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第二章 異世界というものは

No.13

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ロドリヌスたちと別れて、ラナンと女宿に戻った。
そして、もちろん寝る前に湯浴みを済ませました。
はあ、気持ちいい。でも、できたら湯船に浸かりたい。
で、洋服もクリーニング(クリーンをもちろん香り付きで)してしまったらそのまま寝てしまったよ。ぐっすりと。
疲れていたんだもんなー。
夢さえ見なかった気がします。

朝の光が差して、自然に目が覚めた。体内時計というものは、なかなかに狂いにくいものだなと痛感する。
毎日、朝5時に起きて家のことをしたりお弁当を作ったり……6時半娘を起こして……というふうに。
まあ、あの頃は疲れていたから5時にスッキリ起きるということはあまりなかったけれども。
休みの日ほど、体内時計が正しく動くってことありません?
私はそれ。
つまり、まだ寝ていても大丈夫なのに……勝手に目が覚めちゃうわけ。二度寝すると、起きれないしね。はあ、起きるかって感じで起きてました。
しかし、今は子供!いいですね!子供の身体はっ!唯一のメリットかもしれないよ?
ぐっすり寝たらスッキリ回復!
年をとるごとに難しくなっていく身体が恨めしかった。
でも今は、スッキリ回復!大事なことなんで、二度いいます。
羨ましかろ?疲れの抜けない身体を持つ者どもよ!あーっははは。
羞恥と引きかえですが?何か?

うーんと体を伸ばすと左隣りに娘の寝顔があった。

毎日、隣の布団で寝ていた娘の顔を見て、自分に気合いを入れていた。

よし!頑張ろう!

体を起こそうとすると、お腹に手が右から伸びている。
自分よりは長い腕。
はて?と右を見ると、銀の髪の美少女が寝ていた。
銀髪……シャルか。
なんでも、シャルには性別がないらしい。大抵は、相手の理想が服着てるようだが、今の姿はロドリヌスの想像によるものらしい。
髪と目の色は、元々の色だという。
なんでも、元の姿は銀サーベルという黒サーベルの亜種だというんだけど。にゃんこか……。
できるなら、その姿のが嬉しいなと猫好きの私は思ってしまったのは、内緒だ。
まあ、心を読める……感じるらしい?シャルなので、そんな気持ちも知っているだろうけど。
この世界では、怖い生き物らしいです。
ニャンコが怖い?それが私にはよくわからないけどね。

「主よ、起きたのか?」
「ん、おはよう。シャル。」
「うむ。」
「うむ、じゃにゃく。おはよう、って教えたよね。」
「……おはよう。」
「よち!で?にゃんで人間化?」
「……なんとなく?今は魔力も溜まっているゆえ。」
「ふーん。まあ、いいや。シャルもご飯たべゆ?」
「……食べてやる。」
「えらちょーにゃら、つくんにゃいよ?」
「……食べる。」
「まあ、いいか。じゃ、すこちまってね。」

私はいそいそと着替えて、……黒猫にした。……一番地味なんだもん。それに動きやすい。
で、急いでご飯を作り出す。
ただ、保温機能がないのでどーしたもんかと。
魔道具とかもこの世界はあるのかな?
見た感じは、火は火として。
水は水として。
あるがままに使っていた。
お風呂はお湯を使ったシャワーとゆーか、かけ湯式。
でも、それは魔力で維持されているらしいことはわかった。
だから、最先端なのか、未発展なのかわからない。
強いて言うなら、未発展の街に有能な動力だけある感じかな?
だから、私からしたら不便なんだから便利なんだかわからない。
魔法ならこーすれば便利じゃないのかな?って思うことがあるし、逆にすげーって、思うこともある。
うーん、やはり異世界は『不思議』ということで終わらせるべきなんだと思うな。でも、少しずつ自分たちが楽になるようには変えていきたいな。
あと……。
ロドリヌスの話でずっと気にかかっていたこと。
『とらわれびと』なるもの。
ふつうに考えて、囚われ人と思える。つまり、召喚されたということは、別の世界から呼ばれ囚われたということ。所謂、拉致監禁みたいなものだよね。酷い。
つまりこの世界の人はこことは『別の世界』があることを知っているわけだ。
そして、ピアノがあるということはもしかしたら……私たちと同じような世界から来た可能性があるということ。
ならば……自分たちのことを話すには用心しなくてはいけないだろうか。
どんな不都合が出るかわからない。
でも……嘘を重ねていけばいつか歪みがでるし。
一つ小さな穴が大きなダムの破壊に繋がるように。
一つの小さな嘘が積み重なり、大きく膨れ上がって……それが決壊した時……私たちは、どうなるだろう。
だから、できたら……下宿に集まるメンバーには言っておきたい。
でも、今まで言わなかった罪悪感と信じてもらえるかとか…いろいろ考えてしまう。
あと、私が38歳だとしたら?
あ、抱っこという名の羞恥拷問やらは消えるかな?

