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第十三話 正体バレ。聖女ミナが全ての元凶(王子)に気づく時
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ガレリア帝国、首都ルーンガルド。 魔導技術によって発展したこの街は、夜になっても魔法の街灯が煌々と輝き、空には小型の飛空艇が行き交う、まさに未来都市のような様相を呈していた。
その首都の一等地、貴族たちが住まう『薔薇の区画』にある一際大きな屋敷。 ここが、あの胡散臭い密偵貴族、ジークフリートの別邸だった。
「……天国?」
通された客室の中央で、私は呆然と呟いた。
目の前にあるのは、キングサイズの天蓋付きベッド。 シルクのシーツに、雲のようにふわふわの羽毛布団。 床には毛足の長い絨毯が敷かれ、部屋の隅には猫足のバスタブから湯気が立ち上っている。 テーブルには、湯気を立てる温かいコンソメスープと、焼きたてのパン、そしてローストビーフの山。
「天国ですぅぅぅ!」
隣でミナが泣き崩れた。 彼女はそのままカーペットの上をゴロゴロと転がり回り、全身で「文明」の素晴らしさを享受している。
「よかったわね、ミナ。これが週休5日の福利厚生よ」
私も感動に打ち震えながら、まずはスープを一口啜った。 温かい。 野菜の旨味が凝縮されたスープが、凍えた内臓に染み渡る。 雪山での逃避行、S級ダンジョンでのサバイバル、そしてドラゴンによる超音速飛行。 ボロボロになった心と体が、急速に修復されていくのを感じる。
「さて、と」
食事を終え、久しぶりのお風呂(アロマオイル入り)で泥と汗を洗い流した私は、ドレッサーの前に座った。 鏡に映るのは、まだ「村娘アリス」の変装をした自分だ。 茶色の髪、そばかす、地味な顔立ち。 帝国の首都に潜伏する以上、この姿を維持するのも手だが、ここはジークフリートの結界守護下にある屋敷。 それに、もうミナには正体(名前)はバレている。 これ以上、変装魔法を維持し続けるのも魔力の無駄だ。
「解除(リリース)」
私は指を鳴らした。 魔法の光が弾け、偽りの姿が霧散する。
茶色の髪が、月明かりを吸い込んだようなプラチナブロンドへと変わり、背中まで流れ落ちる。 そばかすが消え、陶器のような白磁の肌が現れる。 瞳の色は、深淵を覗くような鮮烈なアメジストへ。 そして、地味だった顔立ちが、国一番と謳われた『公爵令嬢リーゼロッテ』のそれへと戻った。
「ふぅ。やっぱり本来の姿の方が肩が凝らないわね」
私は首をコキコキと鳴らした。 変装魔法は、常に顔の筋肉を魔力で固定しているようなものだから、地味に疲れるのだ。
「……お、お姉さま?」
背後から、おずおずとした声が聞こえた。 振り返ると、バスローブ姿のミナが、タオルを落として固まっていた。
「あら、ごめんね。驚かせちゃった?」
「き、綺麗……」
ミナは夢遊病のように近づいてきて、私の顔をまじまじと見つめた。
「すごい……肖像画よりも、手配書の美化された絵よりも、本物の方がずっと美しいです……。これぞ悪役令嬢……いや、女神……」
「褒めても何も出ないわよ。あ、いや、ポーションなら出るけど」
「いえ、そういうことじゃなくて!」
ミナはハッとして、居住まいを正した。 そして、なぜかその場に正座をした。
「改めまして、ご挨拶申し上げます。私、ミナ・フォン・アスターと申します。今まで『アリスお姉さま』と呼んでいましたが、あなたはやはり、噂のリーゼロッテ公爵令嬢様だったのですね?」
「ええ、そうよ。まあ、今はただの家出少女だけど」
私は苦笑しながら、髪をタオルで拭いた。 ミナの目は、尊敬と憧憬、そして少しの困惑で揺れている。
「でも、不思議です。どうしてリゼ様ほどの完璧な方が、あんな必死に逃げているんですか? 王子様は、あんなにリゼ様を……その、求めているのに」
ここだ。 ここが一番の認識のズレだ。
私はドレッサーの椅子を回転させ、ミナと向き合った。 これは、しっかりと教育(誤解を解く)しておく必要がある。
「ミナ、あんたにはアレクセイ殿下がどう見えた?」
