銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第18話:閉じられし罠

#24

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 ここでもう一つの動きを見せていたのが、アザン・グラン軍の四個艦隊とウォーダ軍のヴェルージ=ウォーダ艦隊である。

 この星系でのウォーダ軍艦隊との戦いはアーザイル軍に任せ、ヤヴァルト宙域へ入ってから、ノヴァルナの遠征軍を後背から襲撃する時のために、自分達の戦力は温存しておこうと考えていたアザン・グラン軍に対し、ウォーダ軍第35艦隊を指揮するヴェルージは、“いやがらせの”遠距離砲戦を挑んでいた。陣形を薄く広げて、アザン・グラン軍部隊に一定の距離を取りながら、砲撃を繰り返している。
 緒戦から激しい戦いを繰り広げているいる、カーナル・サンザー=フォレスタの第6艦隊や、スーゲット=アーチの第33艦隊と比べると、ヴェルージの戦い方はひどく緩慢な印象である。

 だがヴェルージ艦隊については、これが正しい戦い方であった。

 すでに述べた通り、アザン・グラン軍は対ノヴァルナ用の戦力を、なるべく温存しておきたい。ただそうかと言って、アーザイル家を見捨てて自分達だけがヤヴァルト宙域へ向かい、ノヴァルナの遠征軍と戦っても戦力的に勝利は未知数だ。したがってアザン・グラン軍とすれば、アーザイル軍の勝利を待ち、揃ってヤヴァルト宙域に進入したいところなのだ。

 こういった事情をヴェルージは理解し、遠距離砲戦でアザン・グラン軍を牽制していたのである。“いやがらせ”程度で済ませている理由は、アザン・グラン軍に本気で立ち向かって来られては、四分の一の戦力しかないヴェルージ艦隊では、勝負にならないのと、ウォーダ軍には後詰めがいないため、まだここでは全力攻撃を行いたくないという計算があったからだ。

 そしてそのヴェルージの計算には、アザン・グラン家の当主で総司令官のウィンゲートの、優柔不断さを読んだ一面もある。

「御屋形様。ここは全軍で押し出し、目障りなあのウォーダ艦隊を、蹴散らすべきではありませんか?」

 アザン・グラン軍総旗艦『サイオウ』に座する、ウィンゲート=アザン・グランのもとへ、第3艦隊司令でアザン・グラン一族のカーグアキュラが、ホログラム通信を使用して意見具申を入れて来る。しかしながらウィンゲートの返答は、煮え切らない。

「ううむ…だがしかし…」

 戸惑いを隠せず口ごもるウィンゲートに、カーグアキュラはさらに訴える。

「恐れながら御屋形様は、敵艦隊に足元を見られております。叩く時は叩かねば、組み易しと舐められますぞ!」
 
 カーグアキュラの批判的な度合いの強い言葉に、ウィンゲートは流石に不快げな表情になる。そこに筆頭家老のエヴァーキンが通信ホログラムで割り込み、カーグアキュラを窘めた。

「カーグアキュラ様。御一門とはいえ、お言葉が過ぎましょう。御屋形様には御屋形様の、お考えがあろうというものにございます」

「だが我等の真の目的がノヴァルナの首とはいえ、ここでアーザイル軍だけを矢面にして、戦わせておいていいものではあるまい!」

 反論するカーグアキュラであるが、その主張に誤りはない。正しく武辺に生きる者であるなら、同盟軍だけが必死に戦い、自分達はぬるい砲撃戦に付き合っている今の状況に、我慢が出来ようはずもない。

 カーグアキュラの訴えに、ウィンゲートは重い腰を上げるように言う。

「ではまず、貴殿の考えを聞こう。カーグアキュラ殿」

 主君のこの言葉を聞いて、内心で舌打ちしたのはエヴァーキンであった。体裁こそ整えているが、実際にはこの状況に大した考えも無かった事を、露呈しているからだ。それを知ってか知らずか、カーグアキュラは無遠慮に具申した。

「ここは、“切り札”を投入してでも一気にケリをつけ、その勢いをもってノヴァルナの部隊へ向かうのが、上策と思われまする」

「なに?…“切り札”を、ここで使うだと!?」

 眉をひそめるウィンゲート。ただこのカーグアキュラの具申には、エヴァーキンも同意のようであった。一つ頷いて同意の言葉を口にする。

「遠からず“切り札”の存在も、ノヴァルナ殿の知る事となりましょう。それならむしろ、ここで露呈して心理的動揺を誘った方が、良いかも知れませぬ」

「“切り札”…あれ達を使うのか? もうか?」

 エヴァーキンとカーグアキュラのホログラムが同時に頷くと、ウィンゲートもようやく作戦方針を決めたようであった。

「よかろう。彼等・・・に連絡を入れろ。全軍で押し出す」

 そしてこのアザン・グラン軍の変化は、ウォーダ家のヴェルージ=ウォーダも、すぐに察知するところとなる。敵が一斉に、自分達へ向かって動き出したからだ。
 ウィンゲートの指揮能力はともかく、アザン・グラン軍自体の戦闘力は、決して低くない。回頭直後に放ったアザン・グランの戦艦群の主砲射撃で、ヴェルージ艦隊の複数の艦に爆発が起こる。

「全艦回避運動! 距離を取れ!」

 即座に命令を下すヴェルージ。すぐに針路変更と加速を開始する配下の艦隊。戦闘は次の局面を迎えようとしていた………





【第19話につづく】
 
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