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第20話:奸計、陰謀、策略…
#13
しおりを挟むやがてセレモニーを交えた『シデン・カイ』の初回受領も終え、月面基地『ムーンベース・アルバ』から惑星ラゴンへ降りたヴァルキスと副官のアリュスタは、軍装からスーツ姿に着替えて自動タクシーで宇宙港を後にした。宿泊しているキオ・スー城へ向かうのが筋なのだが、ヴァルキスは行き先入力画面のホログラムスクリーンを呼び出し、別の場所を入力する。
「城へ戻られるのではないのですか?」
後部座席のヴァルキスの隣に座るアリュスタが、怪訝そうに尋ねる。雌雄同体のアリュスタだが、長い金髪を後ろに束ねた姿は女性的要素を強く感じさせた。辺りはすっかり陽も落ち、車外には光に満ちたキオ・スー市の夜景が広がっている。
「以前、ノヴァルナ様に旨いパスタを出す店を教えて頂いてね。一度、きみを連れて行こうと思っていた」
「ありがとうございます」
ヴァルキスの口調は柔らかく、それがここから先は二人のプライベートな時間だと知るアリュスタは、自分も幾分表情を柔和にした。ただ話す事と言えば、やはりアイノンザン=ウォーダ家のこれからについてである。ヴァルキスに問い掛けるアリュスタ。
「でも、本当に宜しかったのですか?」
「何がかな?」とヴァルキス。
「少々ノヴァルナ様に、本心を明かし過ぎられたのでは?」
アリュスタの言葉に、ヴァルキスは「ふっ…」と小さく笑みを漏らした。
「ノヴァルナ様は実に不思議なお方だ…会って話していると、つい本心を曝け出して、余計な事まで口走ってしまう…」
ヴァルキスはそう言って、僅かに苦笑いを含んだ顔をアリュスタへ向けた。どうやらアリュスタは、ヴァルキスとノヴァルナのやり取りを、別の場所で聞いていたらしい。
「御身に危険が及ぶかも知れません」
アリュスタはノヴァルナが短絡的に、ヴァルキスを処断するのではないかと、危惧しているようだった。だがヴァルキスはゆっくりと首を振って否定する。
「ノヴァルナ様はああ見えて、身内には甘いお方だ。それは無い」
そう言ってヴァルキスは自動タクシーの車窓に流れる、キオ・スー市の夜景に眼を遣り、内心を呟きに変えて吐露した。
「そう…甘過ぎるのですよ、ノヴァルナ様…」
ヴァルキスはノヴァルナに従属する以前から、ナグヤ=ウォーダ家の当主の座を継いだノヴァルナを観察して来た。
傍若無人で乱暴者のイメージが強かった当時のノヴァルナである。そのイメージが本物であり、政治面でも暴君であったなら、イマーガラ家に洗脳されていたとはいえ、父ヒディラスを殺害した義兄のルヴィーロや、当主の座を狙っていた弟のカルツェなどは、真っ先に粛清するはずであった。
ところが実際は、カルツェがノヴァルナの命を狙って実力行使に訴えても、手ぬるい処罰に留め、カルツェの家臣団や共謀者まで寛大な裁定を下したのである。
そのような甘い見識で上洛軍を編制し、テルーザ陛下と共に銀河皇国の屋台骨を立て直そうなど、笑止千万…ならばいっそのこと、ウォーダ家をイマーガラ家に滅ぼさせ、自分が新たなウォーダ家を、興すしかない。それがヴァルキスの秘めた野心である。それでイマーガラ家の傀儡となり、ギィゲルトの配下となったとしても、そこからが自分の本領発揮だとも、ヴァルキスは思う。
「計画が上手く進んでいるのに、あまり嬉しそうではありませんね?」
そう問い掛けるアリュスタの声で、現実に引き戻されたヴァルキスは、僅かに苦笑を浮かべて、隣に座る雌雄同体の副官の頬に手を遣った。
「私は壊れているのかも知れないな…」
「それはヴァルキス様が、ヒト種であらせられながら、私のようなものを愛して下さっているから…でしょうか?」
文字にすると詰問調だが、アリュスタの言葉は決してヴァルキスを非難したり、自分を卑下するものではない。
「いや、そうじゃない―――」
アリュスタの唇を指先で撫でながら、ヴァルキスは言葉を続けた。
「カルツェ様の事…ナルミラ星系の事…そしてイースキー家の事…全ては私自身のためだが、それでもなお私は…ノヴァルナ様に認められ、友になりたいと思っているのだ………」
▶#14につづく
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