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第六話
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日が沈みゆく山の中で危機一髪のところに駆けつけ、レイラの心にやさしく寄り添っていたゼフトは今、彼女に手を握られた状態でベッドに横たわっている。体調が一変した後、大慌てで宮殿へ運び込まれたゼフトはパイルエ国きっての名医による治療を受け、解毒に成功し一命を取り留めていた。しかしながら、一週間経った今でも目を覚ますことがなく、その間レイラはずっと手を握り、ゼフトが起きるのを待っていた。
山奥へ逃げていった山賊たちはゼフトの側近たちにより全員捕らえられ、厳重な処罰が下された。レイラは手を怪我したものの軽傷で済み、側近たちも深手を負うことなく、結果的にゼフトだけが重傷を負ってしまう形となった。
「ゼフト様……起きてください…………お願いします…………」
苦しい声を出しながら、レイラは自身の行いを悔い、恥じていた。それと同時に、ゼフトがこのような目に遭ったのは自分のせいだと強く責めていた。皮肉にも、山でゼフトが苦しみながら倒れて以来、ジェイルのことを思い出すことは一度もなくただひたすらにゼフトが目を覚ますことだけしか頭になかった。
(どうか……お願いします……どうか………………)
医者によると、一週間がひとつの目処であり、今日中に目を覚まさなければひと月以上はかかるかもしれないとのことだった。窓から見える空は明るさが薄まっており、日が沈み始めている。
「ゼフト様…………起きて……………」
その声に応えるようにか、ピクッ、とゼフトの指が動いたように感じた。レイラはあわててゼフトの顔を覗き込んだ。これまでも何度か指が動くことはあったものの、それだけで目を覚ますことはなかった。しばらくの間顔を見ていたが、瞼が開く気配がなく、今回も指が動いただけなのかと気を落としかけたその時――――
ゆっくりと、少しだけ瞼が開いたのだ。
「ゼフト様……?」
ゼフトの顔はおもむろにレイラの方にわずかに傾き、瞬きをした。
「ゼフト様……っ!!」
慌てて人を呼びに行こうと立ち上がろうとしたところ、レイラが握りしめていたゼフトの手がぎゅっと掴むように力を入れたので思いとどまった。ゼフトの顔を見ると、ゆっくりと首を横に振っている。
「ご気分はいかがですか!? 私のことはわかりますでしょうか!?」
威勢のいい声を出すレイラに対し、ゼフトは嬉しそうに口元を緩ませた。
「……大丈夫だ……はぁ…………」
ゼフトが声を出せたことに安堵したレイラは嬉しいのか悲しいのかわからないような顔で泣きそうになっている。
「よかった……本当によかった…………ゼフトさま……っ」
その後、医者の診察を受け、食事を取っているうちにゼフトの顔色はみるみる良くなっていった。まだ安静は必要だが、見た目ではもうすっかり回復したように思えるほど元気な雰囲気が溢れ出ていた。「殿下の生命力には目を見張るものがありますな」医者はそう言うと肩の荷が下りたような表情で部屋を後にした。解毒できたとはいえ、ゼフトが目を覚ますまで気が気ではなかったのだろう。
医者が部屋から出て行ったことで、そこにはベッドで上体を起こしているゼフトと、すぐそばの椅子に腰かけているレイラの二人きりになった。その途端、二人の間にはどことなく緊張感のようなものが漂い始めた。ゼフトが真っ直ぐな目でレイラを見つめながら彼女の頬に手を添えたのだ。レイラは恥ずかしさから目をそらしてしまうが、そのようなことは気にせずか、ゼフトはそのままゆっくりとレイラの顔を自身の顔の方へと引き寄せていく。
「ぁっ……あの……ゼフト様…………」
無意識に目が泳いでしまう。
「レイラ、抱きしめてくれないか」
耳元でやさしく言われ、レイラの顔はほんのりと熱くなった。
「……はい……」
小さく返事をした後、ぎこちなくゼフトの首の後ろに手を回すと、ゼフトは「ありがとう」と言いレイラの頭をやさしく撫でた。二人の顔はくっつき合っており、レイラの心臓は高鳴る一方だ。
しばらく無言が続く中、突然レイラの首筋に柔らかい感触が訪れた。
「っ……!?」
口づけされていることがわかった時、レイラは思わず顔を後ろに引きゼフトの顔から少しだけ離れた。
