3回目の人生は、悪役令嬢を辞めて引きこもります~一歩も出ずに国を救ったら、なぜか「聖女」として崇められ最強の男たちが部屋を包囲してくる件~

放浪人

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第18話 隣国の王子(ノア)が正体を現してプロポーズ?

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 王宮の地下深く。  かつて王族が緊急脱出用に建設したとされる隠し通路――実態は、カビと湿気とネズミのパラダイスである地下水道を、二つの影が進んでいた。

「……最悪」

 私は、ヘドロで汚れたパジャマの裾を持ち上げながら、ドロドロの通路を歩いていた。  足元では得体の知れない液体がピチャピチャと音を立て、天井からは冷たい水滴が首筋に落ちてくる。  高級ブランド『安眠枕ギルド』特製のスリッパは、とっくの昔に泥に飲まれて消滅した。今は裸足だ。

「ねえ、リズー。まだ着かないのー? 僕、もう歩けないよー。おんぶしてー」

 後ろを歩く古代人少年シオンが、情けない声を上げてへたり込んだ。  彼もまた、自慢の羊柄パジャマを泥だらけにし、手には食べかけのステーキ肉(保存用)を握りしめている。  1000年前の支配者にしては、あまりにも威厳がない。

「甘えないで。置いていくわよ」

「ひどい! 僕たちは『引きこもり同盟』の同志だろ!? 君には、年少者を保護する義務がある!」

「私には『自分の安眠を守る義務』しかないわ。……それに、ここを抜ければ『開かずの離宮』があるはずなの」

 私は、2周目の記憶を頼りに進んでいた。  王宮の北側、深い森に囲まれた古びた離宮。  そこは「幽霊が出る」という噂があり、誰も近づかない場所だ。  つまり、絶好の隠れ家である。

 地上では、フレデリック率いる10万人の暴徒(愛のゾンビ)が、私を探して王宮の庭を掘り返しているはずだ。  彼らに捕まれば、私は「太陽の下の聖女」として祀り上げられ、二度と日陰で眠ることはできなくなる。  それだけは阻止しなければならない。

「……あ、光だ」

 シオンが指差した。  通路の奥に、ぼんやりとした明かりが見える。  出口か?

 私たちは泥まみれのまま、光の方へ駆け出した。  鉄格子の嵌った扉がある。鍵は錆びて壊れている。  私は扉を蹴り開けた。

 ガキィン!

 扉が開いた先。  そこには、私の予想を裏切る光景が広がっていた。

「……はい?」

 そこは、カビ臭い離宮の地下室……ではなかった。    磨き抜かれた大理石の床。  壁一面に埋め込まれた、青白く光る魔導サーバーの列。  中央には巨大な円卓があり、その上には湯気を立てる紅茶と、三段重ねのケーキスタンドが置かれている。  そして、部屋の隅には、最新鋭の空調設備と、ふかふかのソファセットが完備されていた。

 まるで、近未来の秘密基地と、英国式のティーサロンを融合させたような空間。  地下水道の汚泥とは無縁の、清潔で快適な別世界だ。

「やあ。待っていたよ、リズ。それに、ご先祖様(シオンくん)」

 ソファに座っていた人物が、優雅にカップを置いて微笑んだ。  亜麻色の髪に、人懐っこいヘーゼルナッツ色の瞳。  隣国アークライドの第3王子にして、私の腐れ縁であるスパイ、ノア・ヴァン・アークライドだ。

 彼は真っ白なスーツを着こなし、泥だらけの私たちを見ても眉一つ動かさず、むしろ歓迎するように両手を広げた。

「ようこそ、僕の『秘密の隠れ家(セーフハウス)』へ。君たちがここを通る確率は98%だと計算していたよ」

「……ノア。どういうこと?」

 私は警戒して後ずさった。  この男が準備万端で待ち構えているときは、ろくなことがない。

「どういうことって? 君を助けに来たのさ。地上の騒ぎ、すごいだろう? フレデリック殿下が『愛のスコップ』で岩盤を砕く音、ここまで聞こえていたよ」

 ノアは立ち上がり、私に近づいてきた。  そして、パチンと指を鳴らした。

 シュンッ!

 一瞬で、私とシオンの体から泥や汚れが消え去った。  『浄化(クリーン)』の魔導装置が作動したらしい。  さらに、温かい風が吹き抜け、濡れた髪や服も瞬時に乾かされた。

「わあ、便利! これ欲しい!」

 シオンが目を輝かせてソファに飛び込む。  即座にケーキに手を伸ばし、「うめぇ!」と頬張っている。  危機感のない古代人だ。

「……何のつもり?」

 私はその場から動かず、ノアを睨んだ。  彼はいつも飄々としているが、その腹の底は読めない。  特に今回は、彼の兄であるルイス王子や、父親である国王まで絡んでいる。  彼が単なる「親切な友人」として動いているとは思えない。

「怖い顔をしないでくれよ。傷つくなあ」

 ノアは苦笑しながら、私のために紅茶を淹れた。

「座りなよ。最高級のアッサムだ。君の好きなミルクたっぷりのやつだよ」

 香りに釣られて、私は渋々ソファに座った。  悔しいけれど、美味しい。  地下水道の水とは大違いだ。

「……で? 単刀直入に聞きなさいよ。貴方、何を企んでいるの?」

 私はカップを置き、彼を問い詰めた。

 ノアは微笑みを消し、静かに私を見つめ返した。  その瞳から、いつもの「道化」のような色が消え、冷たく鋭い光が宿る。

「……リズ。君は賢いね。そして、残酷だ」

 彼は静かに語り始めた。

「僕はね、ずっと観察していたんだ。君という特異点を。1回目、2回目、そして3回目の人生。君がどうあがいても、運命の渦に巻き込まれていく様をね」

 ドキリとした。  彼は、私のループを知っている。  それは知っていたが、彼がそれをどう思っていたのか、深く聞いたことはなかった。

「君は『引きこもりたい』と言う。でも、その結果どうなった? 国を救い、経済を回し、民衆のカリスマになった。……皮肉だよね。君が欲望に忠実であればあるほど、世界は君を放っておかない」

 ノアはテーブルに手をつき、身を乗り出した。

「フレデリック殿下も、アレクセイ殿も、兄上のルイスも、父上も……みんな君を『利用』しようとしている。あるいは、君に『理想』を押し付けている。君がただ『寝ていたい』だけの怠惰な少女だという本質(リアル)から目を背けて」

「……そうね。迷惑な話よ」

「だから、僕が提案するんだ」

 ノアは私の手を取り、その甲に口づけを落とした。  ひやりとするほど冷たい唇だった。

「リズ。僕と結婚しよう」

 ……は?

 思考が停止した。  今、なんて?

「け、結婚……?」

「そう。プロポーズだよ。僕と結婚して、アークライド王国へ来ないか?」

 冗談だと思った。  いつもの彼なら、「なんてね」と笑って誤魔化すはずだ。  だが、今のノアは笑っていない。  真剣そのものの目で、私を捕らえている。

「僕なら、君の願いを100%叶えられる。君専用の『絶対不可侵要塞』を作ってあげるよ。そこは、物理的にも政治的にも、誰の手も届かない場所だ。フレデリック殿下の熱血も、アレクセイ殿の筋肉も、兄上の効率厨も、父上の野心も、全てシャットアウトできる」

 甘い誘い文句だ。  私が一番欲しかった言葉だ。

「君はそこで、死ぬまで寝ていればいい。お菓子も、本も、ゲームも、全て僕が供給する。君が指一本動かさなくてもいいように、僕が君の手足となる」

「……対価は?」

 私は尋ねた。  タダより高いものはない。  彼がそこまでするメリットが分からない。

「対価? 簡単さ」

 ノアは歪んだ笑みを浮かべた。

「君を『コレクション』することだよ」

 背筋が凍った。

「僕はね、珍しいものが大好きなんだ。世界で唯一の『ループ経験者』。そして、世界で一番『無気力な聖女』。こんな面白い素材、他にはないだろう? 君を誰にも渡したくない。僕だけのガラスケースに入れて、永遠に観察していたいんだ」

