転生したら断罪イベが終わっていたので、楽しい奴隷ライフを目指します!

架月はるか

文字の大きさ
21 / 34

プロポーズスチルの場所で

しおりを挟む
「ここは……」
「何か、気になる物でもあったのか?」

 暫く景色を楽しみながら二人で歩いていると、既視感に再び襲われた。
 そこは、先程ジェットを繋いで昼食を取った木陰から、まだそう離れてはいない場所。
 特に大きく景色が変わったわけでも無く、青い空と太陽が透き通った湖に反射しているという光景だった。

 違うところと言えば、ハーブがメインだった事により緑色の多かった足下の植物が、白い花メインに変わっている事くらいだろうか。
 同じ湖の周辺でも、育つ植物が少しずつ違うのはそう珍しい訳ではないはずだけれど、何故か急に胸がざわついた。

(私は、この場所を知っている?)

 きょろきょろと、他に何かこの不思議な感覚の原因となるはっきりとした物がないか見回してみるけれど、特に変わった様子はない。
 町から外へ出たことの無いマルガリータが、この場所へ来たことがあるはずもなく、日本で暮らして来た真奈美がこの場所を知っているはずもない。

(でも、確かにどこかで……)

 マルガリータが首を傾げて曖昧な記憶を巡っていると、突然ディアンがマルガリータの髪にそっと触れて来て驚く。

「え? 何……です?」
「似合いそうだと思って」

 いつの間に摘んだのか、足下に咲き誇っていた白く小さな花をいくつか手に持ったディアンは、割れ物にでも触るかのように繊細な手つきでマルガリータの髪を花で飾りながら、ふわりと笑う。

(あ! 思い出した!)

 ぶわりと、真奈美のゲームプレイの記憶が、脳内を駆け抜ける。

(ゲームスチルで見た景色なんだわ)

 そのスチルに映るのは、もちろん悪役令嬢だったマルガリータではなく、髪に白い花を散らして笑う少女と、それを愛おしそうに抱きしめる攻略対象の一人。
 主人公であるヒロインと、メインヒーローである第二王子だったはずだ。

 ここにヒロインが連れ来られるのは、親密度MAXの状態の終盤。
 第二王子という立場なのに、ゲーム開始の時点で既に第一王位継承者になっている、その理由を聞かせて貰えるのだ。

 本来ならば、第一王位継承者であるこの国の第一王子は亡くなっている訳ではなく、今現在も生きている。
 にも関わらず、第二王子がその立場にいる経緯を、王族ゆかりの地であるこの湖で教えて貰うイベントで、その流れのまま王妃になって自分を支えて欲しいと告げられる、言わばプロポーズイベントでもある。

 この湖は、一般人が簡単に入れるような場所では無いはずだった。
 なのに何故今、マルガリータとディアンはここに立っていて、しかもプロポーズスチルに限りなく近い状況になってしまっているのだろう。

 ゲーム内では、この湖は神聖な場として王家が管理しているという扱いだったけれど、実際には誰でも気軽に訪れることの出来る場所なのだろうか。
 もう既にゲームの時間は終わっているのだし、真奈美の覚えている事と実際では違う事も多い。
 そう考えると、多少の差違はあってもおかしくない。

 それにしては、場所としては良いデートスポットのような気がするのに、余り人を寄せ付けない雰囲気というか、足を踏み入れられていない土地特有の自然の匂いしかしないというか、そういうものに包まれた場所なので、どうにも判断が付かない。

 湖畔に育つハーブの状態は、誰の手も入っていない物ばかりで、苗の仕入れだと言われれば疑い様もなく、むしろ仕入れるには良い物ばかりだ。
 ディアンは気分転換に連れ来たのだと言っていたけれど、黒仮面の男の研究的にも、ここのハーブは役に立つに違いない。

 どちらを本来の目的にするかの違いだけで、ついでにどれでもいいから苗を取ってくるようにと、黒仮面の男がディアンに行き先を指示していたのだとしたら、やはり平民が訪れる様な気軽な場所では無いような気もする。
 避けられ続けている為に、黒仮面の男の身分がいまいちわかないのだけれど、ここが本当にゲームと同じ王族ゆかりの地だったりしてしまうのならば、王族ではないにしろ黒仮面の男は、かなり身分の高い人という事になってしまう。

(でも、そんな人がわざわざ自らの足で出向いて、町の最下層の奴隷売買に参加するはずはないのよね)

 マルガリータは今現在、あの屋敷で起こること全てが訳のわからない状態でもあるので、あり得ない可能性でさえどこかあり得てしまう気もしてしまう。

「マルガリータ、どうかした?」
「い、いいえ。それよりせっかく綺麗に咲いている花を、私なんかのために摘んでしまっては可哀想ですよ」

 思考を飛ばしていたら、ディアンが不思議そうに覗き込んできたので、慌てて意識をこちら側に戻す。

「花は、女性を美しく飾るためにある物だろう?」

(何、そのさらっとぶっ込まれる気障な台詞! この世界って貴族だけじゃ無くて、一介の庭師までこんな甘いことさらっと言えるの? 流石土台が乙女ゲームだけあるわ……)

 何を言っているのかと、当たり前のような顔で首を傾げるディアンに、マルガリータは思わず固まってしまう。
 ゲーム内の台詞は所詮乙女ゲームなのだからと、砂糖を吐くがごとき甘い言葉の数々も聞き流せていたけれど、ヒロインでも何でも無いマルガリータにまで当然のようにそれが向けられるとは思ってもみなくて、心の準備が追いついていなかった。
 そう言えば使用人達も、やたら毎日マルガリータを褒めちぎってくれる。

(この世界って、こういうのがデフォルトなの? ちょっとどうして良いか、わからないんだけど!)

 今まで恋人がいなかったマルガリータにとって異性と話す機会は多くなく、一番関わりのあったと言えるのは父親や兄なのだが、二人は身内びいきの溺愛っぷりを遺憾なく発揮してくれていたので、正直あまり基準にならない。
 気障な台詞に返す言葉が思いつかず、何も言えないまま恐らく顔が真っ赤に染まって居るであろうマルガリータの頭を、笑顔のディアンがそっと撫でてくれる。

 ディアンは頭を撫でるのが癖なのかもしれないけれど、マルガリータだけでなく恋愛経験どころか異性との交流の仕方さえも危うい真奈美のキャパは完全にオーバーしていて、恥ずかしさで倒れてしまいそうだ。

「そ、そろそろおやつにしませんか?」
「いいね。マルガリータ特製のクッキー、早く食べたかったんだ」

 何とかこの甘ったるい空気を変えたくて、咄嗟に出した言葉だったけれど、ディアンが途端に嬉しそうな表情を見せたから、どうやら選択肢としては間違っていなかったらしい。
 過大な期待が、寄せられてしまっている気はするけれど。

「素人の作った物ですから……あまり期待は、しないで下さいね」
「それは、難しいお願いだな」

 早々と、ジェットを休ませている先程のハーブ生息エリアに引き返そうとするディアンの声は弾んでいて、お世辞ではなく本当に楽しみにしてくれているのが伝わってくる。
 甘い雰囲気からは解放されたのでほっとしたはずなのに、どこか残念に思うような気持ちが、もやっと心を揺さぶった。

 自分の事なのに、その感情の変化がマルガリータ自身にもよくわからない。
 ただディアンと居ると落ち着くのと同時に、最近やけに動悸がする。

 楽しそうに笑うディアンの横顔に、ドキドキし始めてしまった胸の高鳴りを沈めようと少し早足で歩き出すと、隣でマルガリータの歩幅に合わせつつ歩きやすいようにエスコートしてくれていたディアンが、突然ぴたりとその足を止めてしまった。

 早足になっていたマルガリータの方が足を止めきれず、けれど手を取って貰っていた為に突然足を止めたディアンとの距離が数歩開いてしまい、がくんっとつんのめる。
 即座にディアンが腰に手を回して支えてくれたから転げはしなかったけれど、一瞬何が起こったのかわからなくて瞳を揺らして見上げると、そこにはマルガリータと居るときには一度も見せたことのない険しい表情をしたディアンが、真っ直ぐ正面を見据えていた。

「ディアン、どうしたの? …………っ!!」

 厳しい表情に戸惑いながら、ディアンの視線の先を辿ったマルガリータは、そこに立っていた人物に思わず息を飲んだ。
 視線の先に居たのは、先程記憶の中のスチルに登場したばかりの『君ダン』のヒロインと、メインヒーローである第二王子。
 マルガリータを理不尽な理由で奴隷に堕とした、元凶の二人だったから。

 二人は、記憶にあるスチルの中で見せていた幸せそうな笑顔とは違う、嫌な笑みを浮かべていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

「殿下、人違いです」どうぞヒロインのところへ行って下さい

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームを元にした人気のライトノベルの世界でした。  しかも、定番の悪役令嬢。 いえ、別にざまあされるヒロインにはなりたくないですし、婚約者のいる相手にすり寄るビッチなヒロインにもなりたくないです。  ですから婚約者の王子様。 私はいつでも婚約破棄を受け入れますので、どうぞヒロインのところに行って下さい。

悪役令嬢のはずですが、年上王子が幼い頃から私を甘やかす気でいました

ria_alphapolis
恋愛
私は、悪役令嬢なのかもしれない。 王子の婚約者としては少し我儘で、周囲からは気が強いと思われている―― そんな自分に気づいた日から、私は“断罪される未来”を恐れるようになった。 婚約者である年上の王子は、今日も変わらず優しい。 けれどその優しさが、義務なのか、同情なのか、私にはわからない。 距離を取ろうとする私と、何も言わずに見守る王子。 両思いなのに、想いはすれ違っていく。 けれど彼は知っている。 五歳下の婚約者が「我儘だ」と言われていた幼い頃から、 そのすべてが可愛くて仕方なかったことを。 ――我儘でいい。 そう決めたのは、ずっと昔のことだった。 悪役令嬢だと勘違いしている少女と、 溺愛を隠し続ける年上王子の、すれ違い恋愛ファンタジー。 ※溺愛保証/王子視点あり/幼少期エピソードあり

転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした

ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!? 容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。 「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」 ところが。 ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。 無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!? でも、よく考えたら―― 私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに) お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。 これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。 じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――! 本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。 アイデア提供者:ゆう(YuFidi) URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464

記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?

ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」 バシッ!! わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。 目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの? 最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故? ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない…… 前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた…… 前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。 転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?

【完結】財務大臣が『経済の話だけ』と毎日訪ねてきます。婚約破棄後、前世の経営知識で辺境を改革したら、こんな溺愛が始まりました

チャビューヘ
恋愛
三度目の婚約破棄で、ようやく自由を手に入れた。 王太子から「冷酷で心がない」と糾弾され、大広間で婚約を破棄されたエリナ。しかし彼女は泣かない。なぜなら、これは三度目のループだから。前世は過労死した41歳の経営コンサル。一周目は泣き崩れ、二周目は慌てふためいた。でも三周目の今回は違う。「ありがとうございます、殿下。これで自由になれます」──優雅に微笑み、誰も予想しない行動に出る。 エリナが選んだのは、誰も欲しがらない辺境の荒れ地。人口わずか4500人、干ばつで荒廃した最悪の土地を、金貨100枚で買い取った。貴族たちは嘲笑う。「追放された令嬢が、荒れ地で野垂れ死にするだけだ」と。 だが、彼らは知らない。エリナが前世で培った、経営コンサルタントとしての圧倒的な知識を。三圃式農業、ブランド戦略、人材採用術、物流システム──現代日本の経営ノウハウを、中世ファンタジー世界で全力展開。わずか半年で領地は緑に変わり、住民たちは希望を取り戻す。一年後には人口は倍増、財政は奇跡の黒字化。「辺境の奇跡」として王国中で噂になり始めた。 そして現れたのが、王国一の冷徹さで知られる財務大臣、カイル・ヴェルナー。氷のような視線、容赦ない数字の追及。貴族たちが震え上がる彼が、なぜか月に一度の「定期視察」を提案してくる。そして月一が週一になり、やがて──「経済政策の話がしたいだけです」という言い訳とともに、毎日のように訪ねてくるようになった。 夜遅くまで経済理論を語り合い、気づけば星空の下で二人きり。「あなたは、何者なんだ」と問う彼の瞳には、もはや氷の冷たさはない。部下たちは囁く。「閣下、またフェルゼン領ですか」。本人は「重要案件だ」と言い張るが、その頬は微かに赤い。 一方、エリナを捨てた元婚約者の王太子リオンは、彼女の成功を知って後悔に苛まれる。「俺は…取り返しのつかないことを」。かつてエリナを馬鹿にした貴族たちも掌を返し、継母は「戻ってきて」と懇願する。だがエリナは冷静に微笑むだけ。「もう、過去のことです」。ざまあみろ、ではなく──もっと前を向いている。 知的で戦略的な領地経営。冷徹な財務大臣の不器用な溺愛。そして、自分を捨てた者たちへの圧倒的な「ざまぁ」。三周目だからこそ完璧に描ける、逆転と成功の物語。 経済政策で国を変え、本物の愛を見つける──これは、消去法で選ばれただけの婚約者が、自らの知恵と努力で勝ち取った、最高の人生逆転ストーリー。

ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない

魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。 そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。 ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。 イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。 ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。 いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。 離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。 「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」 予想外の溺愛が始まってしまう! (世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!

処理中です...