉妬したのかもしれねぇ……俺さ、いまちょっとハマってんの。落ち目って言うか、かっこつけて言えばスランプに」
「ヒロ……」
焼酎を飲み下し、言葉を探すヒロはひと回り小さくなったように見えた。
「曲は出来あがってんのに、詞が書けなくてな。もう詞を待ってる曲が三曲ある。焦れば焦るほど頭の中が真っ白でさ……富岡は何も言わねぇし、スエも急かさない。聡史さんは黙って見守ってくれてる。だからなおさら情けない」
手を握りあわせ、視線を落としたヒロが歯を食いしばったみたいな声を漏らす。
「結成間もなくデビューしたのは、富岡が一目置く存在の聡史さんが、俺たちを全面的にバックアップすると知っていたからだ。後で世に出るのも、先に出るのも同じ苦労だろうと言って、富岡が社長たちを口説いて俺たちをデビューさせてくれた。俺はチャンスだと思った。俺とスエなら出来る、聡史さんの作りだした世界観を最大限表現できるってな」
けどさ、とヒロが苦く呟く。
「俺は本当に聡史さんの思い描いた曲の世界観を活かしきれているのか、詞が力不足なんじゃないかってこの頃になって考える。響がイギリスに留学したって聞いて、その思いが強くなったよ」
「そんな……ヒロの書く詞は全然力不足じゃない。すごく心の奥に迫る感じがします」
「はは、世辞でもありがとよ」
違いますと言おうとしたけど、ヒロの横顔が口を封じる。
「俺もイギリスに行きたいと言いたいわけじゃない。どこかに行けば詞が書けるようになるとも思っちゃいない。たださ、頭の中の辞書が真っ白になっちまったみたいなんだ。白紙のページが独りでに物凄い勢いでめくれて、ずっと閉じたり開いたりする感じがしてるんだ。空回りしているってこのことかな」
俺はまだ作詞した経験が一曲しかない。
これから少しずつ作詞する機会を増やして、文月さんが作曲する時間を増やすつもりなのだと富岡さんに聞いた。
だけどいまはまだ歌に専念しろと言われていて、そんな俺にヒロの悩みが解決できるはずもない。
「……あきらめてた想いだったんだ」
「え?」
焼酎の入ったグラスを持ち上げて、ヒロが口元で笑う。
「叔父を好きになったと気づいた時から、絶望は熱情と背中合わせだった。デビューする前のクリスマス、都会が機能停止するくらいに雪が降り積もった。その日に奇跡が起きたんだよ。あきらめて、でも捨てられなかった想いを救いあげて抱きしめられたんだ」
ヒロがその日から生まれ直したような気分だったよ、と言いながら聡史さんを見た。
まるで呼ばれたみたいに自然に聡史さんがヒロを振り向いた。
音にならない言葉が、ふたりの間に行き交うようだった。
「だから俺たちの名前が『聖白』になった。単純だろ、こんなネーミングセンスしかない俺が作詞してんだぜ、ネタ切れにもなるってな~」
突然明るさを取り戻したヒロが、俺に片腕を回して寄りかかってきた。
聡史さんがテーブルの向こうでほんの少し表情を崩した。ほっとしているような、あたたかい顔つきでスエさんの呼びかけに応じるまでヒロを見つめていた。
「奇跡だ。聡史さんに会えて触れ合えることも、スエと歌えることも。けどなぁ長い時間絶望とセットだった熱情はさ、あっけなく絶望に擦りかわる。響にも身に覚えがあるんじゃねぇ?」
ヒロにどこまで俺の昔話をしただろう、と思い返しながら頷く。
あきらめることが当たり前だった心は、気を抜くとすぐにそこへ舞い戻ってしまう。
華やかで自信に満ちている姿しか知らなかった俺は、ヒロのその姿に心が動かされた。
(年下のこんな俺に、そんな話をしてくれるなんて。少しは俺のこと頼ってもいいって認めてくれている?)
だとしたら歯痒いほど俺は無力だ。ただ話を聞くことしかできない。
「俺が言えた立場じゃねぇけどさ。あきらめるなよ、響」
「……はい」
「『想いは命と同じさ』」
「それは『恋人』の詞ですね」
軽く歌いながら語られた言葉に目を輝かせれば、ヒロが大きく頷いた。
「響の想いがアレンに届く日が来ないとも言い切れないんだからな」
「……はい?」
驚きのあまり、俺はヒロの顔を穴が開きそうなほど見つめてしまった。
焼酎を飲みながらヒロが不思議そうな顔をする。
「何、変な顔してんの」
「だって……俺の想いって?」
「はぁ? シラを切るつもりか、響さんよ~」
半眼になったヒロの手が俺の頬をぴたぴた叩いてくる。その手が急に不快に思えて、俺は片手で振り払った。
「白状しちまえ、アレンが好きなんだろ?」
「ええ、もちろん。すごく頼りなる人ですし、助けてもらって、いつか恩返ししたいと……」
両肩をヒロの手が力強く握った。その力たるや、涙が出そうなくらい強くて痛い。
「おまえ……マジで言ってんの、それ?」
なぜかヒロが薄ら涙目になって俺を見上げてくる。
そんな顔をされる理由がわからず、力なくはいと答えた。
がくっ、とヒロの頭が下に落ちた。
「……自覚なさすぎて、むしろ恐ろしいわ……」
低く小さく呟くヒロの声が、まるで理解できなかった。
(何が恐ろしいって?)
ヒロが勢いよく顔を上げた。
「イギリス行ってた間、満足に夜眠れなかったんだろ? それがアレンと再会してからは眠れるようになった。間違いないな?」
「は、はい……」
異国の夜景の片すみで、突然重なった唇の感触と、それを目撃して去っていく背中を追いすがった。
無我夢中ですがりついた腕に抱きしめられて、翌日の昼まで眠ってしまったことは、いまだに思い出すだけで顔が茹だる。
「デビューアルバムのレコーディング中に、どうしてもアレンの前で歌えなかった曲があったんだろ?」
「……文月さんに聞いたんですか」
「たまたま俺たちも近くのスタジオ使ってて、様子見に行ったら富岡がいて苦笑してたんだよ。どうして歌えなかった?」
返事に詰まって俯く。
ヒロの手が逃げることは許さないとばかりに、俺の体を前後に揺すった。
「どんな歌詞だったんだよ、言ってみろ」
「うぅ……ヒロに言うのも気が引ける……」
「いいから」
「……『濡れる肌重ね、舌を絡め、爪で刻もう。愛してる』……」
面と向かって言えないので、俯いたまま白状すればヒロが口笛を吹いた。
「すっげぇ~の歌わせたな、カノンたち」
スエさんと同じくらいの爆笑に身を捩るヒロを、俺は悔しくて睨みつけた。
「どんな顔して歌ったのか、ぜひ見たかったぜ~」
「絶対にお断りです」
「んなこと言ったって、PV撮るんだろ? テレビやライブでも歌うだろうが」
もう撮ったんです、とは言えずにそっぽを向いた。
PVは曲の世界観を表現するものらしく、あれやこれやと注文されながら長い時間をかけて撮影した。初体験で楽しかったのだけれど、件の曲の時だけは違った。
富岡さんを泣き落とし、アレンさんは立ち入り禁止にしたスタジオで、二時間集中して撮り終えた。それ以上は撮り直しを拒否したけれど、制作側から撮り直しは要求されなかったので、何とか使えるものが撮れたようだった。
「テレビ出演決まったら即教えろ。録画予約しとく」
「嫌です」
「セットリストに入れてくれよ?」
「断固拒否します」
また爆笑するヒロを、聡史さんたちも何だと言う顔で見ていた。
「いや~笑わせてもらったわ。スランプ吹き飛んだかもしれん」
「……おめでとうございます」
トゲトゲしく言い返したら、頭をぐりぐり撫でられた。
「何でアレンだけ嫌だったんだよ?」
「またその話ですか……別に理由なんてありませんよ、本当はだれにも見られたくなかったです」