などなどを考えている間にも、私は着々とおかずを作っていた。マイマイの実は、あっという間にできたので先に時間がかかるものから作っていた。
本日は、白身魚の照り焼き風と野菜の味噌汁風と白菜っぽい野菜の浅漬けと卵焼きだ。
さて、マイマイも出来た。
起こすか……。
うーん、いい加減にこの子にも体内時計できないかね。
上手く作用してるのは腹時計だけなんだから!もう。

「そか、そか!おきてー。ご飯だじょ?」
「んーーー?ご、ごはん?んー、いい……におい……う~~~、眠たい……食べたい……ママのご…はん。んーーーーーーー!っし!」
「にゃがいよ、そか。でも。おきたね。」
「んー、はあ。おはよ。ま、ショウ。やっぱ、なかなかママからショウにならないよねー。まずいのに。でもさ、頑張るね。」

おう。頑張ってくれ。
もし、まだ『とらわれびと』なるものがいて、同じ世界だったら。
ママは不自然に思うだろう。
まだ、その時に自分たちのことが話せていなかったら……それはダムの小さな穴になるだろう。

「ほら、顔洗って。着替えて。ごはんだじょ。」
「んー、わかった。ショウ。言葉昨日よりスムーズになったね。
シャルが戻ったせい?それとも魔法の性能が上がった?育った?どれ?」
「ん?さあ?にゃんだろ。」
「まあ、スムーズになるに越したことはないけど。
赤ちゃん言葉は、それはそれで可愛かったけどねー。あははは。」
「おばか。面倒がにゃいほうがよいの!」
「あはっ。まあまあ。でもさ、なんだろうねえ。」
「我は何もしていない。」
「そうなんだ?じゃ、シャルちゃんは関係ないのか。んーむ。ま、いっかあ。あ、ごはんごはん。」

服を着替えて、テーブルに座る。

「さてと、いただきまーす!」

奏歌は、パンと手を打ってご飯を食べ出す。

「はい、めちあがれ。……シャル。食べる時は、いただきまちゅちて!」
「……いただき、ます?」
「はい、めちあがれ。」

にっこりと微笑んむと、シャルの頰が少し赤くなってから、フォークのようなもので食べ始めた。
私もご飯を食べ始めた。
うむうむ。なかなかにうまくできた。
作り方やなんかは、違くても調味料が変わらずあるのは助かる。
やはり、現代日本人としては味は多種多様ないと辛いなあ。
うーん、でもカレーは難しいかな?食べたいな。
いつかスパイス系が見つかれば作れるかもしれないけどな。
まあ、シチューは作れるし。
でも、こっちの人はこれだけの調味料があっても使わないんだよね。どちらかといえば、薬の材料として使うらしい。まあ、間違いではないのだろうけど。
まず、料理のさしすせそがなってないのだ。料理するの見てるとぶちこむだけ!そりゃ、美味しくないよねー。ごった煮はまだ材料から出汁が出てるけどさー。旨味がうまく取り出せてないんだよね。
肉は硬いし。鳥はまずまず。魚は美味しかったな。まあ、焼いてあるだけに近いからかも。
肉……柔らかくできないかなあ。パイナップルでもあればなあ。あ、玉ねぎっぽいのあったから、それにつけてみるか?
うむ、やってみよーっと。
うまうまと、二人がニコニコと食事している風景を見ていると、ささやかな幸せを感じる。

「あー、美味しかったあ。」
「うむ、美味であった。」
「そう?お粗末様でした。」
「ご馳走さまでした。」
「馳走になった。」
「……まあ、いっかあ。ご飯残ったのは、おにぎりにしちゃうか。味噌おにぎりにして焼く…か?木でできた箱あったよね。」

残ったご飯をおにぎりにして、焼きながら味噌をつけて、また焼く。焼きたてはうまいが、冷えても軽く温めればうまいのだ。冷たくても美味しいけどね。
それを冷まして蓋つきの箱に詰めていく。
昼ごはんには、足りないだろう。うちら二人なら十分……シャルも合わせても十分すぎるが、あの人たちに足りないだろうから、おやつ代わりかもしれないなあ。
で、話はまたあの飯宿でみたいなんだけどさ。
……少し臭いんだよね。

「ショウ、また昨日の部屋かなあ。」
「たぶん。」
「はあ、臭いのか……ギルドよりマシだけどさ……。」
「うーん。」
「あ、お部屋のクリーンも匂い付きで魔法でできないかな?」
「あ、そうか!できちゃら、くちゃくない!」
「うん。なんで気づかなかったかなあ。」
「だよね。」

