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第九話 隣国のスパイが接触してきました。勧誘がしつこいです
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エルフの里『アルヘイム』。 数千年の歴史を持ち、世界樹の加護によって守られた、地上最後の楽園。 静寂と調和を愛する森の民たちが、風の歌に耳を傾け、精霊と共に生きる聖域。
……であるはずのこの場所は今、騒音公害の真っ只中にあった。
「リゼェェェッ!! 朝だぞォォォッ!! 今日も愛しているぞォォォッ!!」 「君のために、森の木の実を集めてきたんだ! ハートの形をしているんだよ! 受け取ってくれぇぇぇ!」 「おい、そこのエルフ! 結界の透過率を上げろ! リゼの寝顔が見えないだろうが!」
ドガンッ! バコンッ! ズシィィィン!
里を覆う『絶対不可侵の結界』の外側から、定期的に響く爆音と、拡声魔法で増幅されたアレクセイ殿下の愛の囁き(物理)。 それが、朝の6時からノンストップで続いているのだ。
里の中央広場にある来客用の樹上の家。 そのベッドの上で、私は枕を頭に押し当てて悶絶していた。
「……うるさい」
睡眠不足だ。 ここに来て三日。 あのアホ王子は、なんと結界の外に豪華なテント(王家の紋章入り)を張り、長期滞在の構えを見せているのだ。 しかも、ただ待つだけではない。 「リゼが出てくるまで、歌を歌い続けよう」とか言い出して、自作のラブソング(全100番まである)を熱唱したり、暇つぶしに近くの山を剣で削って私の彫像を作ったりしている。 おかげで、静寂を愛するエルフたちはノイローゼ寸前だ。
「リゼ……頼むから、どうにかしてくれ……」
ドアが開き、エルフの長シルヴィアが入ってきた。 彼女の美しい顔には、濃い隈ができている。 耳もしなびて垂れ下がっていた。
「あいつの歌声のせいで、精霊たちが怖がって逃げ出しているんだ。このままだと世界樹がストレスで枯れる」
「ごめん……本当にごめん……」
私はベッドから起き上がり、土下座した。 私も被害者だが、元凶であることは否めない。
「あいつ、結界を壊すのは諦めたみたいだけど、精神攻撃に切り替えてきたわね」
「物理攻撃よりタチが悪いぞ。『リゼ~、出ておいで~、美味しいお菓子があるよ~』って、迷子の子猫を呼ぶような声で一日中だぞ。我々を高貴な森の民だと知っての狼藉か」
シルヴィアが頭を抱える。 エルフは聴覚が鋭い。 殿下の甘すぎる声は、彼女たちにとっては黒板を爪で引っ掻く音以上の拷問なのだ。
「私だって出たいわよ。でも、出たら最後、あの黄金のゴリラに捕まって王城へ強制送還よ」
「わかっている。だから追い出せないんだ。お前を渡せば里は静かになるが、それはエルフの義に反する。……くそっ、なんで人間はあんなに面倒くさい生き物なんだ」
シルヴィアは愚痴りながら、木の実の盛り合わせを置いていってくれた。 優しい。 ツンデレエルフの鑑だ。
「お姉さま! お洗濯終わりました!」
そこへ、ミナが元気よく入ってきた。 彼女はこの三日間ですっかり里に馴染んでいた。 持ち前の家事スキル(特に浄化魔法による洗濯)が、綺麗好きなエルフたちに大好評で、今では「聖なる洗濯娘」として重宝されている。
「あら、ありがとうミナ。……って、その服は何?」
ミナは、エルフの民族衣装である薄布のドレスを着ていた。 露出度がやや高いが、森の妖精のようで似合っている。
「エルフのお姉さんたちがくれたんです! 『人間の服は重苦しいから』って」