 ……本性が出た。  こいつもだ。  こいつも、フレデリックたちとはベクトルが違うだけで、狂っている。  「愛」ですらない。「収集欲」だ。  私を、珍しい昆虫標本か何かのように思っているのだ。

「あ、僕もついでにコレクションされる感じ?」

 空気を読まないシオンが、ケーキを頬張りながら口を挟んだ。

「もちろんさ、ご先祖様。君も貴重なサンプルだ。リズとセットで飾ってあげるよ」

「やだー。ガラスケースとか狭そうだし。Wi-Fiあるなら考えるけど」

 こいつ、危機感ゼロか。

 私はノアの手を振り払った。

「……お断りよ」

「へえ? どうして? 条件は悪くないはずだよ。君の望む『安眠』は保証される」

「確かに条件はいいわ。でもね」

 私は彼を睨み返した。

「私は『物』じゃない。私は私の意志で寝たいの。誰かに管理されて、観察されながら寝るなんて、そんなの『安眠』じゃないわ。『展示』よ」

「……ふうん」

 ノアは残念そうに肩をすくめた。

「君ならそう言うと思ったよ。でも、残念だな。君に『拒否権』があると思っていたのかい?」

 カチャリ。  部屋の入り口――私たちが蹴り開けた鉄扉に、幾重もの魔法鍵がかかる音がした。  さらに、壁のサーバーが赤く点滅し、防御システムが起動する。

「ここは僕のテリトリーだ。君の『絶対領域』でも、この空間干渉結界の中では発動できないはずだよ」

 試してみる。  ……魔力が練れない。  結界が展開できない。  完全に封じられている。

「さあ、リズ。大人しく契約書(婚姻届)にサインしてくれ。そうすれば、ここから専用の転移ゲートで、僕の私有地(無人島)へ直行だ」

 ノアが羊皮紙とペンを差し出す。  詰んだ。  地下水道で泥まみれになるのと、変態王子のコレクションになるのと、どっちがマシか。  究極の二択だ。

 その時。

 ズドォォォォォンッ!!!!!

 天井が、爆音とともに崩落した。  巨大な岩塊が、ノアの自慢のティーテーブルを直撃し、粉砕する。  ケーキが飛び散る。紅茶が舞う。

「なっ……!?」

 常に冷静なノアが、目を見開いて後退った。

 土煙の中から、二つの人影が降り立った。  逆光を背負い、瓦礫を踏みしめる勇ましい姿。

「見つけたぞぉぉぉッ!! リズゥゥゥッ!!」

 右手にスコップ、左手に愛の炎を宿した王太子フレデリック。

「リズ様ァァァッ!! ご無事ですかァァァッ!!」

 全身泥まみれになりながらも、その筋肉はパンプアップして輝いている騎士団長アレクセイ。

 彼らは、王宮の庭から地下牢、さらに地下水道を経て、この秘密基地の真上まで、物理的に掘り進んできたのだ。  愛の力(と筋力)恐るべし。

「ゲホッ、ゲホッ! ……フレデリック殿下!? アレクセイ!」

 私は驚きと、ほんの少しの安堵(と、多大なる疲労感)を感じて叫んだ。

「リズ! 無事か! 怪我はないか!」

 フレデリックが駆け寄ってくる。  しかし、彼は私の前に立ちはだかるノアを見て、足を止めた。

「……隣国の第3王子、ノア殿か。なぜここにいる?」

「……やあ、殿下。奇遇ですね」

 ノアは一瞬で表情を取り繕い、いつもの飄々とした笑顔に戻った。  だが、その服は埃まみれで、額には青筋が浮かんでいる。

「ここは僕の秘密基地でしてね。迷子になったリズ嬢を保護していたんですよ」

「保護? その手にある『婚姻届』は何だ?」

 フレデリックの目が、ノアの手元の紙を捉えた。  視力良すぎだろ。

「……ちっ」

 ノアが舌打ちをした。  キャラが崩れている。

「見たなら仕方ないですね。……そうです。僕は彼女に求婚していました。彼女を、貴方たちのような野蛮なストーカーから救い出し、僕の国で幸せにするためにね」

「なんだと……!?」

 フレデリックの全身から、殺気が噴き出した。  アレクセイも剣を抜く。

「聞き捨てなりませんな。ストーカーとは心外。我々は『護衛』です」 「それに、リズを幸せにできるのは僕だ! 彼女の寝顔を一番近くで見守る権利は、婚約者である僕にある!」

「ふん。笑わせますね」

 ノアも負けじと、懐から短剣(魔導ナイフ)を取り出した。

「貴方たちの『愛』は重すぎるんです。彼女は窒息しそうになっている。僕なら、彼女をガラスケースに入れて、適度な空調管理下で永遠に愛でてあげられるのに」

「ガラスケース!? 貴様、リズを物扱いするか!」

「お前も似たようなもんだろ!」

 三人の男たちが、私を中心にして対峙した。  一触即発。  地下の秘密基地が、恋のバトルフィールドと化した。

 私はシオンと共に、部屋の隅に避難した。

「ねえリズ。これ、どうなるの?」 「知らないわよ。勝手に潰し合えばいいわ」

 私はポテチ(無事だった袋)を開けた。  高みの見物だ。

「リズ! 選んでくれ!」

 突然、フレデリックが叫んだ。

「僕か、アレクセイか、それともノアか! 君は誰の『鳥籠』に入りたいんだ!」

 は?  選択肢が全部「鳥籠」なんだけど。

「私の籠は『純金製』だ! 何不自由ない生活を約束する!」(フレデリック) 「私の籠は『オリハルコン製』です! どんな外敵からもお守りします!」(アレクセイ) 「僕の籠は『透明な強化ガラス製』だよ。外からも中からも美しく見える」(ノア)

 地獄の三択だ。  どれを選んでも監禁ルート確定。

「……どれも嫌よ!」

 私は叫んだ。

「私は籠に入りたいんじゃないの! 自分の部屋で、自分の布団で、鍵をかけて寝たいだけなの! どうしてそれが分からないのよ!」

「「「リズ……」」」

 三人が同時に切なそうな顔をした。

「分かっていないのは君だ、リズ。君はあまりにも尊い。君を野放しにすれば、世界中の悪意が君を狙うだろう。だからこそ、誰かが管理しなければならないんだ!」

 大きなお世話だ。  私は今まで、悪意(ゲオルグとか)を自分で撃退してきたじゃないか。

「もういい! 力づくで決める!」

 フレデリックが魔法の杖を構えた。  アレクセイが剣を構えた。  ノアがナイフを構えた。

「勝者がリズを手に入れる! いざ、勝負!」

 ドガァァァンッ!!

 三つ巴の戦いが始まった。  フレデリックの炎魔法が炸裂し、アレクセイがそれを剣で斬り裂き、ノアが影から隙を突く。  秘密基地が崩壊していく。  高いサーバーが爆発し、シャンデリアが落ちる。

「あーあ。もったいない」

 シオンがつまらなそうに呟く。

「リズ、逃げようか」

「そうね。馬鹿につける薬はないわ」

 彼らが殺し合っている隙に、私とシオンは、部屋の奥にある「非常口」と書かれた扉へ向かった。  ノアの基地だ。脱出ルートくらいあるはずだ。

 扉を開けると、そこには上へと続く螺旋階段があった。  風が吹き込んでくる。地上の風だ。

「行くわよ、シオン」

「うん。……でもリズ、外に出たら、またあの『暴動』の中じゃない?」

「……うっ」

 そうだった。  上には10万人のリズ信者が待っている。  下では変態三銃士が戦っている。  逃げ場がない。

 その時。  螺旋階段の上から、冷ややかな声が降ってきた。

「……やれやれ。騒がしいと思えば、こんなところで『聖女争奪戦』を開催していたとはね」

 見上げると、階段の踊り場に、腕を組んで仁王立ちしている人物がいた。  アークライド王国の第一王子、ルイスだ。  そして、その隣には、屈強な男たちに担がれた『棺(時の揺り籠)』がある。

「ルイス!?」

「やあ、エリザベート嬢。それに古代の少年。……君たちを探していたんだよ」

 ルイスは眼鏡を光らせた。

「父上(国王)からの勅命だ。『我が国の同盟相手である聖女リズとシオン少年を、丁重に保護せよ』とね。……要するに、君たちをアークライド本国へ『招待(連行)』しろということさ」

 またか。  今度は国家権力の介入か。

「下の三人は放っておきたまえ。彼らが疲弊するのを待って、君たちを悠々と連れ去るのが、最も効率的な作戦だ」

 ルイスが指を鳴らすと、棺の蓋が開いた。

「さあ、入りたまえ。この棺は修理しておいた。コールドスリープ機能はまだ使えないが、移動用の『カプセルホテル』としては使える」

 ……カプセルホテル。  狭い。  でも、頑丈そうだ。  そして何より、あの中に入れば、外の騒音から遮断される。

 私はシオンを見た。  彼は「カプセルホテル? 漫画喫茶みたいなもん?」と興味を示している。

「……乗るわ」

 私は決断した。  下の三人に捕まるよりは、ルイスの方がまだ話が通じる(ビジネスライクだから)。  それに、アークライドに行けば、ノアの言っていた「無人島」の権利書くらいは手に入るかもしれない。

「賢明な判断だ」

 ルイスが満足げに頷く。

 私とシオンは、棺の中へと潜り込んだ。  狭い。密着状態だ。  でも、蓋が閉まると、外の爆発音が嘘のように消えた。  完全防音。さすがアークライド製。

「……出航だ」

 ルイスの合図とともに、棺が持ち上げられた。  私たちは運ばれていく。  地下の戦場を後にし、地上の混乱をすり抜け、どこか遠くへ。

 ◇

 数時間後。  棺の蓋が開けられた時、私は潮の香りを感じた。

「……海?」

 体を起こすと、そこは港だった。  夜の海に、巨大な黒い船が停泊している。  アークライド王国の最新鋭魔導戦艦だ。

「ようこそ、洋上の要塞へ」

 ルイスが甲板で出迎えた。

「これから我が国へ向かう。……と言いたいところだが、少し予定が変わった」

 彼は海図を広げた。

「フレデリック殿下たちが、国境を封鎖したようだ。『リズを返すまで、アークライドとの国交を断絶する!』と息巻いている」

 国交断絶。  私のせいで戦争が起きそうだ。

「なので、陸路も空路も使えない。我々は海路を行く。……しばらくの間、この船で『クルージング』を楽しんでもらうことになるね」

 クルージング。  響きはいい。  要するに、海上漂流生活だ。

「まあ、悪くないわね」

 私は甲板のデッキチェアに座った。  海の上なら、誰も追いかけてこられないだろう。  波の音だけが聞こえる、静かな夜。

 ……と、思ったのだが。

 ザバァァァァッ!!

 海面が割れた。  水しぶきとともに、巨大な影が飛び出した。

「リズゥゥゥゥ――ッ!!」

 水の中から現れたのは、巨大な『潜水服(騎士団仕様)』を着たアレクセイだった。  そして、その後ろには、サーフボード(風魔法推進)に乗ったフレデリック。  さらに、小型ボートで追ってくるノア。

「逃がさんぞぉぉぉ! 地の果てまでもぉぉぉ!」

 ……しつこい。  こいつら、陸海空すべて制覇する気か。

「全速前進! 振り切れ!」

 ルイスが叫ぶ。  戦艦が加速する。

 私の安眠の旅は、今度は『海上チェイス』へと突入した。  もう、どこへ行けばいいの。  月か?  月に行けばいいのか?

 私は夜空の月を見上げて、本気で宇宙開発を検討し始めた。  シオンは「船酔いしたー」と吐いている。

 次こそは。  次こそは、本当に静かな場所へ……。  私の戦い(逃亡)は、まだ終わらない。
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