我恋歌、君へ。(わがこいうた、きみへ。)

郁一

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第三章

我恋歌、君へ。第三部:24 触感

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※濡れ場がありますので、お嫌いな方は読み飛ばしてください。
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(覚悟はした、んだけど……)
 キスした後アレンさんは俺をただ抱きしめるだけで、じっと動かなかった。
 ソファに並んで座り、上半身を捻って抱き合っている態勢は楽じゃないと思うけど、アレンさんは無言のまま抱きしめ続けている。
 戸惑いながら、でも少しほっとしたのも確かで複雑な心境になりながら、全身を包むぬくもりを感じていた。
 だんだん肌から奥の方へアレンさんの体温が沁み込んでいくような気がする。
(こんな風に抱きしめられたの、ずいぶん久しぶりだと思う……前はいつだったかな)
 柔らかなあたたかさに包まれながら、目を閉じて思い出そうとするけれど、忘れてしまったのか該当する思い出を見つけられない。
 それでもいいかと思えるほどアレンさんの腕の中は気持ちが良くて、体から力が抜けていく。
 アレンさんの胸元に顔を寄せると鼓動がかすかに聞こえる。
 ここにいるから聞こえる音。
 許されているから感じられる温度。
 それに気付いたら、恥ずかしさより体中を満たす別の感情の方が強くなってくる。
(あぁ……やっぱりほっとする……神音とは違う安心感がある)
 じわじわと沁み込むあたたかさに触発されたみたいに歓喜と幸福感が色を濃くしていく。
 この気持ちを言い表す言葉は、ありきたりな言葉しか思いつけない。
「アレンさん……好きです」
「ふふっ、オレの方が何倍も響くんを好きだよ」
 使い古された言葉を交わしているだけでも、大好きな人と心が触れ合えていることがわかるから、嬉しくて顔がにやけてしまう。
 見られたくないから顔は伏せたままでいよう。そしてもう少しこのままで、全身に満ちる幸福感を感じていたい。
 さわさわとアレンさんが頭を撫でてくる。
(アレンさんも幸せを感じてくれるかな)
 眠りたくなるほど気持ち良いアレンさんの手を感じながら、それが気になった。
 顔を上げてアレンさんを見上げると、俺を見下ろす青い目とばっちり視線が絡み合う。
「ん、どうしたの?」
「……こうしていると、俺はすごく気持ち良いけれど、アレンさんはどうなのかなって思って……」
 正直に聞いてみると、アレンさんは少し目を丸くした後で目を細めて笑った。
 それはとても愛おしそうに。
 そしてまた俺の頭をさらっと撫でる。
「今オレの腕の中に響くんがいてくれることを、こんな風に時間をかけないと信じられないくらい、オレはあきらめることが当然の人生だった。そんな中で唯一、響くんだけがオレに手を差し出してくれたの。響くんがどれだけオレを救ってくれたのか、きっとわかっていないよね……」
 強く俺を抱きしめて、アレンさんが耳元で囁いた。
「ありがとう……オレを選んでくれて」
 目に見えなくて形もない言葉にも、きっと重さがある。
 アレンさんの腕の中で聞いたその言葉には、きっと俺が思うよりずっといろんな想いがこめられていただろう。
 だからこんなにも胸を打つ。
 求められることがこんなにも嬉しく感じられるのは、俺が求める人だから。
 アレンさんには笑っていて欲しい。辛い気持ちになって欲しくない。
 一緒にいられることが嬉しくて感謝したいのは俺だって同じだ。
 この気持ちをどうやったら伝えられるだろう。
 伝えられるなら、何でもするのに。
「……アレンさん」
 俺は神音みたいに人付合いが上手くないし、経験値も浅いから思いつくことに限界があってぎこちなくなるけど。
 手を伸ばしてアレンさんの頬に触れ、身を乗り出して顔を近づける。
 鼻がぶつかりそうになって、少し慌てながらそっと唇を触れ合わせた。
 何度もアレンさんからしてもらったことはあったけど、こんな風に自分から仕掛けたのははじめてで胸がドキドキする。
 顔を離す時もぎこちなくなったけど、恥ずかしさに耐えてアレンさんの表情を伺う。
 蕩けてしまいそうな笑みを浮かべて、アレンさんが愛しさを湛えた目で俺を見返す。
「響くんからキスしてくれたのははじめてだよね。嬉しいよ」
「……下手ですけど」
「ふふふ、それについては心配ご無用。これからたっくさん経験するから、すぐに上達していくからね」
「…………お手柔らかにお願いします」
 顔から火が出そうな気持ちを堪えながら返事をしたら、アレンさんが吹き出して笑った。
「もう、本当に……響くん、可愛すぎ……」
 笑い続けながらまた俺を抱き寄せて、アレンさんが仰向けに倒れこむ。アレンさんの体の上にうつ伏せで乗る態勢になってしまい、重いだろうと体を離そうとしたら腕に力を込めて阻止された。
「もう一回、して?」
「……え……今、ですか?」
「うん」
 にこにこ笑顔でアレンさんが待っている。
 俺はため息をついてから、二度目に挑んだ。