「へえ、いいじゃない。可愛いわよ」
「えへへ、照れますぅ」
ミナは頬を染めてクネクネした。 平和だ。 外の騒音さえなければ、ここは本当に楽園なのに。
◇
午後。 私は気晴らしに、里の奥にある『静寂の泉』へと向かった。 そこは結界の中心部に近く、外の騒音が比較的届きにくい場所だ。
泉のほとりの岩に腰掛け、私は今後の計画を練り直していた。
(このままここに引きこもるのも限界があるわね。エルフたちに迷惑がかかりすぎる) (かといって、外に出れば即確保。八方塞がりだわ)
アレクセイ殿下の執念は、私の想像を遥かに超えていた。 彼は国政を放り出してでも、私を捕まえるつもりだ。 いや、彼の中では「これは国政よりも重要な、愛の国家プロジェクト」なのだろう。 財務大臣が泣いている姿が目に浮かぶ。
「……はぁ。どこかに、殿下の権力が及ばない、それでいて快適な布団がある場所はないかしら」
私がため息をつき、小石を泉に投げ込んだ時だった。
「お困りのようだね、美しき逃亡者よ」
背後から、甘い声がかけられた。 殿下の声ではない。 もっとキザで、胡散臭くて、それでいて洗練された男の声だ。
振り返ると、そこには一人の男が立っていた。 木の枝の上に優雅に腰掛け、こちらを見下ろしている。
銀色の長髪を後ろで束ね、片眼鏡(モノクル)をかけた知的な美青年。 服装は旅人のそれだが、素材の上質さと仕立ての良さが、ただ者ではないことを物語っている。 そして何より、その瞳の色。 深紅の瞳。 それは、隣国『ガレリア帝国』の貴族特有の色だ。
「……誰?」
私は警戒して距離を取った。 エルフの里に人間がいること自体が珍しい。 ましてや、こんな怪しい男が。
男は音もなく地面に降り立ち、恭しくお辞儀をした。 その動作は、洗練された宮廷作法そのものだった。
「驚かせてすまない。僕はジークフリート。しがない旅の吟遊詩人……というのは表の顔で、本当はガレリア帝国の『外交特使』さ」
「帝国……」
私の脳内で警報が鳴る。 帝国は、我が王国とは長年冷戦状態にある軍事大国だ。 そこの特使が、なぜこんなところに?
「警戒しないでくれ。僕は君の敵じゃない。むしろ、君の才能に惚れ込んだファンの一人さ」
ジークフリートは、片眼鏡をキラリと光らせて微笑んだ。
「『薬屋アリス』。そして、その正体であるリーゼロッテ・フォン・エーデル公爵令嬢。君の噂は、帝国の諜報網にも届いているよ。『死者を蘇らせる秘薬を作る魔女』としてね」
「……人違いです。私はただの村娘です」
「ふふ、とぼけても無駄だよ。君が迷いの森で売ったあの薬……解析させてもらったが、あれは傑作だった。あんな出鱈目な魔力効率、今の魔法技術では再現不可能だ。君は天才だよ」
彼は一歩近づいてきた。
「単刀直入に言おう。我が帝国に来ないか?」
「勧誘?」
「そうだ。我が皇帝陛下は、才能ある者を何より愛する。君が帝国に来てくれるなら、国賓級の待遇を約束しよう。爵位、領地、莫大な研究費……そして、君が望むなら、君専用の『ハーレム』も用意するよ?」
「ハーレム?」
私は眉をひそめた。
「ああ。我が国が誇る選りすぐりのイケメン騎士、知的な魔導師、野性的な獣人戦士……君の好みの男を何十人でも侍らせていい。君はただ、その美しい指で彼らに命令し、好きな時に薬を作ればいいんだ」
ジークフリートは両手を広げ、甘い夢を語るように言った。
「どうだい? 王国の堅苦しい貴族社会や、ストーカー気質の王子に追い回される生活より、ずっと魅力的だろう?」
彼の提案は、客観的に見れば破格だった。 帝国は実力主義の国だ。 私の能力があれば、王妃以上の権力を手に入れることも可能だろう。 それに、イケメンハーレムというのも、普通の女性なら食いつく条件かもしれない。
