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第19話:ノヴァルナ包囲網
#01
しおりを挟むBSHOのそう広くもないコクピットに、カーナル・サンザー=フォレスタの雄叫びが響く。
「おおおおおおお!!」
『レイメイFS』が大きく振り回した十文字ポジトロンランスの穂先が、アーザイル軍BSI『イカヅチ』一機と、アザン・グラン軍BSI『ハヤテ』二機を、ひとまとめにして斬り裂いた。
セークモートン星系での戦いは、様子見を続けていたアザン・グラン軍が、本格的に戦線に加わった事で、激化の一途を辿っている。
ここで驚異的であったのは、ウォーダ軍三個艦隊の粘りであった。アーザイル/アザン・グラン連合軍の七個艦隊に対し、果敢に波状攻撃を繰り返して互角に戦っていたのである。
中でもカーナル・サンザー=フォレスタ率いる第6艦隊BSI部隊は、サンザー自身が操縦するBSHO『レイメイFS』の鬼神の如き活躍もあって、アザン・グラン軍が増えても機動兵器戦を優勢に進めていた。
複数の『イカヅチ』と『ハヤテ』が、新たな一団となってサンザーと彼の“ハンター中隊”へ仕掛けて来る。“ハンター中隊”はここまでの激戦で三機を喪失していたが、戦闘力は衰えていない。向かって来る一団に一斉に銃撃を浴びせて、自分達からも突撃を仕掛ける。
至近距離からライフルを撃ち合う『シデン・カイXS』と『イカヅチ』。ポジトロンパイクの刃を重ねる『シデン・カイXS』と『ハヤテ』。突き出した『レイメイFS』の鑓が『イカヅチRR』の胸部を貫く。
この第6艦隊BSI部隊の勇戦に乗じ、ヴェルージ=ウォーダの第33艦隊BSI部隊は、BSI戦闘に参加せず対艦攻撃に徹した。その狙いは緒戦ですでに苦戦気味であった、アーザイル軍のノリス艦隊だ。
ノリス艦隊の旗艦に対し、ヴェルージ艦隊のBSI部隊は肉迫しての、誘導弾攻撃を敢行。司令官ノリスは負傷し、旗艦を放棄する事態となった。
「くそっ! 撤退だ! 一時退却する!」
被害が拡大する一方のアザン・グラン軍BSI部隊指揮官が、たまらず撤退を命じる。これに合わせアーザイル軍総司令官のナギと、アザン・グラン軍総司令官のウィンゲートも、陣形の立て直しのため全艦隊を後退させた。
対するサンザーも自軍の状態が限界近い事から、深追いを禁じて部隊を第八惑星衛星軌道に集結させる。
「ううむ…俺も歳かな」
操縦桿を握り続けた両腕の数か所に疲労の蓄積を感じ、サンザーは『レイメイFS』の操縦席で苦笑いを浮かべた。その眼の前の戦術状況ホログラムには、撤退してゆく敵部隊の様子が映し出されている。
するとそんなサンザーの軽口を聞き留めた、中隊の副指揮官が「ご冗談を」と、自軍の中で今回も最大の撃破数を稼いだ主君に言葉を返す。
ただサンザーも軽口ばかりを叩いている余裕は無い。中隊を引き連れて艦隊旗艦の宇宙空母『バンガーヴェルダ』へ帰還すると、機体の整備と補給を整備班に任せて、パイロットスーツ姿のまま、スクイズボトルから栄養補給ドリンクを絞り出しながら、速足で艦橋へ向かった。BSHOの戦術状況ホログラムでは得られない、戦略・戦術情報を入手して状況判断を下すためだ。ノヴァルナもよく見せるこの光景は、パイロット教官であったサンザーの影響によるものだろう。
スクイズボトルを持って司令官席についたサンザーは、待ち受けていた参謀長に問い掛ける。
「ノヴァルナ公の、ご撤退状況は?」
サンザーが自分達の部隊の置かれた状況以上に気にしていたのは、セッツー宙域から撤退を始めている、ノヴァルナの遠征軍の動きであった。サンザー達が今いるセークモートン星系で戦っている理由も、ノヴァルナの遠征軍をアーザイル/アザン・グラン連合軍の、挟撃から守るためのものである。
「距離が離れているため、リアルタイムの情報入手は出来ませんが…」
参謀長はそう前置きして、最新情報を戦術状況ホログラムに投入させた。表示されたのはセッツー宙域から、ヤヴァルト宙域にかけての宇宙地図。タイムラグは五時間前と出ている。
「あまり…進んではおられないようだな」
僅かに眉間に皺を寄せて、サンザーは呟いた。五時間前のノヴァルナ遠征軍の位置は、ヤヴァルト宙域との国境近くのセッツー宙域。HF-4733829というカタログナンバーの恒星系付近である。五時間前という事はその後に少なくとも一回は、統制DFドライヴを行っているはずで、現在はヤヴァルト宙域に入ったところであろう。時間が思った以上にかかったのは、直線的な航路を取ると、敵に回ったイーゴン教の総本山『イシャー・ホーガン』のある、オ・ザーカ星系近郊を通る事になるからであった。
そして遠征軍そのものは、追撃する“ミョルジ三人衆”軍をカッツ・ゴーンロッグ=シルバータと、コレット=ワッダーの殿軍が遅滞させていたが、遠征軍本隊にも別方向から、アーワーガ宙域より来たミョルジ家増援部隊と、『イシャー・ホーガン』部隊が迫っている。ノヴァルナからすれば、まともに戦いたくはないはずで、そうなるとさらに針路変更を行う必要があり、それに伴って時間の消費も増えるのは確実だった。
戦術状況ホログラムの情報を吟味したサンザーは、参謀長に指示を出す。
「ノヴァルナ公の予想航路からシミュレートして、我々がどれぐらい時間を稼ぐべきかの、最新数値を出してくれ」
▶#02につづく
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