たぶん、臭くて当たり前すぎたからかもしれない。

「じゃ、行ったらすぐに魔法をかけよう。」
「うん。」

よし。なら大丈夫じゃん。あ、ということはギルドも?でも、魔法使うのはまずいか?
あ、マスク作ろう。下着用に買ったやつの中に、ガーゼっぽいのも買ったはず!
よし。それで作って、匂い付きにしたら少しマシかも。
依頼を見に行けないのでは話にならないからね。
うん、よし。

「ショウ、そろそろ行く?」
「そうだね。」
「下にラナンさんが待ってるかな?」

あれ?そういえば、ご飯食べに来なかったな。
忘れてた。

下に降りると宿屋のおばちゃんに声をかけられた。

「嬢ちゃんたち、ラナンから伝言だよ。なんでも、急な依頼が入ってねBからSまでのランクの冒険者が招集されたみたいだ。だから、二人とも気をつけて、ロドリヌス様のとこに行ってくれってさ。」
「わかりました。ありがとうございます。」

お礼を言って外に出たら、ロドリヌスがすでに立っていた。
どーやら迎えに来たみたいだ。
ん?と思ったら、招集されてるはずのミリオンもいた。たしか、Sランクじゃなかったっけ?
でも、私たちが知ってることは言えないから……。

「あれ?ミリさんは呼ばれてないの?ラナンさんは呼ばれたみたいだけど。」
「ん?んふふ。なんでかしら?」
「なんでって。」
「ミリしゃんがラナンしゃんたちより強いとおもっちゃから。」

慌てて私が言うと、ソカもヤバって顔をして、コクコクと頷いた。
たしかに、ミリはSランクじゃね?と知ってるからって言ったらまずいんだよー。
だってスマホで見たわけだし、言ってはいけないことですよ。突っ込まれたら、答えが。

「んー?ふふ、そーゆーことにしときましょう?」

なーんて、言うのはなんとなく鑑定したのバレてたりするんだろうか?『鑑定』という魔法があるなら、それだと思うかもしれない。

「ミリは、勇者だからな。今回は呼ばれていないんた。」
「そーにゃんだ。でも、にゃんで?」
「ああ、今回は人間相手だからな。」
「人間?」
「ああ、大きな盗賊団のアジトが見つかったらしいが、騎士はこの国の守りがあるしな。
兵士だけじゃ、足りない規模らしい。」
「あぶにゃくない?」
「ん?まあ、あの三人なら大丈夫だろう?」
「にゃら、いいけど。」

三人だけ無事ならいいとは言わないけどさ。
やっぱ、知ってる人の心配からしちゃうよね。
まあ、みんな無事に戻ってきてほしいと思う。

「さて、行くか?」
「うん。どこで話すの?」
「どうせなら、すぐに練習できた方がいいかと思ってな?鍛錬場を借りた。兵士は出払ったしな。」
「そこなら、広いテーブルもあるしね。」
「わかった。」

というわけで鍛錬場に向かう。私はロドリヌスに抱っこされ、ミリがおにぎりの詰まった箱が入ったバスケット(買っておいたのだ)を持ってくれた。
五人ならお昼に足りるか?な?

で、歩くこと数十分(私は歩いてないが)で鍛錬場に着いた。
鍵がかかっていたが、ロドリヌスが鍵を持っていて開けてくれた。借りたというのは本当らしい。
というか、元勇者だもんな……ホイホイ貸すか。
で、事務所みたいな場所に行った。兵士団長たちの執務室みたいだよ?
でも、やっぱり臭い。
そりゃそうか……鎧や革鎧なんて、いつも洗ったりしないだろうし。鍛錬して汗だくでこの部屋にいたりするんだろうしな。
しかし、だ!
我慢できないよ。

「もう、やー!クリーン!クリーン!クリーン!」

奏歌が我慢の限界に達したらしい。クリーンを叫びながら、部屋を綺麗にしていく。
おう、清浄な空気にほのかな薔薇の香り。
いい匂いだ。

「……ソカ、すまん。落ち着いてくれ。」
「もう、落ち着いた。はあ、ようやく息ができる。」
「そんなに酷いか?」
「「酷い!臭い!」」

奏歌と私の二人で声がハモる。

「そりゃ、なんとゆーか、すまん。」
「でも、ソカの力もデタラメねえ。初めて見たわ。こんな浄化は。」

ミリが呆れたようにため息をつく。

「まあ、とにかくだ。座るか。」

もちろん、奏歌は座る場所を念入りに『クリーン』をかけたのは言うまでもない。

潔癖……すぎとは言わないでやってほしい。
だってねー、なんの汁だかわからないシミだらけの木の椅子に、あなたは座れますか?




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切り場所かなく、少し長めになってしまいました。
なかなか、冒険の世界にいけない。( ^ω^ )
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