「ふ~ん?」
レコーディングはそれぞれ別々に行われ、俺は一日に一曲だけと制限されていたけれど、他のメンバーたちは調子が良ければ二、三曲レコーディングすることもあったらしい。
先に録り終えて余裕ができたらしく、ほぼいつもだれかが俺の歌う様子を見ていた。
(新入りだから心配してくれたんだよね、きっと)
気になって歌えないどころか、落ち着いて歌うことができたので、ひそかに感謝していた。
ただ件の曲の時だけは、他のメンバーたちには来て欲しくなかった。
スタジオで練習する時ですら、前を向いて歌えずに何度も神音に怒られたくらいだ。
「それなのにアレンだけ絶対立ち入り禁止にしたわけね」
「……何が言いたいんです、ヒロ。いい加減はっきり言ってくださいよ」
「言ってんじゃん。響はアレンを特別に意識してんだろって。『愛してる』て聞かれたくない相手ってのは、これ以上なく嫌いか好きか。どちらかしかないだろ?」
「…………」
「俺みたいに、そう言う意味で意識してない相手なら、多少恥ずかしかろうが言えただろ。レコーディングだって出来たんだ」
「……し、仕事ですから」
「アレンだって仕事仲間だろうが」
どうしてだろう、言葉がかけらも出てこない。
これが追いつめられたネズミの気分と言うやつか、と現実逃避したくなった。
「絶望ばっか見てんじゃねぇよ」
急に優しい声音になったヒロが、俺の額に額を合わせた。
「どうせ俺なんか見てもらえない。価値がないって思ってんじゃないの?」
「…………」
ぐっ、と胸が締め付けられた。
「響はすごい奴だよ。聡史さんが声を誉めるなんて、滅多にないんだぜ? 俺はおまえに嫉妬してる、俺の聡史さんを惑わせるなってさ」
「……そんなつもりないですよ……」
「いいコだよ、響は」
「…………」
「だれかを好きになったっていい。だれかに好きになってもらってもいい。おまえはちゃんとそれを受け入れていいんだ」
言葉の前に思考が途切れて、何も考えられなくなった。
優しい、包み込むようなヒロの声音に誘われて、熱い何かが喉元にせりあがってくる。
「全国まわって、歌ってくるんだろ?」
「……はい」
デビューアルバム発売前に、全国のライブハウスで演奏することになっている。
その出発が明後日で、年内に戻れるかどうか。『i-CeL』史上最も長い演奏旅行になるらしい。
「その間に考えてみな。苦しいばかりじゃないぜ、その想い」
「…………」
ヒロに問いかけられた意味もわからいままの胸の中に、わずかな光が灯った気がする。
その先はまだわからない。
だけどヒロの声は、ずっと忘れられないだろう。
俺と神音が最後だった。
「もう来てるよ、待っててくれてる。早く、神音っ!」
「ん~と、忘れ物なかったよな?」
片割れはのんびりと制作部屋を歩きまわって、置き忘れた物がないかを確認している。
俺は身ひとつなので荷物も少なく、足りなければ途中で補充できるだろう。
神音は楽譜やら何やらでずいぶん荷物が膨らんでいる。途中でどうにかできるものばかりではないらしい。
「昨日のうちに確認しておかなかったの?」
「したよ……けど、何か忘れてる気がしてさ。ん~」
部屋の真ん中で立ち止まり、腕組みして神音は天井を見上げた。
その時マンションの前でクラクションが鳴った。
全国を巡って演奏する旅が、今朝から始まるのだ。
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「思い出せないなら重要じゃないんだよ。なくてもどうにかできるさ、ほら行こう? 早めに出発する意味がなくなるだろ」
「……ん~そうだけど」
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