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第6話 差し入れ合戦により、廊下が埋まりました
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ズズズ……ズズズズ……。
不穏な音が廊下を侵食してくる。 何か、とてつもなく重いものを、床を引きずりながら運んでいるような音だ。 それは一つや二つではない。 まるで巨大な蛇の群れが、這いずり回っているかのような重低音。
私は警戒態勢を解かぬまま、ドアの向こうの気配を探った。 右手のスタンガン(改)には魔力を充填済み。左手の枕は投擲準備完了。
「……マリア、状況報告」
私はドア越しに声をかけた。 私の安眠親衛隊長は、先ほど群衆整理に出て行ったはずだが、この異様な音の正体を知っているはずだ。
「は、はいっ! エリザベートお姉様! ただいま戻りました!」
マリアの声が弾んでいる。 しかし、その背後からは「うおぉぉ!」「重い!」「腰を入れるんだ!」という野太い男たちの掛け声が聞こえてくる。
「何なの、これ。工事現場?」
「いいえ! 愛の結晶ですわ!」
嫌な予感しかしない単語が出た。
「あのですね、お姉様。先ほどの『豆騒動』によるお姉様の聖女認定と、池ポチャ事件から生還した騎士団長の武勇伝が合わさって、ちょっとした『貢ぎ物ブーム』が起きているのです」
「貢ぎ物?」
「はい。まず、先陣を切って到着されたのが、騎士団長アレクセイ様の部隊です。どうぞご覧くださいませ!」
マリアが嬉々として言う。 見るも何も、ドアは閉まっているし、開ける気もない。 私は仕方なく、ドアの結界を『映像透過モード』に切り替えた。 壁の一部が透明になり、廊下の惨状が映し出される。
そこは、武器庫だった。 あるいは、魔物の解体場だった。
「……は?」
私の口から、乾いた音が漏れた。 美しい大理石の廊下が、血痕……ではなく、赤黒い液体が滴る巨大な肉塊や、禍々しいオーラを放つ黒鉄の鎧、そして凶悪な棘のついた棍棒などで埋め尽くされている。
その中心で、仁王立ちしている男がいた。 アレクセイだ。 着替えたらしい軍服はパリッとしているが、その背後にはドラゴン(小型種)の首がゴロリと転がっている。
「リズ! 聞こえているか!」
アレクセイが叫んだ。 廊下に響くバリトンボイスが、窓ガラスを微振動させる。
「先日の君からの『愛の拒絶(衝撃波)』、実に素晴らしかった! あの威力、あの反発力……君には護身術の才能がある!」
才能も何も、全力で排除しただけだ。
「だが、まだ装備が甘い! 君のような可憐な花には、それ相応の棘が必要だ! そこで、私が厳選した『初心者向け防衛セット』を持ってきたぞ!」
彼は足元のドラゴンの首を、ボールのようにポンと蹴った。
「まずはこれだ。ワイバーンの首級(しゅきゅう)。これを部屋に飾っておけば、魔除けになるし、適度な威圧感を演出できる。インテリアとしても最高だ!」
最高なわけがない。 腐るだろ、それ。
「次に、この『呪われた黒鉄のフルプレートメイル』。かつて狂戦士が愛用していた一品だが、私が呪いをねじ伏せておいた。これを着て寝れば、刺客に寝込みを襲われても無傷だ!」
着て寝られるか。 重さで圧死するわ。
「そして極めつけは、この『オーガの金棒』だ。君の華奢な腕でも振れるように軽量化(といっても50キロはある)しておいた。接近戦になったら、これで相手の頭蓋を粉砕するといい!」
アレクセイは、まるで恋人に花束を贈るような笑顔で、殺戮兵器の数々を紹介していく。 彼の部下たちが、せっせとそれらを私の部屋のドアの前に積み上げていく。 バリケードか? これは、私を部屋から出さないための新たな封印術式なのか?
「……マリア」
私は震える声で呼びかけた。
「はい、お姉様! 素晴らしいですね! どれも強そうです!」
「捨ててきて」
「えっ?」
「今すぐ、全部。燃えるゴミの日に出してきて。特にあの生首は衛生的に無理」
「そ、そんな! アレクセイ様の愛がこもっていますのに!」
「愛が重いのよ! 物理的に!」
私が叫ぼうとしたその時、廊下の反対側から、また別の集団が現れた。 今度は、甘い香りとともに。
「お待ちください! そのような野蛮な鉄屑、リズの部屋の前に置くなど言語道断!」
フレデリックだ。 彼は王室御用達のパティシエや、高級ブティックの店員を引き連れて登場した。
「リズ! すまなかった! 北部の視察へ行こうと思ったのだが、君が『部屋から出たくない』と言うなら、私がここで君の生活を支えるべきだと気づいたんだ!」
いや、行ってくれよ。 農業指導してこいよ。
「見てくれ。君の疲れた心と体を癒やすために、国中から集めた至高のスイーツと、最高級のシルク製品だ!」
フレデリックが指を鳴らすと、従者たちがうやうやしくワゴンを運んでくる。 そこには、宝石のように輝くケーキ、タルト、マカロン、そしてとろけるようなチョコレートが山のように積まれている。 さらに、別のワゴンには、肌触りの良さそうなガウンや、羽毛布団、ふわふわのクッションが満載だ。
「おお……」
私は思わずゴクリと喉を鳴らした。 アレクセイの『殺戮セット』とは大違いだ。 これぞ、引きこもりが求めていた物資である。
しかし、フレデリックは勝ち誇ったようにアレクセイを睨みつけた。
「騎士団長。君の贈り物は無粋だ。リズは戦士ではない。深窓の令嬢だ。必要なのは、安らぎと甘美な時間だろう」
「何を言うか、殿下。平和ボケしていては、いざという時に大切な人を守れんぞ。リズに必要なのは『力』だ。自分の身を守れるだけの暴力だ!」
「暴力など野蛮な! 彼女は聖女だぞ!」
「聖女だからこそ狙われるのだ! 見ろ、あのワイバーンの首を。リズなら、あれを枕にして寝るくらいの胆力がある!」
ないわ。 絶対にない。
廊下で、王太子と騎士団長による舌戦が始まった。 その間にも、双方の部下たちが「負けてたまるか」とばかりに、次々と物資を運び込んでくる。
ドサッ。ガチャン。 ズズズッ。 コトッ。
鎧の上にケーキの箱が置かれ、シルクのガウンの上に金棒が倒れかかる。 カオスだ。 私の部屋の前の廊下が、ゴミ屋敷化していく。 このままでは、ドアが開かなくなるどころか、廊下が物理的に埋没してしまう。
私は頭を抱えた。 どうする? このまま放置すれば、腐臭と甘い匂いが混ざり合った地獄のような空間が完成してしまう。
欲しいのはスイーツと寝具だけだ。 武具と生首はいらない。 だが、選別しに外へ出れば、彼らに捕まる。
……やるしかないか。 私は覚悟を決めた。 魔法による『遠隔選別・強制排除』を行う。
私はドアの前に立ち、深呼吸をして魔力を練り上げた。 イメージするのは、クレーンゲームのアーム。 そして、ゴミ焼却炉のシュート。
「マリア! 避けてなさい!」
「はいっ!?」
マリアが壁際に退避したのを確認し、私は術式を発動させた。
「固有魔法【絶対領域(サンクチュアリ)】――応用術式『聖なる選別(ディバイン・ソーティング)』!!」
シュンッ!
ドアの下から、無数の光の触手が伸びた。 それらは意思を持った蛇のように廊下を這い回り、瞬時に物資を見極めていく。
甘い匂いのするもの。ふわふわしたもの。 → 【合格】 鉄の臭いのするもの。血生臭いもの。硬いもの。 → 【不合格】
次の瞬間、光の触手は【合格】判定のスイーツや寝具だけを優しく絡め取り、亜空間収納のような要領で、ドアをすり抜けて私の部屋へと転送した。 私の足元に、ケーキの箱や高級羽毛布団が積み上がる。 よし、確保完了。
そして、【不合格】判定の武具と生首に対しては。
ドォォォォォンッ!!
結界が外向きに衝撃波を放ち、それらをまとめて吹き飛ばした。 まるで、巨大な箒でゴミを掃き出すかのように。
「ぬおっ!?」 「うわぁぁぁ!」
アレクセイとフレデリック、そして部下たちが、転がってきた鎧や金棒に巻き込まれてひっくり返る。 廊下は大混乱だ。
「……ふぅ」
私は額の汗を拭った。 部屋の中には、戦利品であるスイーツの山。 外には、掃き出された粗大ゴミの山。 完璧な仕分けだ。
私は早速、フレデリックから贈られた『王室特製モンブラン』の箱を開けた。 黄金色の栗のペーストが美しく絞られている。 一口食べる。 ……絶品だ。 口の中で栗の香りが爆発し、上品な甘さが広がる。 フレデリック本人にはムカつくが、彼の権力と財力がもたらす味覚には罪はない。
「……ありがとう、殿下。ごちそうさま」
私は小声で礼を言い、二個目のケーキに手を伸ばした。 外の惨状は見なかったことにする。 それが、賢い引きこもりの処世術だ。
――しかし。 私の行動は、またしても予期せぬ化学反応を引き起こしてしまった。
廊下にて。 武器の山に埋もれていた騎士たちが、ヨロヨロと立ち上がる。 彼らは、自分たちが運んできた武具が突き返されたことにショックを受けていた……わけではなかった。
「……見ろ。聖女様が、選別されたぞ」
一人の兵士が、吹き飛ばされた『呪われた黒鉄のフルプレートメイル』を拾い上げて呟いた。
「我々が持ってきた武器を、聖女様は『これはお前たちが使いなさい』と、我々に返してくださったのだ!」
え? 違うよ? いらないから捨てたんだよ?
「そうだ……! 聖女様は、ご自身の身を守ることよりも、我々騎士団の強化を望んでおられるのだ!」
「なんて慈悲深い……!」 「自分の部屋にはお菓子(平和の象徴)だけを残し、武力(争いの象徴)は我々に託されたのだ!」
兵士たちの目が、感動で潤み始める。 集団幻覚だ。 都合のいい解釈にも程がある。
「団長! この鎧、私が装備してもよろしいでしょうか!」 「このオーガの金棒、私が使わせていただきます!」 「ワイバーンの首は……ええと、兜の飾りにします!」
アレクセイが、瓦礫の山から立ち上がり、ニヤリと笑った。
「いいだろう。リズの意思、確かに受け取った。彼女は我々に『強くなれ』と言っているのだ。彼女を守る最強の盾となれ、と!」
「オオオオオッ!!」
野太い雄叫びが上がる。 その場で、即席の装備会が始まった。 ただでさえ屈強な近衛騎士たちが、アレクセイが厳選した(呪われていたり癖が強すぎたりする)魔剣や魔鎧を身につけていく。 聖女の魔力(結界の余波)を浴びたせいか、武具たちが青白く発光し始めている。
結果。 私の部屋の前に、魔王軍も裸足で逃げ出すような『暗黒重装騎士団』が爆誕してしまった。
彼らは全身を黒い鎧で覆い、片手には身の丈ほどの剣や斧を持ち、瞳には狂信的な光を宿している。 もはや王国の騎士には見えない。 完全に悪の組織のエリート部隊だ。
「我ら、聖女リズ直属・安眠守護騎士団!」 「聖女様の昼寝を妨げる者は、神に代わって粉砕する!」
勝手に騎士団名までついた。 しかも、マリアの「親衛隊」と微妙にコンセプトが被っている。
マリアが、真っ青な顔で私に報告してくる。
「お、お姉様……。騎士の方々が、なんだか禍々しい姿に進化してしまいましたわ。あの装備、物理的にも魔力的にも強すぎます……。あれじゃあ、お茶汲みの侍女すら近づけませんわ」
「……どうしてこうなるの」
私はモンブランの味も忘れて、頭を抱えた。 ゴミを捨てたつもりが、最強の番犬(狂犬)を飼うことになってしまった。
しかも、フレデリックの方も負けてはいなかった。 彼は、スイーツだけが受け取られたことに感動し、別のベクトルで暴走を始めていた。
「見たか! リズは私の愛(スイーツ)を受け入れてくれた! やはり彼女は、私の甘い囁きを求めているのだ!」
スイーツは求めているが、お前の囁きはいらない。
「よし、分かったぞ。リズは今、糖分を必要としている。つまり、思考をフル回転させて国の未来を憂いているのだ! ならば、もっと送ろう! 国中の砂糖を買い占めてでも、彼女の脳にエネルギーを供給するのだ!」
「殿下、それでは糖尿病になってしまわれます!」
「ええい、うるさい! 聖女は病になどならん! パティシエ部隊、前へ! これより、この廊下に『キッチンスタジオ』を設営する!」
「はっ!?」
「出来たてのスイーツを、1秒のロスもなくリズに届けるためだ! ここで焼いて、香りをドアの下から送り込むのだ!」
本気か。 私の部屋の前の廊下が、今度は厨房になろうとしている。
右側には、暗黒騎士団が殺気を放って整列し。 左側には、王室パティシエたちがオーブンや調理器具を展開し、甘い香りを漂わせる。 そして中央には、カオスな状況に目を回しているマリア。
騒音。 熱気。 異臭(血とバニラの香り)。 殺気と甘さの不協和音。
……無理だ。 こんな環境で、安らかな引きこもり生活など送れるはずがない。 限界だ。 私の精神力(サンクチュアリ)が崩壊する前に、手を打たねばならない。
私は、ポケットに入れていたノアからの贈り物――『空間拡張』と『認識阻害』の魔法石を取り出した。 青く透き通るその石は、ひんやりと冷たい。
「……ノア。貴方の提案、乗らせてもらうわ」
私は決意した。 もう、この場所(物理座標)に留まることは不可能だ。 私の部屋を、この屋敷から――いや、この世界から切り離す。 『異空間』への引っ越しだ。
私は魔法石を床の中央に置き、両手をかざした。 2周目の知識を総動員し、複雑な術式を構築する。 【絶対領域】の結界をベースに、魔法石の力を増幅させ、空間そのものを歪曲させる。
「我は拒絶する。喧騒を、干渉を、束縛を」 「我は希求する。静寂を、孤独を、自由を」 「開け、境界の扉。ここは誰の目にも映らぬ、虚数空間の彼方なり」
詠唱とともに、魔法石が強烈な光を放ち始めた。 部屋の空気が振動し、壁や天井がぐにゃりと歪む感覚。 まるで、水の中に潜ったときのように、外の音が遠ざかっていく。
ズズズズズ……。 部屋全体が、次元の裂け目へと沈んでいくような浮遊感。
成功か? 私は期待に胸を膨らませた。 これで、外からは私の部屋が『認識できなく』なり、物理的にも干渉できなくなるはずだ。 ドアを開けても、そこにはただの壁があるだけ。 私は異空間の中で、誰にも邪魔されずに永遠のティータイムを楽しめる……!
しかし。 私が安堵したその瞬間。 外から、悲鳴にも似た絶叫が聞こえてきた。
「き、消えたぁぁぁぁっ!?」
フレデリックの声だ。
「ドアが! リズの部屋のドアが、霞のように消えてしまった!?」
「なんだと!?」
アレクセイの怒号。
「壁だ! ドアがあった場所が、ただの壁になっている! リズはどこだ!? 私の愛するリズはどこへ行った!?」
「神隠しか!? いや、これは……昇天だ!」
「昇天!?」
「聖女様が、あまりの俗世の穢れ(主に我々の騒音)に絶望し、天界へと帰還されてしまったのだぁぁぁ!!」
兵士たちが泣き叫ぶ声が響く。
「嫌だぁぁぁ! リズゥゥゥ! 行かないでくれぇぇぇ!」 「聖女様ァァァ! お許しくださいィィィ!」
ドンドンドンドン! 壁(かつてドアがあった場所)を叩く音。 だが、今の私の部屋は位相がズレているため、その音はくぐもって聞こえる。
やった。 成功だ。 彼らはもう、私に触れることはできない。
私は勝利のガッツポーズをした。 ……はずだった。
ピシッ。
乾いた音が、私の部屋の空間から聞こえた。 え? 見上げると、歪んだ空間の天井に、亀裂が入っている。
ピシピシピシッ! 亀裂は急速に広がり、そこから眩い光が漏れ出してくる。
まさか。 ノアの魔法石の出力が足りなかったのか? それとも、外にいる連中の『執着心』という名のエネルギーが、次元の壁をも超えて干渉してきているのか?
「……嘘でしょ」
私は青ざめた。
「リズ! そこにいるんだろう! 気配を感じるぞ! 魂が呼応している!」 「気合だ! 気合で次元をこじ開けろ! 愛に不可能はない!」
外からの声が、物理的な振動となって空間を揺らす。 アレクセイが壁を殴り、フレデリックが愛を叫び、兵士たちが祈りを捧げる。 その巨大なエネルギーの奔流が、私の未完成な異空間結界を圧迫していく。
バリバリバリッ!!
空間が悲鳴を上げる。 これはまずい。 このまま結界が強制解除されれば、その反動で部屋ごと吹き飛ぶかもしれない。
「ちょ、ちょっと待って! ストップ! 落ち着いて!」
私は慌てて魔法石の出力を下げようとしたが、暴走した魔力は止まらない。 そして。
パァァァンッ!!
盛大な破裂音とともに、私の『異空間』は弾け飛んだ。 景色が元に戻る。 消えていたはずのドアが、再び現実に姿を現す。
そして、その衝撃で。 私の部屋のドアが、蝶番ごと外れて、バタンと廊下側に倒れた。
……オープン。 フルオープンだ。
静寂。 今度こそ、本当の静寂が訪れた。
部屋の中央で、魔法石を持って呆然と立ち尽くす私(パジャマ姿、口元にモンブランのクリーム付き)。 廊下で、壁を叩こうとして拳を振り上げていた男たち。 視線が交差する。
「……あ」
私が小さく声を漏らした瞬間。
「リズゥゥゥゥ――ッ!!」 「生きていたぁぁぁ――ッ!!」 「聖女様がお戻りになられたぞォォォ――ッ!!」
爆発的な歓声が上がった。 フレデリックが、アレクセイが、マリアが、そして黒騎士たちが、涙と鼻水を流しながら、雪崩のように部屋の中へとなだれ込んできた。
「良かった! 本当に良かった!」 「もう二度と離さない!」 「お姉様、奇跡の生還ですわ!」
もみくちゃだ。 クリームまみれの私の周りに、男たちのむさ苦しい体温と、マリアの香水の匂いが殺到する。 私の『絶対領域』は、内側からの崩壊によって無効化されていた。 無防備な引きこもりに、社会の荒波が直撃する。
「……誰か」
私は人波に埋もれながら、天井に向かって手を伸ばした。
「誰か……私を、牢屋に入れて……」
その願いも虚しく、私は彼らの『愛』という名の重圧に押しつぶされ、意識を遠のかせたのだった。
こうして。 私の「異空間逃亡計画」は失敗に終わり、逆に「天界から帰還した奇跡の聖女」という、さらに厄介な伝説が追加されることになったのである。 あと、倒れたドアの下敷きになった高級モンブランの仇は、いつか必ず取ると心に誓った。
不穏な音が廊下を侵食してくる。 何か、とてつもなく重いものを、床を引きずりながら運んでいるような音だ。 それは一つや二つではない。 まるで巨大な蛇の群れが、這いずり回っているかのような重低音。
私は警戒態勢を解かぬまま、ドアの向こうの気配を探った。 右手のスタンガン(改)には魔力を充填済み。左手の枕は投擲準備完了。
「……マリア、状況報告」
私はドア越しに声をかけた。 私の安眠親衛隊長は、先ほど群衆整理に出て行ったはずだが、この異様な音の正体を知っているはずだ。
「は、はいっ! エリザベートお姉様! ただいま戻りました!」
マリアの声が弾んでいる。 しかし、その背後からは「うおぉぉ!」「重い!」「腰を入れるんだ!」という野太い男たちの掛け声が聞こえてくる。
「何なの、これ。工事現場?」
「いいえ! 愛の結晶ですわ!」
嫌な予感しかしない単語が出た。
「あのですね、お姉様。先ほどの『豆騒動』によるお姉様の聖女認定と、池ポチャ事件から生還した騎士団長の武勇伝が合わさって、ちょっとした『貢ぎ物ブーム』が起きているのです」
「貢ぎ物?」
「はい。まず、先陣を切って到着されたのが、騎士団長アレクセイ様の部隊です。どうぞご覧くださいませ!」
マリアが嬉々として言う。 見るも何も、ドアは閉まっているし、開ける気もない。 私は仕方なく、ドアの結界を『映像透過モード』に切り替えた。 壁の一部が透明になり、廊下の惨状が映し出される。
そこは、武器庫だった。 あるいは、魔物の解体場だった。
「……は?」
私の口から、乾いた音が漏れた。 美しい大理石の廊下が、血痕……ではなく、赤黒い液体が滴る巨大な肉塊や、禍々しいオーラを放つ黒鉄の鎧、そして凶悪な棘のついた棍棒などで埋め尽くされている。
その中心で、仁王立ちしている男がいた。 アレクセイだ。 着替えたらしい軍服はパリッとしているが、その背後にはドラゴン(小型種)の首がゴロリと転がっている。
「リズ! 聞こえているか!」
アレクセイが叫んだ。 廊下に響くバリトンボイスが、窓ガラスを微振動させる。
「先日の君からの『愛の拒絶(衝撃波)』、実に素晴らしかった! あの威力、あの反発力……君には護身術の才能がある!」
才能も何も、全力で排除しただけだ。
「だが、まだ装備が甘い! 君のような可憐な花には、それ相応の棘が必要だ! そこで、私が厳選した『初心者向け防衛セット』を持ってきたぞ!」
彼は足元のドラゴンの首を、ボールのようにポンと蹴った。
「まずはこれだ。ワイバーンの首級(しゅきゅう)。これを部屋に飾っておけば、魔除けになるし、適度な威圧感を演出できる。インテリアとしても最高だ!」
最高なわけがない。 腐るだろ、それ。
「次に、この『呪われた黒鉄のフルプレートメイル』。かつて狂戦士が愛用していた一品だが、私が呪いをねじ伏せておいた。これを着て寝れば、刺客に寝込みを襲われても無傷だ!」
着て寝られるか。 重さで圧死するわ。
「そして極めつけは、この『オーガの金棒』だ。君の華奢な腕でも振れるように軽量化(といっても50キロはある)しておいた。接近戦になったら、これで相手の頭蓋を粉砕するといい!」
アレクセイは、まるで恋人に花束を贈るような笑顔で、殺戮兵器の数々を紹介していく。 彼の部下たちが、せっせとそれらを私の部屋のドアの前に積み上げていく。 バリケードか? これは、私を部屋から出さないための新たな封印術式なのか?
「……マリア」
私は震える声で呼びかけた。
「はい、お姉様! 素晴らしいですね! どれも強そうです!」
「捨ててきて」
「えっ?」
「今すぐ、全部。燃えるゴミの日に出してきて。特にあの生首は衛生的に無理」
「そ、そんな! アレクセイ様の愛がこもっていますのに!」
「愛が重いのよ! 物理的に!」
私が叫ぼうとしたその時、廊下の反対側から、また別の集団が現れた。 今度は、甘い香りとともに。
「お待ちください! そのような野蛮な鉄屑、リズの部屋の前に置くなど言語道断!」
フレデリックだ。 彼は王室御用達のパティシエや、高級ブティックの店員を引き連れて登場した。
「リズ! すまなかった! 北部の視察へ行こうと思ったのだが、君が『部屋から出たくない』と言うなら、私がここで君の生活を支えるべきだと気づいたんだ!」
いや、行ってくれよ。 農業指導してこいよ。
「見てくれ。君の疲れた心と体を癒やすために、国中から集めた至高のスイーツと、最高級のシルク製品だ!」
フレデリックが指を鳴らすと、従者たちがうやうやしくワゴンを運んでくる。 そこには、宝石のように輝くケーキ、タルト、マカロン、そしてとろけるようなチョコレートが山のように積まれている。 さらに、別のワゴンには、肌触りの良さそうなガウンや、羽毛布団、ふわふわのクッションが満載だ。
「おお……」
私は思わずゴクリと喉を鳴らした。 アレクセイの『殺戮セット』とは大違いだ。 これぞ、引きこもりが求めていた物資である。
しかし、フレデリックは勝ち誇ったようにアレクセイを睨みつけた。
「騎士団長。君の贈り物は無粋だ。リズは戦士ではない。深窓の令嬢だ。必要なのは、安らぎと甘美な時間だろう」
「何を言うか、殿下。平和ボケしていては、いざという時に大切な人を守れんぞ。リズに必要なのは『力』だ。自分の身を守れるだけの暴力だ!」
「暴力など野蛮な! 彼女は聖女だぞ!」
「聖女だからこそ狙われるのだ! 見ろ、あのワイバーンの首を。リズなら、あれを枕にして寝るくらいの胆力がある!」
ないわ。 絶対にない。
廊下で、王太子と騎士団長による舌戦が始まった。 その間にも、双方の部下たちが「負けてたまるか」とばかりに、次々と物資を運び込んでくる。
ドサッ。ガチャン。 ズズズッ。 コトッ。
鎧の上にケーキの箱が置かれ、シルクのガウンの上に金棒が倒れかかる。 カオスだ。 私の部屋の前の廊下が、ゴミ屋敷化していく。 このままでは、ドアが開かなくなるどころか、廊下が物理的に埋没してしまう。
私は頭を抱えた。 どうする? このまま放置すれば、腐臭と甘い匂いが混ざり合った地獄のような空間が完成してしまう。
欲しいのはスイーツと寝具だけだ。 武具と生首はいらない。 だが、選別しに外へ出れば、彼らに捕まる。
……やるしかないか。 私は覚悟を決めた。 魔法による『遠隔選別・強制排除』を行う。
私はドアの前に立ち、深呼吸をして魔力を練り上げた。 イメージするのは、クレーンゲームのアーム。 そして、ゴミ焼却炉のシュート。
「マリア! 避けてなさい!」
「はいっ!?」
マリアが壁際に退避したのを確認し、私は術式を発動させた。
「固有魔法【絶対領域(サンクチュアリ)】――応用術式『聖なる選別(ディバイン・ソーティング)』!!」
シュンッ!
ドアの下から、無数の光の触手が伸びた。 それらは意思を持った蛇のように廊下を這い回り、瞬時に物資を見極めていく。
甘い匂いのするもの。ふわふわしたもの。 → 【合格】 鉄の臭いのするもの。血生臭いもの。硬いもの。 → 【不合格】
次の瞬間、光の触手は【合格】判定のスイーツや寝具だけを優しく絡め取り、亜空間収納のような要領で、ドアをすり抜けて私の部屋へと転送した。 私の足元に、ケーキの箱や高級羽毛布団が積み上がる。 よし、確保完了。
そして、【不合格】判定の武具と生首に対しては。
ドォォォォォンッ!!
結界が外向きに衝撃波を放ち、それらをまとめて吹き飛ばした。 まるで、巨大な箒でゴミを掃き出すかのように。
「ぬおっ!?」 「うわぁぁぁ!」
アレクセイとフレデリック、そして部下たちが、転がってきた鎧や金棒に巻き込まれてひっくり返る。 廊下は大混乱だ。
「……ふぅ」
私は額の汗を拭った。 部屋の中には、戦利品であるスイーツの山。 外には、掃き出された粗大ゴミの山。 完璧な仕分けだ。
私は早速、フレデリックから贈られた『王室特製モンブラン』の箱を開けた。 黄金色の栗のペーストが美しく絞られている。 一口食べる。 ……絶品だ。 口の中で栗の香りが爆発し、上品な甘さが広がる。 フレデリック本人にはムカつくが、彼の権力と財力がもたらす味覚には罪はない。
「……ありがとう、殿下。ごちそうさま」
私は小声で礼を言い、二個目のケーキに手を伸ばした。 外の惨状は見なかったことにする。 それが、賢い引きこもりの処世術だ。
――しかし。 私の行動は、またしても予期せぬ化学反応を引き起こしてしまった。
廊下にて。 武器の山に埋もれていた騎士たちが、ヨロヨロと立ち上がる。 彼らは、自分たちが運んできた武具が突き返されたことにショックを受けていた……わけではなかった。
「……見ろ。聖女様が、選別されたぞ」
一人の兵士が、吹き飛ばされた『呪われた黒鉄のフルプレートメイル』を拾い上げて呟いた。
「我々が持ってきた武器を、聖女様は『これはお前たちが使いなさい』と、我々に返してくださったのだ!」
え? 違うよ? いらないから捨てたんだよ?
「そうだ……! 聖女様は、ご自身の身を守ることよりも、我々騎士団の強化を望んでおられるのだ!」
「なんて慈悲深い……!」 「自分の部屋にはお菓子(平和の象徴)だけを残し、武力(争いの象徴)は我々に託されたのだ!」
兵士たちの目が、感動で潤み始める。 集団幻覚だ。 都合のいい解釈にも程がある。
「団長! この鎧、私が装備してもよろしいでしょうか!」 「このオーガの金棒、私が使わせていただきます!」 「ワイバーンの首は……ええと、兜の飾りにします!」
アレクセイが、瓦礫の山から立ち上がり、ニヤリと笑った。
「いいだろう。リズの意思、確かに受け取った。彼女は我々に『強くなれ』と言っているのだ。彼女を守る最強の盾となれ、と!」
「オオオオオッ!!」
野太い雄叫びが上がる。 その場で、即席の装備会が始まった。 ただでさえ屈強な近衛騎士たちが、アレクセイが厳選した(呪われていたり癖が強すぎたりする)魔剣や魔鎧を身につけていく。 聖女の魔力(結界の余波)を浴びたせいか、武具たちが青白く発光し始めている。
結果。 私の部屋の前に、魔王軍も裸足で逃げ出すような『暗黒重装騎士団』が爆誕してしまった。
彼らは全身を黒い鎧で覆い、片手には身の丈ほどの剣や斧を持ち、瞳には狂信的な光を宿している。 もはや王国の騎士には見えない。 完全に悪の組織のエリート部隊だ。
「我ら、聖女リズ直属・安眠守護騎士団!」 「聖女様の昼寝を妨げる者は、神に代わって粉砕する!」
勝手に騎士団名までついた。 しかも、マリアの「親衛隊」と微妙にコンセプトが被っている。
マリアが、真っ青な顔で私に報告してくる。
「お、お姉様……。騎士の方々が、なんだか禍々しい姿に進化してしまいましたわ。あの装備、物理的にも魔力的にも強すぎます……。あれじゃあ、お茶汲みの侍女すら近づけませんわ」
「……どうしてこうなるの」
私はモンブランの味も忘れて、頭を抱えた。 ゴミを捨てたつもりが、最強の番犬(狂犬)を飼うことになってしまった。
しかも、フレデリックの方も負けてはいなかった。 彼は、スイーツだけが受け取られたことに感動し、別のベクトルで暴走を始めていた。
「見たか! リズは私の愛(スイーツ)を受け入れてくれた! やはり彼女は、私の甘い囁きを求めているのだ!」
スイーツは求めているが、お前の囁きはいらない。
「よし、分かったぞ。リズは今、糖分を必要としている。つまり、思考をフル回転させて国の未来を憂いているのだ! ならば、もっと送ろう! 国中の砂糖を買い占めてでも、彼女の脳にエネルギーを供給するのだ!」
「殿下、それでは糖尿病になってしまわれます!」
「ええい、うるさい! 聖女は病になどならん! パティシエ部隊、前へ! これより、この廊下に『キッチンスタジオ』を設営する!」
「はっ!?」
「出来たてのスイーツを、1秒のロスもなくリズに届けるためだ! ここで焼いて、香りをドアの下から送り込むのだ!」
本気か。 私の部屋の前の廊下が、今度は厨房になろうとしている。
右側には、暗黒騎士団が殺気を放って整列し。 左側には、王室パティシエたちがオーブンや調理器具を展開し、甘い香りを漂わせる。 そして中央には、カオスな状況に目を回しているマリア。
騒音。 熱気。 異臭(血とバニラの香り)。 殺気と甘さの不協和音。
……無理だ。 こんな環境で、安らかな引きこもり生活など送れるはずがない。 限界だ。 私の精神力(サンクチュアリ)が崩壊する前に、手を打たねばならない。
私は、ポケットに入れていたノアからの贈り物――『空間拡張』と『認識阻害』の魔法石を取り出した。 青く透き通るその石は、ひんやりと冷たい。
「……ノア。貴方の提案、乗らせてもらうわ」
私は決意した。 もう、この場所(物理座標)に留まることは不可能だ。 私の部屋を、この屋敷から――いや、この世界から切り離す。 『異空間』への引っ越しだ。
私は魔法石を床の中央に置き、両手をかざした。 2周目の知識を総動員し、複雑な術式を構築する。 【絶対領域】の結界をベースに、魔法石の力を増幅させ、空間そのものを歪曲させる。
「我は拒絶する。喧騒を、干渉を、束縛を」 「我は希求する。静寂を、孤独を、自由を」 「開け、境界の扉。ここは誰の目にも映らぬ、虚数空間の彼方なり」
詠唱とともに、魔法石が強烈な光を放ち始めた。 部屋の空気が振動し、壁や天井がぐにゃりと歪む感覚。 まるで、水の中に潜ったときのように、外の音が遠ざかっていく。
ズズズズズ……。 部屋全体が、次元の裂け目へと沈んでいくような浮遊感。
成功か? 私は期待に胸を膨らませた。 これで、外からは私の部屋が『認識できなく』なり、物理的にも干渉できなくなるはずだ。 ドアを開けても、そこにはただの壁があるだけ。 私は異空間の中で、誰にも邪魔されずに永遠のティータイムを楽しめる……!
しかし。 私が安堵したその瞬間。 外から、悲鳴にも似た絶叫が聞こえてきた。
「き、消えたぁぁぁぁっ!?」
フレデリックの声だ。
「ドアが! リズの部屋のドアが、霞のように消えてしまった!?」
「なんだと!?」
アレクセイの怒号。
「壁だ! ドアがあった場所が、ただの壁になっている! リズはどこだ!? 私の愛するリズはどこへ行った!?」
「神隠しか!? いや、これは……昇天だ!」
「昇天!?」
「聖女様が、あまりの俗世の穢れ(主に我々の騒音)に絶望し、天界へと帰還されてしまったのだぁぁぁ!!」
兵士たちが泣き叫ぶ声が響く。
「嫌だぁぁぁ! リズゥゥゥ! 行かないでくれぇぇぇ!」 「聖女様ァァァ! お許しくださいィィィ!」
ドンドンドンドン! 壁(かつてドアがあった場所)を叩く音。 だが、今の私の部屋は位相がズレているため、その音はくぐもって聞こえる。
やった。 成功だ。 彼らはもう、私に触れることはできない。
私は勝利のガッツポーズをした。 ……はずだった。
ピシッ。
乾いた音が、私の部屋の空間から聞こえた。 え? 見上げると、歪んだ空間の天井に、亀裂が入っている。
ピシピシピシッ! 亀裂は急速に広がり、そこから眩い光が漏れ出してくる。
まさか。 ノアの魔法石の出力が足りなかったのか? それとも、外にいる連中の『執着心』という名のエネルギーが、次元の壁をも超えて干渉してきているのか?
「……嘘でしょ」
私は青ざめた。
「リズ! そこにいるんだろう! 気配を感じるぞ! 魂が呼応している!」 「気合だ! 気合で次元をこじ開けろ! 愛に不可能はない!」
外からの声が、物理的な振動となって空間を揺らす。 アレクセイが壁を殴り、フレデリックが愛を叫び、兵士たちが祈りを捧げる。 その巨大なエネルギーの奔流が、私の未完成な異空間結界を圧迫していく。
バリバリバリッ!!
空間が悲鳴を上げる。 これはまずい。 このまま結界が強制解除されれば、その反動で部屋ごと吹き飛ぶかもしれない。
「ちょ、ちょっと待って! ストップ! 落ち着いて!」
私は慌てて魔法石の出力を下げようとしたが、暴走した魔力は止まらない。 そして。
パァァァンッ!!
盛大な破裂音とともに、私の『異空間』は弾け飛んだ。 景色が元に戻る。 消えていたはずのドアが、再び現実に姿を現す。
そして、その衝撃で。 私の部屋のドアが、蝶番ごと外れて、バタンと廊下側に倒れた。
……オープン。 フルオープンだ。
静寂。 今度こそ、本当の静寂が訪れた。
部屋の中央で、魔法石を持って呆然と立ち尽くす私(パジャマ姿、口元にモンブランのクリーム付き)。 廊下で、壁を叩こうとして拳を振り上げていた男たち。 視線が交差する。
「……あ」
私が小さく声を漏らした瞬間。
「リズゥゥゥゥ――ッ!!」 「生きていたぁぁぁ――ッ!!」 「聖女様がお戻りになられたぞォォォ――ッ!!」
爆発的な歓声が上がった。 フレデリックが、アレクセイが、マリアが、そして黒騎士たちが、涙と鼻水を流しながら、雪崩のように部屋の中へとなだれ込んできた。
「良かった! 本当に良かった!」 「もう二度と離さない!」 「お姉様、奇跡の生還ですわ!」
もみくちゃだ。 クリームまみれの私の周りに、男たちのむさ苦しい体温と、マリアの香水の匂いが殺到する。 私の『絶対領域』は、内側からの崩壊によって無効化されていた。 無防備な引きこもりに、社会の荒波が直撃する。
「……誰か」
私は人波に埋もれながら、天井に向かって手を伸ばした。
「誰か……私を、牢屋に入れて……」
その願いも虚しく、私は彼らの『愛』という名の重圧に押しつぶされ、意識を遠のかせたのだった。
こうして。 私の「異空間逃亡計画」は失敗に終わり、逆に「天界から帰還した奇跡の聖女」という、さらに厄介な伝説が追加されることになったのである。 あと、倒れたドアの下敷きになった高級モンブランの仇は、いつか必ず取ると心に誓った。
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