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第二章
我恋歌、君へ。第二部 2:隣人と来訪者
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ひっきりなしにドアを叩く音が聞こえて、ようやく手に入れた安眠を破られた。
(うぅ……だれだよ、うるさいなぁ~……いま出るから、少し叩くの止めてくれ)
少しましになった頭痛が、ドアを叩く音に勢いを取り戻していくようだった。
こめかみを指で押さえながら玄関ドアへ向かい、チェーンをかけたまま鍵を開けて開く。
『どなたですか?』
覚えたての英語で話しかけたものの、答えはなかった。
(……あれ?)
まだ半覚醒だった頭が、ようやく活動をはじめたらしい。
ドアを叩く音が遠いようだと気づいて、目を擦りながらドアを閉じ、チェーンを外してからもう一度ドアを開く。
廊下に顔を出して音の出所を探すと、隣の部屋の前にシルバーグレイヘアの男性が立っているのが見えた。
ダークグレイのスーツがよく似合うイギリス紳士の見本みたいな男性は、やがて俺に気づいて手を止めた。
『朝早くに失礼いたしました。そちらにアレクシスがお邪魔しておりますか?』
男性の口から流れてくる美しい発音の英語をすべては聞き取れずに、俺は目を丸くしてたじろいだ。
『す、すみません。俺英語苦手で……』
『おぉ……では、アレクシスを知りませんか?』
男性は穏やかに発音を切りかえ、簡単な英語で話しかけてくれた。
『アレクシス……あ、隣の……』
初対面で名乗った時に、辛うじて聞き取れた名前を思い出して、彼に抱いていた悪印象までもが胸に浮上してくる。
つい顔が歪みそうになる俺に、男性は急に駆け寄ってきて顔を近づけてきた。
『こちらにいますかっ? ぜひ会わせてください、お願いいたします!』
『え、ちょっ……うわぁ~』
奇声を発して逃げだした俺は、ドアを閉めようとしたけれど隙間に足を入れられてしまった。
(高そうな革靴……じゃなくて、何なんだこの人っ)
見かけによらず、危ない人なんじゃと血の気が引く思いだ。
どうにかドアを閉めようとする俺と、入ろうとする男性が押しあう中、のんびりとした声が割って入った。
『朝っぱらから、うるさいなぁ~……誰だい、騒いでいるのは?』
押しあうのも忘れて、ふたりが声に気を取られた。
俺はドアの隙間から男性に近づく人影を見て、つい舌打ちしたくなった。
ブラウンヘアをかきあげつつ、バスローブ姿のアレクシスが男性に近づいてきていた。
アレクシスは狭いアパートの廊下が、さらに狭く感じるほど存在感がある。俺より少し年上だろうけれど、何事にも動じないだろうなと思える落ち着きもあって、人目を集める優れた容姿も持ち合わせていた。
男性はアレクシスを見つけたとたん、おぉ、と奇声を上げて天を仰いでしまった。
『ようやく見つけました。天よ、感謝いたします!』
『何だ、ロベルトじゃないか……久しいね』
のんびり欠伸するアレクシスへ、男性が掴みかかる。胸倉掴んで持ち上げそうな勢いだ。
『久しいね、ではないでしょうっ! いままで連絡もなく、どこを歩き回っていたのですかっ! どれだけ我々が心配していたと……それなのにあなたは、あなたと言う人は……あんな子供にまで手を出して』
『子供? ちょっと待ちたまえ、ロベルトよ。君は何を言っているんだい?』
アレクシスは胸元を掴むロベルトの手を外しながら、はてと首を傾げた。
『私を騙そうとしても無駄でございますよ。そこにほら、何とも可愛らしい子供がいるではないですか。しかも寝乱れた姿でっ』
何だか言い合いをしていたふたりのうち、ロベルトの方が俺を指さした。
アレクシスが俺を、俺は指を見て、ふたり揃って首を傾げる。
さきほどから早口すぎて、ふたりの会話が聞き取れなかった俺と、話が見えないアレクシスがロベルトへ視線を向けた。
『嘆かわしい……アレクシスがついにこのような子供にまで手を出したなんて。ご両親になんとお詫びしたらよいものか』
ロベルトが片手でアレクシスを掴んだまま、もう一方の手で目元を覆い、天を仰いで嘆きだした。
ようやく話が見えてきたらしいアレクシスが、長く息を吐いてからロベルトの手をぽんぽんと叩いた。
『落ち着きたまえ、ロベルト君』
『これが落ち着けますか、アレクシス』
『僕がその子に手を出すわけがない。その子は男の子なのだからね』
『そう、男の子……ええぇ~っ』
ロベルトが物凄い勢いで俺を振り返った。
そのまま目を見開いて凝視してくる。
(な、なな何なの……?)
会話をほとんど聞き取れなかった俺は、ロベルトの視線の意味がまるで理解できない。
アレクシスはそんな俺の様子に、愉快そうに腹を抱えて笑いだした。
なぜか笑い声が癪に触る。俺がアレクシスを睨みつけると、気づいたアレクシスは肩をすくめてわざとらしく視線を外した。
『僕の知り合いが早朝から騒いで申し訳なかったね。お詫びにコーヒーをご馳走しよう。どうかお手を、姫君』
『……アレクシス、この子は男の子だと言ったばかりですが?』
俺に手を差し出してきたアレクシスへ、ロベルトが力なく声をかけた。
『大丈夫、この子ほとんど英語分かってないみたいだから』
『はぁ……』
爽やかに笑っているけれど、どうにも人をからかっているように見えるアレクシスに反して、ロベルトは優しく微笑んで長身を屈めて話しかけてきた。
『朝早く、起こしてすみませんでした』
『い、いえ』
どうにか意味を汲みとれた俺に、ロベルトがまたにこりを微笑みかける。
『コーヒーを一緒に飲みませんか? お詫びに私がサンドイッチを作ります』
『……え、と』
意味は伝わったけれど、どう答えたらいいのか迷う俺の手を、さっさとアレクシスが掴んでしまう。
『うわっ、ちょっと待って』
『いいからいいから。ロベルトのサンドイッチは美味しいよ。滅多に作らないけどね』
俺の意思は無視して、アレクシスは自分の部屋に俺を連れて行って、キッチンテーブルの椅子に座らせてしまった。
その手際の良さと丁寧さに、遊び慣れた大人の空気を感じた。
(……やっぱりこいつ嫌いだ)
不機嫌へのスイッチを簡単にオンにしてしまうアレクシスは、そばにいるだけで重荷に感じた。
早くコーヒーとサンドイッチをご馳走してもらって、この部屋を出ようと心に誓う。
ロベルトはアレクシスの部屋に入ると、冷蔵庫を漁って食材を探しだした。
『チーズがありませんね。お、生ハムがありました』
『それ今夜食べようとしてたんだけど?』
『嫌いなものはありますか?』
アレクシスがちょっと不機嫌そうに、ロベルトの手の中の物を見て声を上げた。
あっさりと無視したロベルトが、また俺に微笑みかけながら問いかけてくるのへ、首を振って大丈夫と答えた。
本当に手際よく作ってくれたロベルトのサンドイッチは美味しかった。
『美味しいっ』
寝不足や頭痛も忘れる美味しさに、ついロベルトへ笑いかけると、一瞬目を丸くした後で笑顔になり俺の頭を撫でてきた。
『これで男の子だなんて、信じられませんね』
『そんなメリハリのない体の女の子はいないよ。ところで……何の用事だったの、ロベルト?』
サンドイッチを憂鬱そうにつまんで、眺めるばかりのアレクシスが、まだ俺の頭を撫でていたロベルトに話を振った。
『様子を見に来ただけです』
『嘘だね。ここを探すのは簡単じゃなかったでしょう。目的は何だい、パパかママ、どっちの命令?』
『……私の独断でございます』
アレクシスはサンドイッチを手放し、鼻で笑い飛ばした。
『それも、嘘』
『いいえ本当でございますよ』
それきりお互いに睨み合ってしまった。
(……よくわからないけど、帰りにくくなっちゃったな……)
淹れてもらったコーヒーも美味しくて、つい本来の目的を忘れて味わってしまっていた俺は、急に深刻な雰囲気になったふたりに挟まれて、どうしたらいいものか視線をさまよわせた。
すると背後のドアが開いた。
寝室だと思うそこから、ほぼ隠したところのない女性が現れて、振り向いてしまった俺はコーヒーを吹き出しそうになった。
慌てて前に向き直して、顔を伏せたけれど耳まで真っ赤になっている自覚がある。
(うわ~……何て言う美人……)
クラスメイトたちがよってたかって眺めていた、グラビアアイドルが霞んでしまいそうな豊満ボディと美肌、そして色気あふれる女性だった。
『あら、お客様?』
『おはよう、女王様。ご機嫌はいかが?』
すかさずアレクシスが立ち上がり、女性に近寄っていく。軽く音が聞こえたから、きっとふたりがキスしたのだろう。
ロベルトも視線をコーヒーカップに落として、見ない振りをしている。まったく落ち着いたその雰囲気に、アレクシスの言動に慣れているんだろうなと感じた。
『わたし、お邪魔みたいね』
『そんなことないよ。すぐに帰るさ、ふたりとも』
『いいえ。失礼ですが、レディ。アレクシスと話をさせていただきたい。出来れば我々だけで』
女性と一緒に逃げそうなアレクシスに気づいて、ロベルトがきっと顔を上げて睨みつけながら、丁寧にでも強い口調で言葉を重ねていた。
