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婚礼と共存の宣言
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「とても綺麗だ」
「ロイトこそ、格好良くて素敵です」
ロイトの第一印象を、恐ろしい魔王というよりはまるで夢の国の王子様みたいだと、そう思ったのはティアの頃だっただろうか。
見惚れてしまう位に格好いいロイトの花婿衣装姿は、その魅力を最大限に引き出していた。
今はロイトが、完璧な王子様でも恐ろしい魔王でもなく、喜びだけではなく不安や悲しみの感情も持つ、自分と何も変わらない一人の男性だと知っている。
それを知っても、愛しく思う気持ちは変わらないどころか、日々増して行くばかりだ。
何より、ティアには見せてくれなかった一面を、ナティスには隠さず晒してくれる事を嬉しいと思う。
理想の王子様じゃなくたって、ナティスの率直な感想を受けてはにかむロイトが、それ以上にキラキラして見えから、浮き足立ってしまうのは仕方がない。
ナティスにとって本来のロイトこそが、唯一なのだから。
ヴァルターから離れた後、今度はロイトにエスコートされながら、二人でゆっくりと壇上へと上がる。
先程までロイトが待っていてくれた、二つの玉座の中心に並び立って振り返ると、謁見の間にいた全員が揃って膝を折り、ロイトとナティスに対して頭を下げた。
「勇者の妹ナティス・ハイドンを王妃に迎え、世界に栄光と繁栄をもたらす事を、魔族の長ロイト・ヴィリーヴァが、今日ここに宣言する」
『陛下のお言葉、しかと承りました』
「お二人の未来に、幸多からん事をお祈り申し上げる」
魔族を代表してセイルが、人間を代表してヴァルターが、ロイトによる婚礼の宣言を受け入れる。
本来は「我が国」と魔族の国だけに対するその言葉を、ロイトは「世界」と表した。
だがそれは、魔王が世界を支配するという意味ではなく、人間であるナティスを王妃に迎える事で、魔族と人間との共存宣言となるからだ。
魔族の言葉で宣言されるべき所を、人間の言葉で行った事も、この結婚が魔族の為だけのものではないと示す重要な演出になっている。
ロイトとナティスが結婚する事で、本当に長い間ずっと続いてきた人間と魔族との戦いの歴史に、変革の一歩をもたらせたのだと実感した。
ただただ、愛しい人がこれ以上傷付くのを止めたくて、単身この魔王城へ乗り込んで来た時には思いも寄らなかった場所に、ナティスは立っている。
けれど、そうなったらどんなに幸せだろうと願った結末と、そして何にも代え難い未来が、ここにあった。
「では、これにて……」
「お待ち下さい」
「……ヴァルター殿?」
魔王による婚礼の宣言を立会人が受け取った事で、魔王の婚礼は滞りなく終了する。
後は玉座に座り、来訪者の祝辞を全て受けるのが、王妃として最初の仕事だと聞いていた。
ナティスが把握していた流れはここまでだったし、ロイトもそのつもりだったのだろう。
婚礼の儀の終了を宣言しようと、言葉を紡ごうとした瞬間。ロイトの言葉を遮り、終了宣言を止めたのはヴァルターだ。
そもそもこの婚礼を仕掛けたのはヴァルターだったし、今まさに祝いの言葉を述べたばかりなのだから、結婚自体に不満や抗議がある訳ではないはずだ。
だがだからこそ、流れを止めるその言葉の意味するところがわからなくて、ナティスは首を傾げる。
それはロイトも同じだったようで、少し戸惑った様にヴァルターを見つめていた。
そんなロイトとナティスの表情を確認して、ヴァルターは悪戯が成功した様な笑みを浮かべ、颯爽と玉座の正面位置まで足を運び、恭しく膝をついて頭を垂れる。
「どうか、お二人の門出を祝した贈り物を、受け取っては頂けないでしょうか?」
ロイトからナティスに向けられた、「何か聞いているか?」というロイトの視線に、小さく首を横に振る。
だが、儀式を中断させたヴァルターに対して、人間側の参列者だけでなく魔族側の誰も「不敬だ」と声を上げようとしていない所を見ると、この事を知らなかったのはロイトとナティスだけの様子だった。
「贈り物、とは?」
戸惑いながらも、それが並び立つ二人に向けた、祝いに関する事柄だと判断したのだろう。
ロイトは、コホンと少し素に戻りかけた姿勢を正し、魔王然とした態度で問いかける。
この場に居るほとんどの者が、ロイトの本来の優しい姿を知っているのだから、あまり取り繕う必要はないように思うけれど、儀式の最中でもあるので態度を崩す事は出来ないという判断だろうか。
ヴァルターはそれをわかっているのかいないのか、どこか芝居がかった大袈裟な態度を保ったまま、事が上手く行ったと言わんばかりの笑顔を上げる。
「ロイトこそ、格好良くて素敵です」
ロイトの第一印象を、恐ろしい魔王というよりはまるで夢の国の王子様みたいだと、そう思ったのはティアの頃だっただろうか。
見惚れてしまう位に格好いいロイトの花婿衣装姿は、その魅力を最大限に引き出していた。
今はロイトが、完璧な王子様でも恐ろしい魔王でもなく、喜びだけではなく不安や悲しみの感情も持つ、自分と何も変わらない一人の男性だと知っている。
それを知っても、愛しく思う気持ちは変わらないどころか、日々増して行くばかりだ。
何より、ティアには見せてくれなかった一面を、ナティスには隠さず晒してくれる事を嬉しいと思う。
理想の王子様じゃなくたって、ナティスの率直な感想を受けてはにかむロイトが、それ以上にキラキラして見えから、浮き足立ってしまうのは仕方がない。
ナティスにとって本来のロイトこそが、唯一なのだから。
ヴァルターから離れた後、今度はロイトにエスコートされながら、二人でゆっくりと壇上へと上がる。
先程までロイトが待っていてくれた、二つの玉座の中心に並び立って振り返ると、謁見の間にいた全員が揃って膝を折り、ロイトとナティスに対して頭を下げた。
「勇者の妹ナティス・ハイドンを王妃に迎え、世界に栄光と繁栄をもたらす事を、魔族の長ロイト・ヴィリーヴァが、今日ここに宣言する」
『陛下のお言葉、しかと承りました』
「お二人の未来に、幸多からん事をお祈り申し上げる」
魔族を代表してセイルが、人間を代表してヴァルターが、ロイトによる婚礼の宣言を受け入れる。
本来は「我が国」と魔族の国だけに対するその言葉を、ロイトは「世界」と表した。
だがそれは、魔王が世界を支配するという意味ではなく、人間であるナティスを王妃に迎える事で、魔族と人間との共存宣言となるからだ。
魔族の言葉で宣言されるべき所を、人間の言葉で行った事も、この結婚が魔族の為だけのものではないと示す重要な演出になっている。
ロイトとナティスが結婚する事で、本当に長い間ずっと続いてきた人間と魔族との戦いの歴史に、変革の一歩をもたらせたのだと実感した。
ただただ、愛しい人がこれ以上傷付くのを止めたくて、単身この魔王城へ乗り込んで来た時には思いも寄らなかった場所に、ナティスは立っている。
けれど、そうなったらどんなに幸せだろうと願った結末と、そして何にも代え難い未来が、ここにあった。
「では、これにて……」
「お待ち下さい」
「……ヴァルター殿?」
魔王による婚礼の宣言を立会人が受け取った事で、魔王の婚礼は滞りなく終了する。
後は玉座に座り、来訪者の祝辞を全て受けるのが、王妃として最初の仕事だと聞いていた。
ナティスが把握していた流れはここまでだったし、ロイトもそのつもりだったのだろう。
婚礼の儀の終了を宣言しようと、言葉を紡ごうとした瞬間。ロイトの言葉を遮り、終了宣言を止めたのはヴァルターだ。
そもそもこの婚礼を仕掛けたのはヴァルターだったし、今まさに祝いの言葉を述べたばかりなのだから、結婚自体に不満や抗議がある訳ではないはずだ。
だがだからこそ、流れを止めるその言葉の意味するところがわからなくて、ナティスは首を傾げる。
それはロイトも同じだったようで、少し戸惑った様にヴァルターを見つめていた。
そんなロイトとナティスの表情を確認して、ヴァルターは悪戯が成功した様な笑みを浮かべ、颯爽と玉座の正面位置まで足を運び、恭しく膝をついて頭を垂れる。
「どうか、お二人の門出を祝した贈り物を、受け取っては頂けないでしょうか?」
ロイトからナティスに向けられた、「何か聞いているか?」というロイトの視線に、小さく首を横に振る。
だが、儀式を中断させたヴァルターに対して、人間側の参列者だけでなく魔族側の誰も「不敬だ」と声を上げようとしていない所を見ると、この事を知らなかったのはロイトとナティスだけの様子だった。
「贈り物、とは?」
戸惑いながらも、それが並び立つ二人に向けた、祝いに関する事柄だと判断したのだろう。
ロイトは、コホンと少し素に戻りかけた姿勢を正し、魔王然とした態度で問いかける。
この場に居るほとんどの者が、ロイトの本来の優しい姿を知っているのだから、あまり取り繕う必要はないように思うけれど、儀式の最中でもあるので態度を崩す事は出来ないという判断だろうか。
ヴァルターはそれをわかっているのかいないのか、どこか芝居がかった大袈裟な態度を保ったまま、事が上手く行ったと言わんばかりの笑顔を上げる。
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