政略結婚の末に待っていたのは熱過ぎる溺愛でした

あん蜜

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第五話

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 突然のゼフトの告白に、レイラはとても驚き目をぱちくりさせた。

「まぁあなたとは違って一方的な片思いではあるが、彼女の笑顔を見る度に私の心はあたたかく、時に苦しく揺さぶられた」

「……まさに恋、ですね……」

 悲しい表情を浮かべるレイラを、ゼフトは真っ直ぐに見つめた。

「好いた相手が自分の妹と結婚するなど、到底受け入れることはできないだろう。だから受け入れなくていい」

「…………えっ……?」

「一生私を愛せなくてもいい。あなたが私を愛せずとも、私はあなたを一生愛し続ける」

「……どうして……そのようなことができるのですか……? おつらくはないのですか……?」

 ゼフトはどこか困ったような表情で微笑むと、傷を負っていない方の腕を上げ自身のこめかみ辺りに指を当てた。

「つらいといえばつらいが、実を言うと今日初めてあなたと顔を合わせた時にわかったのだが、私の心はすでにあなたを愛する準備が整っているようなんだ」

「…………?」

「私は次期君主として振る舞うべき理想の姿でありたいと常々思っている。それゆえ実らぬ片思いを終わらせることにさほどの苦労は必要なかったようなんだ。薄情だと言われればそれまでだが、これまでも何かを選ばなければならない時には必ず王太子としてどう考えるべきかで判断を下してきた。これからは新たな国の君主として、取捨選択をしていくつもりだ」

 ゼフトは傷を負っていない方の腕を伸ばし、レイラの頭にそっと触れた。

「君主として、后となるあなたを愛することは使命でもあり、私のしたいことでもあるのだ」

 濁りのない眼差しを向けられ、レイラは思わず俯いてしまう。

「私の心はすでにあなたにしか向いていない。この先一生、この身ある限り私はあなただけを愛し続ける」

 夫となる相手に言われたら誰だって嬉しくて仕方のない言葉を受けてもなお、レイラが心に負った傷が癒えることはなかった。ゼフトの話を聞きながら、彼女の脳裏にはジェイルとアイナがキスを交わす映像がよみがえっていたのだ。

「っ……誠に申し訳ございません……私は……ゼフト様のようにすぐに前を向くことができないのです……私はもう、誰を信じればよいのかわからないのです……」

 苦しそうなレイラの背中を優しく撫でながら、ゼフトは彼女に寄り添った。

「何か、心に溜まっているものがあるように見受けられる。よければ話してくれないか? 思い切り吐き出してくれ。受け止めることしかできなくて申し訳ないが、未来の夫としてできることはさせてほしい」

 背中に伝わるあたたかい手の感触が心を開かせたのか、レイラは昨日のひどすぎる仕打ちや素直な気持ちを全て吐き出していった。途中からは涙がボロボロと溢れ出し、嗚咽混じりに話した。

「っ……ひっぐ……っ……あんまりだわ……あの場所は、私とジェイルの特別な場所だったのに……ぅっ……うぅっ」

 レイラが泣いている間中、ゼフトは優しく背中をさすり続け、寄り添う言葉をかけ続けた。肩の震えが収まり、呼吸も落ち着いて来た頃、今度はゼフトの呼吸が荒くなった。

「はぁ……はぁ……はぁ……ぅっ」

「……ゼフト様!?」

「はぁ はぁ はぁっ」

 瞬く間に苦しみだしたゼフトの体は地面に横たわった。

「ゼフト様!!!」

 レイラの声に気付き近くにいた側近が即座に駆けつける。側近はゼフトの様子を見た途端に血相を変え、焦りが口から出るようにつぶやいた。

「毒だ……」
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