銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第20話:薪の上に臥して苦き胆を嘗める

#03

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 同時刻…旧モルンゴール帝国領、書庫惑星ヒュドラム―――


 第18浮遊書庫の中央を縦に貫く、エレベーターシャフトの扉が開いて、二十名ほどの訪問者が出て来る。その中の大半を占めていたノア達一行は、書庫内部の光景に「わぁ…」と声を漏らした。

 彼女達が到着したのは、高さが約五百メートルはある書庫の中央部。直径約八十メートルの上下三層構造の巨大な円形ホールである。
 書庫内部は一つの空間となっており、エレベーターシャフトと一体化した、直径二十メートル程の支柱に取り付けられたホールからは、四方に通路が伸びている。
 そしてホールにはずらりと閲覧用の机が並べられており、借りた書籍はそこで読むようになっていた。さらに三層構造の一番上の階層には、軽食を提供する店も設けられて、仮眠室コーナーも置かれ、日長一日をここで過ごせる仕組みだ。内部の調度は、石造りの外観に合わせた木造のアンティーク調であり、落ち着いた雰囲気で統一されている。

 しかも何より壮観なのが、書籍を収めた書架だった。両面に書籍をびっしりと並べた書架は、一つの高さがおよそ三百メートル。それが中空となった書庫内部に、幾つも並んで浮かんでいる・・・・・・のだ。浮遊書庫の外側同様、内側も重力制御が掛かっているに違いない。ただ仕組みは理解出来ても、実物を自分の眼で見るとなると、感動的に思えるのは当然だろう。

「なるほど。これなら確かに、観光資源になりますね」

 宙に浮く巨大書架が大量に並ぶ様子に、黒いホログラムスクリーンで顔を隠したテン=カイも、周囲を見渡しながら感じ入った口調で言う。これを聞いた『ジュエルダガー』号の船長、ジョナサン=カートライトが揶揄からかうように問い掛けた。

「ほう。あんたにも、そういった感情があるんだな」

「無論だ。故あってこのような姿をしているが、私はアンドロイドではない」

 冷めた声で応じるテン=カイだが、そのような声で反論されると、黒ずくめの衣装で顔も見えない事で、本当にアンドロイドのような気がして来る。そこでカートライトは、テン=カイの隣にいた本物のアンドロイドの、P1-0号に問うた。

「そっちのアンドロイドの旦那はどうなんだい? 何か感じるものは有るかい?」

 すると振り向いたP1-0号は、黄緑色のセンサーアイを点滅させながら、「実に感動的ですね」と、これまたアンドロイドらしくない事を言う。やれやれ…と、カートライトは首を左右に振って、肩をすくめた。
 
 浮遊書庫内の巨大書架空間。そのもう一つの幻想的な光景は、他ならぬ訪問者達であった。自分の求める書籍を探したり、その場でページをめくっているなど、すべての人々が、巨大書架の間で宙を舞っているのである。

 その姿も様々で、ある者は空中に直立して何冊かの本を小脇に抱え、もう片手で新たな本を書架から選び出している。
 またある者は、手摺のついた直径一メートル半程の円盤型プレートに乗って、書架の中に並ぶ目当ての書籍を探している。何人かはその場で浮かんだまま、読書に没頭しており、常連と思われる者は空中で寝転んで本を開いていた。それはさながら、大昔の宇宙ステーションの映像でよく見られた、無重力状態の中での生活のようである。

 さらにユニークなのは、閲覧用の小さなテーブルと二つの椅子がセットになって設置された、五角形の閲覧用プレートも、幾つか宙に浮かんでいる事だった。
 見慣れぬ異星人のカップルや、初老のヒュドラン星人の男などを乗せた、それらのプレートには、テーブルの上に何冊かの本と共にティーセットが置かれており、自分達の好きなだけ、読書とお茶を楽しめるようになっているらしい。

「へぇー。凄いじゃん」

 女性『ホロウシュ』のキュエル=ヒーラーが、圧巻の光景に跳ねるような口調で感想を言うと、そこへ係員を務める六体のアンドロイドがやって来た。汎用タイプだが、銀河皇国で一般的に使役されている、中性的な姿のものとはまるで別物で、人工頭髪が生やされていてより女性的な印象を与える。

「ようこそ、第18浮遊書庫へ。こちらをお使い下さい」」

 そう言って、ノア達の前に進み出たアンドロイド達が差し出したのは、大昔のスマートフォンを思わせる重力子指向コントローラーと、データパッドだった。データパッドの方は、銀河皇国で使用しているものとよく似ている。

 アンドロイドの説明によると、起動させたコントローラーを身に着ける事で、書架空間内を自由に飛び回り、データパッドで探したい書籍の情報を入力すれば、それに合致した書籍が並ぶ場所まで、自動で誘導してくれる便利な代物らしい。

 また単身での空中浮遊が、意にそぐわない者向けに用意されているのが、重力子制御機能の付いた円盤型プレートであり、テーブルと椅子が付属されているタイプは、別料金で閉館時間まで利用できるという事だった。
 それでも宙を飛ぶのは苦手…という者には、希望の書籍をアンドロイド係員が、持って来てくれるのだが、それはこの浮遊書庫の主旨から、外れている気がしなくもない。
 
「思った以上に、静かなんだね」

 と声を控えて告げるのは『ジュエルダガー』号の副操縦士、アフェーシ=セランである。アントニア星人の特徴の、頭部に生えた二本の触角を交互に上下させながら、広い空間を見渡す。確かに書架空間の中は、重力子プレートの発する低い金属音以外は、しんとしている。

「なんか…少し音楽があっても、いいぐらいだけどさ」

 『ジュエルダガー』号の女性機関士、マニス=エイパーがそう応じると、モルンゴール星人の老女ブランム・ハーナ=ベファルが、理由を口にする。

「それは難しいね。ここにはいろんな星から、いろんな種族が訪れてるからね。あたしらには心地いい音楽でも、別の種族にすりゃ不安を招く、耳障りな音楽だったりするからね」

 ベファルはそう言って、重力子コントローラーとデータパッドを率先して手に取り、ノア達に配ってゆく。

「さぁ、みんな。こいつを使って、好きな本を選びな」

 とは言え、ランを除く女性『ホロウシュ』の三人は、別段ノアが求める“双極宇宙論”は無論の事、この第18浮遊書庫に集められている、次元物理学にも興味があるわけではなく、戸惑った表情で互いに顔を見合わせる。彼女達の気持ちを察したノアはキュエル、ジュゼ、キスティスの三人に穏やかに声を掛けた。

「貴女方は、あちらの軽食コーナーで、自由にお過ごしなさい」

 これを聞き、キスティスが「申し訳ございません」と詫びを入れると、三人は頭を下げて軽食コーナーへと向かう。ノアにすれば常日頃自分の護衛に付いている、カレンガミノの双子姉妹も自由にさせてやりたいのだが、それを言っても二人は承知しないはずであり、最初から何も言ってはいない。

 テン=カイとP1-0号については、これはノアと目的を同じくしており、早くも書架へ向かい始めている。『ジュエルダガー』号の三人組は、船長のカートライトが早速宙に浮かんで、書架の方へ飛んでいく一方、セランとマニスはモルンゴール星人のガルバックと共に、やはり軽食コーナーへ足を向けた。

 そしてランである。宙に浮く巨大な書架とその周囲を漂う人々に、ワクワクな様子が最早、隠せなくなっている。そんなランに問い掛けるノア。

「貴女はどうしますか? ラン」

 その言葉を聞き、ランは頬を染めながらノアに請願した。

「あ、あの…飛んで、その辺を見て回っても、よろしいでしょうか?」

 子供のような表情のランを見て、ノアも笑顔を浮かべながら「もちろんですよ」と、優しく頷いた。



▶#04につづく
 
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