我恋歌、君へ。(わがこいうた、きみへ。)

郁一

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第一章

23:手と声の記憶

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 神音に付き添われて戻ってきた俺を見て、アレンさんは驚いたけれど何も聞かず、予定を変更してマンションへ戻った。
 リビングのソファに座り、神音がその前に立ち顔を覗きこんでくる。
「……少し落ち着いた?」
 言われてようやく、感情の波が顔を隠していることに気づいた。
 頷いた俺に、アレンさんが水を渡してくれた。
 何があったのか神音が聞いてきたので、母親と祖母の話を打ち明けた。
 話ながら寒くて体が震えた。あたたかい室内にいるはずなのに、まだあの家の玄関前でひとり動けなくなっているような気がした。
 目を閉じて項垂れ、神音は呻いた。
「生きるために響は忘れたけれど……」
 俺の前に膝をついて、まるで懺悔するみたいに膝に額をつけ、神音が話し出した。
「小学校に入ったばかりの頃に、ぼくはあるピアノコンクールに出場した。両親と一緒に響もついて来ていたけれど、待ち時間に退屈して、どこかへ行きたいと駄々をこねた。両親はどこへでも行けと突き放し、響はその言葉の通りに控室を出て行った。そして長い間帰ってこなかった。両親は気にしていなかったけど、どうしてかぼくは気になって仕方がなくて……コンクールなんてどうでもいいくらいに胸騒ぎがしていた」
「……コンクール」
 ぼんやりと覚えている。真新しい服を買ってもらい、前日の夜に着せてみせてくれた神音を、いいなぁと指をくわえて眺めた。
「ぼくの演奏がはじまる少し前に、ようやく響は戻ってきたけれど……真っ青な顔とぼんやり焦点の合ってない目をしてて、左手の指が変な形に折れ曲がってた」
 左手の指と聞いたとたん、治療の成果で痛みが引いていたはずの手が、熱を持ち痛みだした。
「痛いの、響? でも大丈夫、もう指は治っているから……落ち着いて」
「…………」
 どうやってか察した神音が言い聞かせ、左手に手を重ねる。
「ぼくを妬んだ、コンクールに出場していた他の子供の母親が、ぼくと間違えて響の指を折ったんだよ。でも母さんは信じなかった。響がショックで話せなかったせいもあって、自作自演だろうって笑った。たとえ本当だとしても、ぼくの指が折られなくてよかった、と」
 ゆっくり何度も神音の手が俺の手を撫でる。少しずつ痛みが引いていく気がした。
 神音の指は持って生まれた才能だけでなく、長い時間努力し続けた結果、神音が得た手だ。
 いまならこの手が壊れなくてよかったと思えるけれど。
「母親はピアニストになりたくて、あきらめざるをえなかった人だったから。響が自分みたいに思えたのかも……それからずっと響に冷たく接してきた」
 怪我した俺を、母親はろくに面倒を見なかったと言う。
 父親が帰宅するまでベッドの上で、俺は飲まず食わずで耐えていたこと。
 神音が切々と語った。
「長い間、響は声が出せなかった。女性を見るたびに父さんやぼくの陰に隠れたり、触られるだけで気絶することもあった。少しずつ治っていったけれど、その代わりに響は殻をまとうようになった」
 特別は作らない。
 趣味はなく、好きや嫌いも感じないように。
 常に家族の様子を伺い、家族を優先した。
「母親の求める姿になることだけを考えて、自分の感情は押し殺してきた。ぼくたちがそうさせてしまったんだっ」
 まだ小学生になって間もない子供が、ひとり置き去りにされた家の中で、必死に生きのびる方法を探し、考え出した方法が母親の都合のいい子供を演じることだった。
 最後は悲鳴みたいに声を絞りだした神音の手が、強く俺の手を握っていた。
「……神音」
「ぼくが響を誘う資格なんて、本当はなかったんだ。だけどどうにかしたいと思った。いつまでも響が縛られている必要はない、もう響自身を生きていいんだって……もしかしたら響の歌を聞いてくれたら、母さんの目が醒めるかもしれないと期待したんだけど。傷口をえぐっただけだったね……ごめん……」
 顔を伏せてしまっている片割れの後頭部を見下ろす。
 感情がかくれんぼをする子供みたいに、遠ざかってしまったようだ。心が痺れていて気落ちしている片割れを見ても、何も感じなかった。
 忘れていた過去を聞かされて、背筋に引きつれるみたいに冷たい悪寒を感じたけれど、それについて考えることも億劫なくらい、疲れ果てていた。
 まるで高校の教室にひとり、ただ座り続けていたあの日々に戻ったみたいだ。
 倦怠感に体中の力が抜き取られ、意識までもが溶かされていく気がした。
「……神音、ごめん……すごく疲れて……」
「うん。いいよ、ゆっくり休んで」
 神音に話しかけるのもやっとで、言い終わる寸前に意識が落下した。


 またこの夢か、とあきらめの気持ちを抱えて、暗い夢を見守る。
 ひとりでいる幼い俺を狭い部屋に連れ込んで、女性が馬乗りになる。
 おまえさえいなければ、と同じ台詞をくり返しながら、重い灰皿を振り上げ、指めがけて振り下ろす。
 幼い俺の口にはハンカチが詰め込まれているから、悲鳴はこもってしまって外には聞こえない。
 痛みと恐怖で気を失って、目覚めた幼い俺はゆっくりと起きて立ち上がり、部屋を出る。
 歩いていられるのが不思議なくらい、覚束ない足取りで向かった先に、たくさんの人たちがいる。
 コンクールに出る子と保護者たちの中に両親と神音がいて、まっさきに神音が俺を見つけて駆けつけてきた。
 遅れて父親が目の前で膝をつき、怪我の具合を見て顔色を変えた。
 抱き上げられた父親の肩越しに、母親が神音を連れて出て行く背中が見えた。
 部屋から連れ出されると、夢の中の背景が一変して自宅の部屋に変わる。
 二段ベッドの上段に俺を下ろすと、神音の演奏が聞きたいからと父親が部屋から出て行ってしまう。
 熱くて重い体と、ひっきりなしに痛む指だけを共にして、いつまでも俺はベッドの上に座り続けるのだ。
 その虚ろに宙を見る幼い俺を見下ろしたところで、少しずつ意識が浮上していく。
 歌うのを中断していた頃によく見ていた悪夢が、実家に立ち寄った日からより鮮明になって、しつこいほど同じ場面をくり返す。
「……もう、いい加減にしてくれ」
 言葉と一緒に息を吐き出しながら、前髪をかきあげる。その手に頭皮ににじんだ冷や汗が触れた。
 悪夢を見た後はかならず全身に冷や汗をかいていて、左指が激しく痛む。
 アレンさんのお父さんに相談したものの、階段から落ちた時に痛めた部分ではないので、痛む原因はわからないそうだ。
 多少節に不自然さはあるものの、かつて折られた指に異常はないらしい。
 神音の告解を聞いた日からもうすぐ一週間だ。
(いつまで過ぎたことを気にしているんだ。しっかりしろよ、そんな暇はないんだから)
 卒業記念ライブで演奏する曲目も決まり、練習も佳境に入っている。
 ライブの演奏曲はいままで神音が決めていたそうだけれど、今回はプロデューサーの富岡さんの意向も影響しているらしい。
 樫部が言った通り、神音の卒業を区切りにして、動き始めるつもりなのかもしれない。
 指の突然の激痛をのぞけば、ほとんど障害がなくなった俺も、アレンさんとスタジオに通っている。他のメンバーもいままで以上に時間をやりくりして、ほぼ毎日スタジオに集まっている。
 今日は全員が午前中に集まった代わりに、練習は夜更け前に打ち切られた。
