41 / 60
第41話:婚約準備と、公爵様のやきもち大作戦
しおりを挟む
父の鶴の一声、いや、雷の一声によって、私とアレクシス公爵の婚約が、正式に決定した。
そして、私たちの戦いの舞台が、王都へと移ることも。
その決定が下された途端、穏やかだったヴァインベルクの屋敷は、にわかに、王都へ戻るための準備で、てんてこ舞いの騒がしさになった。
「イザベラ様、おめでとうございますだ!」
「公爵様と、末永く、お幸せに!」
村人たちは、私たちの婚約を、まるで自分たちのことのように、心から、祝福してくれた。
夜には、村の広場で、ささやかな、しかし、心のこもった祝宴まで、開いてくれたのだ。
その温かさが、これから、魑魅魍魎の巣窟である、王都の社交界へ戻らなければならない私の心を、じんわりと、温めてくれる。
「さて、イザベラ。王都に戻るからには、それ相応の、準備が必要だ」
父が、そう言って、王都から、腕利きの仕立て屋や、宝石商を、何人も、屋敷に呼び寄せた。
宰相派に、舐められないように、という父なりの、配慮なのだろう。
私の部屋は、たちまち、色とりどりのドレス生地や、きらびやかな宝石で、埋め尽くされた。
「イザベラ様、こちらの、深紅のシルクなど、お嬢様の、雪のようなお肌に、さぞ、お似合いかと」
「まあ、素敵ですわね」
私が、仕立て屋の差し出す生地に、目を輝かせていると。
部屋の隅のソファで、腕を組んで、その様子を、じっと見ていた、アレクシス公爵の、機嫌が、見るからに、悪くなっていくのが、分かった。
そして、事件は、採寸の時に、起こった。
「では、イザベラ様、失礼いたします」
仕立て屋の、まだ若い、優男風の男性が、そう言うと、メジャーを手に、私の体に、そっと、触れた。
ウエストのサイズを測るため、彼の腕が、私の腰に、回される。
それは、仕事上、当然の行為。
その、瞬間だった。
「――おい、貴様」
部屋の温度が、すっと、数度、下がった。
声の主は、もちろん、アレクシス公爵だ。
その、地を這うような、低い声には、絶対零度の、怒りが、込められていた。
「な、な、なんでございましょうか、シュヴァルツシルト公爵様……」
仕立て屋の青年が、顔面蒼白になって、震え上がる。
「馴れ馴れしく、俺の婚約者に、触るな」
「ひっ……!」
殺気。
本物の、殺気が、放たれている。
戦場で、幾万の敵を、屠ってきた男の、純度100パーセントの、殺気。
仕立て屋の青年は、あまりの恐怖に、腰を抜かしそうになっていた。
「こ、公爵様! おやめになってくださいまし!」
私は、慌てて、二人の間に、割って入った。
「これは、お仕事ですわ! 採寸をしなければ、ドレスが作れませんでしょう!」
「……だとしても、だ。男が、気安く、お前の体に、触れるのは、気に食わん」
彼は、むすっとした顔で、そっぽを向いてしまう。
その姿は、まるで、お気に入りのおもちゃを、取られそうになった、子供のようだ。
やきもち。
この人、やきもちを、焼いているんだわ。
その事実に、気づいた瞬間。
私の口元が、自然と、綻んでしまうのを、止められなかった。
なんだか、可笑しくて、そして、たまらなく、愛おしい。
「……分かりましたわ。では、これからは、女性の仕立て屋さんを、呼んでいただくように、お父様にお願いしましょう」
「……いや、そこまでは、言わん」
「まあ、でも、公爵様が、お嫌なのでしょう?」
私が、わざと、意地悪く、そう言うと。
彼は、ますます、気まずそうな顔をして、黙り込んでしまった。
その日の午後。
宝石商が、持ってきた、ネックレスを、私が、試着していた時のこと。
留め金が、うまく、留められないでいると、後ろから、すっと、大きな手が、伸びてきた。
「……貸せ」
アレクシス公爵が、私の後ろに立ち、ネックレスを、受け取った。
そして、その、不器用な指先で、一生懸命、留め金を、留めようとしてくれる。
彼の指が、私の、うなじに、触れるたびに。
私の、心臓が、トクン、と、小さく、跳ねた。
その、真剣な横顔を、鏡越しに見ながら。
私は、この、独占欲が強くて、不器用で、でも、誰よりも、優しい、氷の公爵様のことが。
本当に、どうしようもなく、好きになってしまっているのだと。
改めて、実感させられるのだった。
そして、私たちの戦いの舞台が、王都へと移ることも。
その決定が下された途端、穏やかだったヴァインベルクの屋敷は、にわかに、王都へ戻るための準備で、てんてこ舞いの騒がしさになった。
「イザベラ様、おめでとうございますだ!」
「公爵様と、末永く、お幸せに!」
村人たちは、私たちの婚約を、まるで自分たちのことのように、心から、祝福してくれた。
夜には、村の広場で、ささやかな、しかし、心のこもった祝宴まで、開いてくれたのだ。
その温かさが、これから、魑魅魍魎の巣窟である、王都の社交界へ戻らなければならない私の心を、じんわりと、温めてくれる。
「さて、イザベラ。王都に戻るからには、それ相応の、準備が必要だ」
父が、そう言って、王都から、腕利きの仕立て屋や、宝石商を、何人も、屋敷に呼び寄せた。
宰相派に、舐められないように、という父なりの、配慮なのだろう。
私の部屋は、たちまち、色とりどりのドレス生地や、きらびやかな宝石で、埋め尽くされた。
「イザベラ様、こちらの、深紅のシルクなど、お嬢様の、雪のようなお肌に、さぞ、お似合いかと」
「まあ、素敵ですわね」
私が、仕立て屋の差し出す生地に、目を輝かせていると。
部屋の隅のソファで、腕を組んで、その様子を、じっと見ていた、アレクシス公爵の、機嫌が、見るからに、悪くなっていくのが、分かった。
そして、事件は、採寸の時に、起こった。
「では、イザベラ様、失礼いたします」
仕立て屋の、まだ若い、優男風の男性が、そう言うと、メジャーを手に、私の体に、そっと、触れた。
ウエストのサイズを測るため、彼の腕が、私の腰に、回される。
それは、仕事上、当然の行為。
その、瞬間だった。
「――おい、貴様」
部屋の温度が、すっと、数度、下がった。
声の主は、もちろん、アレクシス公爵だ。
その、地を這うような、低い声には、絶対零度の、怒りが、込められていた。
「な、な、なんでございましょうか、シュヴァルツシルト公爵様……」
仕立て屋の青年が、顔面蒼白になって、震え上がる。
「馴れ馴れしく、俺の婚約者に、触るな」
「ひっ……!」
殺気。
本物の、殺気が、放たれている。
戦場で、幾万の敵を、屠ってきた男の、純度100パーセントの、殺気。
仕立て屋の青年は、あまりの恐怖に、腰を抜かしそうになっていた。
「こ、公爵様! おやめになってくださいまし!」
私は、慌てて、二人の間に、割って入った。
「これは、お仕事ですわ! 採寸をしなければ、ドレスが作れませんでしょう!」
「……だとしても、だ。男が、気安く、お前の体に、触れるのは、気に食わん」
彼は、むすっとした顔で、そっぽを向いてしまう。
その姿は、まるで、お気に入りのおもちゃを、取られそうになった、子供のようだ。
やきもち。
この人、やきもちを、焼いているんだわ。
その事実に、気づいた瞬間。
私の口元が、自然と、綻んでしまうのを、止められなかった。
なんだか、可笑しくて、そして、たまらなく、愛おしい。
「……分かりましたわ。では、これからは、女性の仕立て屋さんを、呼んでいただくように、お父様にお願いしましょう」
「……いや、そこまでは、言わん」
「まあ、でも、公爵様が、お嫌なのでしょう?」
私が、わざと、意地悪く、そう言うと。
彼は、ますます、気まずそうな顔をして、黙り込んでしまった。
その日の午後。
宝石商が、持ってきた、ネックレスを、私が、試着していた時のこと。
留め金が、うまく、留められないでいると、後ろから、すっと、大きな手が、伸びてきた。
「……貸せ」
アレクシス公爵が、私の後ろに立ち、ネックレスを、受け取った。
そして、その、不器用な指先で、一生懸命、留め金を、留めようとしてくれる。
彼の指が、私の、うなじに、触れるたびに。
私の、心臓が、トクン、と、小さく、跳ねた。
その、真剣な横顔を、鏡越しに見ながら。
私は、この、独占欲が強くて、不器用で、でも、誰よりも、優しい、氷の公爵様のことが。
本当に、どうしようもなく、好きになってしまっているのだと。
改めて、実感させられるのだった。
69
あなたにおすすめの小説
『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています
六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。
しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。
「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!
婚約破棄された悪役令嬢、放浪先で最強公爵に溺愛される
鍛高譚
恋愛
「スカーレット・ヨーク、お前との婚約は破棄する!」
王太子アルバートの突然の宣言により、伯爵令嬢スカーレットの人生は一変した。
すべては“聖女”を名乗る平民アメリアの企み。でっち上げられた罪で糾弾され、名誉を失い、実家からも追放されてしまう。
頼る宛もなく王都をさまよった彼女は、行き倒れ寸前のところを隣国ルーヴェル王国の公爵、ゼイン・ファーガスに救われる。
「……しばらく俺のもとで休め。安全は保証する」
冷徹な印象とは裏腹に、ゼインはスカーレットを庇護し、“形だけの婚約者”として身を守ってくれることに。
公爵家で静かな日々を過ごすうちに、スカーレットの聡明さや誇り高さは次第に評価され、彼女自身もゼインに心惹かれていく。
だがその裏で、王太子とアメリアの暴走は止まらず、スカーレットの両親までもが処刑の危機に――!
悪役令嬢の断罪――え、いま婚約破棄と?聞こえませんでしたわ!
ちゃっぴー
恋愛
公爵令嬢アクア・ラズライトは、卒業パーティーの最中に婚約者であるジュリアス殿下から「悪役令嬢」として断罪を突きつけられる。普通なら泣き崩れるか激昂する場面――しかし、超合理的で節約家なアクアは違った。
悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。
槙村まき
恋愛
スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。
それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。
挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。
そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……!
第二章以降は、11時と23時に更新予定です。
他サイトにも掲載しています。
よろしくお願いします。
25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
エアコン魔法、全自動チョコレート製造魔法、魔法の無駄遣い? ――快適な生活のために、全部必要ですわ
鷹 綾
恋愛
「魔法の無駄遣いだ」
そう言われて婚約を破棄され、南方の辺境へ追放された元・聖女エオリア。
けれど本人は、まったく気にしていなかった。
暑いならエアコン魔法を使えばいい。
甘いものが食べたいなら、全自動チョコレート製造魔法を組めばいい。
一つをゆっくり味わっている間に、なぜか大量にできてしまうけれど――
余った分は、捨てずに売ればいいだけの話。
働く気はない。
評価されても困る。
世界を変えるつもりもない。
彼女が望むのは、ただひとつ。
自分が快適に、美味しいものを食べて暮らすこと。
その結果――
勝手に広まるスイーツブーム。
静かに進む元婚約者の没落。
評価だけが上がっていく謎の現象。
それでもエオリアは今日も通常運転。
「魔法の無駄遣い?
――快適な生活のために、全部必要ですわ」
頑張らない。
反省しない。
成長もしない。
それでも最後まで勝ち続ける、
アルファポリス女子読者向け“怠惰ざまぁ”スイーツファンタジー。
死亡予定の脇役令嬢に転生したら、断罪前に裏ルートで皇帝陛下に溺愛されました!?
六角
恋愛
「え、私が…断罪?処刑?――冗談じゃないわよっ!」
前世の記憶が蘇った瞬間、私、公爵令嬢スカーレットは理解した。
ここが乙女ゲームの世界で、自分がヒロインをいじめる典型的な悪役令嬢であり、婚約者のアルフォンス王太子に断罪される未来しかないことを!
その元凶であるアルフォンス王太子と聖女セレスティアは、今日も今日とて私の目の前で愛の劇場を繰り広げている。
「まあアルフォンス様! スカーレット様も本当は心優しい方のはずですわ。わたくしたちの真実の愛の力で彼女を正しい道に導いて差し上げましょう…!」
「ああセレスティア!君はなんて清らかなんだ!よし、我々の愛でスカーレットを更生させよう!」
(…………はぁ。茶番は他所でやってくれる?)
自分たちの恋路に酔いしれ、私を「救済すべき悪」と見なすめでたい頭の二人組。
あなたたちの自己満足のために私の首が飛んでたまるものですか!
絶望の淵でゲームの知識を総動員して見つけ出した唯一の活路。
それは血も涙もない「漆黒の皇帝」と万人に恐れられる若き皇帝ゼノン陛下に接触するという、あまりに危険な【裏ルート】だった。
「命惜しさにこの私に魂でも売りに来たか。愚かで滑稽で…そして実に唆る女だ、スカーレット」
氷の視線に射抜かれ覚悟を決めたその時。
冷酷非情なはずの皇帝陛下はなぜか私の悪あがきを心底面白そうに眺め、その美しい唇を歪めた。
「良いだろう。お前を私の『籠の中の真紅の鳥』として、この手ずから愛でてやろう」
その日から私の運命は激変!
「他の男にその瞳を向けるな。お前のすべては私のものだ」
皇帝陛下からの凄まじい独占欲と息もできないほどの甘い溺愛に、スカーレットの心臓は鳴りっぱなし!?
その頃、王宮では――。
「今頃スカーレットも一人寂しく己の罪を反省しているだろう」
「ええアルフォンス様。わたくしたちが彼女を温かく迎え入れてあげましょうね」
などと最高にズレた会話が繰り広げられていることを、彼らはまだ知らない。
悪役(笑)たちが壮大な勘違いをしている間に、最強の庇護者(皇帝陛下)からの溺愛ルート、確定です!
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる