10回目の婚約破棄。もう飽きたので、今回は断罪される前に自分で自分を追放します。二度と探さないでください(フリではありません)

放浪人

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第二話 王子視点:愛する彼女が「かくれんぼ」を所望されている件について

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王城の中枢にある円卓会議室は、かつてないほどの緊張感――というよりは、得体の知れない恐怖に包まれていた。

重厚なオーク材のテーブルを囲むのは、この国を動かす重鎮たちだ。 白髭を蓄えた宰相、歴戦の猛者である騎士団長、陰気な目をした宮廷魔導師長、そして財務大臣。 彼らは一様に顔面蒼白で、額には脂汗を浮かべ、視線をせわしなく泳がせている。

その視線の先、上座に座っている人物こそが、この異常事態の元凶だった。

王太子、アレクセイ・ド・グランツ。 黄金の髪に、紺碧の瞳。 神がその気まぐれで、美しさという概念を人の形に捏ね上げたかのような美貌の持ち主。 文武両道、才色兼備、次期国王として非の打ち所のないスペックを誇る、我が国の太陽。

……であるはずの男が、今はまるで、地獄の底から這い上がってきた魔王のようなオーラを放っていた。

「――それで?」

アレクセイが口を開いた。 その声は、極上のベルベットのように滑らかで、かつ絶対零度のように冷たい。

「まだ見つからない、と。そう言いたいのか?」

ガタリ、と騎士団長の鎧が音を立てた。 彼は屈強な肉体を情けなく縮こまらせ、震える声で答える。

「は、はい……。現在、王都の全門を封鎖し、衛兵を総動員して検問を行っておりますが、リーゼロッテ様の目撃情報は皆無でして……。その、彼女は魔法にも長けておられますゆえ、認識阻害や変装を用いられている可能性が高く……」

「言い訳はいい」

アレクセイが指先でテーブルをコツンと叩く。 たったそれだけの音で、騎士団長は「ヒィッ」と悲鳴を上げて口を噤んだ。

アレクセイは、氷のような微笑を浮かべたまま、会議室にいる全員を見渡した。

「無能だらけだな。嘆かわしい」 「も、申し訳ございません……!」 「だが、無理もない。あの方は賢い。私のリゼは、君たちごときの知能で捕まえられるような、ヤワな女性ではないのだからな」

アレクセイの表情が、一瞬にして蕩けた。 先ほどまでの殺気が嘘のように消え失せ、代わりに浮かんだのは、見るも無惨なほどに緩みきったデレ顔だった。 頬を染め、うっとりと天井を仰ぐその姿に、重鎮たちは恐怖とは別の意味で戦慄した。

(((殿下が……壊れた……)))

全員の心が一つになった瞬間だった。

アレクセイは、昨夜発見されたリーゼロッテの手紙を、まるで聖遺物のように大切に胸ポケットから取り出した。 そして、そこに書かれた『探さないでください』という文字を、愛おしげに指でなぞる。

「ああ、リゼ。愛しいリゼ。君はどこまで私を試せば気が済むんだ」

彼は夢見るような声で呟いた。

「この手紙を読んだ時、私は雷に打たれたような衝撃を受けたよ。『もう疲れた』『顔も見たくない』……。ふふ、なんて情熱的な愛の告白だろうか」

「……は?」

騎士団長が、思わず素っ頓狂な声を出してしまった。 隣の宰相が慌てて彼の足を蹴飛ばすが、時すでに遅い。 アレクセイの視線が、騎士団長に向く。

「何か疑問があるのかね、騎士団長」

「い、いえ! 滅相もございません! ただ、その……凡人の私の頭では、その文面がどうして愛の告白になるのか、理解が追いつかず……」

「ふむ。やはり凡人には理解できんか」

アレクセイは憐れむような目で騎士団長を見た。 そして、まるで幼児に言い聞かせるように、優しく、しかし狂気的な論理を展開し始めた。

「いいか、よく聞け。『疲れた』というのは、私の溢れんばかりの愛を受け止めるのに疲弊してしまった、ということだ。私の愛が重すぎて、彼女のキャパシティを超えてしまったんだな。なんと罪深い私だろう」 「は、はぁ……」 「そして『顔も見たくない』。これは照れ隠しの最上級表現だ。好きすぎて直視できない、あるいは直視すると心臓が破裂してしまうから見たくない。そういう乙女心の裏返しだよ。古文書にも『嫌よ嫌よも好きのうち』とあるだろう?」 「そ、それは古文書ではなく俗語では……」 「黙りたまえ」

アレクセイは一喝すると、恍惚の表情で続けた。

「極め付けは、『探さないでください』だ。これはもう、説明不要だろう」 「……といいますと?」 「『絶対に探して見つけ出して、私を強く抱きしめて』という、彼女からの熱烈なリクエストだ! 鶴の恩返しを知らんのか! 『見るな』は『見ろ』、『来るな』は『来い』、『探すな』は『全力で探せ』! これが恋愛における世界共通の黄金律だ!」

バン! とアレクセイがテーブルを叩いた。 あまりの衝撃に、財務大臣の眼鏡がずり落ちる。

「つまり、これは彼女が私に仕掛けた、命懸けの『かくれんぼ』なのだ。国を捨て、身分を捨て、全てを投げ打ってまで、私との遊びに興じたいという彼女の遊び心……。ああ、なんて可愛いんだ! 愛しさが爆発してしまいそうだ!」

アレクセイは天を仰ぎ、悶絶した。 重鎮たちは、もはや言葉を失っていた。 ポジティブシンキングなどという言葉では生ぬるい。 これは、現実改変レベルの妄想力だ。 彼らの知る冷静沈着な王太子は、一夜にして「都合の良い解釈」の化け物へと変貌を遂げていた。

だが、彼らは知らない。 アレクセイのこの歪みきった愛が、昨日今日始まったものではないということを。

実は、アレクセイは1周目の人生から、リーゼロッテを溺愛していたのだ。 だが、彼は致命的なほどに不器用で、かつコミュ障だった。

1周目。 初めて彼女に会った婚約披露パーティー。 緊張のあまり顔が引きつり、無言で彼女を睨みつけてしまった。 (内心:『うわぁ、天使がいる。眩しすぎて直視できない。どうしよう、心臓の音がうるさい』) 結果、リーゼロッテは「嫌われている」と誤解した。

2周目。 彼女に近づく男たちを排除しようと、裏で手を回して彼らを社会的に抹殺した。 (内心:『リゼの周りに害虫が多すぎる。彼女の美しい瞳に、僕以外の男が映るなんて許せない。全部掃除しておいたよ、褒めてリゼ!』) 結果、リーゼロッテは「殿下は冷酷な独裁者」と怯えた。

3周目以降。 素直になれない彼は、あえて彼女に冷たく当たり、気を引こうとする「小学生男子の好きな子いじめ戦法」を繰り返した。 断罪イベントで彼女を追放したのも、実は「王宮のドロドロした権力争いから彼女を遠ざけ、安全な場所で暮らさせてやりたい」という(極めて独りよがりな)配慮の結果だった。 追放先には、彼がこっそり用意した豪華な別荘と、一生遊んで暮らせる資金を配置していたのだ。 ……だが、運命の強制力か、あるいは連絡係の手違いか、リーゼロッテがそこに辿り着くことは一度もなく、彼女は毎回バッドエンドを迎えていた。

そして迎えた10回目。 ループの記憶を持たないアレクセイだが、魂に刻まれた「リゼへの執着」と「焦り」だけは、回を重ねるごとに雪だるま式に膨れ上がっていた。 それが今、彼女の逃亡というトリガーによって、完全に暴発したのである。

「……殿下、それで、具体的な捜索方針は……?」

財務大臣がおずおずと尋ねた。 アレクセイは現実に引き戻され、キリッとした表情(ただし目はまだ据わっている)に戻った。

「方針はシンプルだ。国家予算の全てを投入する」

「ぜ、全額ですか!? それでは国の運営が……!」

「構わん。リゼがいない国など、滅びてしまえばいい」

アレクセイは暴君そのもののセリフを涼しい顔で吐いた。

「名目は『聖女探索』とする。我が国の安寧のために必要な、稀代の魔力を持った聖女を探すということにすれば、国民も納得するだろう。……まあ、リゼは私にとって女神そのものだから、あながち嘘ではないがな」

彼は立ち上がり、壁に掛けられた大陸地図の前に立った。 その指が、王都から放射状に伸びる街道をなぞる。

「彼女は賢い。普通のルートは使わないだろう。検問も魔法で突破するはずだ。だから、物理的な封鎖だけでは意味がない」

アレクセイは振り返り、宮廷魔導師長に命じた。

「魔導師隊を全展開しろ。魔力探知の感度を最大にし、蟻一匹の魔力も見逃すな。特に、リゼの魔力波長に似た反応があれば、即座に私に報告しろ」

「は、はっ!」

「騎士団は、街道沿いの宿場町、村、森の中までしらみつぶしに探せ。似顔絵を配布しろ。ただし、絵師には『世界で一番美しい女性』を描くように厳命しろ。少しでも実物より劣る絵を描いたら、筆を折ってやるとな」

「……あ、あの、リーゼロッテ様の美しさを完全に再現できる画家など、この国には……」

「ならばお前が描け。描けなければ減給だ」

理不尽極まりない命令に、騎士団長が涙目になる。 アレクセイは、さらに恐ろしいことを口にした。

「それから、隣国にも手配書を回す。懸賞金は金貨一億枚だ」

「い、一億!? 国家予算の半分が飛びますぞ!?」

「安いものだ。リゼの微笑み一つに比べれば、金貨などただの金属片に過ぎん」

アレクセイは鼻で笑った。 そして、窓の外を見据える。 その視線の先には、見果てぬ地平線が広がっている。

「……待っていてくれ、リゼ。今度こそ、私が君を守ってみせる。君がどこに逃げようとも、地の果て、いや、次元の果てまで追いかけて、必ず捕まえてみせる」

彼は胸元のアロマキャンドル(今朝、彼女の部屋から勝手に持ち出したものだ)を握りしめ、恍惚の表情で呟いた。

「そして捕まえたら、もう二度と離さない。私の部屋に特注の檻を作って、そこに君を閉じ込めよう。君の好きなふわふわのクッションと、美味しいお菓子と、そして私だけがいる世界……。ああ、なんて幸せな未来なんだ」

会議室の気温が、一気に5度下がった気がした。 重鎮たちは悟った。 リーゼロッテ嬢は、逃げるべきだ。 全力で、死に物狂いで逃げるべきだ。 もし捕まったら、そこにあるのは断罪による死よりも恐ろしい、愛という名の無期懲役(監禁生活)である。

「さあ、行け! 『聖女探索(鬼ごっこ)』の開始だ!!」

アレクセイの号令とともに、王国の歯車が狂った音を立てて回り始めた。

   ◇

一方その頃。

「ふぁ……くしゅんっ!」

私は盛大にくしゃみをした。

「あらあら、大丈夫かい? 風邪でも引いたんじゃないか?」

隣に座っていた恰幅の良いおばちゃんが、心配そうに声をかけてくれる。 私は鼻をすすりながら、愛想笑いを浮かべた。

「いえ、大丈夫です。誰かが私の噂でもしてるのかしら」 「ははは、若い娘さんだもの。故郷に恋人でも残してきたんじゃないのかい?」 「まさか! そんな奇特な人、いませんよ」

私は即答した。 恋人? 冗談じゃない。 私が残してきたのは、殺意とストレスと、顔も見たくない元婚約者だけだ。

ここは、王都から西へ向かう乗合馬車の中。 荷台には、私を含めて6人の乗客が揺られている。 行商人のオヤジ、里帰りする親子、そして野菜をカゴいっぱいに抱えたおばちゃん。 誰も、私が今朝方指名手配(される予定の)公爵令嬢だとは気づいていない。

今の私は、亜麻色の髪にそばかす顔の、地味な村娘『アリス』だ。 変装魔法で髪と目の色を変え、化粧でそばかすを描き足し、服装も平民のお下がりを着ている。 公爵令嬢としてのオーラは完全に消し去った。 今の私は、どこにでもいる、ちょっと影の薄いモブキャラAだ。

「……それにしても、いい天気」

私は幌の隙間から見える青空を見上げた。 雲ひとつない快晴。 王都の空と同じはずなのに、ここから見る空は、なぜか何倍も広く、鮮やかに見えた。

これが、自由の色か。

私は膝の上に置いた包みを開いた。 中に入っているのは、出発前に市場で買ったおにぎりだ。 具なんて入っていない、ただ塩をまぶしただけの握り飯。 公爵家で食べていた、最高級の食材を使ったフルコースとは比べるべくもない。

でも。

ガブリ、と一口かじる。

「……んんっ!」

口の中に広がる、米の甘みと、塩のしょっぱさ。 素朴で、飾り気がなくて、そして何より――『自由』の味がした。

「おいしい……」

思わず涙が出そうになった。 過去9回の人生。 私は常に、何かに怯え、何かと戦い、何かを演じていた。 食事の味なんてしなかった。 毒が入っていないか確認し、マナーに気を使い、王子の機嫌を伺いながら食べる食事は、砂を噛むようだった。

それがどうだ。 揺れる馬車、お尻の痛い硬い木のベンチ、隣のおばちゃんのたくましい二の腕の感触。 その全てが、今の私には愛おしい。 生きてるって感じがする。

「おや、いい食いっぷりだねえ。ほら、これも食いな」

おばちゃんが、カゴから真っ赤なリンゴを一つ取り出し、私の膝に放り投げた。 服でキュッキュと磨かれただけの、無骨なリンゴ。

「えっ、いいんですか?」 「いいってことよ。旅は道連れだ。あんた、これからどこまで行くんだい?」

私はリンゴを受け取り、ニッコリと笑った。 公爵令嬢としての作り笑いではない。 心からの、自然な笑顔だ。

「西の国境まで。そこから先は……風の吹くまま、気の向くままです」

「へえ、若いうちはそれが一番だ。冒険者かい?」 「似たようなものです。新しい自分を探す旅、みたいな?」

嘘ではない。 私は今、10回目にして初めて、本当の自分を生きようとしているのだから。

馬車が大きく揺れ、私はおにぎりを落としそうになって慌てて掴み直した。 同乗者たちがドッと笑う。 私も一緒になって笑った。

ああ、楽しい。 こんな普通の会話が、こんな些細なハプニングが、こんなにも楽しいなんて。

王都の方角を振り返る。 遠く離れたあの場所では、今頃、アレクセイ殿下が私の手紙を読んで激怒しているだろうか。 それとも、ようやく厄介払いができたと清々しているだろうか。

『探さないでください』

あの言葉に、嘘偽りはない。 というか、あれは彼への最後通牒だ。 「お前の顔なんか二度と見たくない」という絶縁状だ。 あれを見れば、プライドの高い彼のことだ、私への興味など一瞬で失い、すぐに新しい婚約者(おそらく聖女ミナ)を探し始めるに違いない。 そして、二人は結ばれ、ハッピーエンドを迎える。 私はその視界の端にも映らない場所で、ひっそりと、でも幸せに暮らす。 完璧な計画だ。

「さようなら、アレクセイ殿下。今度こそ、お幸せにね」

私は小さく呟き、リンゴをかじった。 甘酸っぱい果汁が喉を潤す。

その時だった。

上空を、何かが高速で横切った影が見えた。 鳥ではない。 あれは――ワイバーン? 王国の飛竜部隊だ。

「おや? 珍しいねえ。あんなところを飛竜が飛ぶなんて」 「演習かしら?」

おばちゃんたちは呑気に空を見上げているが、私の背筋には冷たいものが走った。 飛竜部隊が動くなんて、よほどの緊急事態だ。 戦争か、大規模な魔獣災害か、それとも――。

(……まさかね)

私は首を振った。 まさか、たかが一人の婚約破棄された令嬢を探すために、国軍最強の飛竜部隊が出動するはずがない。 自意識過剰だ、リーゼロッテ。 お前はもう、物語のヒロインでも悪役令嬢でもない。 ただの村娘Aなんだから。

「きっと、ドラゴンでも出たんでしょう」 「やだねえ、物騒だねえ」

私は平静を装いながら、深くフードを被り直した。 そして、心の中で祈った。

お願いだから、誰も私に関わらないで。 私はただ、平和に眠りたいだけなの。
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