 今度は少しマシに出来たかな、と顔を離そうとした時、触れていた唇が動いて唇を挟むように啄ばまれた。
「っ……」
 予想していなかった感触に驚いて体を震わせた俺を抱きしめて、アレンさんがさらに舌先で唇の狭間の皮膚を撫でるように動かしていく。
「……アレ、ンさ……んっ」
 腰の後ろ辺りで痺れるような感覚がして、アレンさんの名前を呼ぶと、口の中に舌を入れてよりキスが深くなった。
(す、すごい……口の中ってこんなに感じるんだ……)
 何度も角度を変えながら、舌を絡ませたり頬の内側や歯列の根元を擦られるたび、痺れるような感覚が炸裂して、体が熱くなっていく。
 耳の奥でお互いの唾液が混ざる音が鳴り響いて、羞恥心を煽られる。
「……んぁ……は、あ……」
 深く舌を絡めるキスの合間に息を継ぐと、恥ずかしいほど声が漏れてしまう。
「響くん……怖くはない?」
「……はい。アレンさんだから……」
 今目の前にいて、だれよりも近く触れ合っている相手がアレンさんだとわかっているからこそ、心地良いと素直に感じられる。
 すると小さく笑って、アレンさんがまたキスを続けてくる。
 だんだん頭がぼぅっとしてきて、考えることが億劫になってきた。
(気持ち良い……)
 はじめはされるがままだったけど、少しずつ動かせるようになってきて、夢中になってアレンさんを感じていたら体に異変が起きた。
「あっ、……だ、だめ……アレ、ンさんっ」
「……響くん……?」
 突然体を離した俺をアレンさんが見上げてくる。いつもより色気を増した表情と、濡れた口元が視界に映って今までしていたことを再認識してしまう。
 また一段と体が熱くなって、これ以上見たら危ない気がして目を閉じる。
「やっぱり……嫌だった?」
 声にさえ色気を滲ませてアレンさんが聞いてくる。俺は首を横に振りながら、体の熱を逃がすために息を吐き出した。
「違います……その、反対で……」
「……反対……?」
 じっと俺の返答を待つアレンさんの視線を感じながら、もじもじと先を続ける。
「俺……感じすぎて……体が、変になってて……」
「あぁ、そんなこと。気にしなくていいのに」
 アレンさんが片腕を伸ばして俺の後頭部に触れ、優しく抱き寄せる。
 再び体が密着して、俺の体の状態がアレンさんにバレてしまった。
 思わず腰を浮かしかけたところを、アレンさんが抱きよせる。
「隠さないでよ。響くんが気持ち良くなってくれた証拠でしょ」
「……でも……」
「でも?」
「…………は、恥ずかしい、です」
 あきらめて本音を打ち明ければ、アレンさんが笑いながら額にキスをしてくれた。
「もう、可愛い~……我慢できなくなりそうっ」
 感極まったようにアレンさんが叫ぶ。
 指先で顔を上げるように誘われ、視線を感じて目を開くと、よくできましたと言いたそうな顔でアレンさんがゆっくり顔を近づけてくる。
「ね、響くん……もっと恥ずかしいこと、してみない?」
 くすぐるような囁き声で聞いたくせに、返事をする前にキスで口を封じられてしまう。
「……ぅ、ん……ふっ、ぁ……」
 お互いの唾液が混じり合い、艶めかしい音がする。
 息苦しくなるほど濃厚なキスをしながら、アレンさんの手が服の裾から入ってくるのを感じる。
 素肌に直接触れられた感触に、びくりと震えたら宥めるようにゆっくりと口の中を撫でられる。
 未熟な俺はその痛烈な快感にすぐに意識が蕩けてしまい、アレンさんにセーターを脱がされたことも気付かず、シャツのボタンを外されて胸元を直に撫でられる感触で我に返った。
「い……いつの間に……っ」
 慌てる俺を面白そうに眺めるアレンさんにはまだ余裕が残っている。
「あはは~。慌てる響くんも可愛いな~」
「ちょ、アレンさんっ! 笑ってないで手を止めて……ぁっ」
 アレンさんの手で首筋から鎖骨まで素肌を撫でられて、肌が粟立ち息が止まる。
「触られるの、嫌?」
 俺を見上げて確認してくるアレンさんは、それでも手を動かすのを止めない。
(嫌じゃない、けど……刺激強すぎだってっ!)
 さわさわと素肌を撫で動く手が、思いもよらない場所で次々と快感を生み出していく。
 おかげで息が上がって、より下腹部へ熱が集まっていく。
「っ……だめっ、アレンさん……っ」
 高ぶる体に頭の中が溶かされていくようで、必死で意識を保とうとしているのに、アレンさんがぺろっと乳首を舐めはじめる。
「や、ぁ……あぁっ……やめ、て……んぁっ」
 片手で乳首を摘みながら、反対側を舌と唇で弄ばれて、はじめはおぼろな感覚だった胸からの感覚がどんどん鋭利になっていく。
 無意識に体が逃げようとするけど、アレンさんが片手で抱き寄せるから逃げられない。
 息を乱す俺を見上げて、アレンさんが壮絶に色っぽい顔で笑う。
「きれいだよ、響くん。オレが思っていたよりも、こうして実際に触れて……すぐそばで見ている今の方が、ずっと可愛くてきれいで……艶めいてる」
「……ん、だ……め、アレン……さん」
 熱く囁きながらもアレンさんは手を止めようとしない。
 素肌を撫でる感触を、蕩けそうな声がより高めてしまったようだ。体のどこに触れられてもびくっと震えてしまうほどに感覚が研ぎ澄まされている。
(あの時……こんなに感じたっけ……?)
 他人にこんな風に触れられた経験と言えば、俺の中では浚われた時の記憶くらいだけど、強制的に高められていたとは言え、こんなに感じなかったと思う。
 アレンさんが軽く音を立てて唇にキスをしてくる。それと併せて後頭部に触れ、軽く引き寄せながら指先でやわやわと頭皮を撫でる。
(そっか……あいつらとは違うから。アレンさんだから触れられて、俺は嬉しいと思える。もっと触れて欲しいって素直に感じる……間違えるわけない。こんなに……優しくてあたたかい手はアレンさんだけだ)
 どうしてアレンさんを怖いと思ってしまったんだろう。
 まるで宝物に触れるように心を砕いて、慎重に愛おしそうに触れて、見守ってくれるアレンさんが俺を傷つけるはずがないのに。
「アレンさん……もっと俺に触れて下さい」
「……響くん……」
 アレンさんの目を覗いてみると、優しさの中に懸命に堪えている衝動と、わずかな迷いが入り乱れていたから、俺から三度目のキスを仕掛け、体を密着させるように抱きついた。
 お互いの下腹部も触れ合っているから、どんな状態になっているのかよくわかる。
「……アレンさん、我慢しないで……俺はアレンさんも気持ち良くなって欲しいから」
 俺の肩を掴んだアレンさんが、長く息を吐き出してから真剣な声で聞いてくる。
「響くん……意味、わかって言っているの?」
「……はい……」
「…………明日、仕事は遅い時間からだったよね……」
 アレンさんがぼそりと囁いた後、少し間を空けて何かを振り切るようにもう一度息を吐き出した。
「うん、もうオレも覚悟を決めた。響くんもこの先は待ったが効かなくなるよ。それでも良いんだね?」
 あらためて聞かれると怯む気持ちが少し顔を出してくる。ぎゅっと唇を噛んで怯みを振り払い、俺はしっかり頷いた。



 アレンさんが俺を連れて行った先は浴室で、脱がされかけていた服をあっさりとすべてはぎ取り、俺を中に押し込めてしまう。
 間もなくアレンさんも全裸になって浴室に入ってくる。
「…………」
 男らしく筋肉がバランスよくついているアレンさんの肉体美に、つい見惚れてしまう。
(いいな……大人の男って感じがして。俺もあれくらい筋肉があればいいのにな)
 自分の体を見下ろして比較するのも馬鹿らしいとため息をつきたい気分になる。
 神音も俺も、体質的に筋肉が盛り上がるほど身につかないタイプらしく、鍛えているはずなんだけど体は細いままだ。
(細いけど、ちゃんとついている部分にはついているんだからなっ)
 何に対してかわからない対抗意識で、もう一度アレンさんの体に目を向けた時、股間の様子までしっかり見えてしまった。
(……俺より大きい、と思う……)
 羞恥心で脳内が焼き焦げそうだったから慌てて目を逸らした俺を、アレンさんが面白そうに眺めながら抱きついてくる。
「響くん、顔が赤いよ。何を考えていたの?」
「な、なななんでもないです」
「へぇ~? そうなんだ~」
 体の横から抱きしめてくるアレンさんが、片手で俺の左耳をそぅっと下から撫でながら、わざと息がかかるように囁く。
 びくっと反応してしまう俺を、声もなく笑う。
「ね、お互いに洗いっこしようか」
「ふぇ……っ」
 シャワーのお湯を出しながら、天気の話をするような気軽さでアレンさんがとんでもない発言をしてくれる。
 アレンさんがにっこり極上の笑みを浮かべながら、もう一度はっきりと言った。
「全身くまなく、お互いの体をしっかり手で洗い合おうね」
「…………」
 あたたかいシャワーのお湯を浴びながら、アレンさんに触れて欲しいと言った自分を心の中で激しく呪う。
(手で洗うって、どこまで洗うの? 全身って本当に全身? くまなくって、どこからどこまでのこと言ってんの~っ)
 ひとりパニックを起こしている俺を置いて、アレンさんは鼻歌を歌いながらボディソープを手に取り出し、泡立てると本当に俺の体を洗いはじめた。
「あ、しまった。先にシャンプーした方がよかったかなぁ」
「……っ、」
 違う、問題はそこじゃないからっ。
 心の中でアレンさんに突っ込みながら、声とは裏腹に迷いなく積極的に動く手に翻弄され、息が乱れてくる。
(ふっわ……アレンさん、慣れてない?)
 キスはもちろん、いつの間にか服を脱がされていたし、体を洗っていく絶妙な力加減と敏感な部分をちょっと長く洗うところとか、経験の差を実感して胸の中がもやもやする。
「ほら、響くんもオレを洗ってよ」
「…………」
 声を出したら負けな気がして、ぐっと唇を閉じたまま怖々アレンさんに触れて洗いはじめた。
 とりあえず首筋から肩へ手を滑らせ、泡でやわやわと撫でて行く。
(あ、やっぱり胸筋硬い。盛り上がってるし、肩や腕もかっこいい。腹筋はもちろん割れてるんだ。いいな、うらやまし……ぃ)
 アレンさんの体を洗っていく間に、見惚れていた体の細部をじっくり観察している自分自身に気付いて、ぼふっと顔に熱が集中した。
 くすくすとアレンさんが笑う。
「どうしたの、顔が真っ赤になってるよ?」
「…………」
「それに、さっきから可愛い声を聞かせてくれないね。機嫌を損ねちゃったかな?」
「…………っ、ぁ」
 浴室はただでさえ音が反響するし、いいように翻弄されているのが面白くなくて、意地でも声を出さないでいてやろうと思っていたのに、アレンさんの手がくにゅっと乳首を摘まんで捻る。
 とたんに胸から全身を突き抜けた感覚に戸惑いを隠せない。
「っ、……ん……っ」
 今までと違って素肌を泡で擦る感覚はもどかしくもあり、もっとずっと心に沁みる感じもする。
 胸やわき腹、背中から腰へ順調に洗っていくアレンさんの手に、ぞくぞく感じてしまう俺は、とんでもなく淫らな人間に思えた。
「……可愛い、響くん……びくびく震えて、感じてる……」
「……ふっ、ん……ぁ、や、やだ……っ、見ないでっ」
「だ~め……こんなに愛らしい響くんの姿、見逃せないよ……ほら、オレの手をすごく感じてくれて……足先がほら、びくって震えているよ」
「い、言わないでっ」
 アレンさんの言う通り、俺は釣り上げられた魚みたいに、アレンさんの手に感じまくって足を震わせている。
 自覚しているからこそ、声に出して聞かされると恥ずかしすぎて逃げ出したくなるのに。
「……気持ち良い?」
 言わせようとするな、と力いっぱいアレンさんを睨みつけてみたけど、困ったように笑うばかり。
 そしてちゅっと俺の額にキスをした。
「潤んだ目で睨んでも、可愛いだけだよ」
「……っ、か、わいくなんて、ああっ」
 反論を遮るようにアレンさんが乳首を指先で弄ぶ。さらに口の中に舌を入れて、敏感な粘膜を擦っては舌を絡ませて吸い上げる。
 肌を打つ細かいシャワーのお湯を敏感に察知するほど感覚が鋭くなっているところへ、下腹部へアレンさんが体を密着させてきた。
 お互いの下腹部で膨張しているそれが擦れ合い、いろんな感覚が弾ける。
 思わず逃げようとした体を浴室の壁に押し付けて、アレンさんがさらに体を寄せてくる。
「響くんはきれいだよ。たとえだれかがその身を蹂躙しようとも、だれにも響くんを汚すことなんて出来ない。オレはそこに惚れたんだよ」
「っ……アレ、ン……さ、ぁあっ!」
 今この時、こんな場所で言わなくてもいいじゃないか。もっと普通の時に言ってくれたなら感動したのに、とアレンさんを責めたいところだけど、下腹部で震えるそれをアレンさんの手に握られて、言える余裕なんてかけらもなかった。
 手のひらで撫でるように下腹部を洗われながら、くちゅっと音を立てて舌を撫でられる。
(だ、めだ……もう、何が何だか、わかんなくなってきた……)
 巧みな舌遣いと触れ合う下腹部のそれごと包み込むアレンさんの手、さわさわと背筋を上から下へと撫で下ろすもう一方の手が生み出すもどかしいほどの感触に、思考力が崩壊していく。
「……ふぁ……っ、あぁっ……はあ、んっ」
「可愛いよ、響くん……好き。もっとオレを感じて気持ち良くなって」
 これ以上感じてしまったら、俺は壊れてしまう。首を横に振る俺に、アレンさんが色っぽく笑った。
「嫌なの? すごく気持ちよさそうに蕩けた表情をしているのに」
「っ……だ、って……俺もう、わけわかんないのにっ……これ以上なんてっ」
 ゆっくり腰を微妙に揺らして、俺のそれを擦りながらアレンさんが俺の耳たぶに歯を立てた。
「何もかも忘れて。ただオレだけ感じてて……オレにおかしくなってよ、響くん」
「んっ、あぁっ……やぁっ、アレ、ンさ……んぁっ……」
 下腹部で爆発寸前になっている熱を耐えながら、アレンさんに限界を伝えたけど手を離すことなく、むしろ強く握られ扱かれて意識が擦り切れた。
(あ、熱い……っ)
 口から勝手に悲鳴のように声が洩れていく。
「可愛い……」
 もう何度目かわからない。囁くアレンさんの声にこめられた熱に、さらに体の熱が煽られてしまう。
「反対向いて。力を抜いてて」
「ん……」
 アレンさんが後ろを向くように肩を押してくる。素直に壁へ向き直ると、背中にアレンさんの胸が重なり、左手で俺の前に触れてくる。
「……ぁ、……」
 背中がぴったり重なる感覚は、ひどく安心感を与えてくれる。思わず声が漏れ、その声にアレンさんが笑った気配がする。
 そしてまた耳を齧られ、ぺろりと舌先がいたずらに皮膚を撫でていく。
 びくっと震えた体を抱きしめて、アレンさんが右手を腰の後ろに当て、少しずつ下へ滑らせる。
「や、あっ……!」
 アレンさんの意図がわかった時には、尻の谷間の奥へ指が差し込まれ、ふにふにと穴の周辺を刺激されていた。
「アレンさん、そんなとこっ……だめ……」
「ここもあいつらに触られたでしょ? オレが全部忘れさせてあげるから……力を抜いて」
「ふっ、あぁぁ……」
 指が挿入された感触に思わず声を上げてしまう。体内で確かに感じるアレンさんの存在に本当にこれが現実なんだと再認識させられ、かっと羞恥心で体温が上がった。
 アレンさんは俺を宥めるように首筋から肩へキスをくり返しながら、挿入した指をゆっくり動かして内部を愛撫しはじめた。
「あ……んぁ……」
 指に何かを塗ったらしく、なめらかに入り口から奥へと往復する指が、柔らかな肉の部分で内壁を擦り、押し広げていく。
 その慣れた様子が少しだけ腹立たしい。
(仕方ないってわかってるけど……どうしたら気持ち良くなるのか、全部わかってるんだ。今までだれとしてたんだろう)
 サァ……と細かい滴が降り注ぎ、肌を滑り落ちていく。それを舐め取るようにアレンさんが舌を這わせ、耳を甘噛みしながら手を休まず動かす。
「……んぁ、あっ……はあ……ぅ、あっ」
 緩急をつけ予測できない動きをする指先に翻弄され、恥ずかしいほどに声が勝手に口から漏れていく。
 思考力が体の熱に溶かされて、ただ体内で自在に動く指だけを感じていたら、急に凄まじい感触が体中を付き抜けた。
「やぁああっ……な、なに……?」
「あぁ……響くん、ここが良いトコロなんだね」
 楽しそうに囁いたアレンさんが体内に埋めたままの指をくいっと動かした。とたんに、さっきと同じ強烈な感覚が脊髄を駆け抜け、背中が反り返る。
「だ、め……そこ、触った……ら……あぁ……あっ、あ……いやっ」
 悲鳴を上げるほど感じてしまうそこを、何度もアレンさんが刺激してくる。息も絶え絶えに訴えれば、熱い囁きが耳に吹き込まれる。
「嫌じゃないでしょ? ほら……オレの指を咥えてるところ、すごく熱くて絡みついてるよ」
「い、言わないで……あ、あっ、だめぇ……ああっ!」
 囁き声に促されるようにして、指を受け入れている部分を強く意識してしまうと、内部がきゅぅと縮まりくっきりと指の存在を自覚してしまう。
 意識が焼け焦げそうな羞恥心に体が燃えてしまいそうに熱い。そこをアレンさんの指が容赦なく突いて追い上げてくる。
 逃げ場がない熱情が体中を渦巻いて、もう体のどこかを突き破って放出してしまいそうなほどだった。
「アレ、ンさ……たすけ、て……も、もぅ……くるし、ぃ……」
「……うん、すぐに楽にしてあげる」
 ちゅっ、と肩へキスを落として、アレンさんが俺の体を反転させて、また向かい合う形に変えた。
 浴室の壁に俺の背中を押しつけるように体を寄せて、俺の片足を持ち上げる。
 お互いに限界まで反り返ったものをまとめてアレンさんの手が握り、擦りはじめた。
 ゆらゆらと腰を動かしながら手で前を扱き、片足を持ち上げていたアレンさんの手が尻へ位置を変え、いつの間にか内部へと潜りこんでいた。
「あぁっ! や、ぁ……っ、ああっ」
「響くんっ……」
 前と後ろへ同時に強烈な刺激を与えられ、俺はただ喘ぎ体を震わせることしかできなくなって。苦しそうなアレンさんの声に名前を呼ばれた瞬間、意識が真っ白に溶けて消えた。


「…………」
 単調に降り注ぐお湯の音に乱れた呼吸の音が混じる。
 放心状態のままそれを聞いていると、少しずつ意識が戻ってきた。
 アレンさんが抱きしめるようにして俺を支えてくれているのがわかって、そろそろと顔を動かし見上げる。
「ごめん。ちょっと刺激が強すぎたかな」
「……かなり、です……」
 たとえ浚われた船の中で洗われた経験があるからと言って、アレンさんにされたことが恥ずかしくなくなるわけもなく。
 力の入らない体をアレンさんに運び出され、ベッドに仰向けで寝かされても、まともにアレンさんの顔を見ることが出来ず、ふいっと横を向いた。
「あ~らら。お姫様はご機嫌ななめ?」
「……姫じゃないっ」
 怒って言い返すのも計算のうち。アレンさんを思わず見上げてしまい、整った顔立ちに雄の気配をまとわせるアレンさんと見つめ合う形になった。
「やっぱり止めたい?」
 アレンさんの優しさだとわかっているけど、こんな状態で止めると言ったとして、聞き届けてくれるのだろうかと疑問に思う。
(ちょっと言ってみたい気もする)
 今すぐにでも俺に触れたいと全身で語っているようなアレンさんを見上げながら、いたずら心が疼くけれど、その後どうやってアレンさんが体の熱を鎮めるのかと考えたら、アレンさんの脳内にいる自分に負けた気がするから、素直になろうと思う。
「この先……したことないから……」
 こういう場合どうしたらいいのかな、と迷いながらアレンさんの首へ腕を伸ばし、抱き寄せるようにした。
 アレンさんが小さく息を吐き出して、すごく愛しそうに微笑みながら、軽く触れ合わせるだけのキスをした。
「ただオレを感じて。それだけでいいよ」
「……はい……」
 羞恥心を返事で散らしたかったけど、その心配は杞憂だった。すぐに何も考えられない状態にされてしまったからだ。
 口の中を奥までまんべんなく愛撫するように、濃密すぎるキスをされながら体内へ指が埋め込まれ、ぐちゅっと出し入れされる。
「響くん……愛してる……」
 うっとりと目を細め、囁くアレンさんを見上げていることが耐えられなくて、ぎゅっと目を閉じたらアレンさんが笑った気配がした。
 指で変わらず後ろを刺激しながら、熱く湿った舌で胸を撫で、やがて乳首を甘噛みする。
 途中で後ろに挿入されている指へ潤滑油のように液体を補充しながら、アレンさんは時間をかけて俺の中を解していく。
 一度浴室で抜いたはずなのに、俺の欲情の塊が熱を取り戻し、立ち上がってじわじわと液体を吹き出していた。
「ぁ、あっ……ん……ああっ」
 アレンさんの舌と手に高められた体が、貪欲に刺激を求めて揺れはじめ、アレンさんがふっと笑った。
「響くん……腰が揺れてるね」
「だ、って……体が……あつくてっ、変で……んぁああっ」
 どこに触れられても感じてしまうほど、おかしくなった体にアレンさんがまた手で触れ、形を確かめるようにゆっくり丹念に撫でていく。
 びくん、びくんと俺の体が震えて先端から溢れる液がさらに増していく。
「いや……も、ぅ……許してっ……おかしくなるっ」
 いつの間にか体内に埋め込まれた指の本数が増えていて、内部が無意識にその指を締め付けるように動いている。
 まるでもっと、と強請るように蠢く内部の動きがわかって、いっそ気が狂ってしまえと願うほどに恥ずかしさで居たたまれなくなった。
「響くんをおかしくするのはオレだからね。オレの名前を呼んで」
「ア、レンさ……んっ」
 名前を呼んだら体内から指が抜かれて、両足を持ち上げられた。
ほっとしたような寂しさも感じていた後ろの入り口に、熱くて硬い別の物が触れる。
「もう一度オレを呼んで」
「アレ……んぁ、あああーっ」
 ぐっと押し広げられた後で押し入ってきた灼熱の塊は、ものすごい質量で体の中を切り裂くようにして進んでくる。
 何かアレンさんに話しかけられているようだけど、耳元で激しく鳴り響く心臓の音がしてとても聞こえない。
 ただ頭を撫でる手の感触だけを意識が拾い上げる。少しずつその感触が強く、はっきりとしてくるにつれて、体内に埋め込まれた灼熱もはっきりと感じるようになった。
「あ……アレンさんが……」
「うん……ごめん、痛い……?」
 何度も俺の頭を撫でながら、心配そうに確認してくる。もちろん痛くないはずはないんだけど、限界まで押し広げ中へ挿入された部分からは痺れと熱さの方が強く感じる。
「やっぱり止めようか……まだ少し入っただけだから」
 俺はもう十分受け入れているつもりだったけど、まだ全部じゃなかったことに衝撃を覚えつつ首を横に振る。
「やめないで、いい……アレンさんが、欲しい……もっと好きだって……体に教えて……」
 少し入っただけの部分からアレンさんの鼓動が伝わってくる。それをもっと感じたい。もっと体の奥まで、全身で感じさせて欲しかった。
「……本当に、いいんだね?」
「はい……俺を、いっぱい……愛して……」
 どくんっ、と脈打ちさらに膨張したように感じるアレンさんが、ぐっと内部へと深く潜り込んでくる。
「ぁ……っ、あ……くっ……んっ」
「響くん……オレを呼んでっ」
「アレンさんっ……あぁっ……入って、くる……ふっ、あぁっ……ん、おっきい……っ」
 ゆっくり慎重に体内を押し入ってくる質量は息を止めてしまうほど大きく、時間をかけてようやくすべて飲みこめた時にはふたりとも呼吸が乱れて声も出せないほどだった。
 体の奥底に入れられているはずなのに、全身の末端までアレンさんを感じて震えている。
 そっとアレンさんが動いて俺の体を抱きしめてきた。
「全部入ったよ……ありがとう」
「んっ……アレン、さん……っ」
 ちょっと動いただけなのに、体内が擦れて何とも言えない感覚が生まれて声が詰まる。
「好きだよ、響くん……好き」
「あっ、ん……っ」
 甘く囁きながら、少しずつ緩やかにアレンさんが動きはじめる。
 はじめは異物感と痛み、痺れに埋め尽くされていただけの下腹部が、体内ではっきり感じるアレンさんの熱に内壁を揺らされ、未知の感覚へとすり替わっていく。
 じわじわと快楽が色を増して、血と一緒に体中を巡りはじめる。
 乳首を摘まんだり、わき腹や痛みに少し元気を失っていた俺のものに触れるアレンさんの手が、その感覚をより強くしていく。
「……感じる? 響くん……声、甘くなってきた」
「は、あぁんっ……あ、あっ……」
 ゆらゆらと腰を揺らしながらアレンさんが掠れた声で聞いてくる。俺は首を振って答えるしか出来なくて、何度も頷いた。
 結合部から洩れる音が聴覚を犯し、体内で脈打つ灼熱が行き交う感覚に理性が溶ける。
 恥ずかしいけどアレンさんを感じているのはとても気持ちが良い。
 つながっている部分も、そうでない部分も。
 触れる肌や絡み合う視線、無言で交わす心の会話。
 だれよりも近い場所ですべてさらけ出しているからこそ、濃密にお互いの存在を感じ確かめ合う。
(すごい……っ、俺の中、全部埋め尽くされるみたいっ)
 アレンさんも抑えが効かなくなったようで、勢いよく腰を打ち付けられ、体が揺れる。
 その度に流れ込む熱や快感と一緒に、想いも注がれて体中を満たしていく。
「あっ、ん……はっ、あ……っ」
 体が熱くて熱くてたまらない。
 淫らな音を立ててくり返し体内を抜き差しされる度、擦れる部分から続々と生み出される感覚が怖いくらいに自我を崩壊させていく。
 特に体内のある場所を擦られると、意識が飛ぶほどに感じて、怖くなってアレンさんに無我夢中ですがりつく。
 そこが浴室で弄られた時に、快感を引き出された場所だと気付く間もなく、アレンさんが重点的にそこを攻めてきたから、俺は完全に思考が擦り切れてしまい、ただ声を上げることしかできなくなった。
「いやっ、あぁ、んっ……そこっ、だめっ……あっ、あっ」
「ん……響くん、中……すごいよ、オレに絡みつく……っ」
 苦しそうに、でも恍惚とアレンさんが言った直後、さらに動きが激しくなる。
 ずん、ずんと腰を掴まれて激しく貫かれ、尻にアレンさんの腰がぶつかる。
 同時に揺すられるたびに腹にぶつかる俺のものをアレンさんが片手で扱き、体内と前とで攻め立てられる。
 乾いた音と内部と擦れ合う淫靡な水音が激しく鼓膜を打ち、アレンさんの荒い呼吸と滴る汗が肌に滑り落ちてきた。
 目を閉じてあまりにも強烈な快楽に耐えていたけど、ふと目を開いたらアレンさんの顔が見えた。
 雄の色香を全快にして、苦しそうに顔を歪めている。
 そうさせているのは俺なんだと思ったら愛しさが体の奥底から溢れて、これ以上感じようがないほど感じていたはずなのに、体がもっとアレンさんを感じようと蕩けてしまう。
「好き……っ、アレンさん……あぁっ」
 体内でアレンさんが一段と大きくなり、激流のような快楽が全身を襲い、飲みこまれる。
「ああっ、ん、気持ち、良くてっ……あっ、あ……だ、めっ、出ちゃうっ」
「いいよっ……響くん」
 何を言っているのかもわからないまま揺らされ続け、受け入れた灼熱が限界まで膨張したところで、後ろと同時に前を扱かれていた俺が耐えきれずに先に達してしまった。
「ぁ……っ、やぁ……あぁんっ」
 絶頂を迎えて白濁を放ちながらも後ろを貫かれ、逃げたいほど強烈な快感に襲われる。
 そんな俺を抑えつけるようにアレンさんが腰を振り、間もなく体内から素早く引き抜いた。
 どっと熱い愛液が体中に吹き付ける。
(……あぁ……よかった……ちゃんと、できたんだ……)
 濃密な精の匂いが立ち込める中で、達成感のようなものを感じながら、ゆっくりと俺の意識が薄れていく。
「お疲れ……ありがとう、響くん。ゆっくり休んで……」
 頭を撫でる手と、疲れ切った体を抱きしめてくれる腕。そしてちゅっと額に軽く触れた唇の感触に安心してすべてを手放した。


 とてつもなく心地良い眠りが薄れて、名残を惜しみながら目を開いた。
 横向きで寝ていた俺の目の前に、だれかの裸の胸があって、体の上にだれかの腕が寄り添っている。
(……ん……?)
 まどろみ状態の中で、意識を失う前を思い出そうとしたけれど、まだうまく頭が働かない。
 何となく身動ぎしたら、全身が痛くて息が詰まった。
「おはよ……起きた?」
「……お、はよ……ございます……」
 頭のすぐ上から聞こえる挨拶に返事しながらも、全身の痛みに触発されて蘇った昨日の出来事にとても顔を上げる勇気がなかった。
 もぞもぞとゆっくり頭を動かして、布団に顔を埋める俺をくすくすと笑う声がする。
「響くん~、その可愛い顔を隠さないで、オレに見せて?」
「……お断りします……断固として」
「また可愛いこと言うんだから……」
 剥き出しの肩にちゅっとキスされて、すでに羞恥心で沸騰寸前だった俺の脳内がさらに温度を増す。
 そう、俺は何も身につけていない状態で、すぐそばで寄り添うように横たわるアレンさんもたぶん同じ状態。
 シーツはさらさらだから、後始末はしてくれたみたいだけど、だからと言って何もなかったことにはしてくれないだろう。
(うわあぁぁ……恥ずかしすぎる、もう俺は駄目だ……っ)
 神音に相談した内容をアレンさんに聞かれ、そのまま部屋に帰ってきてからのこと、すべてを忘れてしまえたならと現実逃避する。
 さっき見た限りでは、たぶん昼に近い朝。
 アレンさんに試して欲しいとお願いしてから、どれだけ時間をかけてもらったのかわからないけど、たぶん短い時間じゃない。
「……俺、どれくらい寝てました……?」
「ん? そうだね……五時間くらい、かな? それがどうかしたの?」
「いえ……」
 記憶から抹消したい羞恥まみれの時間を逆算していると、また肩にアレンさんがキスしてくる。
「そろそろ愛しい人の顔が見たいな~」
「……起きる前に見ていたくせに……」
 口調の明確さから俺より先に起きていただろうと目星をつけて言い返してみると、案の定否定されなかった。
「寝顔と寝起きの顔とは別物でしょ~」
「……見ても面白くないですよ」
「そんなことないよ。オレは響くんのどんな顔も見逃したくないの。昨夜はとろっとろに淫らな顔が見れたし、今は恥ずかしがってる響くんの顔が見たいな♪」
「うわああぁっ……そ、それ言わないでくださいっ!」
 自分でもわかっているほど感じていた姿を見られているのだと再認識させられ、余計に顔を上げられなくなった。
 もふっと顔を埋め、掛け布団にも潜りこもうとする俺をアレンさんが抱きしめて、邪魔しようとする。
 暴れてその腕から逃れようとする俺と、ひっくり返して顔を見ようとするアレンさんとでしばらく布団の中でもつれあう。
「アレンさん……っ」
 つい腰を捻ってしまい、そのとたんに腰の奥で弾けた痛みに声を飲みこむと、アレンさんが笑顔を消して心配そうに体を抱き込んでくる。
「ごめん、はじめてなのに無理させちゃったね。薬を塗っておこう」
「い、いい……遠慮しますっ」
「駄目。切れていないと思うけど、腫れているかもしれない。オレ、途中から歯止め効かなくなってたから……ほら、布団から手を離してよ。恥ずかしがらなくても、もうオレは響くんのすべてを見たんだよ。今更隠したって意味ないじゃない?」
「だーかーらっ! そう言う恥ずかしいことは言わないでって……」
 アレンさんの口を手で塞ごうと思って、布団から顔を出したら、素早く唇を重ねられた。
「……おはよ。やっと可愛い顔を見せてくれたね」
「…………っ」
 やっぱり経験の差なんだろうか。アレンさんの方が何倍も上手で、俺はまたこうして弄ばれてしまう。
 口を抑えて真っ赤な顔で、声も出せないほどうろたえている俺を見つめて、アレンさんがふふっと優しく微笑む。
(あぁ、もうっ……そんな目で見られたら、何でも許したくなるじゃないか)
 神音が言っていた、アレンさんが俺を見る目を見ればわかるよって、このことなんだろうなって思う。
 抱かれていた時に全身から伝えられた想いを濃縮したような、あたたかい目を見たら何をされてもいいと思えてしまう。
「……アレンさん……」
 そしてもっと感じたいと願ってしまう。
 期待も込めて名前を呼んだら通じたのか、それともアレンさんもしたいと思ったのかわからないけど。
 そっと体を抱きしめて、アレンさんがキスをしてくる。想いを確かめ合うように、優しく時間をかけてそっと触れては離れ、顔を見つめてまた唇を重ね合う。
 存在をすべて受け入れて、丸ごと愛されていると思えるこの人を、好きかどうか迷うことはもうない。
 いつか寄せられる想いが冷たさを増したとしても、きっと俺はこの人を想い続けるだろう。
「……好きです、アレンさん……」
 試して欲しい、触れて欲しいと思えたのはアレンさんだからこそ。
 他のだれかじゃなく、アレンさんだから恥ずかしくても許せたんだ。
 アレンさんが額を合わせて、小さく笑う。
「オレも響くんが好き。覚悟してよ、もう手放してあげられないから」
「……望むところです」
「あはは。ほんと、響くんが時々、すごく男らしくなるところ、たまらなく好きだなぁ~」
「そうですか?」
「うん、大好き」
 ベッドの上で抱き合って、またアレンさんがキスをした。
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