「えっと……ちょっと、いえ、かなり情熱的で、リゼ様のことしか見えてなくて、周りが見えなくなってる、猪突猛進な方……でしょうか?」
「オブラートに包みすぎよ。正解は『人の話を聞かない独善的なストーカー』よ」
私は断言した。
「いい? 彼はね、私のことを愛しているんじゃないの。自分の所有物だと思っているのよ。『完璧な王太子』である自分の隣には、『完璧な飾り物』が必要だと思っているだけ。だから、私が自分の意思を持って逃げ出したのが許せないのよ。『俺のコレクションが勝手に動いた! 連れ戻してショーケースに閉じ込めなきゃ!』っていう心理ね」
「そ、そうですか……?」
ミナは首を傾げた。
「でも、私にはそうは見えませんでした。ダンジョンの入り口で、殿下は泣きそうな顔をしていましたし、雪山での戦いでも、リゼ様が怪我をしないように、攻撃の余波を全部自分で受け止めてましたよ?」
「は?」
「あと、ジークフリートさんがリゼ様に近づいた時、本気で嫉妬してました。『リゼは俺の心臓だ』って言ってましたし……。あれは、所有欲というよりは、もっとこう、依存というか、崇拝に近いような……」
ミナの言葉に、私は鼻で笑った。
「甘いわね、ミナ。あれは演技よ。王族特有の『悲劇のヒーロー』ごっこよ。9回も人生をやり直せばわかるわ。あいつは毎回、私のことなんて見ていなかった。冷たい目で『君には失望した』って言って断罪してきたのよ」
過去9回の記憶。 冷たい牢獄。 断頭台の露と消えた痛み。 毒杯の味。 それらがフラッシュバックする。 あの冷酷なアレクセイが、今さら私を愛しているはずがない。 今の彼の行動は、単に「逃げられた」という事実がプライドを傷つけ、意地になっているだけだ。
「これは『殺意』よ。間違いなく」
私は力を込めて言った。
「『愛してる』という言葉は、『殺してやる』の隠語だと思った方がいいわ。王族の言葉には裏があるものなのよ」
「は、はぁ……(それはさすがに深読みしすぎでは?)」
ミナは引きつった笑みを浮かべたが、私の迫力に押されて反論できなかった。 よし、これで洗脳(教育)完了だ。 彼女が「王子様かわいそう」などとほだされて、裏切るリスクは減っただろう。
◇
翌朝。 私は最高の目覚めを迎えた。
「……ふあぁ。よく寝た」
カーテンの隙間から差し込む朝日。 小鳥のさえずり。 そして何より、誰も「リゼェェェ!」と叫んでいない静寂。 幸せだ。 これこそが、私が求めていた朝だ。
ベッドから這い出し、伸びをする。 今日は週休5日の初日(休日)だ。 一日中ゴロゴロしていても誰にも文句は言われない。
コンコン。 控えめなノックの音がした。
「どうぞ」
ドアが開くと、執事服を着た男性が入ってきた。 ……いや、よく見ると、執事服を着たジークフリートだった。
「やあ、おはよう。眠り姫。昨夜はよく眠れたかい?」
彼はワゴンを押して入ってきた。 ワゴンには、焼きたてのクロワッサンと、香り高い紅茶、そしてフルーツが並んでいる。
「……なんで家主自らルームサービスなの?」
「君をもてなすのは私の特権だからね。それに、君の素顔(ノーメイク)を一番に見られるのは役得だ」
ジークフリートは片眼鏡を光らせて、私の顔をじろじろと見た。 プラチナブロンドに戻った私を見て、彼は感嘆のため息をついた。
「素晴らしい。やはり君は『宝石』だ。このまま額縁に入れて飾りたいくらいだね」
「飾り物扱いなら、お断りよ」
私はクロワッサンを手に取った。 サクサクで美味しい。 さすが貴族の食事だ。
「さて、本題に入ろうか」
ジークフリートは優雅に椅子に座り、紅茶を一口飲んだ。
「君たちをここに匿う件について、皇帝陛下から許可が下りたよ。ただし、条件付きだ」
「条件?」
「ああ。君の薬学知識と、そこのお嬢さん(ミナ)の聖女の力を、帝国の医療発展のために貸してほしい。具体的には、軍の病院での技術指導と、新型ポーションの開発だ」
「……週休5日なら、やるわ」
「交渉成立だね。もちろん、給料は弾むよ。王国の公務員給与の3倍は出そう」
「3倍!?」
隣で寝ぼけ眼をこすっていたミナが、ガバッと起き上がった。
「やります! 私、何でもします! 残業だって……いや、残業は嫌ですけど、定時内なら全力で働きます!」
ミナはお金に弱くなっていた。 王城でのタダ働きがトラウマになっているらしい。
「ふふ、頼もしいね。……ところで、もう一つ報告があるんだ」
ジークフリートの表情が、少し曇った。
「王国の動きについてだ」
私はクロワッサンを食べる手を止めた。 来たか。
「アレクセイ王子の軍勢は、国境付近に駐留したままだ。表向きは『行方不明者の捜索』だが、実際はいつでも攻め込める陣形を敷いている」
「……あいつ、まだ諦めてないのね」
「それだけじゃない。昨夜、王国の密使が帝国政府に接触してきた。『逃亡した犯罪者を引き渡せ』とな」
「犯罪者?」
「君のことさ。『国宝窃盗』および『王族誘拐(王子の心を奪った罪)』だそうだ」
「後半、言いがかりにも程があるわよ!」
私は机を叩いた。 心を奪った? 勝手に落としていっただけでしょうが。
「帝国としては、もちろん拒否したよ。『そのような人物は入国していない』とね。だが、王子は納得していないようだ。噂によると、彼は今、単身で『ある場所』に向かっているらしい」
「ある場所?」
「……『古の契約の祭壇』だ」
ジークフリートの声が低くなった。
「祭壇?」
「王家の始祖が、精霊王と契約を交わしたとされる場所だ。そこで王族が血を捧げれば、失せ物を探す『千里眼』の力を借りることができるという伝説がある」
私の背筋に冷たいものが走った。 千里眼。 もしそんなものが発動したら、私の居場所はおろか、今日履いているパンツの色までバレてしまう(あいつなら見ようとする)。 そして、ジークフリートの屋敷の結界など、紙切れ同然に突破されるだろう。
「……まずいわね」
「ああ。もし彼がその力を手に入れたら、帝国全土が彼の監視下になる。私の隠蔽工作も無意味だ」
ジークフリートは真剣な眼差しで私を見た。
「リゼ。君に提案がある。彼が千里眼を発動させる前に、こちらから手を打つべきだ」
「手を打つって?」
「『偽装』さ。君が死んだと思わせる、あるいは、君が遠く離れた別の場所にいると思わせる工作を行う。彼の執着を断ち切るには、それしかない」
死んだと思わせる。 ロミオとジュリエット作戦か。 悪くない。 彼が「リゼは死んだ」と絶望してくれれば、捜索は打ち切られる。 ……いや、待てよ。 あのアレクセイ殿下だぞ? 「死んだ? ならば冥界まで迎えに行こう!」とか言い出して、集団自決とかネクロマンシーとか始めかねない。
「死んだと思わせるのはリスクが高いわ。あいつは死の概念すら愛で超越しかねない」
「……確かに。君の元婚約者ならあり得るな」
ジークフリートも苦笑した。
「なら、どうする? このままここに引きこもって、彼が諦めるのを待つかい? ……おそらく、数百年かかっても諦めないと思うが」
「……」
私は黙り込んだ。 逃げることには慣れた。 でも、逃げ続けることには疲れた。 せっかく手に入れたふかふかのベッド。 美味しい食事。 週休5日の生活。 これを守るためには、もっと根本的な解決が必要なのかもしれない。
「……とりあえず、今は保留にするわ。殿下が千里眼を手に入れるまで、まだ時間はあるでしょう?」
「数日はかかるだろうね。祭壇の封印を解くには、複雑な儀式が必要だから」
「なら、その間に考える。今は、久しぶりの休日を堪能させて」
私は現実逃避を選んだ。 これぞスローライフ志望者の正しい姿だ。 面倒なことは先送り。 明日の自分に期待する。
「わかった。では、今日はゆっくり休むといい。夜には歓迎の晩餐会を用意してあるからね」
ジークフリートは恭しく一礼して部屋を出て行った。
残された私とミナは、顔を見合わせた。
「お姉さま……本当に大丈夫でしょうか?」
「大丈夫よ。いざとなったら、ポチに乗って地球の裏側まで逃げればいいんだから」
私は強がって言ったが、内心では不安が渦巻いていた。 千里眼。 もし私の居場所が完全に特定されたら。 そして、殿下が『転移魔法』なんて奥の手を使ってきたら。
(……いや、考えない! 今は寝るの!)
