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第20話:薪の上に臥して苦き胆を嘗める
#02
しおりを挟む「左舷より所属不明艦隊、急速接近!」
オペレーターの緊迫した声で、戦術状況ホログラムを見るヴェルージ。モノトーンカラーの謎の艦隊は、ヴェルージの艦隊が組んだ防御陣を、強行突破して来たと思われる。
「左舷に砲火を集中!」
ヴェルージの前で旗艦『レパーディア』の艦長が命じる。後続する四隻の戦艦も一斉に主砲塔を旋回、ビームと誘導弾を放ちながら迫って来る、謎の艦隊へ向けて攻撃を集中させた。
謎の艦隊は戦艦も巡航艦も、駆逐艦もモノトーンに塗られており、BSIユニット同様、白い部分が重装甲部となっているようだ。そしてさらに戦艦と重巡航艦はこの重装甲に加え、艦の前面に遠隔操作式のアクティブシールドを、複数枚展開している。ヴェルージのいる戦艦戦隊の左舷側を守る、宙雷戦隊の軽巡航艦と駆逐艦が、すでに盛んに主砲を撃っているが、その悉くを弾いている。
そこへヴェルージの戦艦戦隊からの主砲ビームが加わった。流石に近距離から戦艦の主砲を喰らうと、謎の敵のアクティブシールドも過負荷状態が増す。無論、相手も猛然と射撃を行って来て、両軍の間の宇宙空間は光の矢で埋め尽くされた。謎の艦隊の数隻のシールドが、過負荷に耐えかねて破れ、引き裂かれた艦舷から炎を噴き出す。だがやはりここでも謎の敵は止まる事無く、脱落した艦をそのままに突撃を続けた。
「第48宙雷戦隊、突破されました!」
「敵艦隊、なおも接近中!」
「前方より、アーザイル艦隊も来ます!」
「直掩BSI部隊、壊滅!」
大きくなる損害とアーザイル軍の接近に、第35艦隊の参謀長が進言する。
「司令、もはやこれまでです。撤退すべきです」
「撤退…か」
一瞬、迷う眼をするヴェルージ。だがすぐに頭を左右に振って否定した。
「いや、だめだ。いま退けば残りの友軍が、敵に包囲される!」
「しかし!―――」
参謀長がヴェルージを説得しようとしたその時、艦が大きく針路を変えると同時に、一段と大きな艦長の声がこれを遮る。
「全艦、衝撃に備えよ!」
一瞬後、ズシン、ズシン、ズシン!…と腹に響く震動が、激しく艦を揺らした。敵が放った宇宙魚雷が命中したのだ。それが収まると、司令官席の肘掛けで体を支えていたヴェルージが、「艦長!」と呼び掛ける。
「申し訳ありません。所属不明艦隊の駆逐艦に、接近を―――」
艦長がそう応じかけた直後、ナギ・マーサス=アーザイルの旗艦『コウリュウ』の主砲ビームが、ヴェルージの旗艦『レパーディア』を直撃した。
駆逐艦からの宇宙魚雷を喰らって、シールドを失ったところへの、ナギの『コウリュウ』の、総旗艦級戦艦の主砲を直撃されたのでは、致命傷となっても致し方ない。緊急時赤色灯と警報音が鳴り響く、旗艦『レパーディア』の艦橋内で、艦長がヴェルージに告げる。
「この艦はもう持ちません。即時ご退艦下さい!」
これに頷いたヴェルージは参謀長に振り向き、「きみ達はシャトルに乗れ」と指示を出した。
「閣下はどうされるのですか?」
「私は自分の『シデン・カイ』で出る」
ヴェルージはBSIパイロットでもあり、『レパーディア』の格納庫には専用の親衛隊仕様、『シデン・カイXS-TF』が収められている。XS-TFは当初、トゥ・キーツ=キノッサ配下の女性エースパイロット、フェルデーサ=ゼノンゴークのために造られた機体だが、その後、性能の良好さが認められ、少数が親衛隊仕様上位機として量産されていた。
「しかしヴェルージ様!」
参謀長が引き留めようとするが、ヴェルージは「時間が無い。急げ!」と返答して、格納庫に向かうため司令官席を立つ。そこにまた、ズシリと腹に響く命中弾の揺れ。ヴェルージは参謀長に付け加えた。
「艦隊指揮を任せる。できるだけ踏み止まり、損害艦はウーサルマ星系まで撤退させよ」
