銀河戦国記ノヴァルナ 第2章:運命の星、掴む者

潮崎 晶

文字の大きさ
423 / 508
第20話:奸計、陰謀、策略…

#13

しおりを挟む
 
 やがてセレモニーを交えた『シデン・カイ』の初回受領も終え、月面基地『ムーンベース・アルバ』から惑星ラゴンへ降りたヴァルキスと副官のアリュスタは、軍装からスーツ姿に着替えて自動タクシーで宇宙港を後にした。宿泊しているキオ・スー城へ向かうのが筋なのだが、ヴァルキスは行き先入力画面のホログラムスクリーンを呼び出し、別の場所を入力する。

「城へ戻られるのではないのですか?」

 後部座席のヴァルキスの隣に座るアリュスタが、怪訝そうに尋ねる。雌雄同体のアリュスタだが、長い金髪を後ろに束ねた姿は女性的要素を強く感じさせた。辺りはすっかり陽も落ち、車外には光に満ちたキオ・スー市の夜景が広がっている。

「以前、ノヴァルナ様に旨いパスタを出す店を教えて頂いてね。一度、きみを連れて行こうと思っていた」

「ありがとうございます」

 ヴァルキスの口調は柔らかく、それがここから先は二人のプライベートな時間だと知るアリュスタは、自分も幾分表情を柔和にした。ただ話す事と言えば、やはりアイノンザン=ウォーダ家のこれからについてである。ヴァルキスに問い掛けるアリュスタ。

「でも、本当に宜しかったのですか?」

「何がかな?」とヴァルキス。

「少々ノヴァルナ様に、本心を明かし過ぎられたのでは?」

 アリュスタの言葉に、ヴァルキスは「ふっ…」と小さく笑みを漏らした。 

「ノヴァルナ様は実に不思議なお方だ…会って話していると、つい本心を曝け出して、余計な事まで口走ってしまう…」

 ヴァルキスはそう言って、僅かに苦笑いを含んだ顔をアリュスタへ向けた。どうやらアリュスタは、ヴァルキスとノヴァルナのやり取りを、別の場所で聞いていたらしい。

「御身に危険が及ぶかも知れません」

 アリュスタはノヴァルナが短絡的に、ヴァルキスを処断するのではないかと、危惧しているようだった。だがヴァルキスはゆっくりと首を振って否定する。

「ノヴァルナ様はああ見えて、身内には甘いお方だ。それは無い」

 そう言ってヴァルキスは自動タクシーの車窓に流れる、キオ・スー市の夜景に眼を遣り、内心を呟きに変えて吐露した。

「そう…甘過ぎるのですよ、ノヴァルナ様…」

 ヴァルキスはノヴァルナに従属する以前から、ナグヤ=ウォーダ家の当主の座を継いだノヴァルナを観察して来た。
 傍若無人で乱暴者のイメージが強かった当時のノヴァルナである。そのイメージが本物であり、政治面でも暴君であったなら、イマーガラ家に洗脳されていたとはいえ、父ヒディラスを殺害した義兄のルヴィーロや、当主の座を狙っていた弟のカルツェなどは、真っ先に粛清するはずであった。
 ところが実際は、カルツェがノヴァルナの命を狙って実力行使に訴えても、手ぬるい処罰に留め、カルツェの家臣団や共謀者まで寛大な裁定を下したのである。

 そのような甘い見識で上洛軍を編制し、テルーザ陛下と共に銀河皇国の屋台骨を立て直そうなど、笑止千万…ならばいっそのこと、ウォーダ家をイマーガラ家に滅ぼさせ、自分が新たなウォーダ家を、おこすしかない。それがヴァルキスの秘めた野心である。それでイマーガラ家の傀儡となり、ギィゲルトの配下となったとしても、そこからが自分の本領発揮だとも、ヴァルキスは思う。

「計画が上手く進んでいるのに、あまり嬉しそうではありませんね?」

 そう問い掛けるアリュスタの声で、現実に引き戻されたヴァルキスは、僅かに苦笑を浮かべて、隣に座る雌雄同体の副官の頬に手を遣った。

「私は壊れているのかも知れないな…」

「それはヴァルキス様が、ヒト種であらせられながら、私のようなものを愛して下さっているから…でしょうか?」

 文字にすると詰問調だが、アリュスタの言葉は決してヴァルキスを非難したり、自分を卑下するものではない。

「いや、そうじゃない―――」

 アリュスタの唇を指先で撫でながら、ヴァルキスは言葉を続けた。

「カルツェ様の事…ナルミラ星系の事…そしてイースキー家の事…全ては私自身のためだが、それでもなお私は…ノヴァルナ様に認められ、友になりたいと思っているのだ………」





▶#14につづく
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ゲームコインをザクザク現金化。還暦オジ、田舎で世界を攻略中

あ、まん。@田中子樹
ファンタジー
仕事一筋40年。 結婚もせずに会社に尽くしてきた二瓶豆丸。 定年を迎え、静かな余生を求めて山奥へ移住する。 だが、突如世界が“数値化”され、現実がゲームのように変貌。 唯一の趣味だった15年続けた積みゲー「モリモリ」が、 なぜか現実世界とリンクし始める。 化け物が徘徊する世界で出会ったひとりの少女、滝川歩茶。 彼女を守るため、豆丸は“積みゲー”スキルを駆使して立ち上がる。 現金化されるコイン、召喚されるゲームキャラたち、 そして迫りくる謎の敵――。 これは、還暦オジが挑む、〝人生最後の積みゲー〟であり〝世界最後の攻略戦〟である。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

ソラノカケラ    ⦅Shattered Skies⦆

みにみ
歴史・時代
2026年 中華人民共和国が台湾へ軍事侵攻を開始 台湾側は地の利を生かし善戦するも 人海戦術で推してくる中国側に敗走を重ね たった3ヶ月ほどで第2作戦区以外を掌握される 背に腹を変えられなくなった台湾政府は 傭兵を雇うことを決定 世界各地から金を求めて傭兵たちが集まった これは、その中の1人 台湾空軍特務中尉Mr.MAITOKIこと 舞時景都と 台湾空軍特務中士Mr.SASENOこと 佐世野榛名のコンビによる 台湾開放戦を描いた物語である ※エースコンバットみたいな世界観で描いてます()

処理中です...