「ぁ……ぁのっ……」
戸惑うレイラを見たゼフトは、とろんとしたような表情で口を開いた。
「こうして一命を取り留めたことだ。大目に見てもらえると助かる」
「――――――――」
二つの唇が重なり合い、無言の音がやさしくその場を包み込んだ。
山奥へ逃げていった山賊たちはゼフトの側近たちにより全員捕らえられ、厳重な処罰が下された。レイラは手を怪我したものの軽傷で済み、側近たちも深手を負うことなく、結果的にゼフトだけが重傷を負ってしまう形となった。
「ゼフト様……起きてください…………お願いします…………」
苦しい声を出しながら、レイラは自身の行いを悔い、恥じていた。それと同時に、ゼフトがこのような目に遭ったのは自分のせいだと強く責めていた。皮肉にも、山でゼフトが苦しみながら倒れて以来、ジェイルのことを思い出すことは一度もなくただひたすらにゼフトが目を覚ますことだけしか頭になかった。
(どうか……お願いします……どうか………………)
医者によると、一週間がひとつの目処であり、今日中に目を覚まさなければひと月以上はかかるかもしれないとのことだった。窓から見える空は明るさが薄まっており、日が沈み始めている。
「ゼフト様…………起きて……………」
その声に応えるようにか、ピクッ、とゼフトの指が動いたように感じた。レイラはあわててゼフトの顔を覗き込んだ。これまでも何度か指が動くことはあったものの、それだけで目を覚ますことはなかった。しばらくの間顔を見ていたが、瞼が開く気配がなく、今回も指が動いただけなのかと気を落としかけたその時――――
ゆっくりと、少しだけ瞼が開いたのだ。
「ゼフト様……?」
ゼフトの顔はおもむろにレイラの方にわずかに傾き、瞬きをした。
「ゼフト様……っ!!」
慌てて人を呼びに行こうと立ち上がろうとしたところ、レイラが握りしめていたゼフトの手がぎゅっと掴むように力を入れたので思いとどまった。ゼフトの顔を見ると、ゆっくりと首を横に振っている。
「ご気分はいかがですか!? 私のことはわかりますでしょうか!?」
威勢のいい声を出すレイラに対し、ゼフトは嬉しそうに口元を緩ませた。
「……大丈夫だ……はぁ…………」
ゼフトが声を出せたことに安堵したレイラは嬉しいのか悲しいのかわからないような顔で泣きそうになっている。
「よかった……本当によかった…………ゼフトさま……っ」
その後、医者の診察を受け、食事を取っているうちにゼフトの顔色はみるみる良くなっていった。まだ安静は必要だが、見た目ではもうすっかり回復したように思えるほど元気な雰囲気が溢れ出ていた。「殿下の生命力には目を見張るものがありますな」医者はそう言うと肩の荷が下りたような表情で部屋を後にした。解毒できたとはいえ、ゼフトが目を覚ますまで気が気ではなかったのだろう。
医者が部屋から出て行ったことで、そこにはベッドで上体を起こしているゼフトと、すぐそばの椅子に腰かけているレイラの二人きりになった。その途端、二人の間にはどことなく緊張感のようなものが漂い始めた。ゼフトが真っ直ぐな目でレイラを見つめながら彼女の頬に手を添えたのだ。レイラは恥ずかしさから目をそらしてしまうが、そのようなことは気にせずか、ゼフトはそのままゆっくりとレイラの顔を自身の顔の方へと引き寄せていく。
「ぁっ……あの……ゼフト様…………」
無意識に目が泳いでしまう。
「レイラ、抱きしめてくれないか」
耳元でやさしく言われ、レイラの顔はほんのりと熱くなった。
「……はい……」
小さく返事をした後、ぎこちなくゼフトの首の後ろに手を回すと、ゼフトは「ありがとう」と言いレイラの頭をやさしく撫でた。二人の顔はくっつき合っており、レイラの心臓は高鳴る一方だ。
しばらく無言が続く中、突然レイラの首筋に柔らかい感触が訪れた。
「っ……!?」
口づけされていることがわかった時、レイラは思わず顔を後ろに引きゼフトの顔から少しだけ離れた。
「ぁ……ぁのっ……」
戸惑うレイラを見たゼフトは、とろんとしたような表情で口を開いた。
「こうして一命を取り留めたことだ。大目に見てもらえると助かる」
「――――――――」
二つの唇が重なり合い、無言の音がやさしくその場を包み込んだ。
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