 遅い夕食はメンバーたちとファミレスですませて、榎本家に戻ってきたところで眠気に襲われ、いつもの悪夢を見てしまったのだ。
 退院した日もここで眠ってしまったな、と苦笑しながら身を起こし、ため息をつく。
「起きた……?」
 背後からアレンさんの声が聞こえて、慌てて振り返ると浴室から出てきたところだった。
「すみません、俺……帰ってきてすぐ、眠ったみたいで」
 アレンさんがまだ濡れた髪をタオルで拭きながら苦笑する。
「エレベーターの中で寝そうな勢いだったからね。リビングまで我慢してくれて、よくがんばったって拍手したくなったよ」
「……あはは……すみません」
 肩を落としながら謝罪する俺の横に腰かけて、アレンさんが気にしないと笑った。
「ひとりで練習するのと、スタジオで練習するのは疲れ方も違うよ。それをほとんど毎日長時間続けているからね、疲れて当然だって」
 それに、と少し声を低くして続ける。
「……まだ痛むんでしょう?」
 無意識に右手で掴んでいた左手の上に、アレンさんの手が重ねられた。
「え……ぇ、はい……少し」
 隠しても無駄だとわかっているので、正直に答えた。
 実家に立ち寄った後、神音の話を聞いた直後からこの悪夢と指の発作ははじまった。
 あの日、悪夢にうなされて指を抱える俺をアレンさんが心配して、強引に目覚めさせてくれたから、アレンさんも俺が悪夢に悩んでいることを知っている。
 指の発作は目覚めているときも、不意に起こる。
 痛みだした指はしばらくの間、思う通りに動かせなくなってしまう。
 右利きだからそれほど不自由ではないものの、いつ発作が起きてもいいように、できるかぎり左手で物を持たないようにした。
 何度目かの発作で持っていたコップを落として割ってしまった。それが実家で使っていたような安物じゃないと後で知って、でも弁償しようとしても受け取ってくれないから、もう二度とするまいと誓ったのだ。
 けれど痛みだけは対策の立てようもなく、時間が過ぎるのを歯を食いしばって待つしかない。
 アレンさんの手が、労わるようにそっと撫でてくれる。
「……オレが身代わりに、引き受けることができればいいのにね」
 しばらく手を動かして、沈黙していたアレンさんが俺の手を見下ろして呟いた。
「そんなことしたら、ドラム叩けなくなりますよ。俺はいいんです、歌には関係ありませんから」
「そうかもしれないね……」
「…………」
 微妙な答え方をして、アレンさんがまた口を閉ざした。
 それきりふたりで重なった手を見下ろす。
 薄明かりのリビングに並んで座り、遠くの物音や夜の街の喧騒だけを宙に遊ばせた。
「……響くん、はじめて歌ったライブを覚えている?」
 やがてそろり、とアレンさんが話し出した。
 もちろん、忘れられるわけがない。
「ライブの前に神音が謝っていたでしょ。あの時のことをね、最近よく思い出すんだよ。あいつなりに苦しんでいたんだなって……そして、響くんは神音以上に苦しんできた」
「…………」
「歌い終わった後の響くんを拉致して、特訓で使った公園まで行ったのも覚えているかな。そこで響くんは何に怯えているのかって聞いたでしょ……響くんはだれかの声がして、とても恐かったと教えてくれた。その声はまだ響くんに聞こえているんじゃないの?」
「……俺、は……」
「この手の痛みは、響くんが耐えている心の痛みではないの? 声に怯えて、あと一歩が踏みこめないから、思うように歌えなくて苦しんでいる……オレの考えすぎかな?」
「…………」
 どくん、と心臓が声を張り上げた。
 連日練習を重ねても、相変わらず俺は満足に歌えていない。技術が未熟なのはいますぐどうにか出来る問題じゃないのであきらめているけれど、それ以前に引っかかりを自覚する瞬間がある。
 曲の途中でもっと声を出そうと思ったとたんに、なぜか強い抵抗を感じて控えてしまうことがあるのだ。
 努力でどうにか出来るだろうと練習を重ねてきたけれど変わらず、むしろ抵抗力が強くなってきた気がする。
 俺の緊張が伝わったのか、アレンさんの手が優しく俺の手を叩いた。
「技術面はオレではわからないから、直感でしか話せないけれど。ずっともどかしく感じてた……距離を感じる歌声だって」
「……距離、ですか」
 ひとつ、アレンさんが頷く。
「オレがここで話していると、声だけじゃなくていろんなコトを感じるでしょう。息づかいとか、ひょっとしたら体臭とかさ」
 最後はおどけて笑って、肩をすくめた。
「もしオレが部屋の隅から響くんに話かけてたら、それは感じられないか、感じにくいよね。そんな感じと言えばいいのかな……歌っているのに、響くんは遠ざかろうとしている。それがずっと気になっていた」
「…………」
「響くんに聞こえている声が、響くんをみんなから遠ざけていると思う。オレで身代わりになれるなら、痛みくらい引き受けるよ。しがらみを脱ぎ捨てて、響くんが思う通りに歌えるのなら何度だって」
「アレンさん……」
 俺に向き直って、アレンさんが身を乗りだした。息が触れるほどの距離まで近づく。
「本当の響くんの声が聞きたいよ」
「…………」
 額と額をあわせて、静かでいて強い声音でアレンさんが言う。
「響くんを暗い部屋に閉じ込めている声を、この手が遮れないかな」
 俺の両側の耳をアレンさんの両手が包み隠した。
 ぼわんと血潮の音が聞こえる。
 目を閉じてその音に耳を傾けた。
(……何だか……力が抜けてくる……)
 悪い意味じゃなく、体がほぐれるとでも言うのだろうか。疲れ果ててベッドに身を投げ出した瞬間に似た気持ちだった。
 額と耳に触れる体温。そこから伝わってくる無言の想い。
 それらが流れ込んできて、胸の奥で熱くなるようだった。
「俺は……おまけだったんです」
 たとえようもなく心地い熱さに目を閉じて身を委ねつつ、思いつくままに話そうと口を開いた。
「神音の部屋に住まわせてもらっている同居人。母親は俺をそれくらいにしか思ってなかったでしょう……いくつの誕生日だったか忘れましたけど、俺は神音とは違う物が欲しいと言いました。母親はすぐにいい気になるなよ、おまけの分際でと言って聞いてくれなかった。その時から何となくわかってたんですけど、あの事件が起きて……」
 言い淀んだ俺の気持ちを察したのか、勇気づけるみたいに額に触れているアレンさんが頷いた。
「……どうしたら愛してくれるだろうって、そればかり考えてきた。神音みたいに飛び抜けた才能がない代わりに、役に立てれば捨てられないと思いついて……なのに、このざまで……」
 口元が歪んで自嘲する。
「俺はたしかに不器用だし、凡才で要領も悪くて、いいところなんて何もない人間ですけど……天才じゃなければ、親に愛される資格はないんでしょうか……?」
 注ぎこまれた熱が言い募るごとにふくらんできて、喉から溢れだしてしまいそうになっていた。
「どうしたらいいんです……消えれば愛してくれるんですか、そんなはずない。ただせいせいしたって言うだけだ。俺は、一体何なんです? それほど醜くて、存在するだけで害になる者なんですか?」
 左手の痛みが強くなってきた。
 競争するみたいに胸の熱が昂ぶってくる。
 本当はこの問いかけを投げかけたい相手がアレンさんではないと理解しているのに、面と向かっては言いだせないんだ。
 俺は卑怯者だから。
「俺はまだあの部屋にいて、怪我をした手を抱えて、立ち上がれないままで動けない。わからないんです……どうしたらいいのか、もう……」
 暗い部屋の中に、立ち去ったはずの加害者の気配に怯え続けている。