『いいわよ。わたしもこれから用事があるし……また誘ってね、アレク』
もう一度キスをしてから、女性は着替えに戻ったらしい。
また沈黙が続いた後で、部屋から出てくる音が聞こえた。
玄関までアレクシスが女性を送りだし、戻ってくると髪をかきあげてため息をついた。
『まったく……何のつもりだい、ロベルト。僕は君と話したくない気分だよ』
『いいえ、聞いていただかねばなりません』
ロベルトは席を立ち、アレクシスの足元に膝をついた。
(生で見た……映画でたまに見たけど、実際に見るとすごい光景だよな)
片膝をつき、胸に手を当てて頭を垂れたロベルトの姿は、とても洗練されていてきれいだった。
受ける方のアレクシスも慣れた様子で、ふたりが俺とは別世界の人間に見えてきた。
『アレクシス。どうかもう一度リンクに戻ってくださいませ』
『……だから、僕はもう滑らないと言ったはず……』
『あなたがリンクに戻らねば、パメラさまはずっと気に病まれますっ。あの方の為にあなたがすべきことは、逃げ出すことではございませんっ』
それまでずっと余裕を湛えていたアレクシスの容貌が、急に歪んで苦しそうに目を細めたかと思うと、項垂れたロベルトを足で蹴って突き飛ばした。
『なぜおまえが僕を諭すんだいっ! おまえの顔など見たくない、帰れ……帰りなさいっ』
突然の出来事に驚いた俺は、床に倒れるロベルトに駆け寄った。
助け起こすと、痛そうに顔をしかめたロベルトはすぐにアレクシスの元へ戻って行った。
『いいえ、言わせていただきます。どうかもう一度リンクへ戻ってください』
『何度も言わせるんじゃないっ』
頭を抱えて、プレイボーイな雰囲気をかなぐり捨てて、アレクシスはロベルトから逃げるように背を向けて、体を縮めた。
『……おまえに、何がわかる……僕がどんな気持ちでいるのか……わかるものか』
『アレクシス……』
ロベルトが声を失って立ち尽くす。
やがて床に座りこみ、自分の体を抱きしめて震えだしたアレクシス。ふたりを前にして、俺は何をどうするべきか悩んでいた。
(何が起きているのか、さっぱりだよ……ただいま出て行くのは止めた方がいいのはわかるんだよね……かと言ってここにいても、意味ないよな。ふたりの世界作ってる)
すっかり忘れられた立場にいる俺を、けれどロベルトはちらりを振り返って見てきた。
(ん?)
何だろと思う前にロベルトが動いて、アレクシスの隣に静かに歩み寄る。そばに屈んで座り、その背中にそっと手を乗せた。
『あなたひとりではさせません。私も力をお貸しいたします。それにいきなり元に戻れとも申しません。まずはこのイベントに出場して慣らしていきましょう』
そう言ってロベルトが懐から紙を取り出して見せた。
手渡されたアレクシスが読んだ後、ゆっくりとロベルトを見上げて呆然と呟いた。
『社交ダンスの地方イベントかい』
『そうです。リンクではありませんから、第一歩にはうってつけでございましょう?』
『……ロベルト、ついに耄碌したかい? 社交ダンスを踊るにはパートナーが必要なのだよ?』
ロベルトはにっこりと笑った。いままで見たどの笑顔よりも会心の笑顔だった。
『もちろん、存じ上げておりますとも』
『僕はだれとも組んでいないよ?』
『パートナーを見つければよろしいでしょう。それにすでにちょうどよい方がいらっしゃいます』
『……どこに? だれのことを言っているのかな』
相変わらずリズムよく交わされる英語が聞き取れない俺は、身の置き場がなくて困り果てていた。
そんな俺にロベルトが片手を指し向けてきた。アレクシスもゆっくりと振り向いて、視線が合う。
『彼がいるでしょう』
『……え?』
『はぁ?』
俺とアレクシスが同時にロベルトを見た。
ロベルトが笑顔で頷いていた。
『どう見ても女の子に見える彼とパートナーになり、地方ダンス大会で踊ってください』
アレクシスは数秒間、ロベルトを見て硬直していた。
俺は最後まで英語がわからずに首を傾げるしかなかった。
朝早くに帰宅したモーチンさんが通訳をしてくれたおかげで、俺はアレクシスとロベルトが話していた内容を理解することができた。
だからと言って納得したわけじゃない。
『嫌ですっ、アレクシスとダンスを踊るなんて、絶対に嫌です!』
そう、連日連夜悩まされた恨みの他にも、そこにいるだけで神経を逆なでしてくる人間と手をつないで踊りたいなんて思うわけがない。
しかもそれ以上に癇に障るのが、ロベルトが俺を指名した理由だ。
『アレクシスは女癖が悪いのが欠点でございます。しかしあなたなら問題ない。その上見た目は女性として偽ることも問題のないお方だ』
「問題大ありですよっ!」
言い返したくても英語がわからなくて、思わず日本語で叫んでしまった。
モーチンさんがとなりで通訳しながら、俺を苦笑しながら宥めてくる。
キッチンテーブルを囲んで、俺とモーチンさん、対面にロベルトとアレクシスが並んで座り、俺とアレクシスは双方ともに不貞腐れてそっぽを向いた。
穏やかに笑うロベルトと、にこにこ笑顔のモーチンさんだけは意気投合したみたいで話し続けていた。
『なるほど、あなたが声楽家の……』
『お、知ってました? うれしいな~』
『ええ。アレクシスが以前、あなたが公演なさった楽曲で踊ったことがありまして』
意気揚々と会話を続けるロベルトに、アレクシスが顔を向けて遮った。
『いい加減にしなよ、ロベルト。口を閉じなさい』
けれどモーチンさんは意に介さず、ロベルトに話しかけ続けた。
ついにアレクシスが止める間もなく、ロベルトからアレクシスの事情を引き出すことに成功した。
『二年前まで、アレクシスはアイスダンスの選手でした。そして私はそのコーチだったのです』
『アイスダンスの……ほうほう』
相槌を打つモーチンさんの隣で、つい俺もロベルトの声に耳を傾けてしまっていた。
ロベルトの声音からは、アレクシスに対する愛情を感じる。けれど事情を話しだした声にはそれ以上の苦しさを感じたからだ。
『……シャワーを浴びてくる』
アレクシスは話を聞きたくないと、短く言い捨てて立ち去った。
ロベルトはそれを見送って、続きを話し出した。
『パメラさまはアレクシスの幼なじみでもあり、よきパートナーでした。ふたりでオリンピックを目指して練習を重ね、試合で結果を出してきました。けれどオリンピックの出場をかけて臨んだ試合で、事故が起きてしまったのです』
ロベルトは淹れなおしたコーヒーを一口すすって間を置いた。
『アレクシスがパメラさまを持ち上げて、リンクへと戻した時、立ち上がろうとしたパメラさまのスケートシューズの紐が切れたのだそうです。立ち上がるタイミングがずれてしまい、かつバランスを崩したパメラさまは次の振りつけで足を振り上げたアレクシスのスケートシューズで顔を蹴られる形となってしまったのです』
モーチンさんの通訳を経て、ようやく事情を飲みこめた俺は息を飲んだ。
何回かテレビでフィギュアスケートを見たことがある。アイスダンスはほとんど見たことはないけれど、スケートを経験したこともあるから、何が起きたのか想像できた。
『……パメラさまはアイスダンスを引退されましたけれど、アレクシスを恨んではいないと言ってくださいました。しかしアレクシスは……恐怖心からリンクに立てなくなってしまったのです。文字通り、一秒も立っていられなくなりました。そしてある日だれにも言わずに行方をくらまし、本日まで生存すらわからぬ状態でございました』
『…………』
俺に通訳してくれた後、モーチンさんもさすがに何と声をかけるべきか迷ったみたいで、俺とふたりで声もなくロベルトを見ていた。
『アレクシスの気持ちは無理もないと思います。ですがパメラさまはアレクシスのダンスをまた見てみたいと言ってくださった。その気持ちを無駄にして欲しくないのです』
『だからって、なぜ社交ダンス?』
モーチンさんに教わりながら、英語で問いかけてみるとロベルトがため息をついた。
『アレクシスが最初に踊る楽しさを知ったのが、社交ダンスだったそうです。リンクに立つことがもし永遠に出来なかったとしても、踊る楽しさを忘れないでいて欲しいと思うのです。それに』
言葉を切って、ロベルトは背後を確かめた。
まだアレクシスが出てきていないことを確かめてから、声をひそめて言った。
『パメラさまがこの大会をご覧になるそうです。彼女こそがアレクシスを探してと依頼してきたのです』
彼にはまだ内緒にしてくださいね、とロベルトは苦く微笑んだ。
(うぅ……だれだよ、うるさいなぁ~……いま出るから、少し叩くの止めてくれ)
少しましになった頭痛が、ドアを叩く音に勢いを取り戻していくようだった。
こめかみを指で押さえながら玄関ドアへ向かい、チェーンをかけたまま鍵を開けて開く。
『どなたですか?』
覚えたての英語で話しかけたものの、答えはなかった。
(……あれ?)
まだ半覚醒だった頭が、ようやく活動をはじめたらしい。
ドアを叩く音が遠いようだと気づいて、目を擦りながらドアを閉じ、チェーンを外してからもう一度ドアを開く。
廊下に顔を出して音の出所を探すと、隣の部屋の前にシルバーグレイヘアの男性が立っているのが見えた。
ダークグレイのスーツがよく似合うイギリス紳士の見本みたいな男性は、やがて俺に気づいて手を止めた。
『朝早くに失礼いたしました。そちらにアレクシスがお邪魔しておりますか?』
男性の口から流れてくる美しい発音の英語をすべては聞き取れずに、俺は目を丸くしてたじろいだ。
『す、すみません。俺英語苦手で……』
『おぉ……では、アレクシスを知りませんか?』
男性は穏やかに発音を切りかえ、簡単な英語で話しかけてくれた。
『アレクシス……あ、隣の……』
初対面で名乗った時に、辛うじて聞き取れた名前を思い出して、彼に抱いていた悪印象までもが胸に浮上してくる。
つい顔が歪みそうになる俺に、男性は急に駆け寄ってきて顔を近づけてきた。
『こちらにいますかっ? ぜひ会わせてください、お願いいたします!』
『え、ちょっ……うわぁ~』
奇声を発して逃げだした俺は、ドアを閉めようとしたけれど隙間に足を入れられてしまった。
(高そうな革靴……じゃなくて、何なんだこの人っ)
見かけによらず、危ない人なんじゃと血の気が引く思いだ。
どうにかドアを閉めようとする俺と、入ろうとする男性が押しあう中、のんびりとした声が割って入った。
『朝っぱらから、うるさいなぁ~……誰だい、騒いでいるのは?』
押しあうのも忘れて、ふたりが声に気を取られた。
俺はドアの隙間から男性に近づく人影を見て、つい舌打ちしたくなった。
ブラウンヘアをかきあげつつ、バスローブ姿のアレクシスが男性に近づいてきていた。
アレクシスは狭いアパートの廊下が、さらに狭く感じるほど存在感がある。俺より少し年上だろうけれど、何事にも動じないだろうなと思える落ち着きもあって、人目を集める優れた容姿も持ち合わせていた。
男性はアレクシスを見つけたとたん、おぉ、と奇声を上げて天を仰いでしまった。
『ようやく見つけました。天よ、感謝いたします!』
『何だ、ロベルトじゃないか……久しいね』
のんびり欠伸するアレクシスへ、男性が掴みかかる。胸倉掴んで持ち上げそうな勢いだ。
『久しいね、ではないでしょうっ! いままで連絡もなく、どこを歩き回っていたのですかっ! どれだけ我々が心配していたと……それなのにあなたは、あなたと言う人は……あんな子供にまで手を出して』
『子供? ちょっと待ちたまえ、ロベルトよ。君は何を言っているんだい?』
アレクシスは胸元を掴むロベルトの手を外しながら、はてと首を傾げた。
『私を騙そうとしても無駄でございますよ。そこにほら、何とも可愛らしい子供がいるではないですか。しかも寝乱れた姿でっ』
何だか言い合いをしていたふたりのうち、ロベルトの方が俺を指さした。
アレクシスが俺を、俺は指を見て、ふたり揃って首を傾げる。
さきほどから早口すぎて、ふたりの会話が聞き取れなかった俺と、話が見えないアレクシスがロベルトへ視線を向けた。
『嘆かわしい……アレクシスがついにこのような子供にまで手を出したなんて。ご両親になんとお詫びしたらよいものか』
ロベルトが片手でアレクシスを掴んだまま、もう一方の手で目元を覆い、天を仰いで嘆きだした。
ようやく話が見えてきたらしいアレクシスが、長く息を吐いてからロベルトの手をぽんぽんと叩いた。
『落ち着きたまえ、ロベルト君』
『これが落ち着けますか、アレクシス』
『僕がその子に手を出すわけがない。その子は男の子なのだからね』
『そう、男の子……ええぇ~っ』
ロベルトが物凄い勢いで俺を振り返った。
そのまま目を見開いて凝視してくる。
(な、なな何なの……?)
会話をほとんど聞き取れなかった俺は、ロベルトの視線の意味がまるで理解できない。
アレクシスはそんな俺の様子に、愉快そうに腹を抱えて笑いだした。
なぜか笑い声が癪に触る。俺がアレクシスを睨みつけると、気づいたアレクシスは肩をすくめてわざとらしく視線を外した。
『僕の知り合いが早朝から騒いで申し訳なかったね。お詫びにコーヒーをご馳走しよう。どうかお手を、姫君』
『……アレクシス、この子は男の子だと言ったばかりですが?』
俺に手を差し出してきたアレクシスへ、ロベルトが力なく声をかけた。
『大丈夫、この子ほとんど英語分かってないみたいだから』
『はぁ……』
爽やかに笑っているけれど、どうにも人をからかっているように見えるアレクシスに反して、ロベルトは優しく微笑んで長身を屈めて話しかけてきた。
『朝早く、起こしてすみませんでした』
『い、いえ』
どうにか意味を汲みとれた俺に、ロベルトがまたにこりを微笑みかける。
『コーヒーを一緒に飲みませんか? お詫びに私がサンドイッチを作ります』
『……え、と』
意味は伝わったけれど、どう答えたらいいのか迷う俺の手を、さっさとアレクシスが掴んでしまう。
『うわっ、ちょっと待って』
『いいからいいから。ロベルトのサンドイッチは美味しいよ。滅多に作らないけどね』
俺の意思は無視して、アレクシスは自分の部屋に俺を連れて行って、キッチンテーブルの椅子に座らせてしまった。
その手際の良さと丁寧さに、遊び慣れた大人の空気を感じた。
(……やっぱりこいつ嫌いだ)
不機嫌へのスイッチを簡単にオンにしてしまうアレクシスは、そばにいるだけで重荷に感じた。
早くコーヒーとサンドイッチをご馳走してもらって、この部屋を出ようと心に誓う。
ロベルトはアレクシスの部屋に入ると、冷蔵庫を漁って食材を探しだした。
『チーズがありませんね。お、生ハムがありました』
『それ今夜食べようとしてたんだけど?』
『嫌いなものはありますか?』
アレクシスがちょっと不機嫌そうに、ロベルトの手の中の物を見て声を上げた。
あっさりと無視したロベルトが、また俺に微笑みかけながら問いかけてくるのへ、首を振って大丈夫と答えた。
本当に手際よく作ってくれたロベルトのサンドイッチは美味しかった。
『美味しいっ』
寝不足や頭痛も忘れる美味しさに、ついロベルトへ笑いかけると、一瞬目を丸くした後で笑顔になり俺の頭を撫でてきた。
『これで男の子だなんて、信じられませんね』
『そんなメリハリのない体の女の子はいないよ。ところで……何の用事だったの、ロベルト?』
サンドイッチを憂鬱そうにつまんで、眺めるばかりのアレクシスが、まだ俺の頭を撫でていたロベルトに話を振った。
『様子を見に来ただけです』
『嘘だね。ここを探すのは簡単じゃなかったでしょう。目的は何だい、パパかママ、どっちの命令?』
『……私の独断でございます』
アレクシスはサンドイッチを手放し、鼻で笑い飛ばした。
『それも、嘘』
『いいえ本当でございますよ』
それきりお互いに睨み合ってしまった。
(……よくわからないけど、帰りにくくなっちゃったな……)
淹れてもらったコーヒーも美味しくて、つい本来の目的を忘れて味わってしまっていた俺は、急に深刻な雰囲気になったふたりに挟まれて、どうしたらいいものか視線をさまよわせた。
すると背後のドアが開いた。
寝室だと思うそこから、ほぼ隠したところのない女性が現れて、振り向いてしまった俺はコーヒーを吹き出しそうになった。
慌てて前に向き直して、顔を伏せたけれど耳まで真っ赤になっている自覚がある。
(うわ~……何て言う美人……)
クラスメイトたちがよってたかって眺めていた、グラビアアイドルが霞んでしまいそうな豊満ボディと美肌、そして色気あふれる女性だった。
『あら、お客様?』
『おはよう、女王様。ご機嫌はいかが?』
すかさずアレクシスが立ち上がり、女性に近寄っていく。軽く音が聞こえたから、きっとふたりがキスしたのだろう。
ロベルトも視線をコーヒーカップに落として、見ない振りをしている。まったく落ち着いたその雰囲気に、アレクシスの言動に慣れているんだろうなと感じた。
『わたし、お邪魔みたいね』
『そんなことないよ。すぐに帰るさ、ふたりとも』
『いいえ。失礼ですが、レディ。アレクシスと話をさせていただきたい。出来れば我々だけで』
