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第19話:ノヴァルナ包囲網
#02
しおりを挟む旗艦のスタッフやはり優秀で、すぐにサンザーが要求したシミュレーション結果が、データパッドに移されて手元に届く。これを見たサンザーは「うーむ…」と、唸り声を漏らした。
アーワーガ宙域からの敵増援軍と、『イシャー・ホーガン』軍の動きは、二方向からの追跡でノヴァルナ遠征軍本隊を、こちらへ向かわせようとしている。これを見れば、敵は最初からノヴァルナ本隊をヤヴァルト宙域に追い込んで、挟撃する戦略を組んでいた事が判る。
表示のされ方は、現在位置のノヴァルナ本隊の前方に予想される針路が、着色された半透明の円錐形に広がっており、その中を可能性が高い針路が何本かのラインで示されていた。ただ、オウ・ルミル宙域に建造中の新本拠地、アデューティス星系を目指しているノヴァルナ本隊の進行方向には、今回の動きに連動していると思われる、ロッガ家残党部隊も表示されており、これも避けなければならない。
また斜め後方から、それに追い縋る位置にいるのが、“ミョルジ三人衆”と『イシャー・ホーガン』の部隊。そしてサンザーにとって重要なのは、自分達が今いるこのセークモートン星系と、その後方にあるサンザーの領地ウーサルマ星系を貫いて、敵追撃隊とは反対側からノヴァルナ本隊と接触しようとしている、アーザイル/アザン・グラン連合軍の八本のラインである。
こちらが八本のラインに分かれているのは、サンザーの阻止部隊ががどれぐらいの足止め時間を稼いだかによって、敵のノヴァルナ本隊との接触タイミングに、変化が発生するためだ。
八本のラインは等間隔で末広がりの緩やかなカーブを描いて、ノヴァルナ本隊の予想航路と接触している。このラインの間隔は一時間ごとに分けられており、最後の二本…七時間と八時間のラインは、ノヴァルナ本隊のラインに接触しなくなっていた。
「七時間…だな」
アーザイル/アザン・グラン連合軍の侵攻を七時間阻止すれば、ノヴァルナ本隊には追いつけないようだ。彼我の戦力差を考えればギリギリの戦いとなるが、自分達ならば、出来ない事ではない。
“ここでもう一戦し、ウーサルマ星系に撤収。そこでさらに一戦すれば、ノヴァルナ公は安全圏まで退避されるはず…”
無論、この残り時間は敵も算出しているはずである。おそらくそれゆえに、充分な戦力の立て直しを行って来るはずだ。司令官席から立ち上がったサンザーは、眼光鋭く通信参謀に命じた、
「ヴェルージ殿とアーチ殿に、この艦まで来るように通信を入れてくれ。ホログラムじゃなく、直接本人達と話したい」
ヴェルージとアーチが、サンザーの待つ旗艦『バンガーヴェルダ』に乗り込んだその頃、旧モルンゴール帝国領の深部にまで進んだノア達は、書庫惑星と呼ばれるヒュドラムの地表近くを、恒星間クルーザー『ジュエルダガー』号で飛んでいた。
操縦室にはノアやラン、アンドロイドのP1-0号も訪れており、狭いそこは満員となっている。
湿潤な森林惑星でもあるヒュドラムは、峻険な山々も数多く、その間を白い霧が覆っていた。『ジュエルダガー』号は速度を落とし、峡谷の中を霧を巻きながら進んでいく。ヒュドラムは太古の造山運動が特殊だったため、数多く作られたクレーター状の盆地を山脈が結んでいる形となっていた。
両側にそびえる峡谷の間を抜けた先に広がる盆地。そこまで進んだ『ジュエルダガー』号の操縦室から、圧倒的な光景が見えて来る。
樹木の絨毯が敷き詰められた盆地の中には、白い都市―――おそらく惑星原住のヒュドラン星人の都市がある。ただ“圧倒的”であるのは、その都市ではない。都市の上空に浮かぶ、石で出来た菱形の巨大建造物だ。乳白色の石で造られたそれは縦横が、五百メートルはあるだろう。まるで神殿のような建造物の表面は、幾重にも絡み付く蔓木が濃緑の葉を茂らせ、歴史を感じさせる。
「なんだろ、あれ…」
『ジュエルダガー』号の副操縦士、のんびり屋のアントニア星人のアフェーシ=セランが、疑念を口にする。するとそれを聞いた案内役のモルンゴール星人、ガルバック・アスム=ランヴェラが、少々呆れたように言う。
「何を言ってる? あれがあんたらのお目当ての、“書庫”だよ」
これを聞いてノア達が驚いたのは、それだけでは無かった。ガルバックが言うには、このような宙に浮かぶ超巨大書庫が、ヒュドラムには幾つもあるとの事だ。
「ヒュドラム人は有史以来の得た知識を、書物にしてジャンルごとに分け、あの超巨大書庫に保管してるんだ。一般モードでいいから、あれをスキャンしてみるがいい」
ガルバックの言葉に従って電探士席に座るヒト種の女性、マニス=エイバーが超巨大書庫にスキャンをかけると、銀河皇国標準語で“生物学書庫”という文字が、浮かび上がって来る。つまり眼前にある超巨大書庫は、旧モルンゴール帝国が古くから蓄積して来た、生物学に関する知識情報が記載された書物が、すべて収蔵されているという事であった。
収蔵されているであろう知識量を想像して、学者肌なところのあるノアは大きく刺激される。だが、いま何より求めているのは、“双極宇宙論”についての知識だった。
▶#03につづく
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