「弱くて、頼りなくて馬鹿で……卑怯だから捨てられたんですか?」
「……そんなことはないよ」
 小さな優しい囁き声に、鼻の奥が刺激されて涙があふれそうになった。
「好きなのに……どうしてっ……」
 はっきりと聞いたのに、まだ母親を嫌いになれない。
 だからこそ左手が痛むのだ。声に出せない感情を代わりに痛みが叫んでくれている。
「だれかや何かを好きになったら……特別を作ってしまったら、また同じ想いをしなければいけない……もうこれ以上は耐えられないから、傷つかないように何も感じなければいいと無意識に考えていたんでしょうね……神音がよく不感症って言っていた意味がようやくわかった気がします」
 世界に背中を向けて、自分だけを見つめて、ただ日々をやり過ごしてきた。
「でも神音に誘われて歌いはじめたら楽しくて……駄目だって理性が止めるのに、もっと歌えるようになりたいって気持ちがすり抜けて止められなくなっていった」
 何も知らないまま、振り回された特訓三昧の日々。
 ひとつずつ音楽の超基礎を学びなおす時間ですら、眠らせていた心が動き出そうとするくらい俺にとっては刺激的だった。
「はじめてライブで歌った時に、恐れていた通りのことが起きたと思ったんです。『i-CeL』と言う特別な存在が愛しいのに、俺は切り捨てられると思って……動けなかった」
 いやがらせをメンバーに相談できなかったのは、厄介な問題を持ち込んで迷惑がられて、追い出されたらと考えてしまったからだ。
 須賀原の忠告を信じてしまいそうだったのも。
「……恐いんです。好きにならなければ、たとえ嫌われたって傷が浅くて済むでしょう? そう考えてしまう……俺って本当に狡賢い奴ですね……」
 話しているうちに、醜さを目の当たりにさせられて、いたたまれなくなってきた。
 そんな俺の耳から手を離して、アレンさんが頬に触れてきた。
 目を開くと、至近距離で微笑んでくれているのが見える。
「響くんの抱えている恐怖は、だれしもが感じていることだよ。オレだって、神音にもある感情だ。響くんが卑怯だからじゃないよ、人間みんな我が儘なの」
「……我が儘」
「もっと、もっとと生きるのが人間なんだよ。心地よく、幸せに、楽しく。そうじゃない経験はしたくないってね」
 アレンさんが俺の額に唇を寄せて言った。
「たくさん傷ついて、苦しんできたんだね……お疲れさま、頑張り屋さん。ここまで辿りついてくれてありがとう……頑張ってくれたから、オレは響くんに出会えた。だからもういいよ」
「アレンさん……」
「たった一度聞いたくらいで安心できないだろうから、不安になったらオレのところにおいで。飽きるほどくり返し、抱きしめて響くんが好きだよと聞かせてあげるから」
「…………」
「そのままの響くんが好きだよ。恐がっていい、泣いたっていいし、座りこんだっていい。オレがいるし、神音だって八代も文月も近くにいて、いつだって手を差し出す。響くんが求める時、その手を握ってくれればいい」
 夏の蝉の声みたいに痛み続ける左手を、アレンさんの手が包んでくれた。
 時間が経てば経つほどに、深く浸透してくるぬくもりに、気がつくと目から止める間もなく涙があふれていた。
 いつもなら情けないと拭う涙だけど、いまはこのままでいいんだと思えた。
 言葉を閉ざしても手を通して伝わってくる。
 俺はここで泣いても許されるんだと、そう安心できたから堪えることを手放した。
 意識がぬくもりに導かれて過去へ遡る。
 幼いまま取り残された俺がすぐそばにいる気配を感じながら、アレンさんに甘えて気がすむまで手をつないで泣き続けた。
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