女性と一緒に逃げそうなアレクシスに気づいて、ロベルトがきっと顔を上げて睨みつけながら、丁寧にでも強い口調で言葉を重ねていた。
『いいわよ。わたしもこれから用事があるし……また誘ってね、アレク』
もう一度キスをしてから、女性は着替えに戻ったらしい。
また沈黙が続いた後で、部屋から出てくる音が聞こえた。
玄関までアレクシスが女性を送りだし、戻ってくると髪をかきあげてため息をついた。
『まったく……何のつもりだい、ロベルト。僕は君と話したくない気分だよ』
『いいえ、聞いていただかねばなりません』
ロベルトは席を立ち、アレクシスの足元に膝をついた。
(生で見た……映画でたまに見たけど、実際に見るとすごい光景だよな)
片膝をつき、胸に手を当てて頭を垂れたロベルトの姿は、とても洗練されていてきれいだった。
受ける方のアレクシスも慣れた様子で、ふたりが俺とは別世界の人間に見えてきた。
『アレクシス。どうかもう一度リンクに戻ってくださいませ』
『……だから、僕はもう滑らないと言ったはず……』
『あなたがリンクに戻らねば、パメラさまはずっと気に病まれますっ。あの方の為にあなたがすべきことは、逃げ出すことではございませんっ』
それまでずっと余裕を湛えていたアレクシスの容貌が、急に歪んで苦しそうに目を細めたかと思うと、項垂れたロベルトを足で蹴って突き飛ばした。
『なぜおまえが僕を諭すんだいっ! おまえの顔など見たくない、帰れ……帰りなさいっ』
突然の出来事に驚いた俺は、床に倒れるロベルトに駆け寄った。
助け起こすと、痛そうに顔をしかめたロベルトはすぐにアレクシスの元へ戻って行った。
『いいえ、言わせていただきます。どうかもう一度リンクへ戻ってください』
『何度も言わせるんじゃないっ』
頭を抱えて、プレイボーイな雰囲気をかなぐり捨てて、アレクシスはロベルトから逃げるように背を向けて、体を縮めた。
『……おまえに、何がわかる……僕がどんな気持ちでいるのか……わかるものか』
『アレクシス……』
ロベルトが声を失って立ち尽くす。
やがて床に座りこみ、自分の体を抱きしめて震えだしたアレクシス。ふたりを前にして、俺は何をどうするべきか悩んでいた。
(何が起きているのか、さっぱりだよ……ただいま出て行くのは止めた方がいいのはわかるんだよね……かと言ってここにいても、意味ないよな。ふたりの世界作ってる)
すっかり忘れられた立場にいる俺を、けれどロベルトはちらりを振り返って見てきた。
(ん?)
何だろと思う前にロベルトが動いて、アレクシスの隣に静かに歩み寄る。そばに屈んで座り、その背中にそっと手を乗せた。
『あなたひとりではさせません。私も力をお貸しいたします。それにいきなり元に戻れとも申しません。まずはこのイベントに出場して慣らしていきましょう』
そう言ってロベルトが懐から紙を取り出して見せた。
手渡されたアレクシスが読んだ後、ゆっくりとロベルトを見上げて呆然と呟いた。
『社交ダンスの地方イベントかい』
『そうです。リンクではありませんから、第一歩にはうってつけでございましょう?』
『……ロベルト、ついに耄碌したかい? 社交ダンスを踊るにはパートナーが必要なのだよ?』
ロベルトはにっこりと笑った。いままで見たどの笑顔よりも会心の笑顔だった。
『もちろん、存じ上げておりますとも』
『僕はだれとも組んでいないよ?』
『パートナーを見つければよろしいでしょう。それにすでにちょうどよい方がいらっしゃいます』
『……どこに? だれのことを言っているのかな』
相変わらずリズムよく交わされる英語が聞き取れない俺は、身の置き場がなくて困り果てていた。
そんな俺にロベルトが片手を指し向けてきた。アレクシスもゆっくりと振り向いて、視線が合う。
『彼がいるでしょう』
『……え?』
『はぁ?』
俺とアレクシスが同時にロベルトを見た。
ロベルトが笑顔で頷いていた。
『どう見ても女の子に見える彼とパートナーになり、地方ダンス大会で踊ってください』
アレクシスは数秒間、ロベルトを見て硬直していた。
俺は最後まで英語がわからずに首を傾げるしかなかった。
朝早くに帰宅したモーチンさんが通訳をしてくれたおかげで、俺はアレクシスとロベルトが話していた内容を理解することができた。
だからと言って納得したわけじゃない。
『嫌ですっ、アレクシスとダンスを踊るなんて、絶対に嫌です!』
そう、連日連夜悩まされた恨みの他にも、そこにいるだけで神経を逆なでしてくる人間と手をつないで踊りたいなんて思うわけがない。
しかもそれ以上に癇に障るのが、ロベルトが俺を指名した理由だ。
『アレクシスは女癖が悪いのが欠点でございます。しかしあなたなら問題ない。その上見た目は女性として偽ることも問題のないお方だ』
「問題大ありですよっ!」
言い返したくても英語がわからなくて、思わず日本語で叫んでしまった。
モーチンさんがとなりで通訳しながら、俺を苦笑しながら宥めてくる。
キッチンテーブルを囲んで、俺とモーチンさん、対面にロベルトとアレクシスが並んで座り、俺とアレクシスは双方ともに不貞腐れてそっぽを向いた。
穏やかに笑うロベルトと、にこにこ笑顔のモーチンさんだけは意気投合したみたいで話し続けていた。
『なるほど、あなたが声楽家の……』
『お、知ってました? うれしいな~』
『ええ。アレクシスが以前、あなたが公演なさった楽曲で踊ったことがありまして』
意気揚々と会話を続けるロベルトに、アレクシスが顔を向けて遮った。
『いい加減にしなよ、ロベルト。口を閉じなさい』
けれどモーチンさんは意に介さず、ロベルトに話しかけ続けた。
ついにアレクシスが止める間もなく、ロベルトからアレクシスの事情を引き出すことに成功した。
『二年前まで、アレクシスはアイスダンスの選手でした。そして私はそのコーチだったのです』
『アイスダンスの……ほうほう』
相槌を打つモーチンさんの隣で、つい俺もロベルトの声に耳を傾けてしまっていた。
ロベルトの声音からは、アレクシスに対する愛情を感じる。けれど事情を話しだした声にはそれ以上の苦しさを感じたからだ。
『……シャワーを浴びてくる』
アレクシスは話を聞きたくないと、短く言い捨てて立ち去った。
ロベルトはそれを見送って、続きを話し出した。
『パメラさまはアレクシスの幼なじみでもあり、よきパートナーでした。ふたりでオリンピックを目指して練習を重ね、試合で結果を出してきました。けれどオリンピックの出場をかけて臨んだ試合で、事故が起きてしまったのです』
ロベルトは淹れなおしたコーヒーを一口すすって間を置いた。
『アレクシスがパメラさまを持ち上げて、リンクへと戻した時、立ち上がろうとしたパメラさまのスケートシューズの紐が切れたのだそうです。立ち上がるタイミングがずれてしまい、かつバランスを崩したパメラさまは次の振りつけで足を振り上げたアレクシスのスケートシューズで顔を蹴られる形となってしまったのです』
モーチンさんの通訳を経て、ようやく事情を飲みこめた俺は息を飲んだ。
何回かテレビでフィギュアスケートを見たことがある。アイスダンスはほとんど見たことはないけれど、スケートを経験したこともあるから、何が起きたのか想像できた。
『……パメラさまはアイスダンスを引退されましたけれど、アレクシスを恨んではいないと言ってくださいました。しかしアレクシスは……恐怖心からリンクに立てなくなってしまったのです。文字通り、一秒も立っていられなくなりました。そしてある日だれにも言わずに行方をくらまし、本日まで生存すらわからぬ状態でございました』
『…………』
俺に通訳してくれた後、モーチンさんもさすがに何と声をかけるべきか迷ったみたいで、俺とふたりで声もなくロベルトを見ていた。
『アレクシスの気持ちは無理もないと思います。ですがパメラさまはアレクシスのダンスをまた見てみたいと言ってくださった。その気持ちを無駄にして欲しくないのです』
『だからって、なぜ社交ダンス?』
モーチンさんに教わりながら、英語で問いかけてみるとロベルトがため息をついた。
『アレクシスが最初に踊る楽しさを知ったのが、社交ダンスだったそうです。リンクに立つことがもし永遠に出来なかったとしても、踊る楽しさを忘れないでいて欲しいと思うのです。それに』
言葉を切って、ロベルトは背後を確かめた。
まだアレクシスが出てきていないことを確かめてから、声をひそめて言った。
『パメラさまがこの大会をご覧になるそうです。彼女こそがアレクシスを探してと依頼してきたのです』
彼にはまだ内緒にしてくださいね、とロベルトは苦く微笑んだ。
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