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第5話:ミノネリラ征服
#10
しおりを挟むノヴァルナが視線を注いだのは、イディモスの『ザンゲツMI』が両方の手に握る、銃と刀が一体となった武器であった。銃身部分が片刃の刀身となっているその武器は、短めの“銃剣”といったところだろう。銃は超電磁ライフルと見て、間違いなさそうである。ノヴァルナも初めて見る装備だ。『ザンゲツMI』はそれを二刀流で構えていた。
「面白そうな武器だな。モディガン」
面白そう…と言いながら、双眸に帯びた警戒の色を濃くするノヴァルナ。“コーガ衆”は近接戦闘が得意なようであり、そこにこういった、取り回しの良さそうな銃撃兵器は、厄介に思える。
「はい。サイガンの傭兵から供与された、試作兵器にございます」
言い終えると同時に、猛ダッシュをかけて来るイディモス。背後の黒い星間ガスの雲間に、紫の稲塚が走る。先にポジトロンパイクを振るうノヴァルナ。バチリと火花が散り、その穂先を『ザンゲツMI』の片方の銃剣が打ち払う。ノヴァルナは素早く機体を下がらせると、打ち払われたポジトロンパイクを、その慣性に任せて半回転させ、もう一方の銃剣で斬りかかって来る『ザンゲツMI』に、石突側で打撃を加えようとした。
ところがここで『ザンゲツMI』がとった行動は、さらに踏み込んでもう一方の銃剣で斬撃を放つ事ではなく、自らも瞬時に後退して、至近距離から銃撃を行うものである。
「!!」
反射的に機体を倒しながら、捻り込みを掛けるノヴァルナ。間近で放たれた銃弾は間一髪、胸の装甲版を削りながら跳ね飛ばされた、機体を倒して角度をつけたのと、機体表面を覆う重力子フィールドのおかげであり、また機動性が向上した新型の、『センクウ・カイFX』に乗っていた幸運であった。それはコンマ何秒かの差であったが、かつての『センクウNX』であったなら、もっと大きなダメージを受けていただろう。
しかし“コーガ五十三家”前線指揮官イディモス=モティガンは、初手から放った技を回避されても動じない。間合いを詰めず離れず、二刀流の銃剣で、斬撃、銃撃、斬撃、斬撃、銃撃…と休む間をノヴァルナに与える事なく、攻め込んだ。
“チッ!…厄介とは思ったが、思った以上に厄介だぜ!”
初めて見る二刀流の銃剣との戦いに、不利な戦いを強いられたノヴァルナは、腹立たしげに胸の内で呟いた。しかしそれでも、外部装甲板が削られる程度の損害ばかりにとどめ、致命的な損害を被らないのは流石と言える。
素早い回避運動で銃剣の斬撃と至近距離射撃を悉く躱す、ノヴァルナの『センクウ・カイFX』の動きに、イディモスは目を見張った。しかし一方で、“これでいい”とも思う。自分の目的はノヴァルナを斃す事ではなく、足止めの時間を少しでも稼ぐ事であるからだ。
その稼ぐべき時間とは、『ミツルギCCC』と攻撃艇部隊による、“輿入れ艦隊”の発見と襲撃、そしてイチ姫の捕縛に他ならない。連続の斬撃を繰り出して銃撃を二連射。さらにもう一つの銃剣で斬りかかる『ザンゲツMI』。それらを『センクウ・カイFX』は、短く握ったポジトロンパイクを、眼にも止まらぬ速さで∞の字に回転させ、パイクの柄で斬撃を、パイクの広めの刃で銃弾を弾く。
それだけでなく、『センクウ・カイFX』は左手に短く握ったパイクを盾代わりにし、右手でクァンタムブレードを起動させて反撃して来た。早くもイディモスの動きを掴み始めた、恐るべきノヴァルナの順応性だ。切っ先鋭く突き出された刃先に、イディモスも思わずたじろぐ。
“これは…噂に違わぬ強さ!”
即座に機体を後退させて、銃剣の銃把をバックパックの給弾口に押し当てる『ザンゲツMI』。八発の弾丸が瞬時に装填される。イディモスが脅威を感じたのは、ノヴァルナが弾丸の装填数と消費数を、数えながら反撃の機会を窺っていたところである。さすがにこういった感覚は、BSIパイロットとして常に最前線に立っていなければ、身に付かないものであった。
しかしそれでもイディモスには、事が上手く運んでいるように感じられる。自分との戦闘にノヴァルナがのめり込んで、精神を集中し全力を発揮すればする程に、イチ姫の護衛へ頭が回らなくなるであろうからだ。
そのフェアン・イチ=ウォーダを乗せた戦闘輸送艦『クォルガルード』は、七隻の僚艦と共に、ジャルミス暗黒星雲の濃密な星間ガスの中を、アーザイル家の勢力圏へ向けて急いでいた。陣形は『クォルガルード』を中心に、前後上下左右へ同型艦一隻ずつが配置され、周囲を固めている。
ただ急いでいると言っても全速力は出せない。速力が大きくなるほど、艦の外殻を包む重力子フィールドが星間ガスと干渉し合い、敵の索敵部隊に発見され易くなるからだ。またやはり濃密な星間ガスの影響で、ステルスモードは使用できない。
艦内では万が一の場合に備えて簡易宇宙服を着た、フェアンとマリーナが並んで座席に座り、ノヴァルナ達の動きを示す戦術状況ホログラムを、硬い表情で見詰めていた。
「兄様…みんな…」
フェアンが戦術状況ホログラムを通して見る戦場で、また命が散る。
「うおおおおおおおお!!!!」
両手で握るクアンタムブレードを脇で構え、雄叫びを上げて突撃するウォーダ軍BSI部隊『トルーパーズ』の『シデン・カイXS』。バックパックに大きな裂け目が出来、白いスパークが連続発生している機体は爆発寸前だ。気付いた僚機が緊迫した声で呼びかける。
「トルーパー・10! 無茶はやめろ! 後退するんだ!!」
爆発寸前のその機体が狙いを定めた相手、コーガ先行部隊の『ミツルギCCC』が、先にポジトロンパイクを振り下ろす。右肩口から袈裟掛けに斬撃を浴びた『シデン・カイXS』だが、そのまま直進。『ミツルギCCC』の機体を、ブレードが貫いた。直後にバックパックに閃光が走り、二機のBSIユニットは相討ちとなって砕け散る。
それは戦術状況ホログラム上では、敵味方のマーカーが一つずつ、同時に消滅しただけの表示に過ぎなかった。しかしそれが示すものを知るフェアンは、秀麗な顔をまた曇らせる。明朗快活で無邪気、奔放な印象が強い彼女だが、実際には思慮深い知性的な女性であり、この戦いと命の喪失が、自分を巡るものであると理解していた。それであるからこそ、消失するマーカーが敵のもであっても、味方のものであっても、胸が締め付けられる思いをしていたのだ。
「大丈夫?イチ。顔色が良くないようだけれど」
隣に座る姉のマリーナが、フェアンと手を重ねて尋ねる。
「姉様…」
▶#11につづく
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