だが。
「……いらない」
私は即答した。
「え?」
ジークフリートの笑顔が固まった。
「爵位も領地も面倒くさい。研究もしたくない。私はただ、昼まで寝ていたいだけなの」
「ね、寝ていたい?」
「そう。あと、ハーレムなんて論外よ。男なんて一人(殿下)だけでもお腹いっぱいなのに、何十人もいたらストレスで禿げるわ。私の安眠を妨害する要素にしかならない」
私は呆れて言った。 こいつもか。 こいつも、私の本質的な欲望(睡眠と怠惰)を理解していない。 なぜ男たちは、女が全員「地位と男」を求めていると勘違いするのか。
「私が求めているのは、最高級の寝具と、完全防音の部屋と、週休7日の生活よ。それが用意できないなら、お引き取り願うわ」
私が背を向けて歩き出そうとすると、ジークフリートが慌てて回り込んできた。
「ま、待ってくれ! 面白いな君は! そんな無欲な(ある意味強欲な)女性は初めてだ!」
彼はなぜか嬉しそうだった。
「わかった、条件を変えよう。週休7日は難しいが、週休5日でどうだ? 寝具は最高級の羽毛を用意する。防音室も完備しよう。その代わり、月に一度だけ、宮廷舞踏会で僕のパートナーをしてほしい」
「……週休5日?」
私の足が止まった。 悪くない。 王城でのブラック労働(週休0日、睡眠3時間)に比べれば、天国のような待遇だ。
「それに、考えてみてくれ。君があの王子から逃げ切るには、もはや個人の力では限界がある。一国の、それも大国である帝国の庇護が必要じゃないか?」
痛いところを突かれた。 確かにその通りだ。 エルフの里はいずれ限界が来る。 殿下が本気を出して「森を焼き払う」とか言い出したら終わりだ(言い出しそうで怖い)。
帝国への亡命。 それは、殿下の権力が及ばない唯一の選択肢かもしれない。
「……ふむ」
私は腕を組んで考え込んだ。 こいつ(ジークフリート)も胡散臭いが、殿下よりは話が通じそうだ。 ビジネスライクな関係なら、利用できるかもしれない。
「わかったわ。その話、キープしておく」
「キープ?」
「ええ。まだ即決はしない。でも、いざという時の『逃げ道』として考えておくわ。それでいいなら、連絡手段をよこしなさい」
上から目線の交渉。 だが、ジークフリートは満足げに頷いた。
「いいだろう。君のような慎重な女性は嫌いじゃない」
彼は懐から、真紅の宝石がついた指輪を取り出した。
「これは転移魔法のアンカーだ。魔力を込めれば、僕のいる場所へ転移できる。ただし、使い切りだからタイミングを見極めてくれ」
「わかったわ。受け取っておく」
私が指輪を受け取ろうと手を伸ばした、その瞬間。
ズドドドドドドドドッ!!
エルフの里全体が、激しく揺れた。 地震ではない。 結界の外側から、凄まじい衝撃波が叩きつけられたのだ。
「な、なんだ!?」
ジークフリートが体勢を崩す。 私は直感した。 あの男だ。
『リゼェェェェェェッ!!』
空が割れるような怒号が響いた。 拡声魔法のボリュームが限界突破している。
『今! 今、男と話していたなァァァッ!?』
「は?」
私とジークフリートは顔を見合わせた。
『私の愛のソナーが反応したぞ! 結界の中で、不届きな男のフェロモンがリゼに近づいたのを感知した! 誰だ! どこのどいつだ!』
王子の勘、怖すぎる。 結界越しにフェロモンを感知するとか、もはや生物兵器だ。
『帝国のスパイか? それともエルフの間男か? 許さん……断じて許さんぞ! リゼに触れていいのは私だけだ! その男、八つ裂きにしてやる!』
バリバリバリッ!
結界の天井部分に、亀裂が入った。 アレクセイ殿下が、剣に光属性の魔力を限界まで込めて、無理やり結界をこじ開けようとしているのだ。
「ひぃっ! 結界が! 数千年の結界が!」
駆けつけてきたシルヴィアが悲鳴を上げる。
「まずいね。彼、本気だ」
ジークフリートが冷や汗を流す。 余裕ぶっていた彼の表情にも、焦りが見える。
「君の元婚約者、化け物かい? 帝国の最新鋭魔導兵器でも、この結界は破れないはずなんだが」
「愛の力(ヤンデレ補正)よ。常識で測らないで」
私は指輪をポケットにねじ込んだ。
「ジークフリート、あんたは逃げなさい。ここで殿下に見つかったら、外交問題どころか国際戦争になるわ」
「君はどうするんだ?」
「私はまだここに残る。ミナもいるし、今逃げたらエルフたちが巻き添えになる」
「……わかった。君の勇気に敬意を表するよ」
ジークフリートは私にウインクを投げると、 「では、また会おう。愛しの薬屋さん」 と言い残し、影の中に溶けるように消えた。 逃げ足の速い男だ。
その直後。 パリーン!! という盛大な音と共に、空の結界の一部が砕け散った。
「見つけたぞォォォッ!!」
穴の開いた空から、黄金の光を纏ったアレクセイ殿下が降臨した。 その手には聖剣、背中には光の翼(魔力放出によるエフェクト)。 神々しいまでの姿だが、その目は完全に据わっていた。
「どこだ! 虫ケラはどこだ! リゼを口説いていた不届き者は!」
彼は着地と同時に衝撃波を放ち、周囲の木々をなぎ倒した。 シルヴィアが「私の森がぁぁ!」と絶叫する。
「殿下! やめてください!」
私は岩陰から飛び出した。 このままでは里が更地になってしまう。
「リゼ!」
私を見つけた瞬間、殿下の形相が鬼から天使へと変わった。
「ああ、リゼ! 無事だったか! 汚らわしい男に汚されていないか!? 今すぐ『清浄化(ピュリフィケーション)』をかけてあげよう!」
「汚れてません! 誰もいません!」
「嘘だ! 私の鼻は誤魔化せん! 残り香がするぞ! 安っぽいコロンの匂いが!」
ジークフリートの香水の匂いだ。 やはりバレている。
「逃げたか……。卑怯な。だが、リゼが無事ならそれでいい」
殿下は剣を収め、私に向かって手を広げた。
「さあ、おいでリゼ。怖い思いをしただろう。もう大丈夫だ。私の腕の中で、永遠の安らぎを得るといい」
その笑顔は、最高に美しく、そして最高に怖かった。 背後に「監禁」という二文字が見えるようだ。
「……嫌よ」
私は後ずさった。
「なんで? どうして逃げるんだい? こんなに愛しているのに」
「その愛が重いの! 私は自由いたいの!」
「自由? あるよ。私の腕の中という、無限の自由がね」
会話が成立しない。 殿下がじりじりと近づいてくる。 もう逃げ場はない。 エルフたちも怯えて遠巻きに見ているだけだ。 ミナは木の後ろで震えている。
万事休すか。 そう思った時だった。
「ご主人様! 危ない!」
私のポケットから、何かが飛び出した。 以前、私がテイムした(ことになっている)ダンジョンのボスドラゴンの召喚石……ではない。 これは、まだプロット上登場していないはずの展開だ。
(あ、違う。これは……!)
私は思い出した。 先ほどジークフリートが消える間際に、私のポケットに何かを忍ばせていったことを。 指輪だけじゃなかった。 これは、煙玉だ。
ドロンッ!
私の足元で紫色の煙が爆発した。 帝国の忍術(?)だ。
「げほっ! また煙か!」
殿下が視界を奪われる。 その隙に、私はミナの手を掴んで叫んだ。
「シルヴィア! 裏口を開けて! 今すぐ!」
「わ、わかった! とっとと行け!」
シルヴィアが杖を振るうと、地面に隠されていた『転移の魔法陣』が起動した。 これは里の緊急避難用通路だ。
「逃げるわよ、ミナ!」
「はい、お姉さま!」
私たちは魔法陣に飛び込んだ。
「リゼェェェェッ!!」
煙の向こうから、殿下の絶叫が聞こえる。 間一髪。 私たちの体は光に包まれ、エルフの里から消失した。
転移先は、里から数十キロ離れた山岳地帯。 とりあえずの危機は脱した。
だが、私は知っていた。 これで殿下が諦めるはずがない。 むしろ、帝国の男(ジークフリート)の影を感じ取ったことで、彼の嫉妬心に油が注がれたことを。
「……最悪だわ」
山の上で、私は膝をついた。 ストーカーから逃げるためにスパイと接触したら、ストーカーが「浮気相手がいる!」と勘違いしてバーサーカーモードに入ってしまった。 泥沼だ。 私のスローライフ計画は、もはや風前の灯火どころか、大火事の中の藁の家状態だった。
「お姉さま……これからどうしましょう?」
ミナが不安そうに聞く。
「……逃げるしかないわ。地の果てまで」
私は立ち上がった。 その目には、諦めではなく、不屈の闘志が宿っていた。 10回目の人生。 絶対に、絶対に幸せな睡眠を手に入れてみせる。 たとえ相手が、国家権力とメンヘラを併せ持つ最強の王子であっても!
……であるはずのこの場所は今、騒音公害の真っ只中にあった。
「リゼェェェッ!! 朝だぞォォォッ!! 今日も愛しているぞォォォッ!!」 「君のために、森の木の実を集めてきたんだ! ハートの形をしているんだよ! 受け取ってくれぇぇぇ!」 「おい、そこのエルフ! 結界の透過率を上げろ! リゼの寝顔が見えないだろうが!」
ドガンッ! バコンッ! ズシィィィン!
里を覆う『絶対不可侵の結界』の外側から、定期的に響く爆音と、拡声魔法で増幅されたアレクセイ殿下の愛の囁き(物理)。 それが、朝の6時からノンストップで続いているのだ。
里の中央広場にある来客用の樹上の家。 そのベッドの上で、私は枕を頭に押し当てて悶絶していた。
「……うるさい」
睡眠不足だ。 ここに来て三日。 あのアホ王子は、なんと結界の外に豪華なテント(王家の紋章入り)を張り、長期滞在の構えを見せているのだ。 しかも、ただ待つだけではない。 「リゼが出てくるまで、歌を歌い続けよう」とか言い出して、自作のラブソング(全100番まである)を熱唱したり、暇つぶしに近くの山を剣で削って私の彫像を作ったりしている。 おかげで、静寂を愛するエルフたちはノイローゼ寸前だ。
「リゼ……頼むから、どうにかしてくれ……」
ドアが開き、エルフの長シルヴィアが入ってきた。 彼女の美しい顔には、濃い隈ができている。 耳もしなびて垂れ下がっていた。
「あいつの歌声のせいで、精霊たちが怖がって逃げ出しているんだ。このままだと世界樹がストレスで枯れる」
「ごめん……本当にごめん……」
私はベッドから起き上がり、土下座した。 私も被害者だが、元凶であることは否めない。
「あいつ、結界を壊すのは諦めたみたいだけど、精神攻撃に切り替えてきたわね」
「物理攻撃よりタチが悪いぞ。『リゼ~、出ておいで~、美味しいお菓子があるよ~』って、迷子の子猫を呼ぶような声で一日中だぞ。我々を高貴な森の民だと知っての狼藉か」
シルヴィアが頭を抱える。 エルフは聴覚が鋭い。 殿下の甘すぎる声は、彼女たちにとっては黒板を爪で引っ掻く音以上の拷問なのだ。
「私だって出たいわよ。でも、出たら最後、あの黄金のゴリラに捕まって王城へ強制送還よ」
「わかっている。だから追い出せないんだ。お前を渡せば里は静かになるが、それはエルフの義に反する。……くそっ、なんで人間はあんなに面倒くさい生き物なんだ」
シルヴィアは愚痴りながら、木の実の盛り合わせを置いていってくれた。 優しい。 ツンデレエルフの鑑だ。
「お姉さま! お洗濯終わりました!」
そこへ、ミナが元気よく入ってきた。 彼女はこの三日間ですっかり里に馴染んでいた。 持ち前の家事スキル(特に浄化魔法による洗濯)が、綺麗好きなエルフたちに大好評で、今では「聖なる洗濯娘」として重宝されている。
「あら、ありがとうミナ。……って、その服は何?」
ミナは、エルフの民族衣装である薄布のドレスを着ていた。 露出度がやや高いが、森の妖精のようで似合っている。
「エルフのお姉さんたちがくれたんです! 『人間の服は重苦しいから』って」
「へえ、いいじゃない。可愛いわよ」
「えへへ、照れますぅ」
ミナは頬を染めてクネクネした。 平和だ。 外の騒音さえなければ、ここは本当に楽園なのに。
◇
午後。 私は気晴らしに、里の奥にある『静寂の泉』へと向かった。 そこは結界の中心部に近く、外の騒音が比較的届きにくい場所だ。
泉のほとりの岩に腰掛け、私は今後の計画を練り直していた。
(このままここに引きこもるのも限界があるわね。エルフたちに迷惑がかかりすぎる) (かといって、外に出れば即確保。八方塞がりだわ)
アレクセイ殿下の執念は、私の想像を遥かに超えていた。 彼は国政を放り出してでも、私を捕まえるつもりだ。 いや、彼の中では「これは国政よりも重要な、愛の国家プロジェクト」なのだろう。 財務大臣が泣いている姿が目に浮かぶ。
「……はぁ。どこかに、殿下の権力が及ばない、それでいて快適な布団がある場所はないかしら」
私がため息をつき、小石を泉に投げ込んだ時だった。
「お困りのようだね、美しき逃亡者よ」
背後から、甘い声がかけられた。 殿下の声ではない。 もっとキザで、胡散臭くて、それでいて洗練された男の声だ。
振り返ると、そこには一人の男が立っていた。 木の枝の上に優雅に腰掛け、こちらを見下ろしている。
銀色の長髪を後ろで束ね、片眼鏡(モノクル)をかけた知的な美青年。 服装は旅人のそれだが、素材の上質さと仕立ての良さが、ただ者ではないことを物語っている。 そして何より、その瞳の色。 深紅の瞳。 それは、隣国『ガレリア帝国』の貴族特有の色だ。
「……誰?」
私は警戒して距離を取った。 エルフの里に人間がいること自体が珍しい。 ましてや、こんな怪しい男が。
男は音もなく地面に降り立ち、恭しくお辞儀をした。 その動作は、洗練された宮廷作法そのものだった。
「驚かせてすまない。僕はジークフリート。しがない旅の吟遊詩人……というのは表の顔で、本当はガレリア帝国の『外交特使』さ」
「帝国……」
私の脳内で警報が鳴る。 帝国は、我が王国とは長年冷戦状態にある軍事大国だ。 そこの特使が、なぜこんなところに?
「警戒しないでくれ。僕は君の敵じゃない。むしろ、君の才能に惚れ込んだファンの一人さ」
ジークフリートは、片眼鏡をキラリと光らせて微笑んだ。
「『薬屋アリス』。そして、その正体であるリーゼロッテ・フォン・エーデル公爵令嬢。君の噂は、帝国の諜報網にも届いているよ。『死者を蘇らせる秘薬を作る魔女』としてね」
「……人違いです。私はただの村娘です」
「ふふ、とぼけても無駄だよ。君が迷いの森で売ったあの薬……解析させてもらったが、あれは傑作だった。あんな出鱈目な魔力効率、今の魔法技術では再現不可能だ。君は天才だよ」
彼は一歩近づいてきた。
「単刀直入に言おう。我が帝国に来ないか?」
「勧誘?」
「そうだ。我が皇帝陛下は、才能ある者を何より愛する。君が帝国に来てくれるなら、国賓級の待遇を約束しよう。爵位、領地、莫大な研究費……そして、君が望むなら、君専用の『ハーレム』も用意するよ?」
「ハーレム?」
私は眉をひそめた。
「ああ。我が国が誇る選りすぐりのイケメン騎士、知的な魔導師、野性的な獣人戦士……君の好みの男を何十人でも侍らせていい。君はただ、その美しい指で彼らに命令し、好きな時に薬を作ればいいんだ」
ジークフリートは両手を広げ、甘い夢を語るように言った。
「どうだい? 王国の堅苦しい貴族社会や、ストーカー気質の王子に追い回される生活より、ずっと魅力的だろう?」
彼の提案は、客観的に見れば破格だった。 帝国は実力主義の国だ。 私の能力があれば、王妃以上の権力を手に入れることも可能だろう。 それに、イケメンハーレムというのも、普通の女性なら食いつく条件かもしれない。
だが。
「……いらない」
私は即答した。
「え?」
ジークフリートの笑顔が固まった。
「爵位も領地も面倒くさい。研究もしたくない。私はただ、昼まで寝ていたいだけなの」
「ね、寝ていたい?」
「そう。あと、ハーレムなんて論外よ。男なんて一人(殿下)だけでもお腹いっぱいなのに、何十人もいたらストレスで禿げるわ。私の安眠を妨害する要素にしかならない」
私は呆れて言った。 こいつもか。 こいつも、私の本質的な欲望(睡眠と怠惰)を理解していない。 なぜ男たちは、女が全員「地位と男」を求めていると勘違いするのか。
「私が求めているのは、最高級の寝具と、完全防音の部屋と、週休7日の生活よ。それが用意できないなら、お引き取り願うわ」
私が背を向けて歩き出そうとすると、ジークフリートが慌てて回り込んできた。
「ま、待ってくれ! 面白いな君は! そんな無欲な(ある意味強欲な)女性は初めてだ!」
彼はなぜか嬉しそうだった。
「わかった、条件を変えよう。週休7日は難しいが、週休5日でどうだ? 寝具は最高級の羽毛を用意する。防音室も完備しよう。その代わり、月に一度だけ、宮廷舞踏会で僕のパートナーをしてほしい」
「……週休5日?」
私の足が止まった。 悪くない。 王城でのブラック労働(週休0日、睡眠3時間)に比べれば、天国のような待遇だ。
「それに、考えてみてくれ。君があの王子から逃げ切るには、もはや個人の力では限界がある。一国の、それも大国である帝国の庇護が必要じゃないか?」
痛いところを突かれた。 確かにその通りだ。 エルフの里はいずれ限界が来る。 殿下が本気を出して「森を焼き払う」とか言い出したら終わりだ(言い出しそうで怖い)。
帝国への亡命。 それは、殿下の権力が及ばない唯一の選択肢かもしれない。
「……ふむ」
私は腕を組んで考え込んだ。 こいつ(ジークフリート)も胡散臭いが、殿下よりは話が通じそうだ。 ビジネスライクな関係なら、利用できるかもしれない。
「わかったわ。その話、キープしておく」
「キープ?」
「ええ。まだ即決はしない。でも、いざという時の『逃げ道』として考えておくわ。それでいいなら、連絡手段をよこしなさい」
上から目線の交渉。 だが、ジークフリートは満足げに頷いた。
「いいだろう。君のような慎重な女性は嫌いじゃない」
彼は懐から、真紅の宝石がついた指輪を取り出した。
「これは転移魔法のアンカーだ。魔力を込めれば、僕のいる場所へ転移できる。ただし、使い切りだからタイミングを見極めてくれ」
「わかったわ。受け取っておく」
私が指輪を受け取ろうと手を伸ばした、その瞬間。
ズドドドドドドドドッ!!
エルフの里全体が、激しく揺れた。 地震ではない。 結界の外側から、凄まじい衝撃波が叩きつけられたのだ。
「な、なんだ!?」
ジークフリートが体勢を崩す。 私は直感した。 あの男だ。
『リゼェェェェェェッ!!』
空が割れるような怒号が響いた。 拡声魔法のボリュームが限界突破している。
『今! 今、男と話していたなァァァッ!?』
「は?」
私とジークフリートは顔を見合わせた。
『私の愛のソナーが反応したぞ! 結界の中で、不届きな男のフェロモンがリゼに近づいたのを感知した! 誰だ! どこのどいつだ!』
王子の勘、怖すぎる。 結界越しにフェロモンを感知するとか、もはや生物兵器だ。
『帝国のスパイか? それともエルフの間男か? 許さん……断じて許さんぞ! リゼに触れていいのは私だけだ! その男、八つ裂きにしてやる!』
バリバリバリッ!
結界の天井部分に、亀裂が入った。 アレクセイ殿下が、剣に光属性の魔力を限界まで込めて、無理やり結界をこじ開けようとしているのだ。
「ひぃっ! 結界が! 数千年の結界が!」
駆けつけてきたシルヴィアが悲鳴を上げる。
「まずいね。彼、本気だ」
ジークフリートが冷や汗を流す。 余裕ぶっていた彼の表情にも、焦りが見える。
「君の元婚約者、化け物かい? 帝国の最新鋭魔導兵器でも、この結界は破れないはずなんだが」
「愛の力(ヤンデレ補正)よ。常識で測らないで」
私は指輪をポケットにねじ込んだ。
「ジークフリート、あんたは逃げなさい。ここで殿下に見つかったら、外交問題どころか国際戦争になるわ」
「君はどうするんだ?」
「私はまだここに残る。ミナもいるし、今逃げたらエルフたちが巻き添えになる」
「……わかった。君の勇気に敬意を表するよ」
ジークフリートは私にウインクを投げると、 「では、また会おう。愛しの薬屋さん」 と言い残し、影の中に溶けるように消えた。 逃げ足の速い男だ。
その直後。 パリーン!! という盛大な音と共に、空の結界の一部が砕け散った。
「見つけたぞォォォッ!!」
穴の開いた空から、黄金の光を纏ったアレクセイ殿下が降臨した。 その手には聖剣、背中には光の翼(魔力放出によるエフェクト)。 神々しいまでの姿だが、その目は完全に据わっていた。
「どこだ! 虫ケラはどこだ! リゼを口説いていた不届き者は!」
彼は着地と同時に衝撃波を放ち、周囲の木々をなぎ倒した。 シルヴィアが「私の森がぁぁ!」と絶叫する。
「殿下! やめてください!」
私は岩陰から飛び出した。 このままでは里が更地になってしまう。
「リゼ!」
私を見つけた瞬間、殿下の形相が鬼から天使へと変わった。
「ああ、リゼ! 無事だったか! 汚らわしい男に汚されていないか!? 今すぐ『清浄化(ピュリフィケーション)』をかけてあげよう!」
「汚れてません! 誰もいません!」
「嘘だ! 私の鼻は誤魔化せん! 残り香がするぞ! 安っぽいコロンの匂いが!」
ジークフリートの香水の匂いだ。 やはりバレている。
「逃げたか……。卑怯な。だが、リゼが無事ならそれでいい」
殿下は剣を収め、私に向かって手を広げた。
「さあ、おいでリゼ。怖い思いをしただろう。もう大丈夫だ。私の腕の中で、永遠の安らぎを得るといい」
その笑顔は、最高に美しく、そして最高に怖かった。 背後に「監禁」という二文字が見えるようだ。
「……嫌よ」
私は後ずさった。
「なんで? どうして逃げるんだい? こんなに愛しているのに」
「その愛が重いの! 私は自由いたいの!」
「自由? あるよ。私の腕の中という、無限の自由がね」
会話が成立しない。 殿下がじりじりと近づいてくる。 もう逃げ場はない。 エルフたちも怯えて遠巻きに見ているだけだ。 ミナは木の後ろで震えている。
万事休すか。 そう思った時だった。
「ご主人様! 危ない!」
私のポケットから、何かが飛び出した。 以前、私がテイムした(ことになっている)ダンジョンのボスドラゴンの召喚石……ではない。 これは、まだプロット上登場していないはずの展開だ。
(あ、違う。これは……!)
私は思い出した。 先ほどジークフリートが消える間際に、私のポケットに何かを忍ばせていったことを。 指輪だけじゃなかった。 これは、煙玉だ。
ドロンッ!
私の足元で紫色の煙が爆発した。 帝国の忍術(?)だ。
「げほっ! また煙か!」
殿下が視界を奪われる。 その隙に、私はミナの手を掴んで叫んだ。
「シルヴィア! 裏口を開けて! 今すぐ!」
「わ、わかった! とっとと行け!」
シルヴィアが杖を振るうと、地面に隠されていた『転移の魔法陣』が起動した。 これは里の緊急避難用通路だ。
「逃げるわよ、ミナ!」
「はい、お姉さま!」
私たちは魔法陣に飛び込んだ。
「リゼェェェェッ!!」
煙の向こうから、殿下の絶叫が聞こえる。 間一髪。 私たちの体は光に包まれ、エルフの里から消失した。
転移先は、里から数十キロ離れた山岳地帯。 とりあえずの危機は脱した。
だが、私は知っていた。 これで殿下が諦めるはずがない。 むしろ、帝国の男(ジークフリート)の影を感じ取ったことで、彼の嫉妬心に油が注がれたことを。
「……最悪だわ」
山の上で、私は膝をついた。 ストーカーから逃げるためにスパイと接触したら、ストーカーが「浮気相手がいる!」と勘違いしてバーサーカーモードに入ってしまった。 泥沼だ。 私のスローライフ計画は、もはや風前の灯火どころか、大火事の中の藁の家状態だった。
「お姉さま……これからどうしましょう?」
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「……逃げるしかないわ。地の果てまで」
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