私は再びベッドにダイブした。 フカフカの感触。 これが正義だ。 これが真理だ。 王子なんて知ったことか。
◇
一方その頃。 王国領内、とある古代遺跡の最深部。
カツーン、カツーン……。 冷たい石床を叩く足音が響く。
薄暗い祭壇の前。 一人の男が立っていた。 ボロボロになった黄金の甲冑。 無精髭を生やし、目の下には隈ができているが、その瞳だけは異様なほど爛々と輝いている。 アレクセイ・ド・グランツ。
「ここか……『契約の祭壇』は」
彼の目の前には、巨大な水晶の塊が鎮座していた。 その内部には、太古の精霊の力が封じられている。
「伝説によれば、王族の血と引き換えに、あらゆる願いを叶える叡智を授けるという……」
アレクセイは剣を抜き、躊躇いもなく自分の掌を切り裂いた。 鮮血が滴り落ちる。 それを水晶に押し当てる。
「我が血を捧げる! 精霊王よ、我に力を貸せ!」
ジュワァァァ……! 水晶が血を吸い込み、赤く発光し始めた。
『……汝、何を望む?』
脳内に直接響く、荘厳な声。 精霊王だ。 通常なら、「国の繁栄」や「強大な力」を望むところだ。
だが、アレクセイは叫んだ。
「リゼだ! リーゼロッテの居場所を教えろ! 今すぐだ!」
『……は?』
精霊王が困惑した気配がした。
『一人の女子(おなご)の居場所だと? そのような些事のために、王族の血を捧げたというのか?』
「些事ではない! 宇宙の真理だ! 彼女がどこで何をして、どんなパンツを履いて、誰と笑っているか、その全てを知りたいんだ!」
『……欲望が重い。汝、狂っているのか?』
「愛に狂うことは正常だ! さあ、教えろ! さもなくば、この祭壇ごと貴様を叩き割るぞ!」
アレクセイは光の魔力を全開にし、精霊王を脅迫した。 前代未聞だ。 精霊王をカツアゲする王太子など、歴史上存在しない。
『……わ、わかった。落ち着け。見せてやろう』
精霊王が折れた。 この男に関わるとろくなことがない、と悟ったのだ。
カッ! 水晶が眩い光を放ち、空中にホログラムのような映像を投影した。
そこに映し出されたのは――。
優雅な屋敷のベッドの上で、バスローブ姿でくつろぐリーゼロッテの姿。 そして、その隣で楽しそうに笑うミナ。 さらに、窓の外には、庭でくつろぐドラゴン(ポチ)と、それを餌付けしている銀髪の男(ジークフリート)。
「……見つけた」
アレクセイの声が震えた。
「帝国……やはり帝国か……! しかも、あの男の屋敷……!」
映像の中のジークフリートが、リゼに向かって何か(朝食のクロワッサン)を差し出し、リゼがそれを笑顔で受け取るシーンが映る。
ブチッ。
アレクセイの中で、何かが切れる音がした。
「あいつ……私のリゼに……私のリゼに餌付けをしているだとォォォッ!?」
それは、彼が最もやりたかったこと(リゼにご飯を食べさせること)だった。 それを、どこの馬の骨とも知れぬ男に先越された。 屈辱。 嫉妬。 そして殺意。
「許さん……。絶対に許さんぞ、帝国!」
ドォォォォォン!!
祭壇が爆発した。 アレクセイの魔力が暴走し、遺跡そのものを半壊させたのだ。 精霊王が「あーあ……」と呆れる気配が消えていく。
「待っていろ、リゼ。今すぐ迎えに行く。そして、その男を八つ裂きにして、君には一生分のクロワッサンを焼いてやるからな!」
アレクセイは瓦礫の中から立ち上がった。 その背中には、黒いオーラ(闇落ち寸前)が立ち昇っていた。
「転移(テレポート)! ……は、距離が遠すぎて無理か。チッ、ならば走る!」
彼は遺跡を飛び出し、帝国の方角へと疾走を始めた。 その速度は、馬よりも、風よりも速かった。 愛の力で身体能力がバグっている。
帝国の平和な朝は、もうすぐ終わりを告げようとしていた。 史上最悪の「愛の災害」が、国境を越えて迫りつつあった。
◇
「……くしゅんっ!」
私はベッドの上でくしゃみをした。
「お姉さま、風邪ですか?」
「うーん……なんか、すごい寒気が……。誰かが私の噂をしてるような……」
私は窓の外を見た。 快晴の空。 しかし、その向こうから、どす黒い雲が近づいてくるような、嫌な予感がした。
「……ま、気のせいよね」
私は布団を頭から被った。 見なかったことにする。 今は週休5日。 トラブルは定休日だ。
その首都の一等地、貴族たちが住まう『薔薇の区画』にある一際大きな屋敷。 ここが、あの胡散臭い密偵貴族、ジークフリートの別邸だった。
「……天国?」
通された客室の中央で、私は呆然と呟いた。
目の前にあるのは、キングサイズの天蓋付きベッド。 シルクのシーツに、雲のようにふわふわの羽毛布団。 床には毛足の長い絨毯が敷かれ、部屋の隅には猫足のバスタブから湯気が立ち上っている。 テーブルには、湯気を立てる温かいコンソメスープと、焼きたてのパン、そしてローストビーフの山。
「天国ですぅぅぅ!」
隣でミナが泣き崩れた。 彼女はそのままカーペットの上をゴロゴロと転がり回り、全身で「文明」の素晴らしさを享受している。
「よかったわね、ミナ。これが週休5日の福利厚生よ」
私も感動に打ち震えながら、まずはスープを一口啜った。 温かい。 野菜の旨味が凝縮されたスープが、凍えた内臓に染み渡る。 雪山での逃避行、S級ダンジョンでのサバイバル、そしてドラゴンによる超音速飛行。 ボロボロになった心と体が、急速に修復されていくのを感じる。
「さて、と」
食事を終え、久しぶりのお風呂(アロマオイル入り)で泥と汗を洗い流した私は、ドレッサーの前に座った。 鏡に映るのは、まだ「村娘アリス」の変装をした自分だ。 茶色の髪、そばかす、地味な顔立ち。 帝国の首都に潜伏する以上、この姿を維持するのも手だが、ここはジークフリートの結界守護下にある屋敷。 それに、もうミナには正体(名前)はバレている。 これ以上、変装魔法を維持し続けるのも魔力の無駄だ。
「解除(リリース)」
私は指を鳴らした。 魔法の光が弾け、偽りの姿が霧散する。
茶色の髪が、月明かりを吸い込んだようなプラチナブロンドへと変わり、背中まで流れ落ちる。 そばかすが消え、陶器のような白磁の肌が現れる。 瞳の色は、深淵を覗くような鮮烈なアメジストへ。 そして、地味だった顔立ちが、国一番と謳われた『公爵令嬢リーゼロッテ』のそれへと戻った。
「ふぅ。やっぱり本来の姿の方が肩が凝らないわね」
私は首をコキコキと鳴らした。 変装魔法は、常に顔の筋肉を魔力で固定しているようなものだから、地味に疲れるのだ。
「……お、お姉さま?」
背後から、おずおずとした声が聞こえた。 振り返ると、バスローブ姿のミナが、タオルを落として固まっていた。
「あら、ごめんね。驚かせちゃった?」
「き、綺麗……」
ミナは夢遊病のように近づいてきて、私の顔をまじまじと見つめた。
「すごい……肖像画よりも、手配書の美化された絵よりも、本物の方がずっと美しいです……。これぞ悪役令嬢……いや、女神……」
「褒めても何も出ないわよ。あ、いや、ポーションなら出るけど」
「いえ、そういうことじゃなくて!」
ミナはハッとして、居住まいを正した。 そして、なぜかその場に正座をした。
「改めまして、ご挨拶申し上げます。私、ミナ・フォン・アスターと申します。今まで『アリスお姉さま』と呼んでいましたが、あなたはやはり、噂のリーゼロッテ公爵令嬢様だったのですね?」
「ええ、そうよ。まあ、今はただの家出少女だけど」
