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第3話 脳筋騎士団長が窓を割ってエントリーしてきました
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ガシャアァァァンッ!!
盛大な破壊音が、私の聖域(部屋)に響き渡った。 かつて魔王軍の幹部すらも防いだはずの私の【絶対領域(サンクチュアリ)】が、物理的な筋肉と愛という名の狂気によって突破された瞬間だった。
飛び散るガラス片が、朝の光を反射してキラキラと輝く。 それはスローモーションのように美しく、そして絶望的な光景だった。
砕け散った窓枠から、一人の男が部屋の中へと着地する。 ドスンッ、という重量感のある音。 床が揺れた。 ペルシャ絨毯が悲鳴を上げた気がする。
男はゆっくりと顔を上げた。 彫刻のように整った顔立ち。 漆黒の髪に、燃えるような紅蓮の瞳。 そして、軍服の上からでも分かる、はち切れんばかりの大胸筋。
我が国の近衛騎士団長にして、『剣聖』の称号を持つ最強の騎士、アレクセイ・フォン・ベルンシュタイン。 そして、私の『2回目の人生』における夫であり、私を過労死に追いやった元凶の一人だ。
「……リズ」
彼は立ち上がると、ガラス片を踏みしめながら一歩、私の方へ近づいた。 その瞳は潤んでいるようにも、獲物を前にした猛獣のようにも見えた。
「ああ、やっと会えた。ずっと、君に会いたかった」
低く、甘く、そして腹の底に響くようなバリトンボイス。 かつての私なら、この声にときめいていただろう。 頼りがいのある背中に、守られたいと願っていただろう。
だが、今の私には分かる。 この男は危険だ。 王太子フレデリックが『精神的な有害物質』だとしたら、こいつは『物理的な破壊兵器』だ。
私は、手に持った護身用魔道具(スタンガン)を背中に隠しつつ、ソファの背もたれまで後ずさった。 冷静になれ。 まずは対話だ。 ここは法治国家であり、彼はその法の番人たる騎士団長なのだから。
「……アレクセイ様。お久しぶりです、と言いたいところですが」
私は震える声を必死に抑え、できるだけ冷淡に告げた。
「そこは玄関ではありません。そして、貴方が今粉砕したのは、公爵家の資産である窓ガラスです。不法侵入と器物損壊で、憲兵を呼びますよ?」
普通の人間なら、ここで自分の非礼を詫びるか、慌てふためくだろう。 しかし、アレクセイはきょとんとした顔をした後、爽やかに笑った。
「何を言っているんだ、リズ。私が憲兵を呼ぶ必要などない。私が憲兵のトップなのだから」
権力の私物化だ。 この国、ろくな高官がいない。
「それに、不法侵入ではない。これは『救出』だ」
「救出?」
「そうだ。君は今、その弱々しい心を守るために、自らをこの部屋に閉じ込めているのだろう? フレデリック殿下の آزな求愛や、世間の雑音から逃れるために」
まあ、当たらずとも遠からずだ。 だが、一番逃れたい対象が目の前にいるという皮肉には気づいていないらしい。
「だから、私が迎えに来た。君を、誰の手も届かない、もっと安全で強固な場所へ連れて行くために」
アレクセイが一歩近づく。 圧迫感がすごい。 彼の背後に、黒いオーラのようなものが見える気がする。
「もっと安全な場所って、どこですか?」
「私の屋敷の地下にある、対魔法生物用の特別隔離室だ」
牢屋じゃないか。 しかも対魔法生物用って、私を何だと思っているんだ。
「あそこなら、窓もないし、壁はミスリル製で音も通さない。君を傷つけるあらゆる外敵を遮断できる。食事も私が直接運ぶし、君は一生、そこから出なくていいんだ」
彼は本気だ。 その瞳には一点の曇りもない。 彼は本気で、それが私への『愛』であり『償い』だと信じているのだ。
――2回目の人生の記憶が蘇る。
あの時もそうだった。 彼は私を愛していた。それは疑いようのない事実だ。 だが、彼の愛し方は不器用で、極端だった。
『リズ、君は聖女として国を救わねばならない。それが君の使命だ』 『辛い? 大丈夫だ、私がついている。さあ、次の戦場へ行こう』 『倒れるまで働く君は美しい。その献身こそが、騎士の妻としての誉れだ』
彼は私を励まし、支え、そして結果的に、死ぬまで走らせ続けた。 彼にとって『守る』とは、私のポテンシャルを最大限に引き出し、国のために使い潰すことだったのだ。
そして、私が死んだ後、彼は気づいたのだろう。 自分が私を守っていたのではなく、追い詰めていたことに。
だからこその、この暴走だ。 「外に出すから死ぬんだ。なら、箱に入れてしまっておけば死なない」という、極端から極端への思考の振り切れ方。 脳みそまで筋肉でできているのか。
「……お断りします」
私ははっきりと告げた。
「私は、この部屋が気に入っています。日当たりもいいし、風通しもいいし(今は窓が割れて寒いくらいだけど)、何よりベッドがふかふかです。地下室なんて真っ平御免です」
「リズ……」
アレクセイが悲しげに眉を寄せた。
「分かってくれないのか。私は、もう二度と君を喪いたくないんだ。君が過労で倒れ、私の腕の中で冷たくなっていく夢を、毎晩見るんだ!」
トラウマになっているのは分かる。 だが、それを私への監禁欲求に変換するのはやめてほしい。
「君はこの部屋が安全だと言うが、現に私はこうして侵入できた。つまり、ここは安全ではないということだ」
それはお前が規格外のゴリラだからだ。
「さあ、おいでリズ。抵抗しなくていい。私が君を抱えていけば、一瞬で屋敷まで着く」
アレクセイが両手を広げ、私を抱き上げようとする。 その腕は丸太のように太く、捕まったら最後、絶対に逃げられないことは明白だった。
対話は決裂した。 やはり、暴力(筋肉)には暴力(科学と魔法)で対抗するしかない。
私は深呼吸をした。 覚悟を決める。 相手は国最強の騎士。 生半可な魔法では防がれるし、斬り裂かれるだろう。
だが、私には勝算があった。 彼は知らないのだ。 私が『引きこもるため』に開発した、えげつない魔道具の存在を。
「……来ないでください」
「遠慮しなくていい」
「本当に、痛い目を見ますよ?」
「ハハハ! 君の猫パンチなど、私にとってはご褒美だ!」
ご褒美とか言っちゃうあたり、もう手遅れだ。 私は背中に隠していた右手を素早く前に突き出した。
握りしめているのは、一見するとただの短い杖。 しかし、その先端には、高純度の雷魔法石が埋め込まれている。 私が前世の記憶(というより、異世界の知識を持っていた母の蔵書)を参考に作った、近接防御用魔道具。
名付けて、『紫電一閃(サンダー・ボルト)・改』。 通称、スタンガンである。
「――喰らえっ!!」
私はアレクセイの無防備な脇腹に、杖の先端を押し当てた。 スイッチ・オン。
バチチチチチチッ!!!!!
青白い閃光が弾け、部屋の中にオゾンの臭いが立ち込める。 通常の人間なら、これで気絶どころか、一週間は起き上がれないほどの高電圧だ。 ドラゴンすら痺れさせる出力を、私は躊躇なく最大レベルで解放した。
「ぬおおおおおおおおっ!?」
さすがのアレクセイも、これには意表を突かれたようだ。 白目を剥き、全身を激しく痙攣させている。 筋肉が収縮し、ビクンビクンと波打っているのが服の上からでも分かる。
「はぁ、はぁ……」
私は数秒間電流を流し続け、彼が膝をついたところでバックステップで距離を取った。
やったか? 煙を上げている騎士団長を見下ろす。 髪の毛が爆発し、アフロのようになっている。
これで少しは大人しくなって、退散してくれればいいのだが。
しかし。 私の淡い期待は、すぐに裏切られた。
「ぐ、ぐぐぐ……」
アレクセイが、ピクピクと震えながら、ゆっくりと顔を上げたのだ。 その顔には、苦痛ではなく、なぜか恍惚とした表情が浮かんでいた。
「……すごい……」
え?
「なんて……なんて熱い衝撃だ……! 身体中を駆け巡る、この痺れるような感覚……! これが……これが君の『愛』なのか、リズ!!」
違います。 電気です。
アレクセイはふらふらと立ち上がった。 人間じゃない。 あの電圧を受けて、なぜ立ち上がれる?
「素晴らしい……! か弱い令嬢だと思っていた君が、これほどの雷魔法を隠し持っていたとは……! やはり君は、私が命をかけて守るに値する女性だ!」
解釈違いが甚だしい。 攻撃されたことを、「自分が守る価値のある強い女性」という評価に繋げるポジティブさが怖い。
「だが、まだ甘いな! 私の筋肉は、雷属性耐性スキル【金剛不壊】によって鍛え上げられている! この程度の愛(電流)では、私を止めることはできないぞ!」
筋肉で電気を防ぐな。 物理法則を無視するな。
アレクセイは、黒焦げになった軍服を脱ぎ捨てた。 下から現れたのは、彫刻のような肉体美。 無駄に輝いている。 何の意味があるんだ、その脱衣は。
「さあ、リズ! もっとだ! もっと君の激しい感情を私にぶつけてくれ! 私がすべて受け止めてみせる!」
彼は両手を広げ、満面の笑みで迫ってくる。 変質者だ。 完全に変質者だ。 騎士団長という肩書きが泣いている。
私は戦慄した。 スタンガンが効かない相手に、どう対抗すればいい? 魔法? いや、彼の魔力抵抗力は騎士団でもトップクラスだ。 中途半端な攻撃魔法は、彼の筋肉という名の鎧に弾かれる。
このままでは、地下室行きだ。 薄暗い独房で、彼手作りのプロテイン入りスープを飲まされる未来が待っている。 それだけは絶対に嫌だ。 私の引きこもりライフは、明るい日差しと甘いお菓子と、自由な二度寝があってこそなのだ。
私は覚悟を決めた。 こうなれば、奥の手を使うしかない。 本来なら家屋へのダメージが大きすぎるため封印していたが、背に腹は代えられない。
「……分かりました。そこまで言うなら、お望み通りにしてあげます」
「おお! 来てくれるか!」
「いいえ。――出て行ってもらいます」
私は両手を前に突き出し、意識を集中させた。 部屋全体を覆っている【絶対領域】の術式を書き換える。 『防御』から『排除』へ。 『固定』から『反発』へ。
イメージするのは、磁石の同極同士が強烈に弾き合う現象。 あるいは、空気の塊を大砲のように撃ち出す衝撃波。
「固有魔法【絶対領域(サンクチュアリ)】――モード・リジェクト!!」
ブォンッ!!
部屋の空気が一瞬にして圧縮され、そして爆発的に膨張した。 標的は、アレクセイただ一人。
彼を中心に、見えない巨人の拳が叩きつけられたかのような衝撃が発生する。
「ぬおっ!?」
さすがのアレクセイも、この質量を持った空気の塊には抗えなかった。 足が床から浮く。 踏ん張ろうとするが、床板がミシミシと悲鳴を上げ、絨毯がめくれ上がる。
「な、なんだこれは!? 空間そのものが私を拒絶しているというのか!?」
「ええ、そうです! 私の部屋(せかい)に、貴方の居場所はありません!」
私は叫びながら、さらに魔力を注ぎ込んだ。 出ていけ。 出ていけ。 私の平穏を乱す筋肉ダルマよ、空の彼方へ飛んでいけ!
「ぐぬぬ……! これが、リズの拒絶……! 痛い、痛いぞ……心臓が……!」
彼は飛ばされまいと、窓枠の残骸にしがみついた。 指が壁に食い込んでいる。 どんな握力だ。
「離しなさいよ!」
「嫌だ! 離したら、君との距離が遠くなってしまう!」
「物理的な距離をとってください!」
「心はいつもそばにいる!」
「それが一番迷惑なんです!」
私は最後の力を振り絞った。 ドガァァンッ!! 破裂音とともに、アレクセイの手が外れた。
「リズゥゥゥゥ――ッ!! 愛しているぞォォォ――ッ!!」
騎士団長は、まるで投石機から放たれた石のように、窓から外へと射出された。 その体は美しい放物線を描き、公爵邸の庭の彼方、噴水のある池の方へと消えていく。
ザッバァァァーンッ!!
遠くで、盛大な水柱が上がるのが見えた。 池に落ちたか。 まあ、彼なら溺れることもないだろうし、水浴びでもして頭を冷やせばいい。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
私は床にへたり込んだ。 魔力を使いすぎた。 視界が少しチカチカする。
しかし、休んでいる暇はない。 目の前には、無惨に破壊された窓がある。 ここからまた誰かが入ってきたら、今度こそ私の精神が崩壊する。
「……修復、開始」
私は震える指で印を結んだ。 【絶対領域】の応用。 時間を巻き戻すような高度な魔法は使えないが、この部屋の中にある物質を『あるべき姿』に固定する力ならある。 散らばったガラス片が宙に浮き、窓枠が元の形に戻っていく。 パズルのピースが埋まるように、カシャン、カシャンと音を立てて、窓が修復されていく。
数秒後。 そこには、何事もなかったかのような綺麗な窓が復活していた。 ついでに、強度を3倍に上げておいた。 次に彼が来たら、拳を粉砕してやる。
「……終わった」
私は大の字になって床に寝転がった。 まだ午前中だというのに、この疲労感は何だ。 王太子に泣かれ、騎士団長に襲撃され、私の引きこもりライフは初日からクライマックスを迎えている。
「平和って、何だっけ……」
天井のシミを見つめながら呟く。 あのシミが、アレクセイの筋肉に見えてきて気持ち悪い。
その時、修復したばかりの窓を、コンコンと叩く音がした。
ヒッ。 私は息を呑んだ。 まさか、もう戻ってきたのか? あの池から、這い上がってきたのか?
恐る恐る窓を見る。 そこには、ずぶ濡れのアレクセイ……ではなく、一羽の青い鳥が止まっていた。 昨日の使い魔だ。
私は安堵のあまり泣きそうになりながら、窓を少しだけ開けた。 鳥はサッと入ってくると、私の顔の前でバサバサと羽ばたき、一枚のメモを落とした。 ノアからの返信だ。
震える手でメモを開く。 そこには、走り書きでこう記されていた。
『やあ、リズ。 君の手紙、王太子に渡しておいたよ。彼、感動して泣いてたけど、大丈夫? それと、面白い情報を一つ。 今、君の屋敷に向かっている馬車があるんだ。 乗っているのは、男爵令嬢マリア。 彼女、「聖女の座を譲るとはどういうつもりか!」ってカンカンだよ。 お土産のケーキは売り切れだったから、代わりにポップコーンを買って近くの木の上から見物させてもらうね。 頑張って、引きこもり姫。 追伸:騎士団長が池から上がって、濡れたシャツを絞りながら「爽快だ!」って笑ってるよ。彼もこっちに向かってるみたい』
私はメモを握りつぶした。
マリア。 本来のヒロインにして、1周目で私を陥れ、2周目では私の補佐官として無能ぶりを晒し散らかした女。 彼女まで来るのか。
しかも、アレクセイもリスポーンしている。 王太子も「また来る」と言っていた。
敵は、波状攻撃を仕掛けてきている。
私は立ち上がった。 休んでいる暇はない。 ポップコーンを食べている場合ではない(ノア、あとで覚えてろよ)。
私はキッチン(部屋に備え付けの簡易的なもの)へ向かい、やかんを火にかけた。 戦闘準備だ。 次なる敵は、話が通じないという点では男たちと同じだが、ベクトルが違う。 『悲劇のヒロインぶる』という厄介な特性を持っているのだ。
私は紅茶を淹れながら、不敵に笑った。 来るなら来い。 聖女の座? 婚約者の座? 欲しければくれてやる。 ただし、私の安眠を妨げる代償は、高くつくと思え。
こうして、私の部屋の前は、攻略対象者たちの行列のできる『聖地』と化していくのだった。
盛大な破壊音が、私の聖域(部屋)に響き渡った。 かつて魔王軍の幹部すらも防いだはずの私の【絶対領域(サンクチュアリ)】が、物理的な筋肉と愛という名の狂気によって突破された瞬間だった。
飛び散るガラス片が、朝の光を反射してキラキラと輝く。 それはスローモーションのように美しく、そして絶望的な光景だった。
砕け散った窓枠から、一人の男が部屋の中へと着地する。 ドスンッ、という重量感のある音。 床が揺れた。 ペルシャ絨毯が悲鳴を上げた気がする。
男はゆっくりと顔を上げた。 彫刻のように整った顔立ち。 漆黒の髪に、燃えるような紅蓮の瞳。 そして、軍服の上からでも分かる、はち切れんばかりの大胸筋。
我が国の近衛騎士団長にして、『剣聖』の称号を持つ最強の騎士、アレクセイ・フォン・ベルンシュタイン。 そして、私の『2回目の人生』における夫であり、私を過労死に追いやった元凶の一人だ。
「……リズ」
彼は立ち上がると、ガラス片を踏みしめながら一歩、私の方へ近づいた。 その瞳は潤んでいるようにも、獲物を前にした猛獣のようにも見えた。
「ああ、やっと会えた。ずっと、君に会いたかった」
低く、甘く、そして腹の底に響くようなバリトンボイス。 かつての私なら、この声にときめいていただろう。 頼りがいのある背中に、守られたいと願っていただろう。
だが、今の私には分かる。 この男は危険だ。 王太子フレデリックが『精神的な有害物質』だとしたら、こいつは『物理的な破壊兵器』だ。
私は、手に持った護身用魔道具(スタンガン)を背中に隠しつつ、ソファの背もたれまで後ずさった。 冷静になれ。 まずは対話だ。 ここは法治国家であり、彼はその法の番人たる騎士団長なのだから。
「……アレクセイ様。お久しぶりです、と言いたいところですが」
私は震える声を必死に抑え、できるだけ冷淡に告げた。
「そこは玄関ではありません。そして、貴方が今粉砕したのは、公爵家の資産である窓ガラスです。不法侵入と器物損壊で、憲兵を呼びますよ?」
普通の人間なら、ここで自分の非礼を詫びるか、慌てふためくだろう。 しかし、アレクセイはきょとんとした顔をした後、爽やかに笑った。
「何を言っているんだ、リズ。私が憲兵を呼ぶ必要などない。私が憲兵のトップなのだから」
権力の私物化だ。 この国、ろくな高官がいない。
「それに、不法侵入ではない。これは『救出』だ」
「救出?」
「そうだ。君は今、その弱々しい心を守るために、自らをこの部屋に閉じ込めているのだろう? フレデリック殿下の آزな求愛や、世間の雑音から逃れるために」
まあ、当たらずとも遠からずだ。 だが、一番逃れたい対象が目の前にいるという皮肉には気づいていないらしい。
「だから、私が迎えに来た。君を、誰の手も届かない、もっと安全で強固な場所へ連れて行くために」
アレクセイが一歩近づく。 圧迫感がすごい。 彼の背後に、黒いオーラのようなものが見える気がする。
「もっと安全な場所って、どこですか?」
「私の屋敷の地下にある、対魔法生物用の特別隔離室だ」
牢屋じゃないか。 しかも対魔法生物用って、私を何だと思っているんだ。
「あそこなら、窓もないし、壁はミスリル製で音も通さない。君を傷つけるあらゆる外敵を遮断できる。食事も私が直接運ぶし、君は一生、そこから出なくていいんだ」
彼は本気だ。 その瞳には一点の曇りもない。 彼は本気で、それが私への『愛』であり『償い』だと信じているのだ。
――2回目の人生の記憶が蘇る。
あの時もそうだった。 彼は私を愛していた。それは疑いようのない事実だ。 だが、彼の愛し方は不器用で、極端だった。
『リズ、君は聖女として国を救わねばならない。それが君の使命だ』 『辛い? 大丈夫だ、私がついている。さあ、次の戦場へ行こう』 『倒れるまで働く君は美しい。その献身こそが、騎士の妻としての誉れだ』
彼は私を励まし、支え、そして結果的に、死ぬまで走らせ続けた。 彼にとって『守る』とは、私のポテンシャルを最大限に引き出し、国のために使い潰すことだったのだ。
そして、私が死んだ後、彼は気づいたのだろう。 自分が私を守っていたのではなく、追い詰めていたことに。
だからこその、この暴走だ。 「外に出すから死ぬんだ。なら、箱に入れてしまっておけば死なない」という、極端から極端への思考の振り切れ方。 脳みそまで筋肉でできているのか。
「……お断りします」
私ははっきりと告げた。
「私は、この部屋が気に入っています。日当たりもいいし、風通しもいいし(今は窓が割れて寒いくらいだけど)、何よりベッドがふかふかです。地下室なんて真っ平御免です」
「リズ……」
アレクセイが悲しげに眉を寄せた。
「分かってくれないのか。私は、もう二度と君を喪いたくないんだ。君が過労で倒れ、私の腕の中で冷たくなっていく夢を、毎晩見るんだ!」
トラウマになっているのは分かる。 だが、それを私への監禁欲求に変換するのはやめてほしい。
「君はこの部屋が安全だと言うが、現に私はこうして侵入できた。つまり、ここは安全ではないということだ」
それはお前が規格外のゴリラだからだ。
「さあ、おいでリズ。抵抗しなくていい。私が君を抱えていけば、一瞬で屋敷まで着く」
アレクセイが両手を広げ、私を抱き上げようとする。 その腕は丸太のように太く、捕まったら最後、絶対に逃げられないことは明白だった。
対話は決裂した。 やはり、暴力(筋肉)には暴力(科学と魔法)で対抗するしかない。
私は深呼吸をした。 覚悟を決める。 相手は国最強の騎士。 生半可な魔法では防がれるし、斬り裂かれるだろう。
だが、私には勝算があった。 彼は知らないのだ。 私が『引きこもるため』に開発した、えげつない魔道具の存在を。
「……来ないでください」
「遠慮しなくていい」
「本当に、痛い目を見ますよ?」
「ハハハ! 君の猫パンチなど、私にとってはご褒美だ!」
ご褒美とか言っちゃうあたり、もう手遅れだ。 私は背中に隠していた右手を素早く前に突き出した。
握りしめているのは、一見するとただの短い杖。 しかし、その先端には、高純度の雷魔法石が埋め込まれている。 私が前世の記憶(というより、異世界の知識を持っていた母の蔵書)を参考に作った、近接防御用魔道具。
名付けて、『紫電一閃(サンダー・ボルト)・改』。 通称、スタンガンである。
「――喰らえっ!!」
私はアレクセイの無防備な脇腹に、杖の先端を押し当てた。 スイッチ・オン。
バチチチチチチッ!!!!!
青白い閃光が弾け、部屋の中にオゾンの臭いが立ち込める。 通常の人間なら、これで気絶どころか、一週間は起き上がれないほどの高電圧だ。 ドラゴンすら痺れさせる出力を、私は躊躇なく最大レベルで解放した。
「ぬおおおおおおおおっ!?」
さすがのアレクセイも、これには意表を突かれたようだ。 白目を剥き、全身を激しく痙攣させている。 筋肉が収縮し、ビクンビクンと波打っているのが服の上からでも分かる。
「はぁ、はぁ……」
私は数秒間電流を流し続け、彼が膝をついたところでバックステップで距離を取った。
やったか? 煙を上げている騎士団長を見下ろす。 髪の毛が爆発し、アフロのようになっている。
これで少しは大人しくなって、退散してくれればいいのだが。
しかし。 私の淡い期待は、すぐに裏切られた。
「ぐ、ぐぐぐ……」
アレクセイが、ピクピクと震えながら、ゆっくりと顔を上げたのだ。 その顔には、苦痛ではなく、なぜか恍惚とした表情が浮かんでいた。
「……すごい……」
え?
「なんて……なんて熱い衝撃だ……! 身体中を駆け巡る、この痺れるような感覚……! これが……これが君の『愛』なのか、リズ!!」
違います。 電気です。
アレクセイはふらふらと立ち上がった。 人間じゃない。 あの電圧を受けて、なぜ立ち上がれる?
「素晴らしい……! か弱い令嬢だと思っていた君が、これほどの雷魔法を隠し持っていたとは……! やはり君は、私が命をかけて守るに値する女性だ!」
解釈違いが甚だしい。 攻撃されたことを、「自分が守る価値のある強い女性」という評価に繋げるポジティブさが怖い。
「だが、まだ甘いな! 私の筋肉は、雷属性耐性スキル【金剛不壊】によって鍛え上げられている! この程度の愛(電流)では、私を止めることはできないぞ!」
筋肉で電気を防ぐな。 物理法則を無視するな。
アレクセイは、黒焦げになった軍服を脱ぎ捨てた。 下から現れたのは、彫刻のような肉体美。 無駄に輝いている。 何の意味があるんだ、その脱衣は。
「さあ、リズ! もっとだ! もっと君の激しい感情を私にぶつけてくれ! 私がすべて受け止めてみせる!」
彼は両手を広げ、満面の笑みで迫ってくる。 変質者だ。 完全に変質者だ。 騎士団長という肩書きが泣いている。
私は戦慄した。 スタンガンが効かない相手に、どう対抗すればいい? 魔法? いや、彼の魔力抵抗力は騎士団でもトップクラスだ。 中途半端な攻撃魔法は、彼の筋肉という名の鎧に弾かれる。
このままでは、地下室行きだ。 薄暗い独房で、彼手作りのプロテイン入りスープを飲まされる未来が待っている。 それだけは絶対に嫌だ。 私の引きこもりライフは、明るい日差しと甘いお菓子と、自由な二度寝があってこそなのだ。
私は覚悟を決めた。 こうなれば、奥の手を使うしかない。 本来なら家屋へのダメージが大きすぎるため封印していたが、背に腹は代えられない。
「……分かりました。そこまで言うなら、お望み通りにしてあげます」
「おお! 来てくれるか!」
「いいえ。――出て行ってもらいます」
私は両手を前に突き出し、意識を集中させた。 部屋全体を覆っている【絶対領域】の術式を書き換える。 『防御』から『排除』へ。 『固定』から『反発』へ。
イメージするのは、磁石の同極同士が強烈に弾き合う現象。 あるいは、空気の塊を大砲のように撃ち出す衝撃波。
「固有魔法【絶対領域(サンクチュアリ)】――モード・リジェクト!!」
ブォンッ!!
部屋の空気が一瞬にして圧縮され、そして爆発的に膨張した。 標的は、アレクセイただ一人。
彼を中心に、見えない巨人の拳が叩きつけられたかのような衝撃が発生する。
「ぬおっ!?」
さすがのアレクセイも、この質量を持った空気の塊には抗えなかった。 足が床から浮く。 踏ん張ろうとするが、床板がミシミシと悲鳴を上げ、絨毯がめくれ上がる。
「な、なんだこれは!? 空間そのものが私を拒絶しているというのか!?」
「ええ、そうです! 私の部屋(せかい)に、貴方の居場所はありません!」
私は叫びながら、さらに魔力を注ぎ込んだ。 出ていけ。 出ていけ。 私の平穏を乱す筋肉ダルマよ、空の彼方へ飛んでいけ!
「ぐぬぬ……! これが、リズの拒絶……! 痛い、痛いぞ……心臓が……!」
彼は飛ばされまいと、窓枠の残骸にしがみついた。 指が壁に食い込んでいる。 どんな握力だ。
「離しなさいよ!」
「嫌だ! 離したら、君との距離が遠くなってしまう!」
「物理的な距離をとってください!」
「心はいつもそばにいる!」
「それが一番迷惑なんです!」
私は最後の力を振り絞った。 ドガァァンッ!! 破裂音とともに、アレクセイの手が外れた。
「リズゥゥゥゥ――ッ!! 愛しているぞォォォ――ッ!!」
騎士団長は、まるで投石機から放たれた石のように、窓から外へと射出された。 その体は美しい放物線を描き、公爵邸の庭の彼方、噴水のある池の方へと消えていく。
ザッバァァァーンッ!!
遠くで、盛大な水柱が上がるのが見えた。 池に落ちたか。 まあ、彼なら溺れることもないだろうし、水浴びでもして頭を冷やせばいい。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
私は床にへたり込んだ。 魔力を使いすぎた。 視界が少しチカチカする。
しかし、休んでいる暇はない。 目の前には、無惨に破壊された窓がある。 ここからまた誰かが入ってきたら、今度こそ私の精神が崩壊する。
「……修復、開始」
私は震える指で印を結んだ。 【絶対領域】の応用。 時間を巻き戻すような高度な魔法は使えないが、この部屋の中にある物質を『あるべき姿』に固定する力ならある。 散らばったガラス片が宙に浮き、窓枠が元の形に戻っていく。 パズルのピースが埋まるように、カシャン、カシャンと音を立てて、窓が修復されていく。
数秒後。 そこには、何事もなかったかのような綺麗な窓が復活していた。 ついでに、強度を3倍に上げておいた。 次に彼が来たら、拳を粉砕してやる。
「……終わった」
私は大の字になって床に寝転がった。 まだ午前中だというのに、この疲労感は何だ。 王太子に泣かれ、騎士団長に襲撃され、私の引きこもりライフは初日からクライマックスを迎えている。
「平和って、何だっけ……」
天井のシミを見つめながら呟く。 あのシミが、アレクセイの筋肉に見えてきて気持ち悪い。
その時、修復したばかりの窓を、コンコンと叩く音がした。
ヒッ。 私は息を呑んだ。 まさか、もう戻ってきたのか? あの池から、這い上がってきたのか?
恐る恐る窓を見る。 そこには、ずぶ濡れのアレクセイ……ではなく、一羽の青い鳥が止まっていた。 昨日の使い魔だ。
私は安堵のあまり泣きそうになりながら、窓を少しだけ開けた。 鳥はサッと入ってくると、私の顔の前でバサバサと羽ばたき、一枚のメモを落とした。 ノアからの返信だ。
震える手でメモを開く。 そこには、走り書きでこう記されていた。
『やあ、リズ。 君の手紙、王太子に渡しておいたよ。彼、感動して泣いてたけど、大丈夫? それと、面白い情報を一つ。 今、君の屋敷に向かっている馬車があるんだ。 乗っているのは、男爵令嬢マリア。 彼女、「聖女の座を譲るとはどういうつもりか!」ってカンカンだよ。 お土産のケーキは売り切れだったから、代わりにポップコーンを買って近くの木の上から見物させてもらうね。 頑張って、引きこもり姫。 追伸:騎士団長が池から上がって、濡れたシャツを絞りながら「爽快だ!」って笑ってるよ。彼もこっちに向かってるみたい』
私はメモを握りつぶした。
マリア。 本来のヒロインにして、1周目で私を陥れ、2周目では私の補佐官として無能ぶりを晒し散らかした女。 彼女まで来るのか。
しかも、アレクセイもリスポーンしている。 王太子も「また来る」と言っていた。
敵は、波状攻撃を仕掛けてきている。
私は立ち上がった。 休んでいる暇はない。 ポップコーンを食べている場合ではない(ノア、あとで覚えてろよ)。
私はキッチン(部屋に備え付けの簡易的なもの)へ向かい、やかんを火にかけた。 戦闘準備だ。 次なる敵は、話が通じないという点では男たちと同じだが、ベクトルが違う。 『悲劇のヒロインぶる』という厄介な特性を持っているのだ。
私は紅茶を淹れながら、不敵に笑った。 来るなら来い。 聖女の座? 婚約者の座? 欲しければくれてやる。 ただし、私の安眠を妨げる代償は、高くつくと思え。
こうして、私の部屋の前は、攻略対象者たちの行列のできる『聖地』と化していくのだった。
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