ヴェルージ艦隊が崩されていく状況は、『レイメイFS』を操るカーナル・サンザー=フォレスタも把握していた。だがサンザーにはどうする事も出来ない。自分達も謎の敵とアザン・グラン軍の、双方のBSI部隊と交戦中であり、サンザー自身、モノトーンの正体不明のBSIユニットに周りを囲まれている。
薙刀型の“ポジトロングレイブ”を手に、次々と突っ込んで来る、所属不明のBSIユニットの群れ。鑓だけでは捌ききれないと判断したサンザーは、右手に大型十文字ポジトロンランス、左手にクァンタムブレードを握り、五機にまで減った“ハンター中隊”の『シデン・カイXS』に、相互援護射撃を行わせて戦っていた。
「全機、数に怯むな! 確実に仕留める事を心がけろ!」
周囲で戦う味方機を激励しながらサンザーは、大きく振り回したポジトロンランスの十文字の穂先で、モノトーンカラーの謎のBSIユニットを、手当たり次第に切り裂いてゆく。長時間の戦闘ですでに体力は限界、機体のエネルギーも減って来ているが、気力はまだ衰えていない。
そこへ鑓を躱した所属不明のBSIが一機。猛然と突撃を仕掛けて来る。紙一重で機体を翻し、これを回避したサンザーは、すれ違いざまにクァンタムブレードを一閃。敵機を腹部で両断した。
さらにサンザーは返す刀で二機目、三機目の敵BSIユニットを斬り捨てると、背後から撃って来た二機のBSIユニットの銃弾を回避。その二機はサンザーの援護に付いていた、“ハンター中隊”の『シデン・カイXS』が放った超電磁ライフルの銃弾が撃破した。
するとサンザーはその間に自分から、所属不明BSIユニットの一団に突入し、当たるを幸い、縦横無尽に十文字ポジトロンランスを振るう。刺突、打擲、斬撃が次々と繰り出され、死屍累々、『レイメイFS』の周囲には撃破されたBSIユニットの、白と黒のパーツが塵芥の如く漂う。まさに“鬼のサンザーここにあり”であった。
そんな中でサンザーは『レイメイFS』を操りながら、第6艦隊と第33艦隊の合同部隊を指揮している、スーゲット=アーチに連絡を入れる。
「アーチ殿。戦況はどうか?」
一拍置いてアーチから報告が届く。
「戦力の損耗率は、三十パーセントを越えました。損害は広がっていますが、まだ持ち応えております」
ここまでそれなりの時間が経過しているが、それでもアーチの部隊が、三十パーセントを越えた程度の損害で住んでいるのは、交戦しているアザン・グラン軍の総司令官、当主ウィンゲートの消極的な性格の影響だと言っていいだろう。
サンザーはこれを聞き、周囲を警戒しながらアーチに指示を出す。
「アーチ殿は部隊をウーサルマ星系まで後退させ、第二次防衛線を敷いて頂きたくお願いいたす」
「サ、サンザー殿!」
ご貴殿はどうされるおつもりなのか?…と問いたい言葉を、アーチは飲み込む。それを察したサンザーは、ニタリと大きく口許を歪めて応じた。
「我はここで、敵を引き付け申す」
その直後、サンザーの『レイメイFS』の背後で、幾つもの火球が炸裂する。眉をひそめて振り返るサンザーの、ヘルメット内に声が響く。
「油断されましたな、サンザー殿」
それは『シデン・カイXS-TF』に乗った、ヴェルージ=ウォーダであった。一瞬の隙を見せたサンザーの背後を突こうとした、敵のBSIユニットを狙撃したのである。ヴェルージは直掩隊生き残りの『シデン・カイXS』三機と共に、参謀長をはじめとする旗艦『レパーディア』からの、退艦者を乗せた脱出ポッドの射出や、シャトルの発信を援護したのち、サンザーのBSI部隊との合流を果たしたのだ。
「これはヴェルージ殿、かたじけない」
そう言って笑うサンザーの眼前には、ウォーダ軍第35艦隊を撃破した所属不明艦隊と、そのBSI部隊群が視界一杯に迫って来ていた………
▶#03につづく
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