私は苦笑しながら、髪をタオルで拭いた。 ミナの目は、尊敬と憧憬、そして少しの困惑で揺れている。
「でも、不思議です。どうしてリゼ様ほどの完璧な方が、あんな必死に逃げているんですか? 王子様は、あんなにリゼ様を……その、求めているのに」
ここだ。 ここが一番の認識のズレだ。
私はドレッサーの椅子を回転させ、ミナと向き合った。 これは、しっかりと教育(誤解を解く)しておく必要がある。
「ミナ、あんたにはアレクセイ殿下がどう見えた?」
「えっと……ちょっと、いえ、かなり情熱的で、リゼ様のことしか見えてなくて、周りが見えなくなってる、猪突猛進な方……でしょうか?」
「オブラートに包みすぎよ。正解は『人の話を聞かない独善的なストーカー』よ」
私は断言した。
「いい? 彼はね、私のことを愛しているんじゃないの。自分の所有物だと思っているのよ。『完璧な王太子』である自分の隣には、『完璧な飾り物』が必要だと思っているだけ。だから、私が自分の意思を持って逃げ出したのが許せないのよ。『俺のコレクションが勝手に動いた! 連れ戻してショーケースに閉じ込めなきゃ!』っていう心理ね」
「そ、そうですか……?」
ミナは首を傾げた。
「でも、私にはそうは見えませんでした。ダンジョンの入り口で、殿下は泣きそうな顔をしていましたし、雪山での戦いでも、リゼ様が怪我をしないように、攻撃の余波を全部自分で受け止めてましたよ?」
「は?」
「あと、ジークフリートさんがリゼ様に近づいた時、本気で嫉妬してました。『リゼは俺の心臓だ』って言ってましたし……。あれは、所有欲というよりは、もっとこう、依存というか、崇拝に近いような……」
ミナの言葉に、私は鼻で笑った。
「甘いわね、ミナ。あれは演技よ。王族特有の『悲劇のヒーロー』ごっこよ。9回も人生をやり直せばわかるわ。あいつは毎回、私のことなんて見ていなかった。冷たい目で『君には失望した』って言って断罪してきたのよ」
過去9回の記憶。 冷たい牢獄。 断頭台の露と消えた痛み。 毒杯の味。 それらがフラッシュバックする。 あの冷酷なアレクセイが、今さら私を愛しているはずがない。 今の彼の行動は、単に「逃げられた」という事実がプライドを傷つけ、意地になっているだけだ。
「これは『殺意』よ。間違いなく」
私は力を込めて言った。
「『愛してる』という言葉は、『殺してやる』の隠語だと思った方がいいわ。王族の言葉には裏があるものなのよ」
「は、はぁ……(それはさすがに深読みしすぎでは?)」
ミナは引きつった笑みを浮かべたが、私の迫力に押されて反論できなかった。 よし、これで洗脳(教育)完了だ。 彼女が「王子様かわいそう」などとほだされて、裏切るリスクは減っただろう。
◇
翌朝。 私は最高の目覚めを迎えた。
「……ふあぁ。よく寝た」
カーテンの隙間から差し込む朝日。 小鳥のさえずり。 そして何より、誰も「リゼェェェ!」と叫んでいない静寂。 幸せだ。 これこそが、私が求めていた朝だ。
ベッドから這い出し、伸びをする。 今日は週休5日の初日(休日)だ。 一日中ゴロゴロしていても誰にも文句は言われない。
コンコン。 控えめなノックの音がした。
「どうぞ」
ドアが開くと、執事服を着た男性が入ってきた。 ……いや、よく見ると、執事服を着たジークフリートだった。
「やあ、おはよう。眠り姫。昨夜はよく眠れたかい?」
彼はワゴンを押して入ってきた。 ワゴンには、焼きたてのクロワッサンと、香り高い紅茶、そしてフルーツが並んでいる。
「……なんで家主自らルームサービスなの?」
「君をもてなすのは私の特権だからね。それに、君の素顔(ノーメイク)を一番に見られるのは役得だ」
ジークフリートは片眼鏡を光らせて、私の顔をじろじろと見た。 プラチナブロンドに戻った私を見て、彼は感嘆のため息をついた。
「素晴らしい。やはり君は『宝石』だ。このまま額縁に入れて飾りたいくらいだね」
「飾り物扱いなら、お断りよ」
私はクロワッサンを手に取った。 サクサクで美味しい。 さすが貴族の食事だ。
「さて、本題に入ろうか」
ジークフリートは優雅に椅子に座り、紅茶を一口飲んだ。
「君たちをここに匿う件について、皇帝陛下から許可が下りたよ。ただし、条件付きだ」
「条件?」
「ああ。君の薬学知識と、そこのお嬢さん(ミナ)の聖女の力を、帝国の医療発展のために貸してほしい。具体的には、軍の病院での技術指導と、新型ポーションの開発だ」
「……週休5日なら、やるわ」
「交渉成立だね。もちろん、給料は弾むよ。王国の公務員給与の3倍は出そう」
「3倍!?」
隣で寝ぼけ眼をこすっていたミナが、ガバッと起き上がった。
「やります! 私、何でもします! 残業だって……いや、残業は嫌ですけど、定時内なら全力で働きます!」
ミナはお金に弱くなっていた。 王城でのタダ働きがトラウマになっているらしい。
「ふふ、頼もしいね。……ところで、もう一つ報告があるんだ」
ジークフリートの表情が、少し曇った。
「王国の動きについてだ」
私はクロワッサンを食べる手を止めた。 来たか。
「アレクセイ王子の軍勢は、国境付近に駐留したままだ。表向きは『行方不明者の捜索』だが、実際はいつでも攻め込める陣形を敷いている」
「……あいつ、まだ諦めてないのね」
「それだけじゃない。昨夜、王国の密使が帝国政府に接触してきた。『逃亡した犯罪者を引き渡せ』とな」
「犯罪者?」
「君のことさ。『国宝窃盗』および『王族誘拐(王子の心を奪った罪)』だそうだ」
「後半、言いがかりにも程があるわよ!」
私は机を叩いた。 心を奪った? 勝手に落としていっただけでしょうが。
「帝国としては、もちろん拒否したよ。『そのような人物は入国していない』とね。だが、王子は納得していないようだ。噂によると、彼は今、単身で『ある場所』に向かっているらしい」
「ある場所?」
「……『古の契約の祭壇』だ」
ジークフリートの声が低くなった。
「祭壇?」
「王家の始祖が、精霊王と契約を交わしたとされる場所だ。そこで王族が血を捧げれば、失せ物を探す『千里眼』の力を借りることができるという伝説がある」
私の背筋に冷たいものが走った。 千里眼。 もしそんなものが発動したら、私の居場所はおろか、今日履いているパンツの色までバレてしまう(あいつなら見ようとする)。 そして、ジークフリートの屋敷の結界など、紙切れ同然に突破されるだろう。
「……まずいわね」
「ああ。もし彼がその力を手に入れたら、帝国全土が彼の監視下になる。私の隠蔽工作も無意味だ」
ジークフリートは真剣な眼差しで私を見た。
「リゼ。君に提案がある。彼が千里眼を発動させる前に、こちらから手を打つべきだ」
「手を打つって?」
「『偽装』さ。君が死んだと思わせる、あるいは、君が遠く離れた別の場所にいると思わせる工作を行う。彼の執着を断ち切るには、それしかない」
死んだと思わせる。 ロミオとジュリエット作戦か。 悪くない。 彼が「リゼは死んだ」と絶望してくれれば、捜索は打ち切られる。 ……いや、待てよ。 あのアレクセイ殿下だぞ? 「死んだ? ならば冥界まで迎えに行こう!」とか言い出して、集団自決とかネクロマンシーとか始めかねない。
「死んだと思わせるのはリスクが高いわ。あいつは死の概念すら愛で超越しかねない」
「……確かに。君の元婚約者ならあり得るな」
ジークフリートも苦笑した。
「なら、どうする? このままここに引きこもって、彼が諦めるのを待つかい? ……おそらく、数百年かかっても諦めないと思うが」
「……」
私は黙り込んだ。 逃げることには慣れた。 でも、逃げ続けることには疲れた。 せっかく手に入れたふかふかのベッド。 美味しい食事。 週休5日の生活。 これを守るためには、もっと根本的な解決が必要なのかもしれない。
「……とりあえず、今は保留にするわ。殿下が千里眼を手に入れるまで、まだ時間はあるでしょう?」
「数日はかかるだろうね。祭壇の封印を解くには、複雑な儀式が必要だから」
「なら、その間に考える。今は、久しぶりの休日を堪能させて」
私は現実逃避を選んだ。 これぞスローライフ志望者の正しい姿だ。 面倒なことは先送り。 明日の自分に期待する。
「わかった。では、今日はゆっくり休むといい。夜には歓迎の晩餐会を用意してあるからね」
ジークフリートは恭しく一礼して部屋を出て行った。
残された私とミナは、顔を見合わせた。
「お姉さま……本当に大丈夫でしょうか?」
「大丈夫よ。いざとなったら、ポチに乗って地球の裏側まで逃げればいいんだから」
私は強がって言ったが、内心では不安が渦巻いていた。 千里眼。 もし私の居場所が完全に特定されたら。 そして、殿下が『転移魔法』なんて奥の手を使ってきたら。
(……いや、考えない! 今は寝るの!)
私は再びベッドにダイブした。 フカフカの感触。 これが正義だ。 これが真理だ。 王子なんて知ったことか。
◇
一方その頃。 王国領内、とある古代遺跡の最深部。
カツーン、カツーン……。 冷たい石床を叩く足音が響く。
薄暗い祭壇の前。 一人の男が立っていた。 ボロボロになった黄金の甲冑。 無精髭を生やし、目の下には隈ができているが、その瞳だけは異様なほど爛々と輝いている。 アレクセイ・ド・グランツ。
「ここか……『契約の祭壇』は」
彼の目の前には、巨大な水晶の塊が鎮座していた。 その内部には、太古の精霊の力が封じられている。
「伝説によれば、王族の血と引き換えに、あらゆる願いを叶える叡智を授けるという……」
アレクセイは剣を抜き、躊躇いもなく自分の掌を切り裂いた。 鮮血が滴り落ちる。 それを水晶に押し当てる。
「我が血を捧げる! 精霊王よ、我に力を貸せ!」
ジュワァァァ……! 水晶が血を吸い込み、赤く発光し始めた。
『……汝、何を望む?』
脳内に直接響く、荘厳な声。 精霊王だ。 通常なら、「国の繁栄」や「強大な力」を望むところだ。
だが、アレクセイは叫んだ。
「リゼだ! リーゼロッテの居場所を教えろ! 今すぐだ!」
『……は?』
精霊王が困惑した気配がした。
『一人の女子(おなご)の居場所だと? そのような些事のために、王族の血を捧げたというのか?』
「些事ではない! 宇宙の真理だ! 彼女がどこで何をして、どんなパンツを履いて、誰と笑っているか、その全てを知りたいんだ!」
『……欲望が重い。汝、狂っているのか?』
「愛に狂うことは正常だ! さあ、教えろ! さもなくば、この祭壇ごと貴様を叩き割るぞ!」
アレクセイは光の魔力を全開にし、精霊王を脅迫した。 前代未聞だ。 精霊王をカツアゲする王太子など、歴史上存在しない。
『……わ、わかった。落ち着け。見せてやろう』
精霊王が折れた。 この男に関わるとろくなことがない、と悟ったのだ。
カッ! 水晶が眩い光を放ち、空中にホログラムのような映像を投影した。
そこに映し出されたのは――。
優雅な屋敷のベッドの上で、バスローブ姿でくつろぐリーゼロッテの姿。 そして、その隣で楽しそうに笑うミナ。 さらに、窓の外には、庭でくつろぐドラゴン(ポチ)と、それを餌付けしている銀髪の男(ジークフリート)。
「……見つけた」
アレクセイの声が震えた。
「帝国……やはり帝国か……! しかも、あの男の屋敷……!」
映像の中のジークフリートが、リゼに向かって何か(朝食のクロワッサン)を差し出し、リゼがそれを笑顔で受け取るシーンが映る。
ブチッ。
アレクセイの中で、何かが切れる音がした。
「あいつ……私のリゼに……私のリゼに餌付けをしているだとォォォッ!?」
それは、彼が最もやりたかったこと(リゼにご飯を食べさせること)だった。 それを、どこの馬の骨とも知れぬ男に先越された。 屈辱。 嫉妬。 そして殺意。
「許さん……。絶対に許さんぞ、帝国!」
ドォォォォォン!!
祭壇が爆発した。 アレクセイの魔力が暴走し、遺跡そのものを半壊させたのだ。 精霊王が「あーあ……」と呆れる気配が消えていく。
「待っていろ、リゼ。今すぐ迎えに行く。そして、その男を八つ裂きにして、君には一生分のクロワッサンを焼いてやるからな!」
アレクセイは瓦礫の中から立ち上がった。 その背中には、黒いオーラ(闇落ち寸前)が立ち昇っていた。
「転移(テレポート)! ……は、距離が遠すぎて無理か。チッ、ならば走る!」
彼は遺跡を飛び出し、帝国の方角へと疾走を始めた。 その速度は、馬よりも、風よりも速かった。 愛の力で身体能力がバグっている。
帝国の平和な朝は、もうすぐ終わりを告げようとしていた。 史上最悪の「愛の災害」が、国境を越えて迫りつつあった。
◇
「……くしゅんっ!」
私はベッドの上でくしゃみをした。
「お姉さま、風邪ですか?」
「うーん……なんか、すごい寒気が……。誰かが私の噂をしてるような……」
私は窓の外を見た。 快晴の空。 しかし、その向こうから、どす黒い雲が近づいてくるような、嫌な予感がした。
「……ま、気のせいよね」
私は布団を頭から被った。 見なかったことにする。 今は週休5日。 トラブルは定休日だ。
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