460 / 508
第22話:フォルクェ=ザマの戦い 前編
#15
しおりを挟むノヴァルナの評価を尋ねるギィゲルトに、カウンノンは淀みなく回答した。
「些か風変わりで個性的ではありますが、話の通らない方ではありません。いえ…むしろその逆で、信をもって接すれば、義をもってお返しくださるお方です」
「ほぅ…それではノヴァルナ公は、我等が風聞するような、傍若無人な支配者ではないと申されるか?」
さらに問うギィゲルトにカウンノンは頷く。
「そのようなお方ではないのは、ギィゲルト様もご承知のはずと存じますが?」
逆に問われたギィゲルトは、ニタリ…と笑みを浮かべただけで、カウンノンに答える事無く椅子に身を沈めた。この女史の物言いは正しい…と思う。ギィゲルト自身がノヴァルナを、決して侮ってはいけない傑物だと評価しているからだ。
ノヴァルナは師父であったセッサーラ=タンゲンをして、生涯の敵と感じさせた若者であり、ギィゲルトもおよそ四年前に、煮え湯を飲まされている。
キオ・スー=ウォーダ家を征服したばかりのノヴァルナを誘い出し、シヴァ家とキラルーク家の友好協定締結の機会を利用して、ロンザンヴェラ星雲に艦隊合同演習の罠を張ったのだが、ノヴァルナは誘いに乗ったように見せかけて、演習が始まるや否や、さっさと逃げ出してしまい、待ち伏せのイマーガラ艦隊は星雲の中を、ノヴァルナ艦隊を探し求めて必死に走り回らされたのである。
戦いにおいて、そしてそれ以上に政治において、ノヴァルナ・ダン=ウォーダは実利主義者だった。武人であれば罠であっても誇りのため、踏みとどまるであろう戦場を逃亡し、政治家であれば忌避するであろう、商船連合の敵との単独交渉を許可する…一見すると、巷で言われるノヴァルナの特徴、“傍若無人”“天衣無縫”な行動の一部に思えるこういったものこそが、ノヴァルナの本質だ。
「よかろう。恒星間交易路の再開…好きになさるがよい。我が軍の艦艇には、商船連合所属の船舶への襲撃を控えるよう約束する」
ギィゲルトは問い質したノヴァルナの人物評に対し、カウンノンが正しく理解しており、全てを承知の上でここに来ている事を良しとした。“あのような暴君では交渉もままならないため、イマーガラ家の勝利を確信して、ギィゲルト様にお会いしに来た”などと言うようなら、カウンノンを追い返そうと考えていたのだ。
深々と頭を下げ「ありがとうございます」と告げたカウンノンは、僅かながら笑みを加えてギィゲルトに続けた。
「立場上、“勝利を祈念致します”とは申せませんが、ギィゲルト様の武運長久を祈らせて頂きます」
オ・ワーリ宙域恒星間商船連合会頭、ファリエス・ラダ=カウンノンとの会見…その内容は、ギィゲルトにとっても満足すべきものであった。
恒星間貨物船などを襲って略奪せずとも、イマーガラ家の補給部隊は充分な物資を搭載している。今回の遠征では、オ・ワーリ宙域の制圧を完了した後の事も考えており、輸送船舶だけでなく、ウォーダ家の統治下にあった各植民星系に対する、略奪行為も行わない事を決めていたのだ。それは無論、ノヴァルナを斃した後の事を考えてであり、新たに支配下となるオ・ワーリの領民達に対する、融和政策のためである。
これらの戦略は当初から、イマーガラ家の方針に含まれていたものであるが、ここで予め、オ・ワーリの商船連合と良好な面通しが叶ったのは、ギィゲルトとしては願ってもない事だ。幾何かの植民惑星を襲い、何隻かの貨物船を拿捕し、知れた数の物資を奪うよりかは、余程利益になるというものだった。
それにカウンノンは知ってか知らずか、重要な情報をもたらしている。彼女の言質にあった、ウォーダ家はオ・ワーリ宙域の全ての警備艦隊も、本拠地惑星ラゴンのあるオ・ワーリ=シーモア星系へ集結させているという話がそうだ。
これは上洛軍首脳部もある程度予測していた事ではあったが、現地の人間であるカウンノンから実際の情報として聞いたのは大きい。警備艦隊は打撃艦隊より戦闘力は落ちるが、それでも数を揃えられると脅威となる。ノヴァルナはこれを予備戦力ではなく、主力の一部として使用する可能性が高い。
カウンノンを乗せた恒星間シャトルが、去っていく様子を映し出すスクリーンを眺め、ギィゲルトはウォーダ家を守る外堀が、少しずつ埋まっていくように感じていた………
▶#16につづく
0
あなたにおすすめの小説
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ゲームコインをザクザク現金化。還暦オジ、田舎で世界を攻略中
あ、まん。@田中子樹
ファンタジー
仕事一筋40年。
結婚もせずに会社に尽くしてきた二瓶豆丸。
定年を迎え、静かな余生を求めて山奥へ移住する。
だが、突如世界が“数値化”され、現実がゲームのように変貌。
唯一の趣味だった15年続けた積みゲー「モリモリ」が、 なぜか現実世界とリンクし始める。
化け物が徘徊する世界で出会ったひとりの少女、滝川歩茶。
彼女を守るため、豆丸は“積みゲー”スキルを駆使して立ち上がる。
現金化されるコイン、召喚されるゲームキャラたち、 そして迫りくる謎の敵――。
これは、還暦オジが挑む、〝人生最後の積みゲー〟であり〝世界最後の攻略戦〟である。
死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜
のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、
偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。
水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは――
古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。
村を立て直し、仲間と絆を築きながら、
やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。
辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、
静かに進む策略と復讐の物語。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
ソラノカケラ ⦅Shattered Skies⦆
みにみ
歴史・時代
2026年 中華人民共和国が台湾へ軍事侵攻を開始
台湾側は地の利を生かし善戦するも
人海戦術で推してくる中国側に敗走を重ね
たった3ヶ月ほどで第2作戦区以外を掌握される
背に腹を変えられなくなった台湾政府は
傭兵を雇うことを決定
世界各地から金を求めて傭兵たちが集まった
これは、その中の1人
台湾空軍特務中尉Mr.MAITOKIこと
舞時景都と
台湾空軍特務中士Mr.SASENOこと
佐世野榛名のコンビによる
台湾開放戦を描いた物語である
※エースコンバットみたいな世界観で描いてます()
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる